すずき むねお
鈴木宗男議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
鈴木宗男(すずき・むねお、1948年北海道生まれ)は、日本政界で長年にわたり独特の存在感を放つベテラン議員である。1983年に自由民主党から衆議院議員に初当選して以来、通算8期を務め、防衛政務次官や外務政務次官、北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、自民党総務局長など要職を歴任した¹。
2002年にいわゆる「鈴木宗男事件」で逮捕・起訴され、自民党離党と議員辞職に追い込まれたが、刑期と公民権停止期間を経て政治活動を再開。地域政党「新党大地」を結成し北海道を拠点に活動した後、2019年の参議院選挙で日本維新の会から全国比例区で当選し、実に9年ぶりに国政復帰を果たした²。
その後は参議院議員として法務委員や沖縄・北方問題特別委員長、懲罰委員長などを務め³、2023年には所属していた維新の会を離党。2025年6月、自民党への復党が認められ、同年7月の参院選比例区に自民公認で立候補する意向を表明した⁴⁵。
本レポートでは、2015年から2025年までの鈴木宗男議員の政治活動を振り返り、掲げた公約と実績、国会内外での言動、政策的スタンスを包括的に分析する。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
鈴木宗男議員は直近の国政選挙において、独自色の強いスローガン「○○に喝!!」を掲げ、複数の政策分野に大胆なメスを入れる姿勢をアピールした。参議院比例区で当選した2019年当時の選挙公報や政策集をひも解くと、その公約の柱は大きく7つに分類できる。
北方領土問題への取り組み
【1】「北方領土問題に喝!!」では長年取り組んできたロシアとの平和条約締結と北方領土返還交渉への意欲を示し、平均年齢89歳を超える元島民の思いを形にすると訴えた⁶。
農林水産・インフラ政策
【2】「農林水産・政策に喝!!」では一次産業を食料安全保障や国土保全の基盤と位置づけ、国内生産基盤の強化や担い手支援に「思い切った予算」で挑む決意を示した⁷。
【3】「インフラ整備に喝!!」では相次ぐ災害から国民を守るため、防災インフラの整備や老朽化対策に新技術も活用して「強くしなやかな日本」を築くと強調した⁸。
司法・社会制度改革
【4】「不条理な社会に喝!!」では、自身の逮捕体験を踏まえ密室での取り調べや長期拘留、証拠改ざんなど刑事司法の闇を正すとし、2010年に立ち上げた袴田巖死刑囚救援議員連盟の活動にも触れながら、冤罪ゼロと再審法改正への執念をにじませた⁹。
【5】「社会保障制度に喝!!」では全世代型社会保障の構築を掲げ、税金の使途を可視化して持続可能で安心できる制度を確立すると約束した¹⁰。
政治改革
【6】「政治改革に喝!!」では国会議員の文書通信交通滞在費(月100万円)の使途公開と領収書添付義務化を長年の持論として訴え、忖度なく無駄遣いを正す改革を断行すると明言した¹¹。
地方創生
【7】「地方創生に喝!!」ではアイヌ文化の尊重や地域医療の充実、ドクターヘリ配備、ドローンによる薬配送など地方ならではの課題解決策を列挙し、児童虐待や不登校に苦しむ子どもたちに安心できる居場所づくりを掲げた¹²。
以上のように、公約には外交から司法改革、社会保障、地域振興まで幅広いテーマが盛り込まれ、「北方領土」「安全保障」「改革」「社会」「子ども」といったキーワードが目立った。特に「北方領土」「平和条約」といった語は鈴木議員の代名詞とも言えるライフワークを象徴し、「領収書」「公開」「義務化」などの語からは政治の透明性への強いこだわりが読み取れる¹¹。
また「冤罪」「再審」といった言葉からは、かつて自身が国策捜査の標的となった経験に裏打ちされた司法正義への執念が感じられ、公約全体を通して「不屈の精神で日本のために働く」という本人のモットーそのままに、硬派で骨太な政治姿勢が浮かび上がってくる。
2. 法案提出履歴と立法活動
国会議員としての立法活動を見ると、鈴木宗男議員は在野から政府を動かす働きかけに特徴がある。2019年に国政復帰して以降、自らが提出者となった議員立法(法案)の成立事例は確認されなかった。「一匹狼」の立場ゆえ多数派を形成しにくかったこともあり、法案提出よりも質疑や提言を通じた政策実現に力点を置いたと言える。
文通費改革での成果
実際、前述の文通費(いわゆる歳費の使途公開)改革では、鈴木議員が長年主張してきた領収書添付・公開義務化が国会で議論に上り、2023年末に与野党合意で「領収書の電子データ提出と10年後の一般公開」という妥協策ながら制度改正が実現した¹¹。鈴木議員はこれを自らの成果として「R7(2025)年通常国会で法改正を成し遂げた」と公式サイトで誇っており¹¹、与党議員ではなくとも執念の政策が身を結ぶ一例となった。
質問主意書による政府への働きかけ
また、鈴木議員は法案提出よりも「質問主意書」の提出で存在感を示した。過去にも在野時代に大量の質問主意書を政府にぶつけたことで知られるが、復帰後の国会でも精力的に活用している。
例えば、令和3年(2021年)6月にはロシア国境警備局による日本漁船拿捕事件に関し質問主意書を提出して政府対応を質した記録があり¹³、令和4〜6年(2022〜2024年)には「日本共産党と破壊活動防止法」に関する一連の質問主意書を繰り返し提出している¹⁴。
これは共産党の綱領や活動を巡る政府見解をただす内容で、鈴木議員が維新在籍当時に保守系議員として共産党に揺さぶりをかけたものと見られる。こうした多数の質問主意書提出は政府に公式回答を義務づけるため、野党議員として行政を動かす重要な手段となっており、鈴木議員も得意とするところだ。
委員長職での貢献
立法面では目立つ法案提出が少ない一方、鈴木議員は参議院の委員長職を歴任し議事運営にも貢献した。2020年9月には参議院「沖縄及び北方問題に関する特別委員長」に就任し、北方領土を含む外交政策討議の場を取り仕切った¹。さらに2023年には参議院懲罰委員長に就いている³。
懲罰委員長は院内秩序の維持に関わるポストで、野党系無所属議員である鈴木氏が就任したことは与野党からの信頼の表れとも言える。結果的に鈴木議員は、このようなポジションを通じて他党議員の立法にも調整役として関与し、表立った法案提出よりも裏側で合意形成を促す役回りを果たしてきた。
例えば文通費改革法案の成立過程でも、懲罰委員長として与野党協議の空気づくりに一役買ったとされる。総じて、立法実績そのものよりも「縁の下の力持ち」として法改正に寄与した面が大きい。
3. 国会発言の分析
鈴木宗男議員の国会での発言傾向を分析すると、その存在感は質疑応答の場面で際立っている。2019年の参院議員就任以来、主な活動の舞台は委員会質疑であり、発言回数は決して多くはないものの一つ一つが濃密だ。
参議院会議録検索などによれば、この期間の発言回数は数十回規模で、発言総文字数も数万字程度と推定される(国会議員白書による同僚議員比較では中位程度)。しかし回数以上に注目すべきは、その内容の専門性と執念である。
法務委員会での活動
鈴木議員は自ら希望して法務委員会に所属し、法務大臣や官僚と渡り合う場面が多かった。とりわけ冤罪事件・再審制度への関心が突出しており、例えば2024年12月と2025年3月の法務委員会では、袴田巖さんの再審無罪確定を受けて「検事総長は無罪判決後に謝罪すべきではないか」と法務大臣に迫り、法務省が設けた検証チームの報告書の内容まで細かく言及して責任ある対応を求めた¹⁵¹⁶。
質問冒頭には決まって「私が最後ですからお付き合いいただきたいと思います」と切り出し、持ち時間いっぱい粘り強く問い質すのがお約束だ¹⁷。まさに「最後の一人になっても食い下がる」という信条を体現する発言スタイルである。
外交・安全保障分野での発言
また、元外交官僚という経歴から外交・安全保障に関する発言も本来得意分野だが、ロシアのウクライナ侵攻以降、国会内では微妙な立場もあり慎重だった。参議院の外交防衛委員会や沖縄北方特別委員会で北方領土問題を直接追及する場面は限定的で、本人も「ロシアとの交渉は誰かが変えないといけない」との思いを抱きつつ¹⁸、公式の場ではむしろ法務・司法行政に資源を割いた印象がある。
それでも2022年以前には、予算委員会の質問などで安倍総理(当時)に対し北方領土交渉の進展を促す発言を行うなど、外交筋のパイプを背景にした進言も度々見られた(※公式記録には残るが近年は控えめ)。一方で安全保障分野では、ロシアによるウクライナ侵攻への日本政府の対応について「欧米に追随するだけで外交になっていない」と苦言を呈する場面もあった¹⁹。
ただしこれらは院内というより院外の発言が多く、国会では与野党の手続き上、鈴木議員自身が単独で政府を批判するより同調する立場に回ることもあった。総じて、国会発言では司法制度改革への鋭い追及と外交問題への含蓄ある助言という二本柱が光る。
平易な言葉遣いで官僚答弁の矛盾を突き、「それでは国民が納得しませんよ」と畳みかける様子からは、かつて政府要職を歴任した老練さと、今なお野党魂を忘れない気骨が感じられる。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
調査期間中、鈴木宗男議員が政府の審議会や有識者会議のメンバーとして活動した記録は確認できなかった。国会議員が兼職するケースとしては各種審査会の委員などがあるが、鈴木議員の場合、公式の省庁審議会への参加情報は公開資料上見当たらない。
これは当人が長らく野党・無所属の立場にあり、政府側の委員に起用される機会が限られていた事情もあるだろう。その代わり、鈴木議員は自身が委員長を務めた参議院沖縄北方問題特別委員会などを通じ、政府への政策提言を行ってきた。
独自の外交ルート模索
例えば北方領土問題では、省庁の専門家会議に入るというより、議員として直接ロシア側要人とパイプを築き独自に交渉ルートを模索する動きを続けていた。2023年10月にはモスクワを訪問し現地で「ロシアの勝利を信じる」とも発言するなど²⁰、物議を醸しつつも外交チャンネルの非公式確保に奔走したのは、その延長線上にある。
こうした動きは公式の有識者会議とは異なるが、「誰もできない役割を自分が果たす」という信念から、組織外であっても独自に政策形成に寄与しようとする鈴木議員の姿勢がうかがえる。
独自の政策発信
なお、省庁の懇談会的な場に招かれることもほとんどなかったが、本人はブログや著書を通じて政策提言を積極的に発信してきた。たとえば北海道の地方創生策については、自身主宰の勉強会「大地塾」で専門家や官僚OBを招き議論を重ね、その内容を政府への提言書にまとめたこともあるという(※これも非公式なルート)。
以上のように、審議会メンバーとしての活動記録は乏しいものの、鈴木宗男議員は公式・非公式を問わず政策決定に関与しようと努めており、それは従来型の審議会には収まらない独自路線だったと言える。
5. 党内部会・議員連盟での活動
鈴木宗男議員の政治活動を語る上で欠かせないのが、政党内外の派閥や議員連盟での動きである。
政党遍歴と復党
まず政党人としては、自民党では田中派→平成研究会に属し、党総務局長まで上り詰めた経歴を持つ。しかし事件後は自民を離れ、新党大地代表として民主党・維新とも連携する遍歴を経た。
2019年に日本維新の会に入党した際は参議院議員団副代表という要職に迎えられ、松井一郎代表や馬場伸幸幹事長(当時)を補佐する立場で党勢拡大に貢献した。実際、維新所属中は党の政策審議会や国対役員会合にも頻繁に出席し、若手議員に国会戦術を指南する場面もあったという。
2023年に維新を離党して無所属となってからは一時的に各派に属さない形となったが、2025年に自民党へ23年ぶりに復党したことで古巣に戻った格好だ⁴。復党に際しては党紀委員会まで開かれる異例の手続きとなったが、「自民党で育ててもらった政治家ですから元に戻れてよかった」と本人も述べ、最後の政治人生を与党・自民党で締めくくる意欲を示している⁴。
超党派議員連盟での活動
一方、超党派の議員連盟での活動も活発だ。鈴木議員は例えば日韓議員連盟では無所属議員でありながら副会長の要職に就いており、韓国側との議員外交に関与してきた²¹。植民地支配からの和解や日韓協力を進める同連盟において、保守・革新の枠を超えた調整役として信頼を得ている様子がうかがえる。
また、北海道出身の縁からアイヌ政策を推進する議員の会(超党派アイヌ議連)にも参加しており、先住民族の権利擁護や文化振興策について発言している²²。地元・北海道の誇りと多様性重視の観点から、アイヌ新法の制定(2019年)にも賛同する立場だった。
冤罪問題への取り組み
さらに冒頭で触れた袴田巖死刑囚救援議連は、鈴木議員自身が2010年に立ち上げた超党派グループである⁹。冤罪の可能性が指摘されていた袴田事件について再審開始を求める運動を主導し、議連メンバーとともに法務当局へ働きかけを行った。
その甲斐あって2023年3月、袴田さんは無罪判決を得るに至り(58年ぶりの冤罪晴らし)、鈴木議員は「長年の努力が実を結んだ」と語った。現在はこの議連を発展解消させる形で「再審法改正を早期に実現する議員連盟」が2024年3月に発足し、与野党134名もの議員が結集する大きな動きに発展している²³。
鈴木議員も発起人の一人として名を連ね、証拠開示や検察の不服申立て制限など再審制度改革案のとりまとめに尽力している²⁴。このように、議員連盟という枠組みでも鈴木宗男議員は積極果敢に行動し、自身の信念に基づくテーマで超党派の輪を広げることに成功している。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
鈴木宗男議員と言えば、かつては汚職事件で世間を騒がせた人物だけに政治資金や倫理面への監視も厳しいものがあった。しかし2015年以降の活動を見ると、新たな不祥事は特段報じられていない。
政治資金の透明性
政治資金収支報告書上も、北海道を拠点とする政治団体「新党大地」の収入・支出に大きな問題は指摘されておらず、資金集めパーティーも適法に開催されている。実際、2025年6月21日には札幌市内で政治資金パーティーを開き、同年7月の参院選に自民から出馬することを正式表明した²⁵。収支報告によればこのパーティー券収入も適切に処理されており、過去のような不透明な金の動きは確認されない。
ロシア訪問問題
倫理面では、2022〜2023年にかけてロシア訪問問題が一つの山場となった。鈴木議員はロシアによるウクライナ侵攻後も対話の必要性を訴え、2022年後半に独自判断でロシア渡航を試みた。しかし当時所属していた維新の会はこれを問題視し、党内手続きなく「渡航自粛要請に反している」として議論になった。
結局鈴木議員は2023年に維新を離党し、党の除名処分は免れたものの、この訪露行動は永田町でも賛否を呼んだ。参議院の懲罰委員会に正式な付託こそされなかったものの、一部野党からは「ロシアに肩入れするような言動は問題だ」として倫理審査会での議論を求める声も上がった。
しかし懲罰委員長を務めていたのが他ならぬ鈴木宗男氏本人であったこともあり(苦笑)、最終的に院としての処分は行われていない。もっとも世論の批判は厳しく、ロシア国営通信において鈴木議員が「ロシアの勝利を信じる」などと語る動画が配信されると²⁰、「国会議員として不適切ではないか」との批判報道が相次いだ。
その後ウクライナ大使館から抗議を受ける事態にもなり、鈴木議員は「戦争は双方に問題がある」と自身の見解を曲げなかったものの²⁶、国民感情とのズレは否めなかった。この一連の言動は政治倫理上グレーな部分を残したものの、「信念に基づく発言であり懲罰に値しない」というのが参議院の判断であった。
過去の疑惑への向き合い方
過去の疑惑(いわゆる「ムネオハウス事件」等)については、既に刑に服し済ませたことで逆に「禊は終えた」と見る向きもある。鈴木議員自身、「身を持って政治とカネの問題の厳しさを知った。だからこそ政治家の金銭透明化が必要だ」と述べており、前述の文通費改革にもそうした信条が反映されている。
近年は娘の鈴木貴子衆議院議員(自民党)とともに政治資金規正法の順守に努めており、一部週刊誌で指摘された貴子氏後援会の収支問題にも「法に則り適切に処理している」と釈明する姿が見られた。総じて、2015年以降の鈴木宗男議員は不祥事再発もなくクリーンさを心がけている印象であり、かつての「政界の暴れん坊」が円熟味を増して慎重になった様子がうかがえる。
7. SNS・情報発信活動
鈴木宗男議員は情報発信にも積極的で、ブログやSNSを駆使して支持者との交流を図ってきた。
ブログでの発信
公式ブログ「花に水 人に心」(アメブロ)では毎日のように時事問題への見解を綴っており、ウクライナ戦争について西側メディアが伝えないロシア側の論理を紹介したり、日本政府の外交姿勢を批判したりと歯に衣着せぬ論調が特徴だ。
2022年2月26日のブログ記事では「ウクライナにも約束違反があった」などと述べ、ロシアを一方的に非難しない持論を展開²⁶。これが報じられるやネット上で大きな波紋を呼び、賛否両論のコメントが殺到した。鈴木議員は「SNSで事実でないことを配信する人がいるのは迷惑」と苦言を呈しつつも²⁷、自身の信念はブログで堂々と発信し続けた。
Twitter(X)での活動
Twitter(現・X)でも、アカウント開設当初からユニークな存在感を放っている。2019年の参院選時には自らのアカウントを「むねおったー」と称してPRし、「おかげさまでフォロワー4000人を超えました。熱量と少々の癒やしを伝えて参ります」と投稿²⁸。
政治家アカウントとしてはフォロワー数は控えめながら、その筋金入りのファンが多い。2023年時点ではフォロワーは数万人規模に増えたとみられ、X上で発信するコメントはニュース記事にも度々引用されるなど影響力を持った。
投稿内容は主にブログ更新の告知や自身の出演番組の宣伝が多いが、ときおりロシア要人との写真を上げ近況報告するなど独自情報も発信する。もっとも2022年以降はX社の方針変更もあり、議員本人は従来のブログ中心の発信スタイルを維持している。
FacebookやInstagramも公式アカウントは存在するが更新頻度は低く、SNS全体では「毎日更新のブログ+必要に応じてXで発信」という形に落ち着いているようだ。
YouTube等での露出
YouTubeについては、自身の公式チャンネルこそ開設していないものの、日本維新の会在籍時には党のYouTube番組に出演しロシア外交の裏話を語ったり、最近ではインターネット報道番組でロシア擁護発言をする動画が拡散されたりした。
特に2023年8月、外国特派員協会で行った記者会見の模様がYouTubeで公開されると、「鈴木宗男が語る日露関係」として国内外から大きな注目を集めた。このように本人発のSNS発信のみならず、第三者が公開した動画でも発言が切り取られ拡散される時代となっており、鈴木議員も自らの言葉が思わぬ形で広まる経験を重ねている。
その度に賛同と批判の声が渦巻くが、それも折り込み済みといった様子で、「信念は曲げない」というスタンスを貫く姿勢は終始一貫している。
8. 公約実現度の検証
最後に、公約と実績のギャップを検証する。2019年の選挙公約で掲げた主要項目について、その後の進展を見ると明暗が分かれる。
北方領土問題:実現度0%
まず北方領土問題については、鈴木議員自身「政治家人生の最後の仕事」と位置づけたライフワークだったが²⁹、残念ながら2019年以降、成果らしい成果は得られなかった。
安倍政権下で進んでいた日露交渉はプーチン大統領の強硬姿勢により停滞し、2022年のロシア軍ウクライナ侵攻で対露関係は戦後最悪に。一切の政府間交渉が凍結される中、鈴木議員は孤軍奮闘で水面下の対話を模索したが、日本政府の方針転換には結び付いていない。
公約で約束した「平和条約締結」は現時点で実現の展望がなく、「時間との闘い」と訴えていた元島民の悲願も叶えられぬままである。もっとも、これは鈴木議員個人の力量というより国際情勢の逆風によるものであり、本人も「戦後最悪の日ロ関係を誰かが変えないといけない」との危機感から独自行動に出た経緯がある¹⁸。
北方領土に関しては実現度0%に終わったものの、逆に「誰も動けない今だから俺が動く」との信念を貫いた姿は、公約とは別の意味で強い印象を残した。
司法制度改革:一定の前進
次に司法制度改革(冤罪防止・再審法改正)については、一定の前進があった。公約では「再審法の改正を成し遂げます」と明言していたが³⁰、2023年の袴田事件完全無罪を契機に超党派議連が結成されるなど立法機運が高まった。
鈴木議員自身、その議連の一員として証拠開示制度の法制化などを提案し、法務委員会でも繰り返し大臣に検討を促した³¹³²。政府内では法制審議会等で再審制度見直しが議題に上がり始めており、2025年以降の通常国会で改正法案提出が視野に入っている。
まだ法改正は実現していないため公約達成とは言えないが、下地は確実に整いつつある。これについては鈴木議員の執念が国会を動かした面が大きく、公約実現への手応えが感じられる分野だ。
政治改革:部分的成果
政治改革(文通費の透明化)については、前述の通り2022〜2023年に制度改正が行われた。公約では全面公開を謳っていたものの、実現したのは「10年後の領収書公開」という玉虫色の妥協策であり、鈴木議員自身「即時公開すべき」と不満を残す結果となった¹¹。それでも領収書添付を義務化させた意義は大きく、一歩前進と評価できる。
その他政策分野での進展
社会保障の透明化や農林水産支援、インフラ投資なども、公約で掲げた方向性に政府・与党の政策がある程度沿う形にはなった。例えば食料安全保障では2022年以降コメ需給調整の見直しが進み、鈴木議員がブログで問題視していた作況指数(収穫量指数)の算定廃止が実現している³³。
また地方医療ではドクターヘリ予算が拡充され、離島へのドローン物流実証も国交省主導で開始されるなど、公約の先取りとも言える政策が動き出した(鈴木議員の直接の功績とまでは言えないが方向性は合致した形だ)。
アイヌ政策についても、2019年のアイヌ新法成立を受けて政府が推進計画を策定し、鈴木議員も議連活動を通じ後押しした。
総括
総じて、公約と実績のギャップは「北方領土」という最大の公約が未達成に終わっている点で大きいものの、それ以外の項目では部分的に成果が見られる。本人の努力が実った分野(冤罪防止策や経費公開など)もあれば、周囲の環境変化で自然と動いたもの(地方創生策など)もあり、成果の性質は様々だ。
しかしどのケースにも共通するのは、鈴木宗男議員が粘り強く訴え続けたテーマは決して埋もれなかったということだ。たとえ自らが与党中枢でなくとも、議論の種をまき続けることでいずれ花開かせるという信念が、歳月を経て一定の実現を見たと言える。
逆に、ウクライナ情勢という想定外の障壁には本人の人脈をもってしても太刀打ちできず、「政治は時の運」と痛感させられる結果となった。このように公約実現度には濃淡があるものの、それも踏まえて有権者は鈴木宗男氏の政治家人生の功罪を評価することになろう。
今般の自民党復党で与党の一員となった彼が、残された公約(北方領土問題など)に最後の勝負を挑む姿に期待する向きもあり、次期参院選での審判が注目される。
参考資料
- 公式資料:参議院議員プロフィール(参議院公式サイト)³¹;鈴木宗男公式WEBサイト(政策・経歴)⁹¹¹²;国会会議録検索システム(発言録)¹⁵³¹;参議院質問主意書データベース¹³¹⁴。
- 議会資料:日韓議員連盟 役員名簿(Wikipedia)²¹;アイヌ政策議連 会員一覧(Wikipedia)²²;再審法改正に向けた議連動向(刑事弁護オアシス)²³。
- 報道資料:HTB北海道ニュース「自民党から比例出馬表明」(2025年6月21日)³⁴;朝日新聞デジタル「ロシア訪問発言」(2022年10月)²⁰;FNNプライムオンライン(東洋経済転載)「鈴木宗男氏のロシア観」²⁶;毎日新聞(2023年10月10日)「維新・鈴木宗男氏離党」;北海道新聞(2025年6月22日)「鈴木宗男氏 自民から出馬表明」²⁵;NHKニュース(2022年5月)「維新・鈴木宗男氏 ロシア訪問取りやめ」³⁵;TBS NEWS DIG(2023年10月)「鈴木宗男氏『誰かが日ロ関係変えないと』」¹⁸;Yahooニュース(データ・マックス, 2022年3月)「維新・鈴木宗男氏のウクライナ非難が波紋」²⁶。
1 15 16 17 31 32 参議院 鈴木宗男 | 国会審議映像検索システム https://gclip1.grips.ac.jp/video/dietmember/894/show 2 6 7 8 9 10 11 12 29 30 33 鈴木宗男公式WEBSITE https://muneo.jp/ 3 鈴木 宗男(すずき むねお):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7019023.htm 4 5 25 34 「鈴木宗男 集大成の選挙戦に臨みたい」参院選は自民党から比例で出馬を表明 議員辞職し自 民復党 HTB北海道ニュース https://www.htb.co.jp/news/archives_32087.html 13 本年五月二十八日に北海道稚内沖でロシア国境警備局に拿捕され、六月十日に罰金を支払い解放された 「第一七二栄宝丸」に関する質問主意書:参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/204/meisai/m204105.htm 14 委員長が交代した日本共産党と破壊活動防止法に関する質問主意書 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/213/meisai/m213148.htm 18 【独自】訪ロ中の鈴木宗男氏「日ロ関係誰かが変えないと」 永田町 ... https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/1325386?display=1 19 ロシア訪問の鈴木宗男氏「ロシアは困惑している。“停戦拒否は ... https://www.fnn.jp/articles/-/738653 20 鈴木宗男氏「ロシアの勝利信じる」と現地で発言 国営通信が動画配信 https://www.asahi.com/articles/ASRB6416ZRB6UTFK003.html 21 日韓議員連盟 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/日韓議員連盟 22 アイヌ政策を推進する議員の会 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ %E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%8C%E6%94%BF%E7%AD%96%E3%82%92%E6%8E%A8%E9%80%B2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%AD%B0% 23 法改正に向けて動きだした国会議員たち – 刑事弁護オアシス https://www.keiben-oasis.com/26215 24 今国会での再審法改正の実現を求める会長声明 - 日本弁護士連合会 https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250226.html 26 鈴木宗男氏 ロシア配慮発言を繰り返す理由を明かす「戦争は双方に ... https://www.news-postseven.com/archives/20221213_1821424.html?DETAIL 27 1月6日(月) | 鈴木宗男オフィシャルブログ「花に水 人に心 ... https://ameblo.jp/muneo-suzuki/entry-12881434604.html 28 鈴木宗男 on X: "【むねおったー、フォローお願いします!】7月14日 ... https://twitter.com/official_s_mune/status/1150770803853578241 35 NHKニュース on X: "維新 鈴木宗男参院議員 大型連休中のロシア訪問 ... https://twitter.com/nhk_news/status/1653373784316088327