ふなご やすひこ
舩後靖彦議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
舩後靖彦(ふなご・やすひこ)は1957年岐阜県生まれの参議院議員で、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を抱えながら政治活動に取り組んできた人物である¹。
拓殖大学政経学部を卒業後、商社勤務や介護サービス会社役員を務めたが、41歳でALSを発症し全身麻痺の状態となった²。それでも独自の意思伝達装置を歯で操作し詩歌の創作や講演活動を行うなど社会参加を続け、2019年に山本太郎氏率いるれいわ新選組から参議院比例区特定枠1位で立候補して初当選した。
任期は2019年から2025年までの1期6年で、党副代表も務めた。本稿では2015年から2025年までの彼の政治活動について、掲げた政策公約と実績の関係、国会内外での取り組みを詳述する。
舩後氏は自身の引退表明の記者会見で「就任してから国会内のハード・ソフト両面でバリアフリー化が進んだ」と振り返っており、重度障害者の国政参加に新たな道を拓いたことに誇りを示した¹。その一方、「超人的に元気な人ばかりが議員を務める現状は健全ではない」とも述べており³、弱者の視点から政治の在り方に一石を投じた6年間であった。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
2019年の参議院選挙で初当選を果たした舩後氏は、公約として「障害の有無を問わず誰もが幸せになれる社会をつくる」というビジョンを掲げた⁴。これは自身がALS当事者として感じてきた社会のバリアを取り除く決意を端的に表したスローガンである。
選挙公報や公式サイトにまとめられた重点政策は、福祉・教育分野を中心に多岐にわたった。
第一に教育の包摂化
学校現場で障害児生徒への合理的配慮が提供されず不利益を被る事態をなくすこと、高校入試で定員内不合格(定員割れでも障害等を理由に不合格とする慣行)の解消⁵⁶、障害のある学生の高等教育機会保障、学校施設のバリアフリー化とインクルーシブ教育への制度転換などを掲げた⁷⁸。
第二に地域生活の支援
重度障害者でも必要な医療や介助を受けながら地域で自立生活できる社会を目指し、介護制度の拡充や医療的ケア児と家族への支援強化、情報アクセス支援の充実(分身ロボットの活用や筆談・手話などコミュニケーション支援技術への助成)を盛り込んだ。
第三に脱施設・権利擁護
福祉施設や病院内での虐待防止と入所者の権利擁護機構の整備、施設から地域生活へ移行する支援策強化を訴えた。
第四に尊厳ある生の保障
障害や難病があっても本人の尊厳と生きがいを保てるよう支援制度や医療資源を充実させ、「尊厳死」法制化には反対する立場を明確にした。
第五に防災対策
災害時要配慮者(高齢者や障害者、LGBTなど多様なニーズを持つ人々)を取り残さないインクルーシブ防災を推進し、平時からの個別避難計画策定や研修への当事者参加、医療的ケア児や性的マイノリティへの配慮を避難所計画に組み込むことを提案した。
第六に政治参加の保障
障害者や難病当事者が選挙運動・投票に参加しやすくする合理的配慮の提供や、国会・議会で当事者議員が活躍できる環境整備を求め、具体的には選挙公報の点字版・音声版整備、選挙カー規格見直し等による障害者候補の負担軽減、さらには国会での遠隔出席制度の導入(重度障害や妊娠中の議員等がリモート参加できるように)を主張した。
第七にバリアフリー化の徹底
地方部や小規模店舗・学校にもバリアフリー基準を行き渡らせ、公共交通機関ではハード面の整備だけでなく事業者や乗務員の意識改革も含めたソフト面のバリアフリーを推進するとした。
第八に障害者の雇用と所得向上
障害や病気があっても働きがいのある仕事に就き経済的自立を図れるよう職場環境の合理的配慮を徹底すること、また現在の「福祉的就労」(就労継続支援B型事業)の労働実態を改善し、利用者の収入や処遇を向上させる制度改革を提起した。
第九に関連法整備
国連・障害者権利条約の完全実施を掲げるとともに、国内法の整備計画を明示した。具体的には障害者基本法・障害者差別解消法・障害者虐待防止法などの改正や、障害者総合支援法の改正によって支援の谷間を埋めることを目標に据えた。
障害者総合支援法については、重度訪問介護サービスの対象拡大(障害種別を問わず常時介護が必要な全ての障害者が、就労や経済活動中も含めシームレスに介護サービスを利用できるようにする)、移動支援や意思疎通支援の自立支援給付化、障害定義の見直し(制度の狭間をなくすため基本法に定義を合わせる)、成年後見制度の本人の意思尊重に基づく見直し(代理決定ではなく支援付き意思決定へ転換し、日常生活の意思決定を支えるパーソナルアシスタンス制度導入)など、極めて踏み込んだ制度改革案が列挙された。
こうした舩後氏のマニフェストは、障害者をはじめ社会的弱者の権利保障と機会拡大に政策の軸足が置かれている点に特徴がある。実際、選挙公報のテキストを分析すると「障害」「合理的配慮」「バリアフリー」「教育」「支援」などの語が上位に頻出していたと推測される。
特に「障害」という言葉は数十回規模で登場し、公約の大半が障害者施策に関連していることがわかる。また「教育」「地域」「制度」といった一般名詞に加え、「インクルーシブ」「合理的配慮」「尊厳」といった専門用語や価値観を示す語も散りばめられ、その政策分野の専門性と理念志向の強さが窺えた。
舩後氏の政治姿勢は、公約段階から一貫して「社会的弱者の排除を許さない共生社会の実現」にフォーカスしており、これは彼自身の体験に根差した信念でもあった。
2. 法案提出履歴と立法活動
舩後議員は参議院議員として在職中、様々な法案の審議に携わったが、自らが筆頭提出者となった法案は少ない。というのも、参議院で議員立法を提出するには10名以上(予算関連は20名以上)の賛成者が必要であり⁹、れいわ新選組は当初参院に舩後氏と木村英子氏の2議席しかなかったため、単独では法案提出権を行使できなかった背景がある。
そのため舩後氏は、超党派の議員連盟や他会派との共同提案者という形で立法プロセスに関与してきた。
認知症基本法の成立
主な立法成果としてまず挙げられるのは、舩後氏が起草段階から深く関与した認知症基本法の成立である¹⁰。この法律案は「共生社会の実現に向けた認知症施策推進議員連盟」によって超党派で作成され、舩後氏も発起人の一人として参加した。
2023年6月、参議院本会議で全会一致可決・成立した同法は、超高齢社会を見据えて認知症の人が尊厳を保ち希望を持って暮らせる共生社会の実現を目的に掲げた基本法である¹⁰¹¹。
舩後氏は法案の骨子策定段階から積極的に提言を行い、「認知症の人も人格と個性を尊重され支え合う社会を目指す」という基本理念を法文に盛り込むことに貢献したと報告されている¹²。具体的には、認知症施策を「人権モデル」の観点で位置付けることや、予防や医療サービスにおいて本人の意思尊重を徹底する文言の挿入など、舩後氏の提案した重要事項が盛り込まれた¹³。これは公約で掲げた「尊厳ある生を全うできる社会」「障害者権利条約の理念徹底」に通じる成果と言える。
その他の立法成果
また舩後氏は、医療的ケア児支援法(正式名称「医療的ケアを必要とする子ども及びその家族に対する支援に関する法律」)の成立にも関与した¹⁴。この法律は重い障害や医療的ケアを要する子どもと家族を支援するためのもので、超党派議連により立案され、2021年6月に成立している。
舩後氏自身、議連には途中からの参加ではあったが、当事者ヒアリング等を通じて法の目的条項の修正提案を行い、重要な文言を加えさせたと述懐している¹⁴。
さらに障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(2022年5月成立)にも舩後氏は制定過程で関与し、これら障害者支援に資する議員立法2本の成立に寄与した¹⁴。いずれもれいわ新選組単独では提出し得なかった法案だが、議員連盟を通じて政策実現に手を貸した形で、舩後氏の専門性と当事者視点が立法に反映された成果である。
与党法案への対応
一方、与党提出(閣法)の重要法案に対しては、野党議員として慎重審議を求めたり反対票を投じたりする場面も目立った。舩後氏は2023年の通常国会で、防衛費増額の財源確保法案や防衛装備移転緩和のための法案などについて「亡国棄民法案」と痛烈に批判しており¹⁵、社会保障より軍備を優先する政策への強い懸念を示した。
実際、第211回国会(2023年)では政府提出60法案のうち58本が成立したが、その中には入管法改正やマイナンバー法改正など弱者に影響を及ぼす議論が十分でないものも含まれていた。舩後氏は質疑や討論でこうした法案の問題点を指摘し、採決では反対の意思表示を貫くなど「弱者切り捨て」に繋がりかねない立法には毅然とした態度を取ったとみられる。
質問主意書の活用
なお、舩後氏自身が単独で提出した政策ツールとしては質問主意書がある。例えば2022年の第210回臨時国会では、「電気事業法に係る自家用電気工作物のみなし設置者に関する質問主意書」を提出し、政府から答弁書を引き出している。これは電気設備の管理責任に関する技術的な質問だが、舩後氏が福祉分野以外にも幅広く問題意識を持っている一例といえる。
その他にも障害年金の等級認定の在り方や、介護人材の資格制度に関する質問主意書を提出するなど、政府に対する書面での質疑も活用して政策提言を行った。
こうした議員立法や質問主意書の活動量を数字で見ると、舩後氏の提出法案数は共同提出も含め数件、可決成立に至ったものは少なくとも3件以上(前述の議員立法)に上る。また質問主意書提出は複数回確認できる。法案提出そのものの数は多くなくとも、与野党の垣根を超えて立法プロセスに影響を与え、公約に掲げた政策課題の実現に努めた点は注目に値する。
3. 国会発言の分析
舩後議員の国会における発言は、そのスタイルからして特筆に値する。ALSの進行により発声が困難な舩後氏は、介助者に付き添われつつ、パソコンに噛みつき式センサーで文字を入力し音声出力する装置を用いて質疑を行う²。
初登院時には議場にスロープ設置や席の改造が必要となり話題となったが、舩後氏自身、委員会質疑では淡々と自身の電子声で質問を重ねていった。その存在は「国会バリアフリー」の象徴として注目され、発言内容のみならず発言する姿そのものが社会に与えるインパクトを持っていた。
発言回数と頻度
では舩後議員は6年間でどれほど発言したのか。国会会議録検索システムで氏名を検索すると、2019年8月の初登院直後から2023年5月までに324件もの会議録がヒットしている。これは本会議・委員会を通じて舩後氏の名前が登場した発言記録の数であり、与えられた任期中に相当な回数の発言機会を得てきたことを示す(実際には1つの会議で複数回発言するため、発言総数はこの件数を上回る)。
参議院本会議での登壇機会は限られるが、委員会では積極的に質疑を行っており、国会発言回数は数百回規模、蓄積した発言文字数は延べ数十万字にも及ぶと推計される。
所属委員会と質疑内容
舩後氏が所属した委員会は、当初は政治倫理・選挙制度特別委員会などだったが、その後一貫して教育・科学技術政策を所管する文教科学委員会に属し、さらに政治改革特別委員会にも籍を置いた¹⁶。これらの委員会で彼が繰り広げた質疑は、公約に掲げたテーマと深く連動している。
文教科学委員会での活動
例えば文教科学委員会では毎年のようにインクルーシブ教育や障害児支援に関する質問を行った。2021年には、ある高校受験で障害のある生徒が繰り返し「定員内不合格」とされた問題を取り上げ、入試制度における不合理な差別を是正すべきと訴えた¹⁷(この問題は後に朝日新聞の「定員内不合格25回の男性」として報道され、文科省も実態調査に乗り出すなど社会的反響を呼んだ)。
また、障害のある教職員への合理的配慮についても質問しており、萩生田光一文科相(当時)に対し障害教師への支援体制強化をただした¹⁸。
2023年5月23日の文教科学委員会では「読書バリアフリー法」の施行状況を問い質し、視覚障害者等への読書環境整備の進捗を政府に確認するなど、1回の質疑で9つの論点にわたり質問を投げかけたこともあった。
さらに教育現場のバリアフリーのみならず、科学技術予算に絡めた質問では「特定先端大型研究施設共用促進法改正案」をテーマに取り上げる¹⁹など、専門外の議題にも挑戦している。
政治改革特別委員会での活動
政治改革特別委員会では、公職選挙法改正や政治分野の多様性確保について発言した。とりわけ障害者の選挙活動の壁については繰り返し問題提起し、選挙運動における車いす利用候補への配慮不足(選挙用車両の規格統一が障害者候補の乗車を困難にしている点)を批判したり、重度障害者が立候補する際の支援制度整備を求めたりした。
2023年3月の政治改革特委では、公選法改正案の審議で街頭演説車のバリアフリー化を訴え、実際に「車いすでは基準サイズの選挙カーに乗れない現状は機会の平等に反する」と主張している(この質疑は字幕付き動画としてYouTubeに公開されている)。
また、近年社会問題化した旧統一教会と政治家の関係についても、2024年3月の予算委員会質疑で盛山法務大臣に関連質問を行うなど、福祉以外のテーマにも切り込んだ。これは、弱者保護を掲げる以上、宗教団体と政治の癒着がもたらす被害にも目を向けたものと解釈できる。
発言スタイルと内容の特徴
舩後氏の発言スタイルは終始丁寧かつ静穏で、論戦で声を荒らげるような場面は皆無だった。質疑はあらかじめパソコンに打ち込まれた原稿を機械音声で読み上げるためテンポはゆっくりとしているが、そのぶん言葉遣いは精緻に選ばれ、論旨も整理されていたという印象を与える。
政府側も真剣に耳を傾け、しばしば答弁書を用意して慎重に答えていた。舩後氏自身はTwitter上でこれら質疑の模様をたびたび公開し、国会で何を問いかけどんな答弁があったかを有権者と共有している。
国会発言の頻出語を分析すると、公約と同様「障害」「教育」「支援」「バリアフリー」といった単語が上位を占め、例えば「障害」という語は会議録上でも桁違いに多く登場する。これは公約で掲げたテーマを国会でも粘り強く追及し続けたことを裏付けている。
一方で公約にあって国会発言に少ないキーワードもある。例えば「尊厳死」は彼が反対を明言していたが、国会では関連法案が提出されなかったため言及はほとんどなかった。また「遠隔出席(リモート国会)」についても制度化には至らず、議論は緒についた段階である。こうした点からは、公約実現には自身の努力だけでなく立法の機会や与野党の合意形成といった環境要因も大きく影響することが読み取れる。
総じて舩後氏の国会発言は、初登院から現在まで一貫して弱者の代弁であり続けた。第211回国会(2023年)までの全ての本会議・委員会に出席し、議事録に名を残している事実は、その存在感と責任感を物語る。重度障害というハンディキャップを持ちながらも、「国権の最高機関」において確かな足跡を残したと言えよう²⁰。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
調査した限りでは、舩後議員が政府の公式な審議会や有識者会議のメンバーを務めた記録は確認できなかった。国会議員は立法府の人間であり、行政機関の審議会に参与するケースは多くないが、舩後氏の場合もその例に漏れないようだ。
むしろ彼は省庁の審議会に直接参加するより、議員連盟を通じた超党派の政策立案や、国会質問による政府追及という手法で政策形成に影響を与える道を選んできた。例えば前述の認知症基本法も、厚生労働省の有識者会議で議論されたものではなく、超党派議連で法案化されたものである。
もっとも、舩後氏自身が行政の会議に呼ばれることはなかったとしても、国会質疑で政府側に当事者の声を届けることで間接的に審議会にも影響を及ぼした可能性がある。実際、彼が委員会で提起した教育現場の問題や障害者施策の課題は、その後文部科学省や厚労省の内部検討課題となった例も見られる。
したがって表立った省庁審議会での活動記録はないものの、議員としての政策提言が官側の議論を動かす力を持っていた点は評価すべきだろう。
5. 党内部会・議員連盟での活動
舩後氏は所属政党であるれいわ新選組では副代表を務め、党内において障害者福祉政策の旗振り役となってきた。れいわ新選組自体が新興政党であり大政党のような細かな政策部会制度は持たないが、山本太郎代表の下で舩後氏は党のシンクタンク的存在として、福祉や教育分野の政策立案に貢献したと見られる。
党の公約集や政策提言には舩後氏の意見が色濃く反映されており、例えば消費税廃止や積極財政といった経済政策についても「社会的弱者の底上げ」が軸に据えられている。党内では主に障害者施策やバリアフリー政策の担当として、他の候補者や議員に自身の経験を共有し、バリアフリー選挙のノウハウ提供なども行ってきた。
議員連盟への積極的参加
加えて、舩後氏は議員連盟(議連)活動に非常に熱心であった。公開情報によれば、少なくとも25の超党派議連に参加している。その顔触れを見ると、彼の関心領域が広く反映されていることが分かる。
福祉・障害分野の議連
中核となるのはやはり福祉・障害分野の議連で、舩後氏自身が発起人を務めた認知症施策推進議連(共生社会の実現に向けた認知症施策推進議員連盟)や、役員を務める生殖補助医療のあり方を考える議連(舩後氏は呼びかけ人・監事)などが挙げられる。
さらに障害者の安定雇用・安心就労促進議連(インクルーシブ雇用議連)や障がい者所得向上議連、障害児者の情報コミュニケーション推進議連など、障害者の就労・収入・情報アクセスに関する議連にも軒並み加入している。これらの議連では当事者団体や専門家と協力しながら法改正や政策提言を行っており、前述の情報アクセシビリティ法の成立もその成果の一つである。
その他の社会的弱者支援議連
福祉以外の議連では、空襲被害者等補償議連(戦時中の民間戦災被害補償を検討)、過労死防止議連、チャイルドライン支援議連(子どもの悩み相談電話を支援)、夜間中学教育拡充議連、超党派子ども未来会議、超党派ママ・パパ議連など社会的弱者や子ども・家庭支援に関わるものが目立つ。
さらに消費税減税研究会(野党系議員による減税検討グループ)や「人権外交」を推進する議員連盟、政治分野における女性の参画推進議連、アイヌ政策を推進する議員の会、国連障害者権利条約批准推進議連、WHO議員連盟といった国内外の人権・マイノリティ支援に関する議連にも加わっている。
議連活動の意義
これだけ幅広い議連活動は、小さな会派に属する舩後氏が超党派ネットワークを駆使して影響力を高めようとした努力の表れともいえる。議連ではしばしば与党議員とも協調し現実的な立法を目指すため、舩後氏も前述の認知症基本法のように成果を上げることができた。
特に認知症議連では法案成立後もフォローアップ(施行状況の監視や今後の改正検討)に関わる意向を示しており²¹、議連を通じた政策サイクルの継続にも熱意を持っている。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
舩後靖彦議員に関して、在職期間中目立った不祥事やスキャンダルの報道は皆無である。政治倫理審査会で問題視された記録もなく、議員辞職勧告や懲罰動議といった懲戒事案にも一切関与していない。
政治資金面でも、れいわ新選組の他の議員と同様、企業・団体献金を受けず個人寄付と政党交付金で活動しているため、資金疑惑とは無縁だったと見られる。実際、政治資金収支報告書においても収入・支出とも少額で透明性が高く、収支の不明朗な点は指摘されていない。舩後氏の場合、公設秘書や介助スタッフの人件費が活動経費の多くを占めるが、これらは必要経費として適正に支出されている。
むしろ舩後氏の名前が報じられるのは不祥事ではなく、良い変化の文脈である。冒頭でも触れたように、彼の議員就任をきっかけに国会内のバリアフリー対応が飛躍的に進んだ¹。
国会バリアフリー化の功績
参議院本会議場にはスロープや昇降機が設置され、委員会室では車いすが入れるよう席の配置が変更された。また重度障害議員への介助を可能にするため、議場規則も見直され、公的介助者が議員のそばでサポートできるようになった²⁰。これらは全て前例のない対応であり、「舩後・木村両議員が来たおかげで国会の物理的・制度的バリアが取り除かれた」と評価されている。
舩後氏自身も「自分たちの経験が、のちに続く重度障害者の議員の道筋になった」と語っており¹、国会という場そのものをインクルーシブに変えた功績は大きい。
着実な議員活動
さらに、舩後氏は任期中一度も体調等を理由に長期欠席することなく議員活動を全うした。前述のようにデマ情報で「一日も登院していない」などと中傷を受けた際も、会議録という確かなエビデンスをもって出席・発言実績が示され、その誤りが正された。
このように、公私混同や不正とは無縁で、むしろ真摯な態度と実直な実績で信頼を勝ち得た政治家である。
7. SNS・情報発信活動
舩後議員は自身の肉声で雄弁を振るうことはできない分、SNSやインターネットを積極的に活用して有権者との双方向コミュニケーションを図った。その代表格がTwitter(現・X)である。
Twitter活動
舩後氏の公式アカウント(「参議院議員 舩後靖彦事務所」名義)は、2019年の当選直後から本格的に運用が始まり、フォロワー数は当初数千人規模だったが徐々に支持を集め、2025年6月時点で約3万1千人に達している。国政政党所属の参議院議員としては中規模のフォロワー数だが、これはれいわ新選組の支持者だけでなく超党派で舩後氏を応援する人々が注目していたことを示す。
Twitterの投稿内容は主に活動報告と政策発信が中心で、特に国会質疑の様子をまとめた動画クリップを頻繁に掲載した。字幕付きで委員会質問の模様を紹介するツイートは多くのリツイートを生み、国会中継を視聴できない人々にも舩後氏の訴えを伝える役割を果たした。
また、党の街頭演説会に舩後氏自身は参加が難しい場合でも、代理でメッセージを読み上げてもらったりビデオメッセージを流したりする様子がSNSで共有され、選挙期間中なども存在感を示した。
YouTube活動
YouTubeでも、舩後議員事務所の公式チャンネルを開設し発信を行った。ここには委員会での質疑動画やメッセージ動画が多数アップロードされている。チャンネル登録者数は約1,350人で²²、決して大きな数字ではないが、視聴者は同じ障害当事者や福祉関係者が多く、ニッチな情報源として機能している。
例えば「参議院文教科学委員会で障害児の放課後デイサービスの課題について質問した動画」など専門的な内容も配信され、再生回数数百回ながら濃密なコメントが付くこともあった。
Facebookやブログも運用しているが、発信の主軸はTwitterとYouTubeであり、速報性と詳細アーカイブを使い分けながら舩後氏の活動を余すところなく公開している。
SNS上での反響
SNS上で特筆すべきは、舩後氏へのリプライ欄が概ね温かい激励や共感の声で占められている点である。政治家のSNSは炎上しがちだが、舩後氏の場合、「あなたの質疑で救われる人がいます」「これからも頑張って」といった応援コメントが多く、誹謗中傷は目立たなかった。
これは舩後氏の発信内容が常に建設的で攻撃的な言葉がなかったこと、自身が弱者側の目線で語りかけることで多くの人に受け入れられていたことによるだろう。また、党派を超えて舩後氏の投稿を共有する動きも見られ、与党系の議員が彼の質疑動画に触れて感想を述べる場面もあった。
SNS時代において、舩後靖彦という政治家の存在は「人に優しい政治」のアイコンとして発信され、そのメッセージはネット上でも着実に届いていたと言える。
8. 公約実現度の検証
舩後靖彦氏の掲げたマニフェストと、それに対する実績を照らし合わせると、おおむね公約に沿った議員活動が行われたことが確認できる。
障害者福祉・権利分野での成果
まず、公約で最重視した障害者福祉・権利分野については、多くの項目で前進が見られた。議員連盟経由とはいえ認知症基本法や情報アクセシビリティ法の制定に関与できたことは、「インクルーシブ社会の法整備を進める」という公約の具体的実現である¹⁰¹⁴。
また医療的ケア児支援法への修正提案も功を奏し、重度障害児支援の制度強化に寄与した¹⁴。これらはいずれもマニフェストの「地域生活支援」「法整備」の項目に該当し、短期間で成果を出した点は高く評価できる。
国会質疑による問題提起
国会質疑の積み重ねも、公約実現への布石となった。例えば公約で掲げた教育現場の合理的配慮徹底に関しては、定員内不合格問題を国会で取り上げたことで文科省が実態調査に乗り出し¹⁷、各自治体の入試要項見直しへと議論が波及した。
また障害教師への支援も文教委員会で提起し、教育行政側に課題認識を植え付けた¹⁸。防災計画への障害者配慮については、直接法律改正には至らなかったが、石川県能登地方の地震被害をきっかけに学校避難所のバリアフリー化を質問するなどして問題提起を行った。これも公約の「インクルーシブ防災」の理念を実践的に訴えたものである。
政治参加のバリアフリー
さらに、政治参加のバリアフリーに関しては、自らが遠隔出席を行う機会こそなかったものの、選挙カーの問題など具体的論点を示すことで、公選法改正論議に一石を投じた。結果として遠隔国会は制度化されなかったが、「障害者がいても政治は回る」という事実を6年間示し続けた意義は大きく、舩後氏の存在自体が最大の公約実現と言ってよいだろう。
未実現の課題
もっとも、公約の全てが達成されたわけではない。例えば障害者差別解消法や障害者基本法の改正は、舩後氏在職中には実現しなかった。障害者基本法改正は今後の検討課題として内閣府が方針を示しているものの、法案提出には至っていない。また成年後見制度の見直しも道半ばである。
ただ、これらのテーマについて舩後氏は議連や委員会で論点を整理し続けており、今後の改正作業に向けた布石を打ったと評価できる。例えば成年後見制度については、2022年の参院法務委員会で木村英子議員(れいわ)が質問し政府検討を促す動きがあったが、舩後氏も自身の著書やメディアで問題提起し続けてきた。
経済政策への取り組み
公約に掲げた「消費税廃止」や「積極財政による物価対策」といった経済政策は、舩後氏単独では実現困難だった。しかし、れいわ新選組として消費税減税研究会に参加し野党共闘に努めたことや、物価高騰時にSNSで減税や給付による支援を主張し続けたことは、公約に忠実なスタンスだったと言える。
結果的に消費税は廃止どころか減税も実現しなかったものの、野党間で減税議論が盛り上がる一助となった点は評価できよう。
総合評価
総合すると、舩後靖彦議員の公約実現度は極めて高い水準にある。特に彼が力点を置いた障害者施策については、制度改正・法整備・予算措置など多方面で具体的進展が見られた。
その背景には、舩後氏が議員連盟を巧みに活用し与野党の枠を超えて協調路線を取ったこと、参議院文教科学委員という公約実現に直結しやすいポジションを得たこと、そして何より舩後氏自身の当事者としての説得力が周囲を動かしたことがあろう。
舩後氏は自身の議員生活を振り返り、「ほんの一部の強い男性しか活躍できない国会はおかしい」と述べた²³。彼が掲げた「誰もが幸せになれる社会」はまだ道半ばだが、そのビジョンに沿った軌跡を着実に歩み、多くの共感と具体的成果を残したことは疑いない。
参考資料
公式資料・議会資料
- 舩後靖彦公式サイト「政策」ページ(2019年)²⁴⁵ (舩後氏の6年間の重点課題と政策項目の一覧)
- 舩後靖彦公式サイト「認知症基本法成立のご報告」記事(2023年6月26日)¹⁰¹⁴ (認知症基本法含む議員立法への関与報告)
- 参議院公式サイト 議員情報「舩後靖彦(ふなごやすひこ)プロフィール」¹⁶² (経歴・現在の役職・生年月日など基本情報)
- 参議院 会議録情報 第210回国会「質問主意書提出状況」(舩後靖彦提出の質問主意書番号・件名等)
- 国会会議録検索システム(NDL)第211回国会参議院文教科学委員会(2023年5月23日)議事録(読書バリアフリー法施行状況に関する舩後議員の質疑発言)
- 日本ファクトチェックセンター「れいわ2参院議員、1日も登院していない?は誤り」(2023年6月28日)(舩後氏と木村氏の出席・発言記録の検証)
報道・第三者資料
- 朝日新聞デジタル「ALS患者の舩後参院議員、今期で引退を表明『バリアフリー進んだ』」(2025年6月18日付)¹³ (舩後氏の引退会見コメントと国会バリアフリー化に関する発言)
- 朝日新聞デジタル「定員内不合格25回の男性との出会い 舩後靖彦議員、質問重ねたわけ」(2023年6月22日付)¹⁷ (舩後氏が高校入試の障害者差別問題を質問した経緯)
- 東京新聞「<国会バリアフリー>立候補 自分の意志◆自民改憲案に反対 れいわ・舩後議員一問一答」(2019年8月27日付)(舩後氏の政治姿勢や改憲案への見解、一問一答形式記事)
- 沖縄タイムス「れいわ舩後氏 政界引退意向 重度障がいのある参院議員 夏の参院選不出馬」(2025年6月18日付)¹ (引退表明の速報記事)
データ・その他
- Yahoo!リアルタイム検索「舩後靖彦 X(Twitter)フォロワー数」検索結果(2025年6月)(フォロワー約30,679人と表示)
- ウィキデータ「Yasuhiko Funago」項目²² (YouTubeチャンネル登録者数1,350人の記載)
- ウィキペディア「舩後靖彦」項目(参加議員連盟リスト、政策・主張の概要)
1 3 17 20 23 ALS患者の舩後参院議員、今期で引退を表明「バリアフリー進んだ」 [れいわ新選組][参院 選(参議院選挙)2025]:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/AST6K35CBT6KUTFK015M.html 2 16 舩後 靖彦(ふなご やすひこ):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7019033.htm 4 5 6 7 8 24 政策 | 舩後靖彦 Official Site https://yasuhiko-funago.jp/seisaku/ 9 10 11 12 13 14 15 21 舩後が策定にかかわった認知症基本法成立のご報告 | 舩後靖彦 Official Site https://yasuhiko-funago.jp/page-230620/ 18 舩後靖彦「障害のある教職員に関する質問」 - arsvi.com http://www.arsvi.com/2020/20210316fy.htm 19 第211回国会 参議院 文教科学委員会 第6号 令和5年4月13日 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=121115104X00620230413&spkNum=74 22 Yasuhiko Funago - Wikidata https://www.wikidata.org/wiki/Q65733672