やくら かつお
矢倉克夫議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
矢倉克夫(やくら かつお)議員は、公明党所属の参議院議員(埼玉県選挙区選出)です¹。1975年生まれの50歳(2025年現在)で、東京大学法学部を卒業後に弁護士として企業法務に従事し、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校で法学修士を取得した国際派の法律家です¹。
経済産業省への出向経験では中国のレアアース輸出規制問題などWTO(世界貿易機関)紛争処理にも関与し、国内外で法務と通商の実務経験を積みました²。
2013年の第23回参院選で埼玉県選挙区から初当選し、2019年の第25回参院選で再選、現在2期目に入っています³。当選回数は2回、在職期間は2013年7月から現職まで約12年となり、2025年7月には次の参院選を控えています。
所属政党は結党以来公明党で、党内では埼玉県本部副代表や青年委員会委員長、党中央幹事など要職を歴任し⁴、2023年9月には第2次岸田第2次改造内閣で財務副大臣に就任するなど政権の一翼も担いました⁵。
農林水産大臣政務官(2016年~2017年)や参議院法務委員長(2021年~2022年頃)など国会・政府内の役職も経験し、公明党の若手実力者として活躍しています。法律家出身の経歴と国際交渉の実績を背景に、弱者に優しく国益を守る「心を結ぶ信頼の政治家」を標榜しており、今回のレポートでは2015年から2025年までの活動を詳細に分析します。
本レポートの目的は、有権者が矢倉議員の歩みと政策スタンスを深く理解し、適切に評価できる包括的な情報を提供することにあります。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
矢倉議員の直近の選挙(2019年7月執行、第25回参議院選挙)の公約をひも解くと、そのスローガンは「現場を走り、世界に挑む。」でした⁶。これは「地域の現場を駆け回り、国民の声を聞き届けながら、グローバルな舞台で日本の存在感を高める」という決意を端的に表した言葉です。
実際、選挙公報では「愛する埼玉の発展へ全力」「一人ひとりに寄り添う政治」といったフレーズが並び、地域密着と国際志向の二面を強調していました。矢倉氏は自らのことを「たくましき楽観主義」を座右の銘に掲げる政治家と称し、悲観論や冷笑主義を排して理想と現実のバランスを取る政治姿勢を示しています⁷。
7つのビジョンの詳細分析
公約の柱を分析すると、大きく七つのビジョンに整理されていました⁸。
- *第一に「若者の声がど真ん中に来る政治」**として、未来を担う世代の意見を政治に反映させる民主主義の確立を掲げました⁹。これは、日本の将来を見据えた長期政策決定に若者の視点を組み込むという意欲的な提案です。
- *第二に「世界平和を必ず成し遂げる」**として、防衛や外交では理想主義(リベラリズム)の志を持ちつつ、現実主義(リアリズム)に立脚した安全保障戦略を追求すると述べています⁷。公明党らしく平和志向を前面に出しつつ、安全保障環境の厳しさも直視する姿勢です。
- *第三に「災害に強い日本とまち」**を次世代に残すため、ハード(インフラ)と人への投資を両立する防災政策を打ち出しました¹⁰。これは近年相次ぐ自然災害を受け、防災インフラ整備だけでなく地域コミュニティや人材の強化にも力を入れるべきとの考えです。
- *第四に「食料とエネルギーの国産・国消」**を掲げ、国家として食料安全保障・エネルギー安全保障を推進する方針を示しました¹¹。輸入に頼りすぎない自給体制づくりを国の責務で進めるという主張で、ウクライナ危機等で顕在化した資源リスクへの対策といえます。
- *第五に「世界で勝てる日本をつくる」**として、極端な保護主義に陥らず国際協調による共栄のルール形成を日本の交渉力で主導することを目指すと述べました¹²。グローバル経済の中で日本企業が公平に競争し成長できるよう、自由貿易体制を守りつつ新たなルール作りに関与する決意です。
- *第六に「賃上げ立国の実現」**を掲げ、経済成長の果実を労働者一人ひとりの幸福実感につなげる働き方改革を提唱しました¹³。最低賃金引き上げや中小企業支援を通じ、人への投資による経済好循環を描いています。
- *第七に「教育や介護などベーシックサービスにお金がかからない社会」**を目指すとし、消費税収を全世代向けサービスの財源に充てる構想を示しました¹⁴。消費税率10%は据え置いた上で、その使途を社会保障や教育無償化に限定して「全ての人に基礎的サービスを保障する」社会像を提示したものです。
公約の特徴とキーワード分析
以上のように矢倉氏のマニフェストは、「若者」「平和」「防災」「食料・エネルギー」「国際競争力」「賃上げ」「社会保障」の7分野に重点を置いていました。実際に公約文中で頻出した言葉を抽出すると、「日本」「世界」「平和」「若者」「経済」「消費税」「食料」「エネルギー」「外交」「安全保障」などが上位に来ます。
これらのキーワードから読み取れるのは、矢倉氏が国内の暮らしの安心(防災・社会保障)と国際社会での日本の役割(平和外交・経済交渉)を両軸で追求する姿勢です。また「若者」「賃上げ」といった言葉からは、将来世代や生活者の視点を重視し、経済的な恩恵を広く行き渡らせようという庶民派・改革派の色彩が感じられます。
公明党の掲げる「小さな声を聴く力」を体現しつつ、国際的な課題にも挑戦するという矢倉氏の政治スタンスが、公約全体を通して鮮明に表現されていました。
2. 法案提出履歴と立法活動
議員立法での実績
矢倉議員は立法府での活動にも積極的で、特に議員立法による法案提出に実績があります。1期目の2013~2019年においては、3本の議員立法を提出者として成立に導きました¹⁵。
まず2016年にSNSを利用した執拗なつきまとい行為に対応するための「ストーカー規制法改正」(ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部改正)を共同提出し、可決させました¹⁵。当時、LINEやメールなどオンライン上の付きまといが社会問題化していたことから、インターネットでのつきまとい行為も規制対象に加える改正を実現したものです。
次に、再犯防止策の強化に向けた「再犯防止推進法」(再犯の防止等の推進に関する法律)を議員立法で成立させました¹⁵。矢倉氏自身、2015年に公明党の再犯防止対策強化PT事務局長を務めており¹⁶、受刑者の社会復帰支援や更生プログラム充実について精力的に取り組んできた経緯があります。この法律成立によって、国と自治体が再犯防止計画を策定する枠組みが整い、矢倉氏の主導した政策が制度化されました。
さらに、2016年には「ヘイトスピーチ解消推進法」(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の推進に関する法律)の成立にも尽力しています¹⁵。公明党は人権擁護を重視しており、矢倉氏も弱い立場の人を守る観点からヘイトスピーチ規制に熱心でした。その結果、生来の出自に基づく差別的言動を許さない理念を示す同法が議員立法で成立し、ヘイトスピーチ対策の第一歩となりました。
以上の3法案はいずれも超党派で提出され、矢倉氏は提出者の一人または主要メンバーとして立案・調整に関与しています。成立率は100%で、公明党内でも立法能力の高い議員として評価されました。
政府提出法案への関与
また、政府提出法案への関与や賛否行動も注目されます。矢倉氏は与党公明党の議員として、政府提出法案には基本的に賛成票を投じてきました。特に安全保障関連では、2015年の平和安全法制(いわゆる安保法案)にも与党の立場で賛成しています。当時公明党内には慎重論もありましたが、矢倉氏は「平和と安全を守るため現実的な抑止力も必要」との姿勢で安保関連法成立を支持しました。
近年では、防衛費の大幅増額に伴う財源確保策を含む法案(防衛財源確保法など)にも賛成し、自民・公明連立政権の一員として政府方針を後押ししています。財務副大臣就任後の2023年度予算関連法案でも政府側の答弁に立ち、公明党の主張を盛り込みつつ成立に尽力しました。
司法・法務分野での活動
他方、矢倉氏が主体的に取り組んだテーマとして司法・法務分野が挙げられます。参議院法務委員会に所属(理事や委員長も歴任)した経験から、司法制度改革や刑事政策に詳しく、2017年には共謀罪法案(テロ等準備罪を新設する改正組織犯罪処罰法)審議でも与党側理事として質疑に立ちました。共謀罪法案には人権への懸念もありましたが、矢倉氏はテロ防止の国際的約束履行の必要性を説きつつ、恣意的な運用を防ぐ担保を政府に確認するなど、法案修正協議に関与したとされています。
さらに、民法改正(成人年齢の引下げや相続法改正など)においても法務部会長代理として党内議論を主導し、自身も法案審議で論点整理に貢献しました。
地域課題解決への取り組み
矢倉氏の立法活動の特徴は、被害者や社会的弱者の救済、権利保護に関する法整備に力を注いでいる点です。上述のストーカー規制やヘイトスピーチ法のほか、高度プロフェッショナル制度導入時には長時間労働抑制策を提言するなど、庶民目線で法案の改善に関わっています。
また地域課題の解決にも立法を通じて応えており、例えば埼玉県内の中小企業支援策として「中小企業経営強化法」の改正に絡み固定資産税減免措置の延長を訴えるなど、地元要望を法制度に反映させました¹⁷。農林水産大臣政務官を務めた際には、農地集積の促進や6次産業化推進に関する法整備にも関与し、農業者の声を政策化する役割も果たしました。
立法活動の総括
総じて、矢倉議員はこの10年間で提出法案数3本(全て成立)¹⁵、政府提出法案への賛成多数、反対票なし(調査の限り大きな造反事例は確認されず)という立法行動記録です。法案提出数そのものは数として多くはありませんが、一つひとつが社会のニーズを捉えた内容で成立率が高く、成立法案率100%は与党議員として確実に成果を上げている証と言えます。
法務委員長等のポストを歴任したことからもうかがえるように、法案審査の過程でも的確な質疑で与野党の論点整理に貢献してきました。今後も党の政策立案セクションでの経験を活かし、新たな議員立法や法改正に取り組むことが期待されます。
3. 国会発言の分析
発言回数と活動傾向
国会での発言回数や内容から、矢倉議員の論戦での存在感を見てみます。2015年から2025年6月までの国会発言回数は概算で約100~150回程度と推測され、参議院委員会や本会議で継続的に発言してきました。特に参議院の法務委員会や予算委員会、ODA等特別委員会などにおいて質疑者または答弁者として登壇する機会が多く、発言総文字数も数十万字規模に上ると見られます。
国会議員白書のデータによれば、矢倉氏の発言文字数は累計で数百千字(数十万字)に達し、これは在職年数に照らして平均的な与党参議院議員の水準と同程度かやや多めです¹⁸。
専門的質疑の特徴
発言内容の傾向を見ると、まず法律家らしい論理的で準備周到な質疑が特徴に挙げられます。例えば法務委員会では刑事司法制度や人権課題に関する専門的な質問を展開し、法務省にデータ提出や見解表明を求める場面が度々ありました。
ヘイトスピーチ解消推進法の審議では、「一人ひとりが尊重される社会を実現するため、政府として教育啓発をどう進めるか」と問い質し、政府側から具体策を引き出しています。また再犯防止推進法案では、矯正施設出所者の就労支援について「地域社会で受け皿を整える必要性」を訴えるなど¹⁵、緻密な現状分析と説得力のある提案を交えた発言が見られました。
予算委員会での活動
矢倉氏は予算委員会にも理事や委員として参加し、外交・経済から社会保障まで広範なテーマで政府と議論しています。たとえば、WTO閣僚会議に日本政府代表として出席した経験を踏まえ、予算委では「国際ルール形成における日本の交渉戦略」について安倍首相(当時)や岸田外相らに質問し、農業分野で日本の国益を守りつつ多国間交渉をリードする決意を確認する場面がありました¹⁹。
その際には、自身がWTOで直面した補助金規制案の問題点を具体的に指摘し、日本に不利なルールを阻止した体験談を交えながら、政府に交渉力強化を求めています²⁰。このように国際交渉や通商政策も矢倉氏の得意分野であり、発言には英語も織り交ぜつつ専門的な議論を展開することがあります。
地域・生活者目線の質疑
一方で、地域や生活者目線の質疑も欠かしません。2014年の記録的大雪でビニールハウスが倒壊した際には、矢倉氏は農水政務官として被災地に赴き、農家の窮状を訴える声を拾い上げました¹⁷。参院農水委員会では「大雪被害に対する政府支援策」をただし、倒壊ハウス撤去費用の公的補助(自己負担1割化)を実現させた経緯があります¹⁷。
委員会質疑で農家の実情を詳述しながら、復旧予算措置の必要性を説いた結果、政府が支援策を拡充する流れとなりました。このように地元埼玉をはじめ各地の「小さな声」を国政に届ける質問も多く、児童虐待防止策や中小企業支援策、高齢者支援など国民生活に密着したテーマにも積極的に取り組んでいます。
最近では、マイナンバー制度の不備問題や物価高騰下の生活支援策についても参院予算委で質問に立ち、政府に改善策を提言しました(例えば2023年には「マイナ保険証」への一本化による混乱について厚労相に質問し、紙の資格証明書の発行体制整備を確認しています)。
発言スタイルと効果
発言スタイルは誠実かつ穏やかで、与党議員として政府を一方的に擁護するだけでなく、必要な注文はしっかり付けるバランス感覚があります。公明党の議員らしく低姿勢で丁寧な語り口ながら、データや具体例を駆使して論点を深掘りするため、答弁する大臣からも「ご指摘を踏まえ検討する」との前向きな回答を引き出す場面が多々ありました。
たとえば、子育て支援策の議論では「児童手当拡充の財源として健康保険料の上乗せを行う政府案について、将来世代の負担増にならないか慎重に議論すべきだ」と質し²¹、政府側に施策の妥当性を検証させました。与党内でも国会質問を通じ政策修正を促すことができるのは、公明党議員ならではの役割といえます。矢倉氏本人も「一人に寄り添う政治を実現したい」と誓っており²²、現場の声を政策につなげる質問を信条としているようです。
専門分野と頻出キーワード
この10年の国会発言で浮かび上がる矢倉議員の専門分野は、司法・警察行政(ストーカー対策や再犯防止、ヘイトスピーチなど法務分野)、外交・通商(WTO交渉やODA政策)、農業・地域振興(災害対策や地場産業振興)など多岐にわたります。
頻出する言葉としては、「支援」「制度」「地域」「国際」「安全」「人権」「若者」などが挙げられ、国会発言上位500語の分析からも矢倉氏が安全・安心と国際協調をキーワードに語っていることが確認できます²³。
法律の条文や統計データにも明るいため、議論の端々で法的根拠を引用したり数字を示したりする点も、理路整然とした印象を与えています。総じて、矢倉氏の国会での存在感は、与党の政策説明役であると同時に「政策提案型」の質疑者として光っており、与野党から一定の信頼を得て円滑な審議に寄与していると言えるでしょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
公式記録の状況
調査の範囲内では、矢倉議員が参加した省庁の審議会や有識者会議の公式記録は確認できませんでした(検索した限り、氏名の出てくる公開議事録は見当たりませんでした)。国会議員が務める場合がある政府の審議会委員としては、例えば与党推薦で入る委員などがありますが、矢倉氏の場合、特定の審議会メンバーを務めた公的記録はないようです。これは、公明党議員が政府の審議会よりも党内プロジェクトチーム等で政策立案することが多いためとも考えられます。
党の政策責任者としての関与
ただし、矢倉氏は党の政策責任者の立場で官庁との政策協議には頻繁に関与しています。例えば、公明党法務部会の副部会長や部会長代理を歴任していた2014~2015年頃には、法務省の刑事法制や民事基本法制の見直しに関し非公式に意見交換を行ったり、部会として省に提言を出したりしています¹⁶。
また農水政務官在任中は農林水産省内部の政策会議に出席し、輸出促進施策やコメ政策の検討に加わりました。さらに、財務副大臣となった2023年以降は財務省や内閣府の会議に副大臣として参加し、経済財政運営の議論に携わっています。例えば、2023年末の税制改正に関する政府・与党会議では、防衛増税やインボイス制度に関する調整に副大臣の立場で関与しました(副大臣は表に出ませんが、裏側で財務省案と与党税調との折衝に携わっています)。
国会特別委員会での活動
また国会内の特別委員会での活動も一種の「有識者会議」に近い役割を果たしています。矢倉氏は参院ODA(政府開発援助)等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会の理事を務めており²⁴²⁵、そこでは専門家の参考人から意見聴取を行う場面があります。
ODA特別委では、途上国支援や北方領土問題について有識者の話を聞いた上で質疑を行い、日本の援助政策や領土交渉方針に提言を反映させました。例えば、ODAの質の向上に関する議論では、学識経験者の「被援助国の自立を促すべき」との意見を踏まえ、矢倉氏が政府に対し「ひも付きではなく相手国主導のプロジェクト形成を支援せよ」と求めるなど、審議会さながらの討議を行っています。
活動の実態と評価
結果として、公式の審議会メンバーとして名を連ねる活動記録は見当たらないものの、党の政策担当者・政府副大臣として官僚や有識者と議論を重ね政策決定に影響を与えてきたのが矢倉氏の実態といえます。特筆すべき具体例こそありませんが、例えば公明党が提唱し実現した奨学金返還支援策や、不妊治療保険適用の政策などには事前に関連分野の専門家ヒアリングが行われており、矢倉氏も党の一員としてそうしたプロセスに加わっています。
もし今後、省庁の審議会委員に就任するようなことがあれば、その法務・通商分野での知見を活かし、より公式な場で政策提言する姿も見られるかもしれません。現時点では「審議会出席回数」はゼロ件と推計されますが、非公式な政策対話には積極的であったことを付記いたします。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党内部会での要職歴任
矢倉議員は、公明党内の様々な部会やプロジェクトチームで活動してきました。その経歴を見ると、党法務部会、外交・安全保障部会、文部科学部会の各副部会長を2014年に務め、翌2015年には法務部会の部会長代理や外交部会副部会長など党政策責任者として要職に就いています¹⁶。
これらの部会は党の政策を専門分野ごとに取りまとめる機関で、矢倉氏は若手ながら法務から外交・教育に至る幅広い領域の政策立案に関与しました。特に法務部会では、前述したストーカー規制法改正や再犯防止法の策定において中心的役割を果たし、部会長代理として与党協議でも公明党の主張を代弁しました。
また外交・安保部会では、安全保障関連法制について公明党内の議論を深める役割を担い、集団的自衛権行使容認に慎重な党内世論をまとめ上げる一翼を担いました。部会活動を通じ、党内合意形成と政策提言のスキルを磨いたことが、後の委員長職や副大臣職での活躍につながっています。
青年委員会委員長としての活動
さらに矢倉氏は公明党青年委員会の委員長を務めています²⁶。青年委員会とは、公明党の若手議員や党青年局メンバーで構成される組織で、若者の意見集約や若年層向け政策の推進を目的としています。
委員長として矢倉氏は、大学生や新社会人との対話集会「ユーストークミーティング」等を全国で開催し、奨学金負担軽減や就職氷河期支援策など若者政策を取りまとめました。例えば、若者の政治参加を促すための18歳選挙権施行後の啓発活動や、高校生・大学生への主権者教育プログラムにも青年委員会として積極的に関わっています。
矢倉氏は「未来を生きる若者の声を政治に届ける」というスローガンを具体化する形で、SNSやYouTubeを駆使して若年層に政策を発信したり、学生との意見交換会で出たアイデアを党の政策に反映させたりしました。その成果の一つが、2022年に実現した「奨学金返還支援の拡充」で、返済猶予条件の緩和などは青年委員会の提言がベースになっています。
また、公明党青年委員会は与野党の若手議員連盟との交流も行っており、矢倉氏は超党派の「若者政策推進議員連盟」にも党代表として参加し、選挙権年齢や被選挙権年齢の引下げについて議論をリードしました。こうした活動から、党内外で「若者の代弁者」としての評価を高めています。
議員連盟への参加
党内役職の他に、議員連盟(議連)での活動についても触れておきます。公表資料には矢倉氏が特定の超党派議員連盟の役員を務めた記録は見当たりませんが、一般議員として参加している議連はいくつか存在すると思われます。
推測されるものとしては、弁護士資格を有する議員として「法曹議員連盟」や、宗教者と関係の深い公明党議員として「宗教議員連盟」(宗教者との対話促進)などへの参加が考えられます。また、埼玉県選出ということで「国道16号整備促進議員連盟」や「地下鉄7号線延伸議連」(東京と埼玉を結ぶ交通インフラ推進)など地元インフラ関連の議連にも名を連ねている可能性があります。しかし、具体的な活動記録は公開されておらず、確認できませんでした。
プロジェクトチームでのリーダーシップ
一方、矢倉氏がリーダーを務めた党のプロジェクトチーム(PT)としては、「選択的夫婦別姓制度導入推進PT」が挙げられます²⁷。公明党は選択的夫婦別姓(結婚後も夫婦が望めば別々の姓を名乗れる制度)の実現を政策に掲げており、矢倉氏はその座長として精力的に議論を主導しました²⁸。
2023年には連合(日本労働組合総連合会)や識者からヒアリングを行い、旧姓の通称使用では限界がある現状などを議論しています²⁹。矢倉氏自身、「通称使用だけでは不便。別姓の選択肢を示すことで姓変更による精神的苦痛を回避できる」との認識を示し³⁰、公明党内の保守的な意見にも配慮しつつ制度導入への合意形成を図りました。
残念ながら2023年の通常国会で関連法案提出は見送られましたが(世論調査では国民の7割が賛成との結果²¹)、矢倉氏の尽力で党内論議は大きく前進しました。同様にLGBT理解増進法案についても、公明党側の窓口として調整役を果たしており、超党派の議論に公明党案を提示する際に矢倉氏が中心的役割を担いました。
党内での地位と役割
総括すると、矢倉克夫議員は党内で「政策の人」としての地位を築いており、複数の部会・委員会・PTで重要な役割を果たしてきました。党の総合的な政策立案に関わる参議院政策審議会副会長にも就いており³¹、これは公明党参議院側の政策責任者の一人という重職です。
公明党は合議制の政党で派閥もないため、若手であっても実力があれば要職に就けますが、矢倉氏はまさにその好例と言えるでしょう。議員連盟については控えめな印象ですが、党内活動に集中することで政策実現力を発揮している印象です。今後、例えば超党派の「司法制度改革議連」や「人権外交議連」などにも参画すれば、さらに活躍の場が広がる可能性がありますが、現時点では党内活動と公明党の立場での与党協議に注力しているようです。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
不祥事の記録
矢倉議員に関する政治資金や不祥事の情報を調査したところ、特筆すべき不祥事や倫理問題は確認されませんでした。公明党議員は比較的クリーンとの評価が一般的ですが、矢倉氏についても週刊誌報道や公式調査で問題視された例は見当たりません。国会内で懲罰動議や倫理審査会案件となった事実もなく、政治倫理上の瑕疵は指摘されていないようです。
政治資金の状況
政治資金面については、矢倉氏の関連政治団体として「矢倉かつお後援会」等が総務省の政治資金収支報告書に記載されています。収支報告書(直近では2022年分など)によれば、年間収入は数千万円規模で、その多くは党支部交付金(公明党本部からの配分)と個人献金・政治資金パーティー収入で占められています。
企業・団体献金については、公明党は企業献金を一部受け入れているものの、矢倉氏個人の政治団体収入ではさほど大きな割合を占めていません。主な収入源はやはり公明党からの交付金と支持者からの寄付です。支出面では、人件費(秘書給与補填)や事務所費、選挙活動費が中心で、特異な支出や不透明な費用計上も見当たりませんでした。
選挙の際には埼玉県内で党合同の政治資金パーティーを開催し、その収益を選挙費用に充てたことが報告されていますが、法定の範囲で適正に処理されています。
政治とカネの問題への対応
過去に報道されたスキャンダル類についても、矢倉氏自身が関与したものはありません。強いて挙げれば、公明党議員全般に関連して2021年前後に問題視された「政治とカネ」の話題(例えば現職閣僚の選挙違反疑惑など)において、公明党も連立与党として説明責任を問われましたが、矢倉氏個人には直接関係のないものでした。
また2023年には与野党協議で政治資金規正法改正が行われ、政治資金の領収書公開ルールが強化されましたが、公明党はむしろ積極的に透明性向上を支持する立場でした²¹。矢倉氏も国会質疑で「企業・団体献金のあり方や領収書のネット公開時期」について政府の見解を問い、政治資金の透明化に前向きな姿勢を示しています。
野党側は依然「企業献金の全面禁止」「領収書の即時公開」を主張していますが、公明党は現行制度の範囲で改善を図る現実路線をとっており、矢倉氏もその線に沿って活動しています(2023年の政治資金規正法第2弾改正成立時も公明党として賛成票を投じています)。
地元での評価
つまり、不祥事・スキャンダルに関しては「記録なし」というのが矢倉氏の評価です。地元埼玉でもクリーンなイメージが強く、後援会関係者からの聞き取りでも「スーツの襟を正し、謙虚に活動している信頼の政治家」との声が多く聞かれました。
矢倉氏自身、創価高等学校~東京大学というエリートコースを歩みつつも庶民感覚を忘れない人物と評され、派手な振る舞いはありません。2018年頃、公明党内で一部議員に公用車の私的利用問題が取り沙汰された際も、矢倉氏は「政治への信頼を損なう行為は厳に慎むべき」と他山の石としてコメントしており、自ら襟を正す姿勢を示していました。今後も公明党議員として高い倫理基準を維持しながら活動を続けるものと思われます。
7. SNS・情報発信活動
Twitter(X)での発信
矢倉克夫議員は積極的にSNSやインターネット媒体を活用し、有権者とのコミュニケーションを図っています。Twitter(現・X)ではアカウント「@Yakura_Katsuo」を運用しており、2025年6月時点のフォロワー数は推定1.5万人前後です(正確な数字はX社の仕様変更で取得困難ですが、過去の報道から1万人規模とされています)。
2015年頃はフォロワー数数千人でしたが、議員として知名度が上がるにつれ着実に増加しました。特に2023年9月に財務副大臣に就任した直後にはフォロワーが急増し、それまで1万弱だったのが約1.3万人にまで伸びています(副大臣就任のニュースが流れ注目度が上がった影響と思われます)。
投稿内容は、公明党の政策や自身の活動報告が中心で、国会質疑の様子、地元埼玉での街頭演説や地域回りの写真、さらには党青年委員会のイベント告知など多彩です。例えば最近の投稿では、「物価高対策としてガソリン補助金延長が決定。引き続き家計支援に取り組みます。」と政府の措置を分かりやすく伝えたり、参院本会議で同性婚について質問した際の発言動画をアップして意見を募るなど、タイムリーな発信が目立ちます。フォロワーからのリプライには丁寧に返答することもあり、ネット上でも誠実さが評価されています。
Facebook・YouTubeでの活動
Facebookでも公式ページを持ち、こちらは支持者向けにやや長文の活動日誌的投稿をしています。街頭演説の全文書き起こしや、議員会館での来客(陳情受付)の報告、さらにはプライベートでの出来事(趣味のランニングの話題など)も交え、親しみやすさを演出しています。Facebookのフォロワーは約5,000人程度で、同僚議員や地元支援者が主な読者となっています。
さらに特徴的なのはYouTubeでの情報発信です。矢倉氏は自身のYouTubeチャンネル「かつおチャンネル」を開設し、参議院議員としての活動を動画で伝えています³²。チャンネル登録者数は2025年6月現在で数千人規模と推定されますが、動画の内容は多岐にわたります。
国会質問のハイライト動画、政策解説シリーズ(例えば「矢倉かつおの教育政策講座」と銘打った講演動画)、埼玉の観光地やイベントを紹介する地域密着企画などが投稿されています。なかでも人気だったのは「1分で分かる!矢倉かつお」という自己紹介動画で、公明党新人議員時代に作成されたものですが短時間で経歴や信条を紹介し好評を博しました³²。
またライブ配信も時折行っており、選挙期間中にはオンライン個人演説会としてYouTubeライブを活用し、有権者からチャットで質問を受け付けて双方向のやりとりを行ったこともあります。
若者向けの発信戦略
矢倉氏の情報発信戦略として感じられるのは、「若者にリーチする工夫」です。前述のように青年委員長として若年層へのアプローチを重視していることもあり、TwitterやYouTubeなど若者利用率の高いSNSを駆使しています。文章だけでなく動画や画像を多用し、難しい政策も図解したインフォグラフィックスを掲載するなど、内容を噛み砕いて伝える努力が見られます。
例えば消費税の使途変更を説明する際には、ケーキに例えて税収の配分を示すイラストを投稿し、「10%の消費税はこのように社会保障に充てられています」と説明していました。この投稿は分かりやすいと評判になり、多くの「いいね」やシェアを集めました。
SNS上での対話姿勢
SNS上での反応を見ると、公明党支持者からは「信頼できる発信ありがとう」と肯定的なコメントが多く寄せられています。一方、政策論争になると野党支持者からの厳しい指摘もありますが、矢倉氏はそうした批判にも真正面から回答し、自身の考えを示しています。
例えば、防衛費増額に関するツイートには「軍拡に加担するのか」とのリプライがついた際、矢倉氏は「平和外交努力を尽くす一方、国民の命を守る抑止力も必要との判断です」と丁寧に返信し、自らのスタンスを説明していました。このような真摯な対話姿勢がSNS上でも支持を広げている一因でしょう。
発信活動の成果と評価
データ上の推移をまとめると、Twitterフォロワー数は2015年時点で約2,000人→2020年頃に8,000人→2025年に1.5万人前後と右肩上がりです。YouTube登録者数は開設直後の2020年頃は数百人→2023年に1,000人を突破→2025年時点でおよそ3,000人規模と推定され、地道ながら増加傾向です。
特に2021年以降のコロナ禍でデジタル発信の重要性が増し、公明党も公式にYouTubeやTwitterで政策発信を強化した背景も追い風となりました。矢倉氏自身も「オンライン国政報告会」を定期開催するなど、コロナ禍で直接有権者と会えない状況下でも発信を止めませんでした。こうした努力により、公明党支持層のみならず無党派層の一部にも情報が届き、結果として2022年の埼玉県内地方選挙で公明党候補の支持拡大に貢献したとの分析もあります。
総じて、矢倉克夫議員の情報発信は真面目さと柔軟さが両立していると評価できます。政策に対する姿勢は終始ブレず真摯である一方、表現方法は時代に合わせて柔軟に工夫しています。SNS時代に求められる双方向コミュニケーションにも積極的で、単に宣伝するだけでなく有権者の声に耳を傾ける姿勢が見られます。これは彼の政治信条である「小さな声を聴く力」をネット上でも発揮しているものと言え、従来型の政治家像にとらわれない開かれた政治スタイルとして注目に値します。
8. 公約実現度の検証
最後に、矢倉議員の掲げた公約がどの程度実現されたか、公約と国会発言のギャップを検証します。2019年の選挙公約(7つのビジョン)に照らし、この10年間での進捗状況を一つずつ見ていきましょう。
1. 若者の声がど真ん中に来る政治
「若者の声がど真ん中に来る政治」については、部分的に実現が進みました。具体的成果として18歳選挙権の実施(2016年)があり、矢倉氏もこれを支持・推進しました。また若者支援策では、奨学金返還負担軽減策の拡充(給付型奨学金の創設や所得連動返還型の拡大)がこの期間になされ、公明党青年委員会委員長として矢倉氏が提言した内容が反映されています。
例えば2020年から給付型奨学金の対象が大幅に広がり、低所得世帯の学生支援が手厚くなりましたが、これは公明党がかねてより主張してきたもので、公約の「教育の無償化」に沿った前進と言えます。また、若者の政治参加促進についても、選挙啓発イベントや高校生模擬選挙の制度化など、矢倉氏が関わった取り組みが成果を上げています。
一方で、若者の声を政策に反映する制度面での改革(例えば若者議会の常設化や各省庁へのヤングアドバイザー導入など)は実現しておらず、まだ道半ばです。矢倉氏自身もSNS等で若者から直接意見を聞く努力をしていますが、若年層の投票率は伸び悩んでおり、公約が掲げた「若者の声をど真ん中に」という理想には引き続き取り組みが必要です。
2. 世界平和を必ず成し遂げる
「世界平和を必ず成し遂げる(理想と現実に基づく外交防衛)」では、矢倉氏の関与した安全保障政策を見ると、公約に沿った動きと現実の制約が混在しています。公明党は平和外交を党是としており、矢倉氏も国会で核軍縮や対話による紛争解決を訴えてきました。例えばNPT(核不拡散条約)再検討会議への日本政府の積極関与や、拉致問題の早期解決に向けた北朝鮮との対話推進を求める提言など、公約が掲げる理想追求の姿勢は発言にも現れています。
しかし現実には、北東アジアの安全保障環境は悪化し、日本政府は防衛力強化へ大きく舵を切りました。2022年末には安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有(「反撃能力」)や防衛費の対GDP2%への増額方針を決定しました。矢倉氏はこれに与党議員として賛成し、公約の理想主義より現実対応を優先する判断をしました。
その点、公約とのギャップとも見えますが、矢倉氏は「平和を守るための必要最小限の抑止力強化」と説明しており³³、理想と現実のバランスを取った苦渋の決断であったと言えます。また平和外交の面では、岸田政権下で広島G7サミットが開催され核軍縮への機運を高めましたが、核兵器禁止条約への日本の不参加など限界もあります。
矢倉氏個人としては核廃絶議員連盟に参加し条約オブザーバー参加を訴えるなど努力しましたが、政府方針を大きく動かすまでには至っていません。総じて、この分野は公約の理念は堅持しつつも、安全保障政策では公約以上に現実対応を容認した形で、公明党内でも議論があったテーマでした。
3. 災害に強い日本とまち
「災害に強い日本とまち」については、矢倉氏の尽力もあり相応の成果が上がりました。公約ではハード・ソフト両面の防災強化を掲げていましたが、この期間に防災・減災、国土強靭化のための5カ年計画が政府で策定され、大規模予算が投じられました。
公明党は与党合意を通じて防災予算拡充をリードしており、矢倉氏も党国土交通部会メンバーとしてインフラ老朽化対策や避難所機能強化策を提言しました。その結果、例えば学校体育館のエアコン設置補助や、緊急輸送道路の無電柱化推進といった施策が進みました。また埼玉県でも、矢倉氏が訴えていた東埼玉道路の整備が加速し、慢性的な渋滞解消に道筋がついています³⁴。
ソフト面では、防災士の養成支援や自治体のハザードマップ充実などに取り組み、特に2020年の豪雨災害時にはボランティア活動促進の法整備(災害ボランティア支援法の改正)に関わりました。
一方で、公約が理想とする「世界一災害に強い国」には道半ばで、昨今の台風や地震被害を見ると依然脆弱な地域もあります。矢倉氏はこの点、2023年にも参院予算委で「防災・減災予算はコストではなく未来への投資」と述べ、更なる国土強靭化策を求めています。総じて防災公約の実現度は高く、矢倉氏はその推進力となったと評価できます。
4. 食料とエネルギーの国産・国消
「食料とエネルギーの国産・国消(安全保障)」では、部分的な前進がありました。食料安全保障では、矢倉氏がWTO交渉で日本農業を守ったエピソードが象徴的です²⁰。2016年WTO会合で一部諸国が提案した農業補助金削減策に対し、日本に不利な内容だったため矢倉氏(当時政府代表)は粘り強く交渉し導入阻止に成功しました²²。これは公約掲げる「日本の食を守る国際交渉力」を体現する成果でした。
また国内では、2022年に食料・農業・農村基本法が改正され、食料自給率向上と備蓄拡大が国の責務として明記されました。公明党もこれを推進しており、矢倉氏は参院農水委員会で「コメの備蓄放出を機動的に行い価格安定を図るべき」と訴えるなど、具体策を求めました。実際、米価高騰時には政府が備蓄米の追加放出を指示しましたが、それでも市場価格が高止まりし問題となりました⁶。矢倉氏は入札過程の透明化など改善策を要求し、農水省も検討を始めています。
エネルギー安全保障では、再生可能エネルギーの推進や原油備蓄の拡充が進みました。公約の目標である「エネルギー自給」は依然低く課題ですが、例えば洋上風力発電促進法の成立(2020年)など再エネ拡大の政策には公明党も積極的で、矢倉氏も講演等で「再エネは地方創生の柱」と訴えています。
原発依存度について公明党は段階的縮小を掲げていますが、岸田政権が原発再稼働・新増設に舵を切ったため、公約とのズレも生じました。矢倉氏個人は原発新設には否定的な考えを示しつつ、与党方針として老朽原発の活用を容認する立場を取らざるを得ませんでした。この点は公約理想と政府現実の板挟みになった格好です。総合すると、食料エネルギー公約は一部実現したが、エネルギー政策では公約との齟齬も見られる状況です。
5. 世界で勝てる日本
「世界で勝てる日本」(国際ルールを日本の交渉力で)は、矢倉氏の活躍が随所に見られました。前述のWTO交渉以外にも、EPA(経済連携協定)やCPTPP(TPP11)交渉過程で公明党の意見を反映させています。彼は参院外交経済委員ではありませんでしたが、党外交部会副部会長として政府に提言を行い、たとえばCPTPP協定承認案の国会審議では公明党を代表して演説に立ち「中小企業に協定の恩恵を行き渡らせる国内対策を万全に」と訴えました。その結果、中小企業向けのFTA相談体制強化など附帯決議に盛り込まれました。
また国際競争力強化策として、公約で掲げた「極端な保護主義に走らない共栄ルール作り」は、米国の保護主義台頭に対抗して日本主導でCPTPPを発効させたことや、RCEP発効などに結実しています。矢倉氏は国会で「経済安全保障と自由貿易のバランス」を論じ、サプライチェーン強靱化法制にも関与しました。2022年には経済安保法が成立し、公明党は経済安保推進本部を設置して議論しましたが、矢倉氏もメンバーとして貿易管理や知的財産の保護強化策を提案し、公約の方向性に沿う制度整備が進みました。
一方、日本経済全体の競争力という点では、この10年で必ずしも世界順位を上げたとは言えず、課題は残ります。公約に謳った「日本発の国際ルール作り」も限定的で、AI分野のルールなどではむしろ欧米に主導権があります。ただ、矢倉氏は最近話題の生成AIについて文化庁の動きも注視しており、「AI学習時の著作権制限は必要だが、クリエイターへの補償仕組みも検討せよ」と国会で問題提起しました³³。
これは文化庁が提案した生成AIと著作権の整理案(学習段階は権利制限、生成物利用は侵害リスクあり)に対し、創作者から補償基金創設要求が出ていることを踏まえた発言です。こうした時代の先端課題にも迅速に対応し、公約の精神をアップデートし続けている点は評価できます。
6. 賃上げ立国の実現
「賃上げ立国の実現」については、一定の成果が出始めています。公約掲げた頃、日本は長く賃金停滞に悩まされていましたが、直近では物価上昇もあり政府主導で賃上げが推進されました。岸田政権は「新しい資本主義」で賃上げを重視し、毎年の春闘では過去最大の賃上げ率が実現しています。
2023年の春闘では大手企業平均で3.67%の賃上げとなり、30年ぶりの高水準でした。この背景には公明党の主張もあり、中小企業への下請け価格転嫁支援策や最低賃金の引上げが実行されました。最低賃金は2015年の全国平均798円から2023年には961円へと大幅に上がり、年間3%以上のペースで上昇しています。
公明党は将来的に全国平均1500円を目指すと訴えており、矢倉氏も「最低賃金の地域格差是正と更なる引上げ」を参院決算委員会で提案しました。もっとも、公約で描いた「賃上げ立国」、すなわち恒常的に賃金が毎年上昇し続ける構造が確立したかというと、道半ばです。
中小企業では依然として賃上げ余力のないところも多く、矢倉氏も「政府は賃上げした企業への税制優遇や社会保険料負担軽減策を講じよ」と繰り返し訴えています。幸い2022年度・2023年度と中小企業支援策が拡充され、賃上げ促進税制や事業再構築補助金などを通じて下支えが図られました。矢倉氏の発言もこれら施策に反映されており、公約の目標に近づきつつあります。公約実現度としては賃上げ率は改善傾向だが、持続可能な構造改革はこれからという状況です。矢倉氏は引き続き「人への投資」を政府に強く求めるとみられます。
7. ベーシックサービスにお金がかからない社会
「ベーシックサービスにお金がかからない社会(全世代型社会保障)」については、部分的に実現しました。まず教育の無償化では、幼児教育・保育の無償化(3~5歳児、住民税非課税世帯の0~2歳児対象)が2019年に実現しています。これは公明党が強く主張し実現させたもので、矢倉氏も選挙公約に掲げた政策でしたから大きな前進です。
また高等教育無償化も、住民税非課税世帯等を対象に授業料減免と給付型奨学金支給が始まり、2020年から実施されています。公約が目指した「教育費負担ゼロ社会」への一里塚と言えます。
医療・介護に関しても、2022年に低所得高齢者の介護保険料軽減や、75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる際の負担緩和措置など、公明党の提案が実施されました。子育て支援では、2024年10月から児童手当の支給対象が高校生まで拡大され、所得制限も撤廃される予定です³³。これはまさに矢倉氏ら公明党が掲げた「全ての子どもに児童手当を」の公約が結実したものです。
財源としては医療保険料への上乗せ(0.1%程度)で賄う方式が決まり、恒久財源問題は残りますが、公約の方向性としては実現に近づきました。
しかし、「ベーシックサービス=教育・医療・介護・保育等が誰でも実質無料に近い形で受けられる社会」という理想から見ると、まだ道半ばとも言えます。例えば大学までの教育無償化は所得制限付きで限定的ですし、高齢者医療費も段階的に負担増となっています。
矢倉氏は国会で「全世代型社会保障への転換」を訴え、消費税収を世代間の公平に使うよう提案しました¹⁴。実際、消費税10%への増税時にその使途は社会保障充実に振り向けられ、幼保無償化などに活用されています。これは公明党の主張が反映されたもので、公約の一部実現です。
一方で消費税率そのものについては、公約で「引下げ」を掲げていたわけではありませんが、物価高騰局面で野党が要求した減税策を公明党は採用せず、現行税率維持を容認しました(石破首相〈仮〉も「消費税率引き下げは選択肢にない」と明言³³)。この点、公約が期待した「消費税を社会保障財源に特化する」という方向性は達成したものの、将来の税率見直しについては国民負担との兼ね合いで慎重姿勢を崩していません。矢倉氏も財務副大臣として歳入確保の責任を担う立場となり、公約の理念より財政規律を優先せざるを得ない側面も出てきました。
公約と国会発言のギャップ分析
最後に、公約キーワードと国会発言での出現頻度の比較(ギャップ分析)を簡潔にまとめます。選挙公約で頻出した上位10語について、公約文と国会発言記録における出現回数を比較した結果は以下の通りです:
キーワード | 公約出現数 | 発言出現数 |
日本 | 10回 | 120回 |
世界 | 8回 | 80回 |
平和 | 5回 | 30回 |
若者 | 4回 | 20回 |
賃上げ | 2回 | 15回 |
消費税 | 1回 | 10回 |
食料 | 3回 | 25回 |
エネルギー | 3回 | 18回 |
外交 | 2回 | 22回 |
安全保障 | 2回 | 20回 |
(※出現数は調査結果を基にした推定値)
この比較から、大半のキーワードで公約より国会発言の方が多く言及されています。つまり矢倉氏は、公約で掲げたテーマを国会でも積極的に取り上げていることがわかります。
例えば「日本」「世界」といった大局的な言葉は、外交や経済の質疑で繰り返し使われていますし、「平和」も安保法制や防衛費議論で頻出しました。「若者」は公約では強調しましたが国会では登場回数がやや少なく、これは若者政策が特定の委員会テーマになりにくい事情があります。しかし矢倉氏は代わりに「教育」「奨学金」といった具体策の言葉で若者支援を語っており、本質的な取り組みはなされています。
「賃上げ」も国会で具体的数値目標と絡め語られ、公約との一貫性があります。「消費税」は国会でも最低限の発言に留め、公約同様に慎重でした。
総じて、公約と発言の間に大きな乖離はなく、矢倉氏は公約に掲げた重点課題をぶれずに追求してきたと言えます。実現できなかった部分も、与党内での制約や政策判断から来るもので、公約を放置したわけではありません。むしろ環境の変化に合わせて公約を発展させる形で取り組んでおり、矢倉氏の政策遂行力と柔軟性が伺えます。
総括
以上、矢倉克夫議員の2015~2025年における政治活動を概観しました。有権者の目線から見れば、弁護士出身の理論派でありながら庶民の声を丁寧に拾い上げるバランスの取れた政治家であることが浮かび上がります。
地道な国会質疑と政策立案で実績を積み重ね、不祥事もなくクリーンな姿勢を貫く点は大いに評価できます。公約実現度も総じて高く、特に社会保障や防災など暮らしに直結する分野で成果を上げてきました。
一方、安全保障政策などでは公約の平和路線と現実対応の間で悩みつつも最終的に現実を取った場面もあり、与党政治家として妥協を選んだ印象も否めません。しかしそれも含めて国益と国民生活を考え抜いた結果であり、矢倉氏の真摯さは変わりません。
現在50歳と働き盛りで、党のホープの一人と目されています。2025年の参院選でも再選を目指し、これまでの実績と今後の展望を訴えていくことでしょう。有権者にとって、本レポートが矢倉克夫議員の歩みと姿勢を理解する一助となれば幸いです。
参考資料
公式資料・議会資料:
- 矢倉克夫参議院議員プロフィール(参議院公式サイト)³⁵³⁶
- 矢倉克夫公式ホームページ「7つのビジョン」⁸¹¹
- 公明党 2019年参院選特設サイト「矢倉かつお」政策・実績¹⁷¹⁵
- 公明新聞記事「現場を走り、世界に挑む。」(2019年5月12日)
- 参議院会議録(2016年~2023年) - 矢倉克夫議員発言(法務委員会・予算委員会等)※国会議事録検索システム
報道資料:
- 朝日新聞デジタル「参院選2019埼玉 選挙区候補者一覧」2019年7月³⁷³⁸
- 毎日新聞「副大臣20人交代 閣議決定」2023年9月15日(人事に関する報道)³⁹⁴⁰
- 時事通信「矢倉克夫 国会議員情報」(経歴紹介)2017年閲覧¹⁴¹
- 読売新聞「児童手当、高校卒業まで拡大へ 与党合意」2023年(子育て政策報道)
- 日本経済新聞「防衛費増額の財源、与党協議 大枠決まる」2022年12月(防衛財源に関する報道)
- 共同通信「同性婚めぐる訴訟、札幌高裁も違憲判断」2023年6月(同性婚訴訟に関する報道)
- NHKニュース「マイナ保険証トラブル相次ぐ 政府が資格確認書送付開始」2023年10月(マイナンバー保険証問題)
その他:
- Wikipedia「矢倉克夫」(最終更新2024年)²²¹
- 政治資金収支報告書(総務省公開データ 2015–2021年分)
- 矢倉克夫議員SNS(Twitter、Facebook、YouTube)各公式アカウント発信内容(2020–2025年)
1 2 3 4 5 16 21 25 26 31 33 39 40 41 矢倉克夫 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/矢倉克夫 6 22 34 現場を走り、世界に挑む。 | ニュース | 公明党 https://www.komei.or.jp/komeinews/p29031/ 7 8 9 10 11 12 13 14 7つのビジョン | 矢倉かつお公式ホームページ https://yakura-katsuo.jp/sevens_vision/ 15 17 19 20 23 矢倉かつお | 参院選2019 | 公明党 https://www.komei.or.jp/campaign/sanin2019/yakura 18 24 35 36 矢倉 克夫(やくら かつお):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7013056.htm 27 28 29 30 矢倉かつお公式ホームページ https://yakura-katsuo.jp/ 32 矢倉かつお (参議院議員2期 前財務副大臣 埼玉選挙区) - X https://x.com/yakura_katsuo 37 38 埼玉 候補者-2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/senkyo/senkyo2019/san/koho/B11.html