いのぐち くにこ
猪口邦子議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
猪口邦子(いのぐち くにこ)は自由民主党に所属する参議院議員で、千葉県選挙区選出の3期目議員です¹。上智大学名誉教授で国際政治学の博士号(イェール大学)を持つ国際政治学者として政界に入り、2005年には小泉純一郎内閣で初代少子化・男女共同参画担当大臣を務めました²。
ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部大使や国連軍縮会議議長など外交畑の経歴も持ち、「パックス・コンソルティス」と呼ぶ独自の平和安全保障論を唱えたことでも知られています。しかし、2015年の安保関連法案には他の自民党議員と同様賛成票を投じるなど、学者時代から主張の変化も指摘されています³。
政界には2005年の衆院選で初当選(比例東京ブロック)し、その後2009年に一度政界を離れましたが、2010年に参議院千葉県選挙区で議席を獲得して国政復帰しました⁴。以後2016年(平成28年)に千葉県選挙区でトップ当選、2022年(令和4年)にも3選を果たしています⁵⁶。
派閥は無派閥を経て2016年の再選後に麻生派に入会し⁷、党内では2014年に人事局長、2018年に内閣第一部会長、2020年に一億総活躍推進本部長など要職を歴任しました⁸。現在は参議院外交・安全保障に関する調査会の会長も務め、国防から社会保障まで幅広い政策分野に取り組んでいます⁹。
本稿では2015年から2025年までの猪口議員の活動を振り返り、選挙公約の分析や立法活動、国会発言、党内外での役割、政治資金や情報発信まで、有権者が評価できる包括的な視点で検証します。
なお、猪口議員は2024年9月の自民党総裁選では麻生派所属ながら上川陽子候補の推薦人に加わり、決選投票では石破茂候補に投票するなど派閥の方針にとらわれない行動も見せました¹⁰。また同年11月には東京都内の自宅マンション火災で夫の猪口孝氏(国際政治学者)と長女を亡くす悲劇に見舞われました¹¹。
そうした困難を抱えつつも、猪口議員は一貫して「千葉と世界をつなぐ政治家」として国政に携わっており、以下ではその政策課題への取り組みを詳細に記述します。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
2022年参院選での政策提示
2022年7月の第26回参議院議員通常選挙¹²(分析期間内で最新の選挙)において、猪口邦子議員は「決断と実行。暮らしを守る。」とのスローガンを掲げ、千葉県を舞台にした地域密着型かつ国家ビジョンを示す公約を提示しました。
選挙公報や配布資料からは、いくつかの柱となる政策が浮かび上がります。その一つが少子化対策と子育て支援で、キャッチフレーズの一つに「子育てするなら千葉県で」という言葉を据えています¹³。猪口議員は自身も初代少子化担当大臣を務めた経験から少子化危機への強い問題意識を持ち、具体策として「出産育児一時金の増額による出産費用の無償化」を掲げました¹⁴。
実際、岸田政権下で2023年に出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられましたが、猪口議員の公約はそれをさらに進めて出産費を家庭の負担ゼロにするという大胆な目標です。また、「小学校の通学安全対策として希望校へのスクールバス導入」「希望する場合の選択的週休3日制の拡充(子育て・介護・地域活動と仕事の両立支援)」など、働き方改革を含めた家庭支援策も打ち出しました¹⁴¹⁵。これらは子育て世代が安心して暮らせる地域社会を千葉に実現するという彼女のビジョンの核になっています。
経済政策の具体的提案
経済政策では、「経済成長と所得向上」を掲げ、国民の収入アップを最優先に据えました¹⁶。具体的には「日本企業が収益を上げやすい環境づくり」を提唱し、その手段として高関税の撤廃やサプライチェーン強化(国内生産ラインの確保)、エネルギーの安定供給、そして財政・金融政策の強化による通貨安定を挙げています¹⁷。
猪口議員は、輸出産業に不利な諸外国の関税措置の見直しや輸入先の多角化、デジタル対応の促進にも言及し、高収益企業の増加から賃金上昇につなげる「良循環」を目指すとしました¹⁷¹⁸。これらの公約には経済安全保障の視点も含まれており、例えば2022年当時問題となっていた円安や物価高への対応策として通貨の信認を保つ政策も盛り込まれていました。
猪口議員のキーワードには「推進」「強化」「支援」といった前向きな言葉が頻出しており、公約集全体からは現状打破への意志と具体策の提示が読み取れます。上位の頻出語を見ると、「千葉」「子育て」「経済」「安全保障」「国際」といった語が目立ち、地元千葉の発展と国家の安全・繁栄を両立させようとする姿勢が浮かび上がります。
外交・安全保障政策
外交・安全保障政策も猪口議員の公約の大きな柱です。元外交官で軍縮大使の経験を持つだけに、公約にも「平和のための外交」というセクションを設け、「自衛隊の不断の努力と日米同盟の実効性確保」「国連安全保障理事会常任理事国入りの追求」「国連改革の推進」「核軍縮・不拡散外交の推進」などを明記しました¹⁹。
これは彼女の国際政治学者としての専門性が色濃く反映された部分です。ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核ミサイル問題など国際情勢が不安定化する中、国際協調と日本の役割拡大を両立させる意志が示されています。とりわけ国連常任理事国入りや国連改革は長期的課題ですが、「核なき世界」に向け日本が主導的役割を果たすとの決意を表明することで、外交面での存在感強化を訴えました。
このような安全保障公約の背景には、防衛問題懇談会委員などを歴任した猪口議員の信念があります。実際、彼女は1990年代半ばに政府の防衛懇談会委員として、防衛庁の省昇格には慎重姿勢を示しつつ「外務省の安全保障機能強化の方が大切」と述べていた記録もあり²⁰、一貫して外交力で平和と安全を追求する考えを持っていると言えます。
社会・文化政策と地域振興
社会・文化政策としては、猪口議員ならではの学術振興と文化交流の公約が目を引きます。大学教授出身の強みを生かし、「科学技術立国の再興と給付型奨学金の拡充」を掲げました²¹。具体的には、日本の研究力低下が指摘される中で研究開発投資や教育への支援を強め、人材育成によって競争力を高める方針です。
また「文化を高め、国際会議等の日本誘致を推進」「専門家と市民の国際交流や観光拡大で日本への共感を深める」といった公約も並びます²¹。これは彼女自身が外交官時代に培った人脈や知見を国内還元し、ソフトパワーを高めようとの狙いでしょう。
さらに医療・環境・食料分野では、「感染症対策の強化」「医薬品の国産化支援」「介護・看護と先端医療の両輪推進」「食料自給率と備蓄の強化」「地球温暖化対策で災害や病原体を防ぐ」と、多岐にわたる政策を提案しました²²。新型コロナを経験した時期でもあり、医療供給体制やワクチン・治療薬の国内生産、さらには気候変動によるリスク低減策まで網羅しています。
地元千葉に関する公約も詳細です。交通インフラ整備では「成田国際空港機能の安定的強化」と「千葉県内湾岸エリアの港湾・道路・鉄道整備」を挙げ、アジア有数の物流拠点である千葉のポテンシャルを伸ばそうとしています²³。
成田空港の更なる発着容量拡大や、第3滑走路計画推進、周辺地域への経済波及を視野に入れており、「空港づくりは地域づくり」という理念のもと空港と地域社会の共栄を目指しています²³。また、東京湾岸の物流インフラ強化(港湾機能の高度化や道路網の拡充、鉄道貨物輸送の強化など)にも言及し、千葉から日本全体の成長を下支えする構想です。
地方創生については先に触れた「子育てするなら千葉県で」のスローガンの下、首都圏で働きながら豊かな自然あふれる千葉に住み、仕事と家庭の両立を楽しめる社会を描いています²⁴。具体的支援策としてテレワーク適地としての千葉の魅力発信や、自然環境を生かした観光振興も公約に含まれています²⁴。
以上のように、猪口邦子議員の直近マニフェストは家計支援・経済再生・安全保障・地域振興のバランスが取れた内容でした。頻出トップ10語(推進、強化、千葉、支援、経済、子育て、安全保障、国際、改革、女性など)からも、家計や地域を支える「底上げ」と国家戦略的な「攻め」の両面を意識した政策姿勢がうかがえます。学者肌らしく理念と実行計画を盛り込んだ公約ですが、その実現状況については後述のセクションで検証します。
2. 法案提出履歴と立法活動
議員立法への取り組み状況
猪口邦子議員の立法活動を見ると、議員立法(国会議員が提案者となる法案)の提出数は決して多くありません。2015年以降、本人が筆頭提出者となった法案は数件程度にとどまっており、国会全体での提出法案数は与野党を含めた中で平均的またはやや少なめです(国会議員白書によれば参議院在職中の提出法案数はごくわずかです²⁵)。
これは与党議員であり閣僚経験者でもある猪口氏が、個人立法よりも政府提出法案への関与や党内議論を通じた政策実現を主戦場にしていることを示唆します。実際、猪口議員は党の政策立案部門や特別委員会での活動を通じて法制度づくりに貢献する場面が多く見られます(後述の党内活動参照)。
重要な立法イニシアチブ
とはいえ、猪口議員が関与した重要な立法イニシアチブも存在します。その一つがクラスター爆弾の禁止に関する法整備です。猪口氏はジュネーブ軍縮大使を務めた経験からクラスター弾問題に強い関心を持ち、超党派の「クラスター爆弾禁止推進議員連盟」の発起人にも名を連ねました²⁶。
日本がオスロ条約(クラスター弾禁止条約)に署名した後、国内担保法の制定が課題となりましたが、猪口氏は2009年前後にその批准承認や関連法案提出を積極的に後押ししています。彼女の公式サイトでも「『クラスター弾に関する条約の締結』が衆議院で承認され、国内担保となるクラスター爆弾禁止法案も提出されている。可決後に条約批准が国連に寄託される予定だ」と当時報告しており²⁷、軍縮外交の理念を立法として具現化する努力を続けてきたことが窺えます。
また、国内政策ではいじめ防止対策推進法(2013年成立)など教育・福祉分野の議員立法にも賛同者として関与しました。2013年当時、超党派で提出された同法案には猪口氏も与党議員として協力し、子どもを守る法制度整備に寄与しています。
さらに近年では、地方創生や交通政策に関連し公共交通ネットワーク再構築法案などの議連提言に関与するなど、法案そのものより政策提言型の活動が目立ちます²⁸²⁹。
例えば、自民党の「領土特別委員会」では委員長として気候変動による海面上昇で離島や領海基線が後退する問題について政府への提言と決議をまとめ、2023年6月に林芳正官房長官や上川陽子法相に提出しました²⁸。この提言は将来的な領海法改正も視野に入れたもので、日本の主権を守る立法措置に繋がる可能性があります。
猪口議員はこのように党内プロジェクトを通じ立法準備や政策提言を積み重ね、表立って名前が出る法案提出は少なくとも、政策の実質には深く関与していると言えます。
政府提出法案への対応
一方で、国会における政府提出法案への対応では基本的に党議に従い与党議員として賛成票を投じてきました。象徴的なのは2015年の安全保障関連法案への態度です。猪口氏はかつて平和主義的安全保障論を提唱していただけに、安保法案への賛成転換は「変節」と批判されました³が、党の一員として最終的に可決に寄与しました。
また2013年の特定秘密保護法、2022年以降の防衛費増額関連法など国家安全保障に関わる重要法案にも悉く賛成しており、本人も2022年の毎日新聞アンケートで「防衛力を5年以内に抜本的に強化する(GDP比2%目標)の政府方針」に対し「大幅に増やすべき」と明言しています³⁰。これは、安全保障政策においては自らの専門知を踏まえつつ現実的な国家防衛力強化を是認するスタンスに立っていることを示します。
総じて、猪口邦子議員の立法活動は「提言型・与党型」と言えます。本人発案の法案成立数こそ多くはないものの、議員連盟や党内部会で練った政策を政府立法や議員立法という形で実現させる役割を果たしています。提出法案数は直近10年間で数本程度と定量的には目立ちませんが、これは与党ベテラン議員に共通する傾向でもあります。むしろ猪口氏の場合、防衛や外交といった国家基本政策の枠組み作りに関与したり、党の審議を主導したりする「立法の裏方」としての貢献が大きいと言えるでしょう。
3. 国会発言の分析
発言状況の定量的分析
猪口邦子議員の国会における発言状況を定量的に見ると、2015年から2025年までの10年間の発言回数は62回、発言文字数は約270,695文字となっています²⁵。発言回数62回という数値は参議院議員の中では決して多い方ではなく、ランキングでは下位に位置します(発言回数ランキングで1154位、発言量で842位程度²⁵)。
与党の中堅議員は質問の機会が野党に比べ少ないことも影響しますが、猪口議員の場合は委員長職や理事職で質疑を見守る立場に回ることも多かったため、自身が長時間発言する場面は限られました。それでも要所要所で専門性を発揮した発言を残しています。
外交防衛委員会での専門性発揮
特に目立つのは猪口議員が所属した外交防衛委員会での発言です。2017年12月5日の参院外交防衛委員会では、猪口氏は委員会理事として質問に立ち、当日の協議案件であった「通常兵器の軍縮」「核兵器禁止条約」「北朝鮮情勢」などについて政府の見解を質しました³¹。
具体的には、従来から携わってきた軍備管理・軍縮のテーマについて河野太郎外相に質疑を行い、小型武器やクラスター弾など通常兵器の国際的禁止・規制の動向について議論をリードしました。また2017年当時議論が分かれていた国連の核兵器禁止条約に対する日本政府の姿勢についても問いただし、被爆国としてのジレンマや核軍縮と同盟関係のバランスに切り込む発言をしています。
この委員会では他にも「弾道ミサイルへの対処」「米国のアジア太平洋戦略」「サンフランシスコ市の慰安婦像問題」など多岐にわたる国際問題が議題に上がりましたが³²、猪口議員は自身の質問時間で主に安全保障と歴史認識に関わる問題を取り上げました。
たとえば慰安婦像に関しては、日本の名誉と国益を守る会に所属する議員として懸念を示しつつ政府対応を確認したと見られます。このように国際政治・安全保障が彼女の国会発言の柱であり、元外交官らしいグローバルな視点からの論点提示が特徴です。
内政に関する発言と特徴
一方、猪口議員は予算委員会などにも度々出席し、内政について発言することもありました。2012年2月の参院予算委員会では、震災復興や経済政策に関連する質疑に立ち、当時の野田政権に対し政策提言型の質問を投げかけています(この質疑の模様は猪口議員のYouTubeチャンネルにもアーカイブ動画が公開されています)。
また、直近では2024年の予算委員会分科会などで少子化対策について意見を述べるなど、専門外のテーマにも積極的に発言しています。ただ、猪口氏の場合は一問一答形式で細かく追及するというより、自らの知見を踏まえた大局的な問題提起を行うスタイルが多く見られました。
本人も「国会は議場と同時に知の交流の場」との信念があるようで、質疑に立つ際には国内外のデータや歴史的文脈を引用しつつ、政府に改善策や見解を問う場面が散見されます。
発言内容の特色と政治姿勢
頻出語の分析からも、猪口議員の関心領域が浮かび上がります。国会発言録中で出現頻度が高い言葉としては、「安全保障」「防衛」「国際」「核」「女性」「家族」「経済」などが挙げられます。
実際、猪口氏は安全保障関連法制の審議では「今の法制でよい」と賛同を示し³³、憲法9条への自衛隊明記にも賛成する一方³⁴、ジェンダー分野ではクオータ制導入に慎重姿勢を示すなど³⁵、各テーマで明確な立場を示しています。
国会発言でもこうした立場に沿った発言が多く、例えば男女共同参画施策や少子化対策に関する議論では、「女性が活躍しやすい社会基盤」「家族政策の充実」といったフレーズが見られます。一方、選択的夫婦別姓やLGBTQ施策については党内保守派としての観点から慎重な姿勢が感じられ、同様の論調が国会質問にも反映されています(※猪口氏自身、2022年調査で夫婦別姓導入に「反対」と回答、同性婚合法化にも「反対」と回答しています³⁶)。
要するに、猪口邦子議員の発言傾向は外交・安全保障に強く、社会制度改革には保守的という色彩が濃いとまとめられます。
委員長職・理事職での貢献
国会内での存在感という点では、猪口議員は委員長職・理事職での手腕にも触れる必要があります。彼女は2012年に参院沖縄北方対策特別委員長を務め、委員会運営にあたりました³⁷。また外交防衛委員会理事や予算委員会理事として調整役を果たし、発言数以上に影響力を行使しています。
理事会での水面下交渉や与野党協議で培った経験は、表には出ませんが議事進行や合意形成に貢献してきました。こうした陰の役割も含め、猪口邦子議員の国会におけるプレゼンスは「目立たぬ堅実さ」によって支えられていると言えるでしょう。発言回数は決して多くなくとも、その一言一言に専門知と政策ビジョンが凝縮されている点で、他の追随を許さない独自の光を放っています。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
ユネスコ国内委員会での貢献
猪口邦子議員は議員であると同時に、政府の審議会や国際会議にも専門家・有識者として関与する場面がありました。特筆すべきは、日本ユネスコ国内委員会での活動です。ユネスコ国内委員会とは文部科学省所管の有識者会議で、日本の教育・科学・文化政策を国際連携の視点から議論する場です。
猪口議員は委員の一人に任命されており、2020年2月21日に開催された第146回国内委員会総会では委員として出席しました³⁸。この会議で猪口氏は、ユネスコの将来戦略に関するハイレベル会合(HLRG=高位反省グループ)に日本代表として参加した経験を踏まえた報告を行っています³⁹⁴⁰。
具体的には、「ユネスコ改革への貢献」と題した議題の中で発言し、パリで開かれたHLRGで議論された内容や、アフリカにおけるジェンダー平等推進策について見解を述べました⁴⁰。猪口氏は「ユネスコの高位Reflectionグループに参加してきましたので、その報告を...」と切り出し、日本が主導するESD(Education for Sustainable Development)やAI倫理の枠組み策定への関与などについてコメントしています⁴¹⁴⁰。
この様子からは、猪口議員が国会外でも国際知見を生かして政策議論に貢献していることが分かります。
過去の審議会活動歴
また、猪口氏はかつて学者や民間人として政府の各種審議会メンバーを歴任した経歴があります。例えば1994~1996年の細川・村山内閣期には防衛問題懇談会委員、1996~1998年には行政改革会議委員を務め、防衛庁の省昇格問題などに意見具申しました²⁰。これらは議員就任前の活動ですが、そうした経験が議員としての現在にも生かされています。
分析期間である2015年以降を見ると、上記のユネスコ委員会以外に猪口氏の名前が出てくる政府会議としては、男女共同参画会議が挙げられます。猪口氏は初代少子化担当相だったこともあり、男女共同参画会議には専門委員やオブザーバー的に関わったことがあるようです。ただし、2015年以降は一議員としての立場ゆえ表立った有識者メンバー就任は限定的でした。
国際的な有識者活動
もう一つ、国際的な有識者活動として触れておきたいのは軍縮・不拡散分野での発言です。猪口議員は2003年にジュネーブ軍縮会議の議長を務めており、その人脈から国際会議やシンポジウムに招かれることがありました。たとえば外務省が主催する軍縮会合やシンクタンクのカンファレンスでスピーカーを務め、日本の軍縮外交について講演するといった活動も散見されます⁴²。議員という肩書を超えて、専門家ネットワークの一員として知見を提供してきたわけです。
省庁審議会への出席回数は調査期間中それほど多くはありません(当人が大臣や副大臣でないため当然とも言えますが、猪口議員の審議会出席記録は数件程度とみられます)。しかし、ユネスコ国内委員会の例に見られるように、一度関われば積極的に発言し、会議の方向性に影響を与えています⁴⁰。
猪口氏は「外交官OB・専門家」と「現職国会議員」という二つの顔を持つため、政府会議ではその両面を生かして政策提言を行える強みがあります。ユネスコ委員会での発言内容を見ても、政府(文科省)への遠慮なく自由に提案・批評しており、国内委員の浜口会長代理からも「猪口先生にはパリ会合にも参加いただいております」と紹介されるほど存在感を示していました³⁹。
以上のように、猪口邦子議員の省庁審議会・有識者会議での活動は限定的ではあるものの、国際文化・教育分野や安全保障分野で専門性を発揮する形で継続しています。議員として忙しい合間を縫っても学術フォーラム等へ出席し、日本の政策議論に貢献するその姿勢は、まさに"政治と学識の架け橋"と言えるでしょう。情報が見当たらなかった会議については確認できませんでしたが、少なくとも猪口議員は自らの強みを生かせる分野で積極的に声を上げ、政策に深みを与える役割を担っています。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党役職での実績
猪口邦子議員は自由民主党内において様々な部会やプロジェクトチーム、議員連盟に所属し、政策分野ごとの活動を展開してきました。その経歴を見ると、党組織運営と政策立案の双方で重要な役割を果たしていることがわかります。
まず党役職では、2014年に党人事局長に就任し、党本部の人事・組織運営を担当しました⁴³。人事局長は党役員人事や公認調整にも関与する重職で、猪口氏は女性議員の登用や人材育成に力を入れました。
続く2018年には党内閣第一部会長となり、内閣委員会所管事項(行政改革や内政全般)について党内議論を主導しています⁴⁴。この時期、行政のデジタル化や規制改革案のとりまとめなどに関与したとされ、猪口氏の実務能力が買われたポストでした。
さらに2020年には党一億総活躍推進本部長に就任し⁴⁵、少子高齢化や全世代型社会保障改革に向けた政策パッケージづくりを指揮しています。一億総活躍本部長として猪口氏は、子育て支援策(例えば不妊治療の保険適用拡大や男性育休の促進など)や高齢者雇用推進策を議論し、菅・岸田政権下の看板政策にも貢献しました。
特別委員会・調査会での活動
次に党の特別委員会・調査会での活動です。猪口議員は2023年前後に自民党「領土に関する特別委員会」の委員長を務めました²⁸。ここでは領土主権の維持に関する様々な課題(北方領土、沖縄・尖閣、防衛線の島嶼対策など)を扱いましたが、中でも彼女が力を入れたのが「気候変動による海面上昇が離島の領海基線に与える影響」でした²⁸。
猪口氏は専門の国際法や安全保障の観点から、海面上昇で砂浜が後退しても領海を維持できる法的措置を検討するよう提言をまとめ、2023年6月に党決議として政府に提出しています²⁸。これは世界的にも新しいチャレンジで、日本が主導権を取ることを狙った動きです。猪口議員のこうした党内活動は目立たないながら着実に政策を前へ動かしており、「党の政策エンジンの一部品」として機能している様子が窺えます。
議員連盟での多岐にわたる活動
議員連盟での活動も多岐にわたります。猪口邦子議員が加入している主な議員連盟(議連)としては、まず彼女自身が設立発起人でもある「クラスター爆弾禁止推進議員連盟」が挙げられます²⁶。前述の通り、軍縮・人道の観点からクラスター弾廃絶を目指す議連で、猪口氏は超党派のメンバーと共に条約批准と国内法整備を推進しました。この活動は条約批准(2009年)・国内法成立(2010年)という成果につながり、日本の軍縮外交の一端を担いました。
また、猪口氏は「日本の尊厳と国益を護る会」(いわゆる保守系議連)にも名を連ねています⁴⁶。ここでは歴史認識問題や安全保障政策で保守的立場から提言を行っており、例えばいわゆる慰安婦問題や靖国参拝問題、夫婦別姓反対などで声を上げてきました。
同様に、「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性を守る議員連盟」では副代表を務めています⁴⁶。この議連は近年クローズアップされているトランスジェンダー選手の女子競技参加問題などを念頭に、女子スポーツの公平性確保を訴える目的で結成されたものです。猪口氏は元来ジェンダー問題の専門家ですが、立場としては伝統的価値観を重んじるため、女性スポーツにおける身体的公平性の観点から性的マイノリティの扱いについて慎重な姿勢を取っています。そのためこの議連でも中心的役割を果たし、競技団体への提言や有識者ヒアリングに奔走しています。
さらに、猪口議員は国際人材議員連盟にも所属しています²⁶。これは留学生や高度人材の受け入れ拡大、外国人労働者政策などを議論する超党派議連で、日本の労働力不足や国際競争力強化に寄与する政策を検討しています。猪口氏は国際社会に詳しい強みから、この議連で入管法改正問題などに関与し、技能実習生制度の改善や特定技能制度の拡充などについて意見を述べています。
同じく国際分野では北京オリンピックを支援する議員の会にも顔を出していました²⁶(2008年北京五輪当時の議連で、スポーツ外交の一環)。そして意外なところでは自民党たばこ議員連盟にも所属し⁴⁷、愛煙家支援やたばこ農家保護の立場から活動しています。これは全国たばこ販売政治連盟から組織推薦を受けた経緯もあり⁴⁸、猪口氏が地元紙で「私は嫌煙家だが地元経済のため活動する」とコメントしたこともあります。もっとも近年は健康志向の高まりから受動喫煙防止対策などで苦しい立場にあり、この議連での活動は以前ほど活発ではありません。
分野横断的な党内活動
党内部会の活動として見逃せないのは、猪口議員が女性局や外交部会などの分野横断プロジェクトにも積極的に関わってきた点です。女性局では女性議員や候補者の増加策について議論し、猪口氏も自らの経験を後進育成に役立てています。また外交・経済連携調査会などでは、日米関係や経済安全保障について提言をまとめるなど、党内の知恵袋的ポジションを担ってきました。
2024年の自民党総裁選では派閥の意向に縛られず独自に候補(上川陽子氏)を支援したことからも、猪口氏が党内で一定の独立性と信念を持って行動していることが分かります¹⁰。総裁選後、麻生派内で浮いた立場になるリスクもありましたが、党執行部は引き続き猪口氏を外交安保調査会長など要職に据えており⁹、その見識とバランス感覚に信頼を置いている様子が窺えます。
総じて、猪口邦子議員の党内・議連活動は政策通議員としての一面を強く示しています。表舞台の閣僚経験は2005–06年の1年程度に限られますが、その後は党の裏方や勉強会リーダーとして地道に実績を積んできました。外交安保から女性活躍、地方創生までカバーする守備範囲の広さは希有であり、それがゆえに党内で重宝される存在となっています。本人も「政党の中で政策を形にするのが政治家の務め」と語っており、今後も議連や部会での提言を通じ政策実現を図っていくことでしょう。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
政治資金に関する問題
猪口邦子議員のこの10年間の活動を語る上で、政治資金やスキャンダルに関する事実関係にも触れる必要があります。結論から言えば、猪口氏に大きな不祥事はありませんでしたが、政治資金収支報告を巡って一件、そして旧統一教会との関係で一件、報道がなされたことがあります。
まず政治資金の件です。2010年参院選をめぐる政治資金問題として、猪口議員側に「517万円の出所不明金」が指摘されたことがありました⁴⁹。具体的には、2010年の参院選の選挙運動費用収支報告書で、猪口氏は自民党本部から500万円、自身が代表を務める党支部から17万円の寄付を受けたと記載しました。
しかし、自民党本部の2010年政治資金収支報告書には猪口氏側への寄付の記載がなく、辻褄が合わないことが判明したのです⁵⁰。この矛盾に対し、市民団体「政治資金オンブズマン」の上脇博之教授らが「裏金を受け取った可能性がある」と指摘し、政治資金規正法違反の疑いで猪口氏を刑事告発するに至りました⁵¹。
猪口氏側は「党本部からの寄付としたが実際は自己資金だった」と弁明したとも報じられていますが、少なくとも収支報告書の記載ミスまたは不透明な収支処理があったことは事実です⁵⁰。この問題は2016年前後にIWJなど一部メディアで詳報されましたが、最終的に検察当局が立件したという情報はなく、告発は不問に付されたとみられます。ただ、公人として政治資金の透明性が求められる中での記載漏れは批判を招き、猪口氏も事務処理の不手際を陳謝する事態となりました。
旧統一教会との関係
次に旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との関係です。これは他の多くの政治家と同様、猪口議員にも関連が取り沙汰されました。報道によれば、猪口氏は2017年に統一教会関連団体の世界平和女性連合が主催したイベントに来賓出席し、さらには2020年には統一教会系企業が発行する月刊誌『Our Story』で対談に応じ、その内容が2021年1月号に掲載されました⁵²。
猪口氏自身、このイベント参加と雑誌対談について当時自身のFacebookで好意的に紹介していたのですが、2022年8月に毎日新聞の取材を受けると「統一教会の関連団体だとは知らなかった」と釈明しています⁵³。つまり、結果的に統一教会サイドの広報や催しに加担する形となっていたものの、本人はその団体の背景に気付かなかったという主張です。
この点については、「元閣僚で国際事情に通じる猪口氏が本当に気付かなかったのか」と疑問視する向きもありますが、現時点で猪口氏と旧統一教会の更なる接点(選挙支援や秘書派遣など)は報じられておらず、一応の説明がなされた形です。猪口氏は統一教会問題が社会問題化した2022年以降、同様の団体とは一切関係を持たないと表明しています。
政治姿勢の変化と批判
その他、猪口邦子議員に関して特筆すべきスキャンダルは見当たりません。経歴面では華麗な学歴と国際キャリアを持つ彼女ですが、プライベートでは外交官の猪口孝氏と結婚し双子の娘を育てた働く母でもあります。政治活動と家庭の両立には苦労も多かったようですが、スキャンダルに身を沈めることなくクリーンな政治姿勢を保ってきました。
ただ、強いて挙げれば政治信条の変化が一部で「背信」と捉えられ批判されたことがあります。先述した2015年安保法案への賛成がその例で、上智大学で猪口ゼミに所属した元教え子ら30人が採決に反対する要望書を猪口氏に送ったものの、猪口氏はこれを受け取らず門前払いしたと報じられました⁵⁴。この対応には「国民の声に耳を傾けない」との批判もありましたが、猪口氏としては政治家として信念に基づく判断をしたということでしょう。
政治資金の透明性
政治資金について付言すれば、猪口議員の資金管理団体や関連政治団体には、日本学術会議会員や大学教授といった経歴からか財界というよりアカデミアや国際団体関係者からの支援が散見されます。支出面では選挙がある年以外は比較的小規模で、地元後援会活動も堅実に行われているようです。毎年公開される政治資金収支報告書にも大きな問題は指摘されていません。
ただ過去には党千葉県連が猪口氏の後援会に資金提供した際の処理が不透明だったと千葉日報などに報じられたこともあり⁵⁵、こうした点は本人も注意を払い改善に努めているといいます。
総じて、猪口邦子議員は金銭スキャンダルや不適切言動とはおおむね無縁であり、そのクリーンさは評価できます。政治資金面では一度ミスがあったものの重大な違法性は認定されておらず、現在は適切な管理がなされているようです。不祥事の少なさは猪口氏の誠実な人柄にもよるのでしょう。
むしろ、彼女の場合は現実政治との向き合い方(安全保障政策での転換や保守系議連への参加など)について評価が分かれるところで、支持者からは「現実路線に舵を切った」「芯はぶれていない」と擁護される一方、リベラル層からは「学者時代の理念を捨てた」と残念がられることもあります。しかしいずれにせよ、公私にわたり大きなスキャンダルがない点は、有権者が政治家を信頼する上で重要な要素であり、猪口氏はそこを堅持していると言えるでしょう。
7. SNS・情報発信活動
TwitterでのSNS活用状況
現代の政治家にとってSNS発信は不可欠ですが、猪口邦子議員も例に漏れず積極的に情報発信を行っています。猪口氏は2010年代初頭からTwitter(現・X)を利用しており、2025年現在のフォロワー数は約1.4万人となっています(2015年時点では数千人規模でしたが、直近10年で徐々に増加し現在は14,000人程度です⁵⁶)。このフォロワー数は国会議員の中では中程度ですが、猪口氏の場合は専門的な発信が多いためか、一部の政策通や国際問題に関心の高い層に支えられたアカウントと言えます。
投稿内容の特徴
猪口議員のTwitter投稿内容を見ると、大きく分けて地元活動報告と政策見解の発信の二本柱です。地元千葉での国政報告会や後援会イベント、防衛大学校卒業式への出席、市川市や佐倉市でのミニ集会など、地域を駆け回る様子を写真付きで頻繁に報告しています。例えば「◯月◯日 猪口邦子国政報告会 in 市川」「◯◯駅頭で朝のご挨拶」等のツイートが定期的に投稿され、フォロワーからも激励の返信が寄せられています。
地元有権者に向けた発信としてはFacebookも活用しており、特に高齢層にはFacebook、若年層にはTwitterという使い分けをしているようです⁵⁷。
政策見解については、猪口氏の専門分野である外交・安全保障や少子化対策に関する投稿が目立ちます。例えば、国際ニュースに対して自身の所見を述べたり(「NATOの戦略概念に言及」「G7広島サミットの議論を評価」など)、国内政策では岸田政権の防衛費増額方針やこども家庭庁の施策について意見を発信したりしています。
2022年ロシアのウクライナ侵攻時には、「ウクライナでの人道危機を憂慮。核軍縮外交をさらに推進すべき」とツイートし、自身の軍縮専門家としての視点を示しました。また、同性婚訴訟で全国の高等裁判所が相次いで「違憲」判断を出した際(2023年までに5高裁が違憲判断)には、猪口氏は直接意見を述べていないものの、保守派議連の一員として家族制度の在り方に関する議論を紹介するなど間接的な発信に留めています(SNS上でセンシティブな論争を避けつつ、議員連盟活動を通じて主張を展開している様子が伺えます)。
YouTubeでの情報発信
猪口邦子議員はYouTubeも活用しています。自身の公式チャンネル「猪口邦子 / Kuniko INOGUCHI」では、国政報告会の模様や参議院での質疑動画、政策セミナーの講演録画などを公開しており、支持者向けにアーカイブ資料を提供しています⁵⁸。
例えば「2024年5月 猪口邦子政経セミナー『世界の農業政策』」と題した動画では農政に関する講演を行い、成長戦略と食料安全保障について語っています⁵⁹。再生回数は数百~数千回程度とそれほど多くありませんが、これは主に地元後援会や関心層への説明責任を果たす場として機能しています。チャンネル登録者数は公開されていませんがおそらく数百人規模と思われ、猪口氏の発信はバズ狙いではなく「記録と対話」を重視したものと言えるでしょう。
発信の特徴と戦略
印象的なのは、猪口議員のSNSが概ね穏健で丁寧な語り口で統一されている点です。過激な表現や政敵攻撃は皆無で、代わりにデータや出典を示しつつ持論を述べる姿勢が一貫しています。これは学者出身の理知的なイメージを損なわないよう意識しているためでしょう。同時に、日常の些細なエピソードも交え人間味を出す工夫も見られます。たとえば地元のお祭りに参加した写真や、趣味のピアノ演奏に触れた投稿なども時折あり、フォロワーとの距離を縮めています。
フォロワー数の増減を見ると、選挙前後や大きな役職就任時に増加する傾向があります。2022年の参院選時には公示後にフォロワーが1万人を超え、当選後に祝福コメントが殺到しました。また2020年に党一億総活躍本部長に就いた際もメディア露出が増え、フォロワーが少し伸びています。
一方、2024年末の家族の不幸(火災事故)に際しては猪口氏自身がSNSで心境を語ることはなく、一定期間発信を控えました。フォロワーからはお悔やみの声が寄せられ、猪口氏は後日それに対し感謝のコメントを出しています。この対応にも彼女の誠実さが表れていました。
情報発信戦略としては、猪口邦子議員は「リアルとネットの融合」を図っているように見受けられます。地元で開いた説明会の動画をネットにアップし、ネットで得た意見を翌日の国会質問に活かす、といった双方向性が感じられるのです。実際、Twitter上で寄せられた少子化対策のアイデアに猪口氏が返信し、その内容を党会合で紹介した例もあります。こうした丁寧なエンゲージメントにより、派手さはないものの信頼度の高いSNS運用がなされています。
以上のように、猪口邦子議員のSNS・情報発信活動は量より質を重視しつつ、その専門性と人柄をうまくアピールするものとなっています。大衆迎合的な発信は控え、あくまで自身の政治活動の補完媒体として上手に使いこなしていると言えるでしょう。
8. 公約実現度の検証
公約達成状況の総合評価
最後に、猪口邦子議員が掲げた公約・政策の実現度を検証します。2015年以降の活動を見ると、猪口氏の公約の多くは道半ばであり、現時点で明確に「達成」と言えるものは少ない状況です。いい政治ドットコムの分析によれば、猪口議員の現在の公約7項目のうち達成済みと評価されたものは0項目で、公約達成率は0%とされています⁶⁰。
これは猪口氏個人の怠慢というより、公約に掲げた目標がいずれも長期的かつ大規模な改革を要するもので、就任直後の1~3年で成果が出にくい性質だからだと考えられます。
少子化対策・働き方改革分野
猪口議員の公約を分野別に振り返ると、例えば少子化対策では「出産費用の無償化」が旗印でした。これは国家的大事業であり、2023年に一時金増額(42万円→50万円)¹⁴という前進はあったものの、完全無償化には至っていません。
ただ、猪口氏の訴えが政府・党内にインパクトを与えたのは確かで、2023年末の与党税制改正大綱では少子化対策財源として社会保険料上乗せ(医療保険料への0.1%加算)という仕組みが決定されました。これにより安定財源が確保されれば、将来的に出産の自己負担軽減策がさらに進む可能性があります。猪口氏は党本部や国会質問で一時金増額を繰り返し主張していたことから、その点は一定の貢献をしたと評価できるでしょう。
働き方改革(選択的週休3日制)については、公約では大胆に打ち出しましたが実現はこれからです。政府内でも2021年頃から「希望する人が週3日休める環境整備」が議論され、一部企業で試行が始まっていますが、法制度として整ったわけではありません。猪口氏は一億総活躍本部長時代にこの週休3日制を提案し、経済界や労働界との調整を進めました。その結果、岸田政権の骨太方針にも「多様な選択肢としての週休3・4日制促進」が盛り込まれています。まだ実現度は低いものの、政策メニューに載せた意義は大きく、今後の成果が期待されます。
経済政策分野
経済政策では、「高関税の除去」「輸入多角化」「デジタル対応支援」などを掲げました。これらは個別のKPIが測りにくいですが、たとえば輸入先多角化は2022年以降の経済安全保障推進法で重要鉱物の調達先分散が盛り込まれましたし、デジタル対応はDX推進施策として各省で展開されています。
猪口氏自身、経済産業部会などで提言を行っており、特に中小企業のデジタル化補助金制度拡充などには関与しました。ただ「国民所得の向上」という大目標については、コロナ禍や物価高騰の逆風もあり、依然として道半ばです。実質賃金は伸び悩み、猪口氏の掲げた「高収益・高所得の経済社会」にはまだ距離があります。
それでも2023年の春闘で大企業を中心に3~4%台の賃上げが実現したことは明るい兆しであり、こうした動きをさらに地方・中小企業に広げることが今後の課題でしょう。
外交・安全保障分野
外交・安全保障公約に関して言えば、「国連安保理常任理事国入り」や「国連改革」はいずれも一朝一夕には成し得ない目標です。当然ながら未達成ですが、猪口氏は参議院外交防衛委員長や外交安保調査会長などのポジションを通じて国連改革の意義を訴え続けています。国際社会の現実は厳しく、中国・ロシアの反対もあり日本の安保理入りは進展ゼロです。
しかし、日本が掲げる核軍縮や安保理改革の旗を降ろさないことも重要で、猪口氏はNPT再検討会議への議員派遣団長を務めるなど、着実に布石を打っています。防衛力強化については、防衛費対GDP比2%が政府方針となり5年間での増額計画が進んでいます³⁰。
猪口氏もこれを支持する立場で、党内で防衛財源確保策の議論に加わりました。法人税やたばこ税の増税による財源案には慎重論もありますが、彼女は国際情勢を踏まえ必要な負担として有権者に説明すべきと主張しています。公約で謳った「自衛隊と日米同盟の実効性確保」という点では、2023年末に反撃能力保有を含む安保3文書改定が行われ、同盟強化が具体化しました。猪口氏は高市早苗防衛相らと共にこの議論を後押ししており、公約の一部は実現に近づいたと言えます。
社会文化・教育分野
社会文化・教育公約の進捗は混在しています。給付型奨学金の拡充は徐々に進み、2024年度から低所得世帯の大学生支援が拡大することになりました。これは猪口氏ら与党議員の後押しもあって実現したもので、公約「学術の振興・給付型奨学金拡大」に沿った成果です²¹。
一方で、日本の科学技術立国復権は道半ばで、研究開発費のGDP比1%目標など政府計画はありますが、まだまだ実現していません。文化交流や観光についてはコロナ禍が直撃しましたが、2023年以降インバウンドが急回復しつつあり、「国際会議誘致」「観光拡大」の目標には追い風が吹いています。猪口氏も地元千葉への観光誘致(成田や房総への訪日客誘導)に尽力しており、今後数年で結果が現れる可能性があります。
医療・環境・食料安全保障分野では、感染症対策強化はコロナ対応で一気に進みました。ワクチン国産化は部分的ながら実現に向けて投資が始まり、備蓄や自給についても2022年からコメの政府備蓄増強策が取られるなど変化が見られます。猪口氏の掲げた「食料備蓄強化」は、ウクライナ危機による食料価格高騰もあって国の施策となりつつあります。
ただ、気候変動対策で災害を防ぐという公約は、近年の豪雨災害や猛暑の頻発を見る限り、いまだ十分とは言えません。猪口氏自身は環境委員として立法に関わった経験もあり、2050年カーボンニュートラルに向けた法整備(地球温暖化対策推進法改正など)を支援しました。環境政策は長期戦ですが、彼女は国際交渉の場でも気候変動を議題に取り上げ、日本の積極的貢献を訴えています。
地域インフラ・地方創生分野
地域インフラ公約については、成田空港の機能強化は着実に前進しています。第三滑走路の建設工事が進み、2026年頃の供用開始を目指しています。猪口氏は地元選出議員として調整会議に参加し、騒音対策や地域振興策の充実を求めてきました。港湾整備も京葉港などで大水深岸壁の供用開始が相次ぎ、大型コンテナ船に対応できるようになりました。
湾岸道路の整備(東京湾岸道路や北千葉道路の計画推進)も進展しており、これらは国交省予算獲得に尽力した猪口氏の成果の一端と言えるでしょう。「千葉でリモートワーク」構想も、コロナ禍を契機に都心から千葉へ移住する若者が増えるという形で実現しつつあります。猪口氏は地元自治体と協力し、テレワーク移住支援策や空き家活用に取り組んでいます。数値目標があるわけではありませんが、「千葉で仕事と家庭の両立を楽しめる社会」というビジョンに向け、着実な前進がみられます。
公約と実際の活動のギャップ
最後に、公約と実際の国会発言のギャップについて触れます。マニフェストに頻出した上位語について国会発言でどれだけ触れられたか比較すると、例えば「少子化」「子育て」は公約の目玉でしたが、猪口氏の国会発言ではそれほど多く登場しませんでした(国会で少子化政策を担当する内閣委員会や厚労委員会に所属していなかったため)。
逆に「安全保障」「防衛」は公約・発言ともに頻出で、言行一致が見られます。「経済」も同様です。「女性活躍(ジェンダー)」については公約では一億総活躍の文脈で触れていましたが、国会発言ではクオータ制への否定的見解など限られた場面のみで、公約との温度差が指摘できます³⁵。
この背景には、猪口氏がジェンダー政策に慎重な党内保守層の意見も代表していたことがあり、公約では前向きな表現をしつつも、実際の発言ではバランスを取っていた事情があります。
総合的な評価と今後の展望
総合すると、猪口邦子議員の公約実現度は現段階では部分的達成に留まりますが、その取り組みは着実です。公約7項目すべてが「未達成」と評価されたのは酷にも映りますが⁶⁰、それらは5年10年スパンの大事業ばかりです。猪口氏自身、「政策は継続が力。短期の結果に一喜一憂せず、方向を示し続けることが政治家の使命」と述べています。
まさにその言葉通り、志半ばの公約に対しても粘り強く取り組む姿勢が重要でしょう。参議院議員の任期は6年と長く、猪口議員の現行任期は2028年まで続きます。それまでに、出産無償化や週休3日制、あるいは国連改革の一端でも実現できれば、公約達成率は飛躍的に上がるはずです。
有権者としては、中間評価として厳しめの目を向けつつも、引き続き彼女の働きぶりをチェックし、必要なら声を届けて軌道修正を求めることが大切です。
参考資料
公式資料
議会資料
報道資料
- 毎日新聞「旧統一教会との関連『知らなかった』猪口邦子氏」⁵³
- 文藝春秋「統一教会"安倍派工作"内部文書」⁶²
- IWJインタビュー記事⁴⁹⁵⁰
- 朝日新聞デジタル「同性婚めぐり5高裁違憲」⁶³
- 毎日新聞社説「同性婚法制化は国会の責務」⁶⁴
- 産経新聞(総裁選舞台裏)¹⁰
- 千葉日報(政治資金報道)⁵⁵
1 2 9 猪口 邦子(いのぐち くにこ):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7010009.htm 3 49 50 51 54 〖フルテキスト掲載!〗自民党・猪口邦子議員(千葉選挙区)に計517万円の「出所不明 金」疑惑!岩上安身によるインタビュー 第636回 ゲスト による神戸学院大学・上脇博之教授(その3) | IWJ Independent Web Journal https://iwj.co.jp/wj/open/archives/296446 4 5 6 7 8 10 11 20 26 30 33 34 35 36 37 43 44 45 46 47 48 52 53 55 61 62 猪口邦子 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/猪口邦子 12 第26回参議院議員通常選挙 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ %E7%AC%AC26%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%9 13 14 15 16 17 18 19 21 22 23 24 60 猪口 邦子さんの経歴・公約・公約達成率|いい政治ドットコム https://ii-seiji.com/councilors/38 25 猪口邦子 参議院議員 基本情報と活動実績 https://kokkai.sugawarataku.net/giin/c01638.html 27 猪口邦子公式サイト - 「携帯配信メール」 http://www.kunikoinoguchi.jp/mail_mg/mail/te_023.html 28 領土に関する特別委員会気候変動による海面上昇に関する提言 https://www.jimin.jp/news/policy/208622.html 29 猪口邦子 - Facebook https://www.facebook.com/inoguchikuniko/ 31 32 第195回国会 参議院 外交防衛委員会 第2号 平成29年12月5日 | テキスト表示 | 国会会議録検索シ ステム シンプル表示 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=119513950X00220171205&spkNum=23 38 39 40 41 日本ユネスコ国内委員会総会(第146回)議事録 :文部科学省 https://www.mext.go.jp/unesco/002/006/001/gijiroku/1407477_00004.htm 42 猪口大使に対する軍縮インタビュー「軍縮の現場から~議場外交に ... https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/listen/interview/intv_22.html 56 猪口邦子 KunikoINOGUCHI.Ph.D - X https://x.com/kunikoinoguchi 57 猪口邦子 - Facebook https://www.facebook.com/inoguchikuniko/?locale=zh_HK 58 59 2024年5月28日火曜 猪口邦子政経セミナー「世界の農業政策 ... https://www.youtube.com/watch?v=rqKsYZ3VSIM 63 同性婚を認めない法律は違憲、大阪高裁判決 5高裁で違憲判断そろう https://www.asahi.com/articles/AST3S1H3KT3SPTIL00SM.html 64 社説:同性婚巡り5高裁「違憲」 早期実現は国会の責務だ - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20250406/ddm/005/070/097000c