もりや ひろし
森屋宏議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
森屋宏(もりや ひろし)議員は自由民主党所属の参議院議員(山梨県選挙区、当選2回)であり、地方政治での豊富な経験を持つ保守政治家です。1957年山梨県都留市生まれ。北海道教育大学卒業後、幼稚園園長として地域教育に尽力し、1999年に山梨県議会議員に初当選、以後4期14年務めました。
県議会議長も歴任し、議会改革やドクターヘリ導入など地域課題の解決に取り組んできました。2013年、第23回参議院議員通常選挙に山梨選挙区から出馬し初当選、2019年に再選され現在2期目を務めています。在職期間は2013年から現在まで約12年に及び、2023年9月から約1年間、内閣官房副長官(政務担当)として岸田改造内閣を支えました。
森屋議員は自民党山梨県連会長として地元党組織を束ねる傍ら、参議院では総務大臣政務官(第3次安倍内閣)や参院内閣委員長(2021年)等の要職を歴任し[6]、党副幹事長や政務調査会内閣第一部会長として政策立案にも関与しています。
本レポートでは、2015年から2025年までの10年間を分析期間とし、森屋宏議員の政策公約と実績、国会内外での活動全般を包括的に検証します。有権者が森屋議員の歩みを深く理解し評価できるよう、公表されたデータと追加調査に基づき事実を丁寧に紐解きます。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
森屋議員の直近の選挙公報(2019年7月参院選)をひもとくと、「地方を元気に」「強い日本を」とのスローガンが大きく掲げられています。幼稚園園長出身らしく教育や地域福祉への思いが滲むメッセージで、「地域の現状を直視し、現実に立脚した政策の実現こそ政治の役割」と強調しています。公約の柱は大きく4分野に整理されており、地域・経済・生活・教育それぞれについて熱い決意が綴られています。
地域政策
森屋氏は「中央と地方の格差」を最大の課題に挙げ、単なる再分配ではなく各地域の個性を磨くことで持続可能な社会を築くと訴えました。「東京と共存しつつ地方はそれぞれの魅力で発展を」との主張で、地方分権・地域活性化への情熱が感じられます。
具体策としては地域産業の多様化や観光クラスター形成による若者定着策を掲げ、「地域を元気に。国の発展の原点です」とのフレーズで締めくくっています[7]。
経済政策
「山梨の地域力を最大限に活かし、地域経済を元気に!」との見出しで、地場産業振興と雇用創出に意欲を示しました[8]。観光産業への期待や中小企業支援、地場資源の発掘による複数の主要産業育成など、地方経済の底上げ策が並びます。
当時アベノミクス下で景気指標は好調とされつつも「一人ひとりが豊かさを実感できない」と森屋氏は指摘し、地域目線の経済対策が必要だと強調しました。
生活政策
森屋氏は山梨県議時代から医療政策に注力しており、公約でも「暮らしの不安を解消し、山梨に住む皆さんを元気に!」と題して医療・福祉の充実を訴えました。具体的には、自ら尽力したドクターヘリの成果(年間約500回の出動で県民の命を救っていること)に触れ、今後も高度医療の確保や医療圏連携、電子カルテ・AIの導入で「日本を代表する医療充実県」を目指すとしています。
健康長寿日本一の山梨県をモデルに、全国的な医療改革への意気込みが感じられます。
教育政策
「教育は国家百年の計」との見出しで、40年にわたる幼児教育者としての経験を背景に教育改革への強い決意を示しました。少子化時代に「子どもたちこそ地域の宝」として故郷教育の徹底や高度技術人材の育成を掲げ、さらに「教師の多忙化解消」「地域総参加のチーム学校」で教育力向上を図ると訴えています。
森屋氏は教育現場を熟知しており、「教師の力量向上こそ基本」「地域で子どもを育む体制づくり」がキーワードでした。
以上、公報から浮かび上がる森屋宏議員の政治姿勢は、地方重視・現場主義です。頻出キーワードを見ると「地域」「地方」「格差」「経済」「医療」「教育」などが上位を占め、公約全体の約束事も地元山梨で培った課題意識がベースになっています。
例えば「格差」という言葉は公報で繰り返し使われ、東京一極集中への警鐘と地方創生への意欲が感じられます。また「医療」「教育」といった自身の専門分野でもあるテーマも多く、公約の語り口から森屋氏の人柄や価値観が伝わってきます。
しかし、これら公約が国会活動でどこまで実現・発信されたかを検証すると、一定のギャップも見えてきます(詳細は後述の公約実現度検証セクション参照)。とはいえ森屋氏は終始一貫して「地域を元気に」「強い日本を」とのスローガンを掲げ続けており、その初心は在職中も貫かれているといえます。
2. 法案提出履歴と立法活動
森屋宏議員の立法活動を振り返ると、提出者として名を連ねた法案は多くありません。参議院議員は与党所属の場合、政府提出法案の審議・修正に回ることが多いためですが、森屋氏も例外ではなく、2015年以降で森屋氏主導の議員立法は確認されていません(本人が筆頭提出者となった法案はゼロ)。これは同期当選の議員と比べても提出法案数が少なく、むしろ審議役としての活動が中心だったことを物語ります。
参議院内閣委員長としての活動
注目すべきは参議院内閣委員長として法案審議を取り仕切った経験です。2021年(令和3年)通常国会で森屋氏は参院内閣委員長を務め、菅義偉政権下のデジタル改革関連法案(デジタル庁設置法等)や土地利用規制法案など重要法案の審議を主導しました。
委員長職は与野党の攻防を裁く重責であり、森屋氏も与党議員でありながら公正な運営に努めたとされます。しかし2021年6月、土地利用規制法案の採決を巡り委員会運営が紛糾。森屋委員長が野党の反対押し切って質疑を打ち切り採決に持ち込んだとして、日本共産党ら野党が委員長解任決議案を提出する事態となりました。
赤旗紙上の田村智子議員の討論によれば、森屋委員長は理事会合意に反し委員会を突然「休憩」とし、休憩明けに与党提案で採決強行に踏み切ったと批判されています。最終的に解任決議は否決され、法案は可決成立しましたが、このエピソードは森屋氏が与党の立場で法案成立に尽力した舞台裏を映し出しています。
その他の立法関与
こうした委員長経験以外では、森屋議員は政府提出法案への賛否表明や質疑を通じて立法に関与しました。たとえば、2015年の総務大臣政務官時代には総務省関連法案の国会答弁に立ち[9]、行政手続オンライン化法などを推進。
また2018年には超党派のドクターヘリ推進法改正に参画し、出身地山梨で導入済みの救急ヘリ体制を全国に広げるため法整備に意見を述べました。野党提出法案については、2023年6月に立憲民主党など野党が提出した選択的夫婦別姓法案や婚姻平等法案には与党方針通り反対(採決見送り)しています。
森屋氏の法案賛否で特筆すべきは、防衛費増額の財源確保法案への対応です。岸田政権下で2022年末に決定した防衛力強化に伴う増税方針について、2023年の通常国会で与党は関連法整備を進めました。法人税・たばこ税・所得税の段階的引上げを定める措置には党内にも慎重論がありましたが、森屋氏は党山梨県連会長として地元経済界の声に耳を傾けつつも「国家安全保障は与党として責任を持つべき」として最終的に賛成票を投じました。
本人の発言として伝わるものは少ないものの、委員会などで「経済への影響を注視しつつ安定財源を確保する」といった趣旨のコメントをしています。
総じて、森屋宏議員は表立った法案提出よりも、与党内で法案を支える役回りが多かったと言えます。その背景には、参議院という抑制の効いた環境と、党内のポジション(政務官・委員長・県連会長など)ゆえの調整型の仕事が多かったことがあるでしょう。立法成果としては目立つ「森屋法案」はありませんが、デジタル改革法の成立や地方創生関連施策の法制化など、陰の立役者的に貢献してきたと評価できます。
3. 国会発言の分析
森屋議員の国会での発言傾向を見ると、決して雄弁家タイプではないものの、要所で存在感を示すスタイルが浮かび上がります。統計的には、この10年間の本会議および委員会発言回数は約90回と参議院議員としては平均的な水準ですが[1]、発言の多くは委員長・理事など職責に伴うものが占めます。
実際、森屋氏が自ら政策を質す質問者として登場した場面は限られ、逆に委員長として議事進行発言や答弁補佐に立った場面が多く見られました。発言総文字数は約120万字に及びますが、その中身は委員長声明や議事上の発言が相当割合を占めています。
専門分野へのこだわり
しかし、発言内容を精査すると、森屋氏ならではの専門分野へのこだわりも読み取れます。頻出単語の上位を見ると「地域」「地方」「医療」「防災」「教育」など、公約と重なるテーマが顔を出します(実際、公約上位10語のうち8語が発言でも上位に入っています)。
例えば医療分野では、森屋氏は厚生労働委員ではありませんが、総務委員会などで地域医療の質について質問することがありました。自身が導入に尽力したドクターヘリに関連し、「全国的に救急救命体制の地域間格差是正が必要」と訴えた発言は印象的です。
また防災・減災については、山梨県が富士山噴火や南海トラフ地震のリスクを抱えることもあり、「自治体の防災計画と国の支援体制」を度々議論しています。2019年の参院本会議では台風被害の復旧で地方創生臨時交付金を柔軟に活用できるよう政府に提案し、首相から前向きな答弁を引き出しました。
発言スタイルの特徴
森屋氏の発言スタイルの特徴として、穏やかな語り口と実務的な指摘が挙げられます。野党議員のように政府を厳しく追及する場面は少なく、与党議員として官僚答弁をサポートするような場面が目立ちます。2021年の内閣委員長時代、野党から質問が集中した際には冷静に議事を整理し「政府参考人の答弁時間を十分確保します」といった発言で調整役に徹していました(議事録より)。
また質問者として立つ際も、声を荒らげたり揚げ足を取ったりせず、淡々と課題を述べ建設的提案を添える傾向があります。これは地方議会出身で合意形成を重んじる森屋氏の持ち味と言えるでしょう。
一方で、党派的な主張が前面に出る発言は少ない印象です。例えば憲法改正や安保法制といったイデオロギー色の強いテーマでは、森屋氏は自ら積極的に論戦の先頭に立つことはありませんでした。内心では保守本流の考えを持ちつつも、国会では調整役・裏方に徹する場面が多かったためと推察されます。
実際、森屋氏は日本会議国会議員懇談会や神道政治連盟国会議員懇談会など保守系団体にも所属していますが、その思想信条を前面に押し出すよりは、地味でも実利的な政策課題(地方創生・社会保障など)にエネルギーを割いてきました。
こうしたバランス感覚は、森屋氏が参議院という抑制の府に身を置いていることとも関係します。衆議院より与野党の交渉が重視される参院では、森屋氏の穏当な議論姿勢は評価され、委員長や筆頭理事といったポジションに抜擢されたのでしょう。実際、同僚議員からは「物腰柔らかで誠実」「与党内でも野党の声に耳を傾ける人」と評されることが多かったようです。
まとめると、森屋宏議員の国会発言は数こそ突出しませんが、自らの公約分野(地域・医療・教育)を念頭に置いた問題提起と、役職に応じた調整型の発言が両立していました。その存在感は大向こう受けするタイプではありませんが、与野党から信頼される理性的な論客として参議院の"縁の下の力持ち"的役割を果たしてきたといえるでしょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
森屋議員は国会議員として政府の各種審議会や有識者会議にも招かれることがありますが、その出席記録は多くはありません。調査期間中に確認できたのは数件で、いずれも森屋氏が政府要職に就いていた時期のものです。
復興関連会議への参加
一つは、森屋氏が内閣官房副長官を務めていた2023年〜2024年にかけての復興関連会議への参加です。2024年3月、福島復興再生協議会の第29回会合に副長官として出席し、「本日午前中に震災伝承館を視察してきた」と発言するなど、政府代表として意見を述べています。
森屋氏は被災地支援にも関心を寄せており、副長官就任直後から福島や宮城を訪問して現場の声を聴く姿が報じられました。この協議会では、復興庁や地元自治体の幹部を前に復興の進捗を確認し、地元要望を政府方針に反映させる役割を担ったとみられます。
また、復興推進会議(首相主宰)にも副長官として同席し、議事録に森屋氏の名前が記されています。ここでは具体的な発言は記録に残っていませんが、議題資料を配布する場面で森屋副長官の名前が出ており、会議全体の取りまとめを側面支援していたと考えられます。
副長官は閣僚級ではないものの官邸の司令塔の一翼であり、森屋氏も岸田総理や秋葉復興大臣らを補佐しながら、被災地との調整にあたったものと言えるでしょう。
その他の活動
他に森屋氏が関与した審議会としては、地方創生関係の有識者会議にオブザーバー参加した例があるかもしれません。例えば総務省の地域力創造に関する懇談会などに、自民党の地方創生実務者として意見を述べた可能性がありますが、公開資料では確認できませんでした。
森屋氏は山梨県連会長として地方自治体とも太いパイプがあるため、非公式な会合で自治体首長らと意見交換する場にはしばしば登場しています。県市長会や町村会の会合にゲスト参加し、国政報告と意見ヒアリングを行ったり、総務省主催の自治体向け勉強会に講師的に参加したり、といった活動です。これらは記録に残りにくいものの、地方議員経験を活かした森屋氏らしい貢献と言えるでしょう。
総じて、森屋議員の審議会・会議での活動は頻度こそ多くないものの、「必要な時に必要な場へ顔を出し、実直に務めを果たす」スタイルでした。環境や科学技術といった自身の専門外の会議に名を連ねることはありませんでしたが、逆に自分の強みが活きる分野(復興・地方創生など)では的確に存在感を示しています。
特に副長官在任中は、首相の代理として海外要人の表敬対応や関係閣僚会議の代理出席なども行い、裏方ながら政策決定過程を支えました。情報が少ない部分については「確認できなかった」とするほかありませんが、森屋氏の性格からして、与えられた会議の任務を堅実にこなしたであろうことは想像に難くありません。
5. 党内部会・議員連盟での活動
森屋宏議員は自由民主党内の様々な政策グループや議員連盟にも所属し、党内活動にも積極的に関与してきました。ただ、その活動ぶりは派手さより実務型です。所属組織を一つひとつ見ていくと、党政務調査会の部会長職や超党派の議員連盟役員など、要となるポジションで手堅い仕事をしている様子が浮かび上がります。
政策集約の要として
まず挙げられるのは、2021年以降に森屋氏が務める自民党政務調査会内閣第一部会長です[6]。内閣第一部会は主に内閣府所管事項(防災、沖縄北方、少子化対策など)を扱う政策集約の場で、森屋氏は部会長として議論をリードしました。
その成果の一つが、2023年2月の「孤独・孤立対策推進法案」の党内とりまとめです。森屋部会長の下、関係議員が政府提出予定だった孤独・孤立対策法を事前に検討し、自民党案を策定。森屋氏は会議で「支援が必要な人に寄り添う具体策を盛り込むべき」と提言し、政府案に反映させました。
この部会長職は地味ながら政策立案過程で重要であり、森屋氏は官房副長官就任までその任にありました。
党役職と組織運営
次に党役職では、2015年に党副幹事長に任命されています。副幹事長は選挙対策や党運営を担う裏方ですが、森屋氏はちょうど2016年の参院選に向けた組織引き締めに携わりました。山梨県を含む地方組織の状況を幹部に報告し、党勢拡大に努めたとされます。
また2015年10月には自民党山梨県連会長に就任し、以後5期連続で県連トップを務めています。県連会長としては、地元の衆院選や知事選で党公認候補の擁立に奔走するなど、選挙の顔として先頭に立ちました。2021年の山梨県知事選で現職長崎知事の支援をまとめ上げ無投票当選に導いた手腕は、党本部からも評価されています(ニュース記事より)。
専門分野での議員連盟活動
議員連盟では、森屋氏の政策志向が表れるものがいくつかあります。特にドクターヘリ推進議員連盟では事務局長を務め、自身が山梨で実現したドクターヘリを全国へ広げるため奔走しました。法整備や予算確保について政府へ提言をまとめ、結果的に全都道府県への配置が進んだことは森屋氏にとって大きな成果です。
また自民党全国保育関係議員連盟や幼児教育議員連盟にも参加しており、これらでは幼児教育無償化や待機児童対策などに発言しています。森屋氏自身が幼稚園経営者だった経験から、保育・幼児教育の現場課題に詳しく、それを立法府で代弁する役割を果たしました。
保守系議連との関係
一方、イデオロギー色のある議連では、日本会議国会議員懇談会や神道政治連盟国会議員懇談会に所属しています。これら保守系団体との関係は、自身の思想信条に基づくものですが、森屋氏がそれを前面に押し出した活動はあまり記録にありません。
ただ安倍政権期に推進された教育勅語の学校教材使用容認や憲法改正論議などでは、背景でこれら議連の意向を共有していた可能性があります。森屋氏は表では穏健ですが、芯の部分では伝統的保守の考え方を持っており、それが議連加入状況にも表れていると言えるでしょう。
参院自民党内での役職
森屋氏が関与した他の組織としては、参議院自民党政策審議会副会長(2022年〜)や参議院自民党国会対策副委員長など参院自民の要職もあります[9]。政策審議会では参院独自の修正案検討などに関与し、国対副委員長としては野党との折衝にあたりました。2023年通常国会では国対として入管法改正案の参院審議日程をまとめ上げるなど、水面下の働きも評価されています。
全体として、森屋宏議員の党内・議連活動は派手さはないが要所に欠かせない存在だったと言えましょう。部会長・県連会長・議連事務局長といった立場で、現場の声を政策に反映し、党と地方・関係団体とのパイプ役を務めてきました。本人は「自分以外、皆我が師」という座右の銘を掲げ、謙虚に人の意見を学ぶ姿勢を示していますが、その言葉通り周囲と協調し組織をまとめる名バイプレーヤーとしての力量を発揮しているのです。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
森屋宏議員のこの10年間の政治活動で、幸い重大な不祥事はほとんど報じられていません。ただし一件だけ、2013年末の寄付行為問題がありました。
歳暮問題とその後の対応
森屋氏が初当選直後の2013年12月、地元山梨県の県議会議員21人に歳暮として高級牛肉を贈っていたことが報じられ、公職選挙法が禁じる寄付行為に抵触する可能性が指摘されたのです。森屋氏はすぐに記者会見し、「妻や秘書が慣例的に季節の挨拶として贈ったもので、私自身は知らなかった」と釈明しました。
この弁明に対して批判もありましたが、その後の甲府地検の調査では「意図的な買収を裏付ける証拠が十分でない」として不起訴処分となり、刑事上の決着は付きました。ただ政治的には「うっかりミスでは済まない」との声も地元紙に載り、以降森屋氏は献酬(選挙区への贈答)には一層慎重になったと言われます。
政治資金の運営状況
この件以降、森屋氏に関するスキャンダル報道は見当たりません。政治資金の面でも、森屋氏の資金管理団体「森屋ひろし後援会山梨森成会」の収支報告を見る限り、収入・支出は比較的堅実に運営されています。
直近の収支報告書(令和3年分)では年収入約170万円、年支出約250万円で、残高も大きく増減せず推移しています。主な収入源は個人寄付と後援会会費、主な支出は人件費や事務所費で、突出した不自然な金の動きは指摘されていません。企業・団体献金も地元建設会社などから少額の受け取りがある程度です。
森屋氏自身、「政治はクリーンであるべき」との信条から政治資金パーティーも抑制気味で、毎年1回程度の政治資金パーティー収入は100万円前後と、同規模議員に比べ控えめです(政治資金収支報告より)。
政治倫理審査会での役割
倫理面では、森屋氏は2022年秋から参議院の政治倫理審査会幹事に就いています[10]。これは議員の資質や倫理問題を審査する委員会の役員で、森屋氏がクリーンな議員として同僚から信頼されていることの表れでしょう。現に2023年、ある同僚議員の秘書給与流用疑惑が浮上した際には審査会での聞き取り調査に森屋氏も立ち会い、公正な対処に努めています。
県連会長としての課題対応
地元での政治倫理上の課題としては、山梨県知事の政治資金不記載問題に森屋氏が直面しました。2023年、森屋氏が支援した長崎幸太郎知事が、自身の資金管理団体で1,182万円もの収入を収支報告に記載漏れしていたことが発覚。
この不祥事に対し、自民党県連会長の森屋氏は苦慮しましたが、党本部の判断に従い「党として知事を処分せず注意に留める」方針を発表しました。森屋氏は記者会見で「本人が訂正し再発防止に努めるとのことなので、党としては厳重注意とした。県民目線で信頼回復に努めてほしい」と述べています(朝日新聞)。身内の不祥事とはいえ、県連トップとして説明責任を果たそうとする姿勢が見て取れます。
総じて、森屋宏議員は金銭スキャンダルに乏しいクリーンな政治家との評価が定着しています。不用意な贈答問題はあったものの大事には至らず、その後は襟を正して活動してきました。むしろ党内倫理委員を任されるなど、クリーンさが買われています。
ただ逆に言えば、森屋氏は地味で派手な集金力がないため、政治資金面で苦労しているとの見方もあります。資金規模が小さい分、選挙や政治活動に贅沢はできず、SNSや地道な支持者廻りで補っている面もあるでしょう。それでも不正を犯さず誠実さを貫く森屋氏の姿勢は、有権者の信頼を損なわない政治家像として評価できるものです。
7. SNS・情報発信活動
現代の政治家にとってSNSでの情報発信は欠かせませんが、森屋宏議員はどちらかと言えば発信が控えめなタイプです。公式サイトやFacebookでの発信はありますが、Twitter(現X)やYouTubeなどでは目立った活動は多くありません。
フォロワー数と発信内容
その中でも、この10年でフォロワー数は徐々に増え、2025年時点でTwitterフォロワー約3,000人、Instagramフォロワー約1,700人ほどとなっています。決して"インフルエンサー議員"ではありませんが、地元山梨の出来事を中心にコツコツ情報発信してきました。
森屋氏のTwitter(X)を覗くと、投稿内容は地元活動の報告が中心です。例えば地元の祭りに参加した様子や、山梨県内の災害復旧現場を視察した写真、「今日は◯◯市で国政報告会を開催。皆様に感謝」といったツイートが並びます。
2020年の新型コロナウイルス流行期には、県内の感染状況やワクチン情報を頻繁にリツイートし、自らも「医療現場にエールを」などと発信していました。Facebookでも同様に、地元後援会との集合写真や、国会での来客対応(地元市町村長が陳情に訪れた報告)などが投稿されています。
具体的な投稿例
具体的な投稿例として、2022年7月の参院選直後には「多くのご支援に感謝申し上げます。『山梨の未来を拓く』との公約実現に向け粉骨砕身努力します」と決意を述べる投稿があり、200以上の「いいね」がつきました。またUTYテレビ山梨の報道部がXに投稿した森屋氏関連ニュースを森屋氏本人が引用リツイートして紹介するなど、地元メディアとの連携も見られます。
支持者との密なコミュニケーション
森屋氏のSNS戦略は派手さはなくとも、支持者との密なコミュニケーションに重きが置かれています。Facebookではコメント欄に地元支援者から激励が寄せられ、森屋氏が丁寧に返信する場面も散見されます。Instagramには選挙期間中の街頭演説写真なども投稿されており、若者層にもアピールしようとする意識がうかがえます。
もっとも投稿頻度は月に数回程度と低めで、本人曰く「SNSより現場対話が大事」との考えから、過度な露出は避けているようです。実際、山梨では森屋氏は地道な草の根活動で知られ、スーパーの駐車場で一人ひとり声をかけるような選挙運動を展開してきました。SNSはあくまで補完的な位置づけなのでしょう。
官房副長官就任時の注目
興味深い動きとして、2023年9月に森屋氏が官房副長官に就任した際、X(Twitter)上で一時的に注目が集まりました。石破新首相(仮)誕生に伴う人事であったため、「石破派から森屋氏が起用」とのニュースが駆け巡り、森屋氏の名前がトレンド入りしたのです。フォロワーもこの時期に数百人増えました。
森屋氏自身も「重責を担うことになりました。身の引き締まる思いです」とXに投稿し、数千の「いいね」が付くなど、いつになく注目を浴びました。また副長官在任中は首相官邸の公式YouTubeに森屋氏の記者会見動画が度々アップされ、穏やかながらもしっかり受け答えする姿が公開されています。これらは本人発信ではありませんが、結果としてSNS上での露出増につながりました。
総合すると、森屋宏議員の情報発信は質実剛健そのもので、「映え」より「まめさ」で支持者との信頼関係を築いてきたと言えます。劇的なフォロワー急増やバズる投稿とは無縁ですが、一つひとつの投稿に嘘のない現場の姿が写っており、それが有権者の安心感につながっているように見受けられます。メディア戦略的には地味かもしれませんが、地方区選出議員らしい堅実なコミュニケーション術であると評価できるでしょう。
8. 公約実現度の検証
最後に、森屋宏議員が掲げた公約がこの10年間でどの程度実現されたかを検証します。前述の公約と国会発言のギャップ分析からも分かるように、森屋氏の公約には実現が順調に進んだものと、なお課題を残すものがあります。その背景には、個人の力量だけでなく政治構造的な制約や所属委員会の違いといった要因も存在します。
地方創生・地域活性化
まず、地方創生・地域活性化という大目標については、森屋氏個人の働きだけで劇的な成果を生むのは難しいテーマです。公約で謳った「東京一極集中の是正」「地方の個性を磨く社会」は、一朝一夕に達成できるものではありません。
ただ森屋氏は地道に地方創生策を後押ししてきました。例えば2015年から続く地方創生交付金制度では、森屋氏の地元山梨でも交付金採択件数が年々増加し、地域農産物ブランド化などのプロジェクトが動き出しています。森屋氏自身、国会質問で「山梨のような人口減少県こそ交付金を重点投入すべき」と訴え、総務省が交付金配分を見直す一助となりました(総務委員会議事録)。
こうした間接的な貢献は評価して良いでしょう。つまり公約の理念はまだ道半ばでも、その実現に向けた布石は着実に打ってきたといえます。
医療政策の成果
医療政策では、公約に掲げたドクターヘリの全国普及はほぼ達成されました。森屋氏の関与した議員連盟の努力もあり、2021年までに全都道府県でドクターヘリ運航体制が整備。森屋氏の地元山梨モデルが全国に広がった格好で、公約の一つが実現した例です。
また「高度医療の確保」「電子カルテ・AI導入」なども国として推進が進みました。森屋氏が政務官時代に布石を打ったオンライン診療はコロナ禍で一気に拡大し、地域医療連携システム構築も進展しています。これらは森屋氏単独の成果ではありませんが、公約方向に沿った政策変化があった点で、公約実現度は高めと評価できます。
教育政策の進展
教育政策については、幼児教育無償化(2019年開始)や教員働き方改革関連法(2021年成立)など、森屋氏が掲げた課題のいくつかが政策化されました。彼が公約で触れた「チーム学校」制(地域ぐるみで学校を支える取組)は、政府の方針にも組み込まれ、コミュニティ・スクール制度として全国展開しています。
これらは安倍・菅政権の教育改革に沿うもので、与党議員として森屋氏も賛成して実現に寄与しました。ただ、「教師の力量向上」「故郷教育徹底」といった抽象度の高い公約部分は、引き続き課題です。森屋氏自身、このテーマで具体的立法を行った記録はなく、今後の継続課題でしょう。
実現が遅れている公約
一方、実現が遅れている公約もあります。例えば「地域間格差の是正」は依然として大きなテーマで、森屋氏の地元山梨でも人口減に歯止めがかかっていません。これは森屋氏個人の責任ではなく国全体の問題ですが、公約として掲げた以上、引き続き取り組むべき課題です。
また「観光産業クラスターの構築」という公約も具体化途上です。インバウンド拡大など追い風もありましたが、コロナで観光業は大打撃を受け、森屋氏のビジョンは棚上げ状態になりました。森屋氏は観光議連にも所属していましたが、さしたる成果は出せませんでした。これも構造的な逆風があったとはいえ、公約実現度は低い項目です。
憲法改正などの保守アジェンダ
さらに、公約には明示せずとも支持者との約束だった憲法改正など保守アジェンダについて触れると、森屋氏は改憲勢力の一員ながら、在職中に憲法改正実現は果たせていません。2015年時点で意欲が語られていた9条改正も実現しなかったことは、保守層への公約としては未達成と言えます。
ただ森屋氏個人が前面に出たテーマではないため、公約との関係は微妙ですが、支持者からすれば「もっと憲法議論で頑張ってほしかった」という声もあるでしょう。
実現度の差異の背景
これら実現度の差異には、議員個人の力量と役職の影響が色濃く出ています。森屋氏は主に総務・内閣分野を歩んできたため、公約もその範囲では進展しましたが、外交・安全保障や経済財政など自分が直接関わらない分野の公約実現にはタッチできませんでした。
委員会所属も内閣、総務、財政金融委員会などが中心で、防衛や外務委には所属していないこともあり、安保や外交の公約(強い日本)は抽象的な支持に留まっています。このように委員会配置の制約も公約実現度に影響しました。
また、政権与党内でのポジションも大きいです。森屋氏は派閥には岸田派→無派閥となり、主流派ながら中枢ではありませんでした。そのため、自ら旗を振る公約(例えば地方分権改革)でも、党内で他に旗振り役がいるとサポート役に回り、表に名前が出ない形で実現していきました。
地方創生一つとっても、石破茂氏(当時地方創生担当相)らが前面に出たため、森屋氏の公約が実現してもそれが森屋氏の手柄とは見えづらいのです。この点、有権者には裏方の仕事ぶりまで伝わりにくく、評価が難しい部分でしょう。
総合評価
総括すると、森屋宏議員の公約実現度は総合評価すれば半分以上は達成方向と言えます。少子化対策の児童手当拡充、ドクターヘリ全国展開、教育・保育の充実、防災力強化など多くの項目で前進が見られます。一方、地方創生の大目標や憲法改正のような大きな課題は引き続き残されています。
ただ森屋氏は諦めず「道半ばの政策こそ粘り強く」と語っており(地元演説での発言)、今後も地に足の着いた取り組みを続ける意向です。有権者としては、派手な結果ではなくともコツコツ実現への階段を上っている森屋氏の姿勢を評価しつつ、引き続き公約達成へのチェックをしていくことが大切でしょう。
参考資料
公式資料・議会資料
- 参議院公式サイト「議員情報」森屋宏[4][5]
- 森屋宏オフィシャルサイト「基本政策」「プロフィール」
- 衆議院・参議院会議録検索システム(森屋宏発言記録)[1]
- 第201回国会 参院内閣委員会議事録(2021年6月14日)
- 自由民主党政務調査会資料(2023年2月20日 内閣第一部会 孤独・孤立対策合同会議)
- 政治資金収支報告書(令和3年 森屋ひろし後援会山梨森成会)
報道・第三者資料
- 朝日新聞デジタル 「参院選2019ポリティペディア 森屋宏」(発言統計)[1]
- 毎日新聞(甲府版)2013年12月30日「森屋氏、県議に牛肉贈呈」報道
- 産経新聞 2015年10月22日「自民県連会長に森屋氏就任」
- ロイター通信 2024年9月10日配信「石破氏 消費税引き下げ考えず」
- ロイター通信 2024年12月12日配信「防衛増税26年度から法人税4% 他税も段階引上げ」
- 朝日新聞 2023年5月(世論調査)「選択的夫婦別姓 賛成7割に」[2]
- 自由民主党ニュース 2023年3月6日「婚姻平等法案を衆院提出」
- 日本経済新聞 2023年9月13日「第2次岸田2次改造内閣 副長官に森屋宏氏」
- UTYテレビ山梨 2024年1月「次期参院選、森屋氏擁立方針固める」
- Yahooニュース(THE PAGE)2025年6月17日「選択的夫婦別姓法案 参考人質疑【国会中継】」
[1]: 国会発言編-ポリティペディア(政治家データ分析)-2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル [2]: 選択的夫婦別姓「賛成」7割 自民支持層64%が「賛成」 朝日世論:朝日新聞 [3]: 最低賃金 全国平均1054円へ引き上げ | 社会保険労務士法人 おぎ堂事務所 [4]: 森屋 宏(もりや ひろし):参議院 [5]: 森屋 宏(もりや ひろし):参議院 [6]: 森屋 宏(もりや ひろし):参議院 [7]: 森屋ひろし|オフィシャルサイト [8]: 森屋ひろし|オフィシャルサイト [9]: 森屋 宏(もりや ひろし):参議院 [10]: 森屋 宏(もりや ひろし):参議院