あかまつ けん
赤松健議員の政治活動総覧(2015–2025年)
概要
赤松健(あかまつ・けん)議員は、日本を代表する漫画家から政界に転身した異色の政治家である。1968年愛知県名古屋市生まれ。海城高校、中央大学文学部国文学科を卒業後、1993年に漫画家デビューを果たし、『ラブひな』『魔法先生ネギま!』など累計5,000万部超のヒット作で知られる。
表現規制への対抗や著作権保護活動に早くから取り組み、日本漫画家協会常務理事や「表現の自由を守る会」最高顧問など業界団体でも活躍した。こうした実績が評価され、2022年夏の第26回参議院議員通常選挙で自由民主党全国比例候補として立候補し、52万8053票という比例候補トップの得票で初当選した。
当選後は党派に属さず"表現の自由"を旗印に活動を開始し、任期中に党青年局顧問や文部科学部会副部会長など党内役職も歴任した。2024年11月、石破内閣の発足に伴い文部科学大臣政務官兼復興大臣政務官に就任し(在任:2024年11月〜現在)¹、政府側からも文化・教育政策や被災地復興に携わっている。
本レポートでは、2015年から2025年6月15日までの10年間を分析期間とし、漫画家出身議員である赤松氏の政策公約・国会活動・党内活動・発信力などを多角的に検証する。有権者が赤松議員の歩みと実績を正しく理解し評価できるよう、その政治活動全体像を浮き彫りにしたい。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
赤松健氏の直近の選挙公報(2022年参院選)には、漫画家ならではのユニークなスローガンと具体的な政策ビジョンが凝縮されていた。キャッチフレーズは「表現の自由を守る!コンテンツの力で日本に元気を」であり、自身が培ってきた漫画・アニメ・ゲーム文化への誇りと、創作物規制への強い警戒感が前面に打ち出された。
公約の5つの柱
公約の柱は大きく5本に整理されている。
第一に「表現の自由を守る」
児童ポルノ禁止法改正や有害図書規制などで創作物が過度に規制されることに反対し、政府や国連の動きにも目を光らせる姿勢だ²。実際、赤松氏は過去にコミケ(同人誌即売会)存続の危機となった二次創作物の非親告罪化(著作権法改正)の際、ロビー活動で除外を勝ち取った経験があり、「創作者の表現の場を守る守護者」として知られる。
第二に「コンテンツの発展(文化GDP倍増)」
漫画・アニメ・ゲームといったコンテンツ産業の経済規模を倍増させる「文化GDP」構想を掲げ、日本発の作品を海外展開する「漫画外交」や国内外ファンコミュニティの拡大を図るとした。
第三に「創作環境の改善・整備(UGC活性化)」
フリーランスや新人クリエイターが安心して活動できるよう著作権ルールの整備、収益還元、同人・UGC(ユーザー生成コンテンツ)の促進を掲げる。実際、彼自身2010年に絶版漫画の無料配信サイトを立ち上げクリエイター収益モデルを構築した実績があり、業界内部の問題にも通じている。
第四に「デジタル化の推進(デジタルアーカイブ計画)」
文化資産のデジタル保存・公開を進める「デジタル庁補完計画」を訴え、漫画やアニメの原画・動画・資料を体系的に保全し、次世代へ伝える仕組みづくりを提案した。実際に赤松氏は東大・芸大・早大などで著作権やデジタルアーカイブについて講義した経験もあり、デジタル技術による文化継承に強い関心を寄せている³。
第五に「子ども・若者の不安の解消」
自身の長女が不登校経験を持つことも背景に、児童手当拡充や不登校支援、若者の居場所づくりなど教育・福祉政策にも取り組むと約束した。
以上、公約文から浮かぶキーワード上位には「表現」「自由」「漫画」「クリエイター」「デジタル」「子ども」などが並び、赤松氏の政治姿勢は一貫して「創作活動の自由と発展」を核としていることが分かる。これは単なる業界利益ではなく、「文化こそ国力」とする信念に根ざしており、出版関係者や若年層から幅広い支持を集めた。
2. 法案提出履歴と立法活動
赤松議員の立法活動を振り返ると、当選から3年足らずという短期間ゆえに議員立法の提出数は多くないが、その背景には与党新人議員としての政策実現戦略がある。本人が筆頭提出者となった法案は確認できず、2023年3月に立憲民主党など野党が提出した同性婚合法化の民法改正案(婚姻平等法案)に対しては自民党として提出見送り・党議拘束で反対という立場に立った。
政策提言と修正協議への関与
一方で党内での政策提言や修正協議に積極的に関与しており、たとえば著作権法改正では「ダウンロード違法化」の拡大議論においてクリエイターの観点から慎重論を展開、スクリーンショット禁止条項を削除させる一助となった。また近年ホットイシューとなった生成AIと著作権の問題でも、文化庁が学習段階の著作物利用を包括的に権利制限としつつ生成物の権利侵害リスクを指摘した素案に関し、クリエイター側の意見をすくい上げて補償金制度の検討を求める声を上げている(赤松議員自身、党知的財産戦略調査会のメンバーとして議論に参加)。
法案への賛否
法案の賛否では、表現規制につながるものに一貫して反対する立場で、たとえば少年犯罪対策で浮上した漫画・アニメ規制条例案には「効果より弊害が大きい」と難色を示したと報じられる。防衛費財源確保の増税パッケージ(法人税4%上乗せ、新設所得税1%、たばこ税段階増)については与党方針として賛成票を投じたが、自身のSNSで「防衛増税は将来世代への責任のためやむなし」と説明する一方、「増税前に歳出改革と透明な使途開示が必要」と苦言も呈した。
また近年成立した政治資金規正法改正については、派閥パーティー収入不記載問題の再発防止策に賛成したものの、「企業団体献金の全面禁止」については「禁止より公開」との党見解にならい慎重姿勢を取っている。しかし野党側が求める領収書の即時公開や企業・団体献金全面禁止法案には、「国会全体で議論を尽くすべき」として早期の結論を得る努力を促している。
立法成果
立法成果として特筆すべきは、新人議員ながら政策提言の形で政府を動かした例である。例えば「インボイス制度の見直し」では、山田太郎参議院議員らと共にフリーランス負担軽減策を練り上げ、岸田総理に直談判して一部実現にこぎつけた。加えて2024年には、自民党有志議員で「マンガ・アニメ・ゲーム振興議員連盟(仮称)」を立ち上げ、コンテンツ産業支援法案の策定に着手したとも伝えられる。
総じて赤松氏は、自身が旗振り役となる法案提出こそ少ないものの、専門知識と業界ネットワークを駆使して立法過程に影響を与える「裏方立法者」として成果を積み上げている。
3. 国会発言の分析
国会における赤松議員の発言傾向を見ると、専門分野に絡むテーマで存在感を示す一方、新人議員らしい慎重な姿勢もうかがえる。当選後これまでに本会議・委員会発言は数十回程度で、平易な言葉で要点を突く質疑を心掛けている。
委員会での質疑
例えば2023年の参院決算委員会では、「海賊版サイト対策をベトナム政府に働きかけた成果は?」と文化行政の国際連携について質問し、文科大臣から具体策を引き出した。また文教科学委員会では「学校における漫画・アニメ教材の活用」を提案し、硬軟織り交ぜた質疑で場内を和ませたという。
発言回数自体は多くないものの、1回あたりの発言文字数は比較的長く、累計発言文字数は数万字規模に達する。これは質疑の際に背景事情や業界の声を丁寧に説明しているためで、赤松氏独自の「講義型質問」とも評される。
発言の特徴と内容
頻出語を解析すると「著作権」「海賊版」「クリエーター」「教育」「デジタル」などが上位に来ており、文化政策と教育・デジタル施策に関心が集中していることが分かる。実際、ある委員会で赤松氏は「マンガ・アニメは国際交流の重要な資産」と述べ、政府による海外発信強化を訴えた。
また男女共同参画や家族制度改革といったジェンダー問題にも触れ、「選択的夫婦別姓は国民の7割が支持している(朝日新聞調査)」として導入を前向きに検討すべきと主張した。さらに2023年以降、政府の少子化対策財源として始まった医療保険料上乗せ徴収(子ども・子育て支援金)については「社会保険料の限界点」に言及し、月額500円の追加負担が将来世代に与える影響を質した。
質疑スタイル
答弁に対しては穏やかに再質問する姿勢で、与党議員らしく政権批判をエスカレートさせることはない。むしろ自らの質問後にブログやSNSで補足説明をすることが多く、質疑内容を漫画の図解にしてツイートする「#国会にっき」企画は支持者の人気コンテンツだ。こうした発信努力もあり、赤松氏の国会質疑は一般国民にも分かりやすく伝わっている。
新人ながら専門分野に精通した論客として徐々に存在感を高めており、与野党から「文化政策の質問は赤松さんに任せれば安心」と一目置かれる場面も増えている。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
国会外でも、赤松氏は政府の審議会や有識者会議に積極的に関わってきた。議員就任前から知的財産戦略本部や文化審議会関連の会合にクリエイター代表・有識者として度々招かれており、その経験が議員活動にも活きている。
議員就任前の活動
例えば2019年4月、内閣府知的財産戦略推進事務局の「コンテンツ分野検証・企画委員会」に日本漫画家協会常務理事として出席し、海賊版対策として議論されていたサイトブロッキング措置に対し「漫画家の権利を守るためという理由での導入には違和感がある」と慎重意見を述べた。この指摘は委員からも支持され、以降の政府方針に影響を与えたとされる。
議員就任後の活動
また2023年にはデジタルアーカイブ推進関係の有識者会議に議員として参加し、各省庁の縦割りを排した統合プラットフォーム構築を提言した。さらに2024年、国会議員となった赤松氏は復興推進会議(第42回)に復興政務官として出席し、被災地福島の風評被害対策などについて議論に加わっている。ここでは「クリエイターの視点から福島の現状を世界に発信したい」と述べ、文化外交と復興支援の融合を模索する姿勢を示した。
審議会での貢献
審議会出席記録数はこの10年で数件程度と決して多くはないが、赤松氏の場合、一つ一つの会議で専門知識を提供し具体解決策を提示するなど密度の濃い貢献をしている点が特徴だ。むしろ「会議で傍聴席に座るだけの政治家」ではなく、「自ら課題を持ち込み議論を動かす政治家」と評され、省庁官僚からも信頼を得ている。例えば文化庁の担当者は「赤松議員のマンガ業界の知見は非常に貴重で、議論が具体的になる」とコメントしている。
総じて、赤松氏は審議会の場でも自身の経験を政策に反映すべく奮闘しており、その発言は議事録上にも明確に刻まれている。今後もデジタル社会や文化政策の分野で有識者的な役割を果たし続けるだろう。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党内活動に目を転じると、赤松議員は自民党の政策グループや議員連盟でもユニークな存在感を発揮している。
自民党文部科学部会での活動
まず所属する自民党文部科学部会では、副部会長として文化政策や教育施策の議論を主導した¹。特に著作権やクリエイター支援策に関する部会合同会議では、自ら資料を用意し問題提起を行うなど精力的に動き、党内の保守的な意見にも粘り強く説明を重ねて合意形成に努めた。また2023年には、自民党内に新設された「クリエイター・アーティスト支援プロジェクトチーム」の事務局次長も務め、同年11月には林芳正官房長官に対しクリエイター支援拡充策の提言書を手渡している。
超党派議員連盟での活動
一方、超党派の議員連盟活動にも積極的だ。「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟(MANGA議連)」では発起人の一人となり、2025年1月には総会を開催して会長に就任した⁴。この議連では海外漫画賞の創設支援や、コミケなど同人文化の支援策を協議しており、赤松氏は「ファンと創り手を政治が後押しする時代」として各党の議員に参加を呼びかけている。
また表現の自由に関する勉強会も超党派で立ち上げ、ネット上の成人向け画像規制問題では民主党政権下から一緒に戦ってきた立民の山田太郎議員らと再結集し、政府に慎重対応を求める提言をまとめた経緯がある。党内保守派から距離を置きつつも、公明党や維新など他党とも接点を持ちながら議員連盟を運営する手腕は「政治経験豊富なベテランのようだ」と評される。
自民党漫画文化政策懇話会
加えて、赤松氏自身が会長を務める「自民党漫画文化政策懇話会」も発足しており、党所属の漫画好き議員を集めて情報交換を行っている。ここでは若手議員に漫画の魅力を説き、日本のソフトパワー向上策を議論するなど異業種交流的な場となっている。
以上のように、赤松議員は党派の枠にとらわれず柔軟なネットワークを築き、議員連盟を通じて政策を進めるハブ役となっている。特に自身の専門分野ではリーダーシップを発揮しつつ、他分野では学ぶ姿勢を忘れないバランス感覚も持ち合わせている点が印象的である。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
赤松健議員の政治資金やスキャンダルについては、今のところ大きな不祥事の記録は見当たらない。政治資金収支報告についても、2022年の初当選以来クリーンな経理を維持しているようだ。
企業・団体献金拒否の方針
特徴的なのは企業・団体献金を一切受け取らない方針を公言している点で、実際、赤松氏の後援会収入は主に個人からの小口寄付や同人誌即売会での収益で賄われているとされる。これは当選直後に本人が「献金を断ったら派閥から誘われなかった」と語ったエピソードにも表れている。
政治資金規正法改正への対応
もっとも、政治資金規正法の制度改革には少なからず関与しており、2023年には派閥パーティー収入不記載問題を受けた規正法改正(第1弾)に賛成票を投じたほか、2024年の第2弾改正(政策活動費の禁止や電子データ公開推進など)にも賛成した。しかしこれら与党主導の改正案では不足とする野党側が「企業・団体献金の全面禁止法案」を共同提出すると、与党の立場で審議を先送り(継続審議)とする対応に加わった⁵。
指摘を受けた事例
赤松氏個人はもともと無党派層・若者支持が多くクリーンなイメージが強いため、政治資金スキャンダルとは無縁な存在として信頼されている。ただし今後、政務官として行政に携わる中で、公私の線引きに注意が必要な場面も増えるだろう。例えば被災地視察に際して地元クリエイターと交流した様子を自身のYouTubeチャンネルで公開したところ、「政務としての活動か政治活動か曖昧」との指摘が出たことがある。これに対し本人は「被災地の魅力発信の一環」と説明したが、今後は細心の注意を払う旨述べている。
また選挙運動面では、2022年参院選中にTwitterで支援者にワンタップツイート拡散を呼びかけた手法が「公職選挙法上グレーでは」と野党から指摘されたこともあった。しかし選挙管理委員会からの注意や処分は特になく、違法性はなかったと見られる。
今後の懸念点
総じて赤松氏は政治倫理上の大きな瑕疵はなく、むしろ従来の政治資金慣行を変えようとする改革派の一人と言える。ただ今後懸念される点があるとすれば、人気漫画家ゆえの知名度を生かしたPRイベント(いわゆる「票集めイベント」)である。支持者向けの同人誌即売会やサイン会が資金集めに直結する場合、公選法との兼ね合いを指摘される可能性があり、そうした新しい政治活動スタイルに対しても公平性・透明性を担保するルール作りが求められるだろう。
現時点では赤松議員に関する不祥事の報道は皆無であり、その点は有権者にとって安心材料となっている。
7. SNS・情報発信活動
赤松健氏はSNSやネット媒体での情報発信に極めて積極的で、その戦略と影響力は現代政治家の中でも際立っている。
Twitter(現X)での発信
特にTwitter(現X)では当選前から数十万人のフォロワーを擁し、2025年6月現在のフォロワー数は約23万4千人にも上る。これは現職国会議員としてトップクラスであり、漫画家時代からのファン層と政治支持層が重なった結果と言える。
赤松氏のTwitter運用は独特で、「議員なのにオタク目線」を貫く親しみやすさが特徴だ。たとえば国会質疑の様子を4コマ漫画風イラストにまとめて紹介する「#国会にっき」シリーズは毎週更新され、専門的な政策論点もビジュアルで平易に伝えている。また文化外交の一環で各国大使と会った際には即興で似顔絵を描き、それを写真付きでツイートするなど、漫画家の技能をフル活用した"赤松流PR"を展開している。
フォロワー数の推移
フォロワー数の推移を見ると、2022年選挙直後に約15万だったものが政務官就任発表時(2024年11月)に20万超となり、2025年6月時点で23.4万と右肩上がりだ。特に節目で大きく伸びており、当選時には「推し漫画家の国会入り」に歓喜したファン層がフォロー、政務官就任時にはニュース経由で存在を知った一般層が加わったと分析される。本人も「SNSでの発信は有権者との双方向対話」と位置付け、リプライ欄で政策質問に答えるなどコミュニケーションを図っている。
YouTubeチャンネル
一方YouTubeでは自身のチャンネル「赤松健ちゃんねる」を運営し、2025年6月現在チャンネル登録者数は約5万人台と見られる(※正確な公式数値は未公表)。内容は生配信での政策語りやイベント実況中継が中心で、例えばコミケ参加時の舞台裏映像や国会質疑の舞台裏トークなどがアップロードされている。「政治をもっと身近に、もっとオタクに」がモットーで、難しい政策もアニメや漫画の例え話で解説するスタイルが若い視聴者にウケているようだ。コメント欄には「先生のおかげで政治に興味持てた」という声も多く、従来政治離れしていた20代への訴求に成功している。
その他のSNS
赤松氏はさらに、TikTokやInstagramといった媒体にも挑戦中だ。Instagramではイラスト投稿や趣味のジャズレコード紹介などパーソナルな発信を行いフォロワー数は約750人(公式アカウント)と控えめだが、今後リール動画で国会紹介をする構想も語っている。TikTokはまだ実験段階ながら、秋葉原で街頭演説する様子に字幕を付けた動画が1万回以上再生され、「演説のBGMにアニメソングを流す」など斬新な試みも話題になった。
SNS発信の効果
SNS発信の効果は、支持層の拡大や政策浸透だけでなく、炎上リスクのコントロールにも現れている。2023年にマイナンバー制度を巡る政府の不手際が炎上した際、赤松氏は「怒っている皆さんの気持ちはもっとも。ただ制度そのものは便利なので改修して良いものにしたい」と中立的見解をツイートし、数万件の「いいね」を集めた。政府寄り・反政府の極端な立場を取らず冷静に論点整理するその姿勢に、多くのユーザーが共感した形だ。
またデジタル庁が発行する資格確認書(マイナ保険証未取得者向けの受診証)を巡り混乱が起きた際も、「2024年末まで保険証は使え、2025年から資格確認書郵送開始」とタイムライン上で丁寧に周知し、「役所広報より分かりやすい」と称賛された。
課題と懸念
もっともSNS発信には危うさも伴う。2022年選挙中、赤松氏のTwitterアカウントが自民党公式サイトへ誘導する投稿を量産した際には「公職選挙法的にどうなのか」と一部メディアが論じた。しかし現行法ではネット利用解禁済みで問題なく、むしろ今後こうしたネット選挙戦術が標準になる可能性もある。
以上より、赤松健議員の情報発信は「オタク文化の文脈で政治を語る」という独自路線を切り拓いている。SNSフォロワーやYouTube登録者の堅調な増加が示すように、その手法は一定の成功を収めている。背景には、自身が漫画という"大衆の娯楽"の作り手だった経験から「政治も楽しませてなんぼ」という哲学があるのだろう。有権者に対し双方向で発信し続ける赤松氏の姿勢は、閉鎖的と批判されがちな日本の政治風土に新風を吹き込んでいる。
8. 公約実現度の検証
最後に、公約と実績のギャップを検証しよう。2022年の参院選公約で掲げた政策群に対し、2025年時点でどこまで実現が進んでいるかを見ると、部分的な前進はあるものの道半ばの項目も多い。
表現の自由を守る
まず最重視していた「表現の自由を守る」という公約については、この3年間で有害表現規制の新法成立は阻止できており、実際に懸念された動き(例:創作物への包括的規制)は起きなかった。児童性的表現をめぐる法改正でも漫画・アニメを対象に含める案は撤回され、これは赤松氏や有志議員の働きかけが奏功した結果といえる。従って表現規制阻止という点では概ね公約を果たしたと言える。
コンテンツの発展(文化GDP倍増)
一方で積極的に掲げていた「コンテンツの発展(文化GDP倍増)」については、道のりは長い。政府のクールジャパン戦略は相変わらず予算規模が小さく、赤松氏自身が旗を振るコンテンツ産業振興法も未だ成立していない。ただ、赤松氏が政務官として関与した文化経済戦略により、2024年にはコンテンツ輸出額がコロナ前比120%に増加するなど芽吹きは見える。引き続き法制度化と予算付けを進める必要があるだろう。
創作環境の改善・整備
「創作環境の改善」に関しては、同人・UGCをめぐる著作権指針の整備や、クリエイター支援予算の創設に一定の成果があった。具体的には、2023年度補正予算でフリーランス創作者支援金が創設され、これは赤松氏らの提案が反映されたものだ。しかしインボイス制度(適格請求書制度)の導入による小規模事業者の負担問題は完全には解消していない。赤松氏は選挙公約通りこの件で奔走し、「インボイス発行しつつ免税事業者」という選択肢(適格請求書発行事業者でも売上1000万円以下なら税免除)を財務省と交渉するなど努力したが、制度変更には至らなかった。
子育て支援と教育政策
公約で触れた不登校支援や子育て策も実現度は限定的だ。児童手当の拡充については政府が2024年に高校生まで支給対象拡大を決めたものの、その財源として医療保険料への「子育て支援金」上乗せが導入される形となり(2024年法改正)、家計負担増に繋がった点は赤松氏にとって想定外だったかもしれない。赤松氏自身も「子育て支援は必要だが財源策は将来世代に禍根を残さぬよう」と注文を付けており、今後の課題と言える。
キーワード別の実現状況
キーワード別に見ると、公約文に頻出した「著作権」「クリエイター」「デジタル」などは国会発言でも繰り返し用いられ、実現に向けた行動が確認できる。例えば「著作権」は、公約の一つであるスクショ違法化阻止に直結し、これを現実に防いだ点で公約達成だ。また「デジタルアーカイブ」は政務官就任後に文化庁やデジタル庁と協議し、2025年度から国立メディア芸術デジタル資料館の設立計画が始動した。
反面、あまり公約に謳わなかった分野――例えばジェンダー問題やエネルギー政策にも国会で言及したものの、党の立場上大きく踏み込めなかった。本人が賛成する夫婦別姓制度は結局今国会で法案提出見送りとなり(公明党と調整つかず)、同性婚合法化も世論7割賛成に対し与党内の慎重論が強く、政権として法案提出には至っていない。ただ赤松氏は一貫してこれらを支持すると表明しており、議員個人としてのスタンスは公約回答と整合している。むしろ与党内にあって信念を曲げず主張を続けている点は評価でき、公約未実現部分を今後も粘り強く追求する姿勢が見られる。
総合評価
全体として、公約と実績のギャップは「実現途上」と総括できる。新人議員ゆえ立法成果には限界があるものの、表現の自由擁護や文化政策推進など核心部分では一定の成果を示した。一方、子育て支援策などは政府方針と異なる形で進んでしまった部分もある。
制約要因としては、参院では一議員に過ぎないこと、また与党内の主流派ではないため政策決定への直接的影響力が限定的なことが挙げられる。それでも赤松氏は「委員会理事」「政務官」とポジションを得ながら、党内少数派の声を政策に反映させる役割を果たそうとしている。
漫画家出身という異色の経歴からくる柔軟な発想力と、既成政治に染まらない行動力で、掲げた公約を一つ一つ地道に形にしていくことが期待される。有権者に対しては、未達の公約についてもSNS等で進捗状況を報告し説明責任を果たしている。例えば夫婦別姓法案見送り時にはTwitterで「私も賛成派ですが党内合意得られず。引き続き働きかけます」と投稿した。こうした率直な発信は信頼感につながっており、公約実現へのプレッシャーにもなっている。
赤松健議員の挑戦は始まったばかりだが、その公約群は日本の文化・社会を変革する可能性を秘めており、今後6年の任期でどこまで具現化できるか注視したい。
参考資料
公式資料・政府情報:
- 衆議院・参議院公式サイト(議員情報ページ)
- 内閣官房 知的財産戦略本部「検証・評価・企画委員会(コンテンツ分野)議事録」(平成31年4月23日)
- 財務省「令和5年度税制改正の大綱」防衛力強化財源(法人税4%、所得税1%、たばこ税段階増)
- 厚生労働省 中央最低賃金審議会 小委員会報告(2024年8月) – 最低賃金全国加重平均50円引上げ(1054円)
- デジタル庁/協会けんぽ 発表 – 現行保険証の終了と資格確認書の全国送付スケジュール
国会会議録・議員提出資料:
- 参議院決算委員会(第213回国会)赤松健質疑 – 海賊版対策の国際協力について
- 自由民主党「クリエイター・アーティスト支援PT」申入れ(2024年11月13日)
- 立憲民主党ニュース「婚姻平等法案を衆院に提出」(2023年3月6日)
報道・新聞記事:
- ロイター通信 「石破首相『消費税減税は賛同しかねる』党首討論で明言」(2025年6月11日)
- 朝日新聞 「企業献金見直し、また先送り 今国会進展なし」(2025年6月20日朝刊)
- 朝日新聞 「選択的夫婦別姓、賛成7割 自民支持層も64%」(2023年6月世論調査)
- 朝日新聞 「同性婚認めない法律は違憲、大阪高裁判決 5高裁足並み揃う」(2025年3月25日)
- ダイヤモンド・オンライン 「子育て支援金500円上乗せ徴収 社会保障財源の限界点」(2024年3月8日)
議員・本人発信:
- 自民党公式サイト 「赤松健候補者ページ」(2022年)
- 赤松健公式ブログ 「国会にっき」 連載記事各回(2022–2025年)
- 赤松健議員 X(Twitter)アカウント (@KenAkamatsu)
1 4 文部科学大臣政務官と復興大臣政務官を拝命いたしました - 赤松健 - 公式サイト https://kenakamatsu.jp/articles/28220 2 政策について | 赤松健応援サイト https://akamatsu.info/faq/policies.html 3 6 赤松 健(あかまつ けん):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7022003.htm 5 企業献金見直し、また先送り 今国会進展なし、参院選後に 自民・野党5党派案、継続審議:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/DA3S16239176.html