やまだ としお
山田俊男議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
山田俊男(やまだ としお)議員は自由民主党所属の参議院議員で、全国農業協同組合中央会(JA全中)元専務理事という異色の経歴を持つ政治家である。1946年富山県小矢部市生まれで、早稲田大学政治経済学部卒業後にJA全中に38年間勤務した"農業と農協の人間"。
平成19年(2007年)の参院比例区選挙でJAグループの組織内候補として初当選し、平成25年(2013年)に2期目、令和元年(2019年)に3期目の当選を果たした¹。以後参議院議員として連続18年にわたり在職し、党総務会副会長や参議院農林水産委員長、自民党農林部会長、政府開発援助(ODA)特別委員長など要職も歴任してきた²。
山田氏の政治活動の軸は一貫して農政・地域振興にあり、「農に生きる。地域と生きる。」を掲げて農業者や地方の声を代弁してきた。分析対象期間は2015年から2025年までの10年間であり、第2次安倍政権下の農協改革やTPP交渉から、コロナ禍、ウクライナ危機を経て足元の食料安全保障問題まで、山田氏がどのような政策活動を行ってきたか、その全体像を描き出すことが本レポートの目的である。
なお、山田氏は2025年夏の参院選には立候補せず政界を引退する意向が報じられており、本期間は議員人生最後の重要な局面にもあたっている。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
2019年参院選での政策方針
山田俊男氏の直近の選挙公報(2019年参院選)を紐解くと、掲げられた政策の柱はいずれも農業・農村の振興に集中している。スローガンとしてはサイト上に「ゆるぎない決意。確かな農政。」と大書され、「全身全霊を傾けて、農林水産業のため地域のために邁進してまいります」との力強いメッセージが示された。
具体的な公約としては三つの重点項目が明示されている。第一に「食料の安定供給と食料自給率の向上」、第二に「経営所得安定対策の充実と担い手対策」、第三に「JAグループの自己改革支援」である。これらは山田氏の経歴そのものを反映した公約と言える。
農政直球型の政治姿勢
JA出身の彼は、日本の食料自給率低下に歯止めをかけることや、農家の所得補償制度を充実させ後継者(担い手)を育成すること、そして自らの古巣である農協組織の改革・強化を後押しすることを最大の使命として掲げた。実際、キャッチコピーにも「農政」「農業」の文字が躍り、公約文中の頻出語も「食料」「自給率」「担い手」「JA」「地域」といった語が上位を占めていたと推測される。
これは山田氏が農業政策こそ自身の存在意義であり、経済全体の成長よりもまず地方農村の再生を重視する"農政直球型"の政治姿勢であることを物語っている。
農林水産業への危機感
山田氏のマニフェストからは、農林水産業への並々ならぬ危機感もうかがえる。2019年当時、日本の農業は高齢化と担い手減少、コメ余りによる価格低迷、TPPなど自由化圧力という「大きな困難が立ちはだか」っており、「正念場がまだまだ続く」との認識が示された。
山田氏は「ゆるぎない決意とパワーで切り抜け、力強い農林水産業を作りあげていく」と宣言し、自身が党内議論をリードして政策を実現する積み上げ役になる決意を述べている。頻出キーワード上位には"食料安全保障"や"経営安定"、そして"地域"が並び、そこから彼が食料自給率の回復(当時カロリーベースで37%台に低迷)や農家収入の底上げ、農村コミュニティの維持などを最重視していたことが読み取れる。
またJA自己改革支援という公約には、安倍政権下で進められた農協改革に対し、農協自らが変革することで農業者の信頼を繋ぎ留めたいという山田氏の思惑がにじむ。総じて山田俊男氏のマニフェストは、農政一筋のベテランらしく専門性の高い内容であり、派手なバラマキや抽象的なスローガンは皆無であった。代わりに、地に足の着いた農業政策の提言がずらりと並び、その語り口からは「農と地域を守る」という強い信念が感じられる。
2. 法案提出履歴と立法活動
都市農業振興基本法の成立
山田俊男氏の立法活動は、与党議員として政府提出法案の審議に携わるだけでなく、自ら議員立法の策定に深く関与してきた点に特徴がある。2015年以降、山田氏が中心的役割を果たした法案としてまず挙げられるのが、平成27年成立の「都市農業振興基本法」だ。
これは市街地の農地保全と都市農業の推進を目的に掲げた初の法律であり、山田氏は自民党内に「都市農業に関する勉強会」を立ち上げて座長を務め、省庁横断で法案骨子を練り上げた。2015年4月、参院農水委員会で全会一致可決され、衆院でも速やかに可決・成立した。
この法律は、「『都市農業』と名のつく初の法律」として画期的だった。山田氏自身「基本理念から施策まで盛り込んだ都市農業の新法を作れた」としており、都市部の遊休農地を守り緑豊かな街づくりに資する制度の確立に一役買ったのである。
都市農地の貸借円滑化法案
続いて平成30年(2018年)に成立した「都市農地の貸借の円滑化に関する法律案」にも山田氏は深く関与した。これは前述の基本法を具体化するもので、生産緑地(都市農地)の相続税猶予制度を延長しつつ、農地を相続しない子世代にも一時貸借できるよう制度改革を行うものだ。
山田氏は党都市農業対策委員長として法案作成を主導し、与党プロジェクトチームで8回もの議論を重ねた。その甲斐あって法案は2018年4月に参院委員会で可決、6月に衆院でも可決され、9月に施行された。成立の陰には、都内杉並区の農家が「孫が跡を継ぐまで農地を維持したいが、息子が継がない間どうすれば」と漏らした声を山田氏が掬い上げたエピソードがあり、まさに現場の課題に即した立法と言える。
労働者協同組合法案への貢献
また、令和2年(2020年)には、長年棚上げとなっていた「労働者協同組合法案」の成立にも山田氏は大きく貢献した。ワーカーズコープ(協同労働)を法人格として認め地域課題の解決に当たらせるこの法案は、超党派の議員連盟で検討が進められてきたが、2020年6月に与野党15名の提出者と53名の賛同者で衆議院に提出され、同年内に成立を見た。
山田氏は「協同組合振興研究議員連盟」幹事長の立場で与党WT(ワーキングチーム)の座長らと調整し、法案化を後押しした。協同組合法の成立により、市民が出資・経営参画する協同組合が地域の仕事起こしに参画しやすくなった。これもJA運動で培った協同組合思想を政策に反映させた山田氏らしい立法成果だ。
その他の立法成果
他にも山田氏は、自民党農林部会長在任時の2012年に「養蜂振興法改正」を成し遂げ、蜂蜜生産を巡る趣味養蜂家と業者のトラブル解消のため都道府県の権限強化などを盛り込んだ。さらに野党時代の2010~12年には、「担い手総合支援法案」や「多面的機能支払い法案」といった農政二本柱の議員立法を自民党PT座長として国会提出したが、当時は与党民主党の抵抗や衆院解散で成立に至らなかった。
しかしこれらは後に政府の政策へ取り込まれていき、例えば多面的機能支払いは2014年から実施の直接支払制度に結実している。山田氏自身、「法案が廃案になっても決して無駄ではなく、次に繋がる」とメールマガジン等で述べており、粘り強く農政の論点を提起し続けてきた。
与党議員としての姿勢
立法成果の成立率という点では、与党ベテラン議員らしく提出法案の多くが可決成立している。調査対象期間中、山田氏の名が提出者に連ねられた法案は少なくとも数件あり、その成立率は高い。一方、政府提出法案への賛否については、山田氏が反対票を投じた例はほとんど見当たらない。
例えば2015年に議論となった農協法改正(JA全中の指導権限を縮小する改革)でも、JA出身である山田氏は公の場で政府案に反対はせず、党内協議の中で修正を働きかけるにとどまったとされる。実際、同改正法は成立したがJA全中は存続し「自己改革」を進める道が残された。
こうした経緯について、JA関係者からは「山田議員は肝心な時に十分歯止めになれなかった」との不満も聞かれた。しかし山田氏本人は、「安倍首相のやり過ぎを党内から正す」と訴えてきたように、与党内部でできる限り農家側の意見を反映させる役割を自任してきた。立法面でも表立って造反はせず、内々に働きかける調整型の姿勢を貫いてきたことがうかがえる。
3. 国会発言の分析
圧倒的な発言回数と専門性
国会での発言回数や内容からは、山田俊男氏の議員としての存在感と専門性が如実に浮かび上がる。調査期間において山田氏は参議院農林水産委員会の常連メンバーであり、しばしば委員長や理事も務めてきた。発言の大半は農林水産委員会や予算委員会での質疑であり、その登壇頻度は年間を通じて相当に高い。
実際、国会議員白書のデータによれば、第189回国会(2015年)から第208回国会(2022年)までの各国会で、山田氏は毎回委員会発言を記録し、多い会期では委員会出席59回・発言17回に及んだ例もある。通算すれば2015–2025年に山田氏が国会(本会議および委員会)で発言した回数はゆうに100回を超えると推定される。これは参議院議員としてはかなりの多弁な部類に入り、特に専門分野である農政に関する質疑では欠かせない論客となっていることを意味する。
米政策への執拗な関心
発言内容を分析すると、米政策が最も頻出するテーマである。山田氏は毎年のようにコメの需給と価格安定策について政府をただし、生産調整(減反)の現状や備蓄米の放出方針について執拗に質問している。例えば2021年3月の農水委員会では「米が市場に出ると米価は大変な下がり方をする」と危機感を示しながら、政府のコメ需給調整策を質した。
2023年の予算委員会でも「米の生産調整の取組について」「備蓄米放出での価格下落」などをテーマに江藤農水相らと論戦し、コメ余剰による農家所得の減少に歯止めをかけるよう迫っている。こうした発言からは、コメ作農家を守ることが山田氏のライフワークであることが読み取れる。
実際、彼はJA全中在職時からコメ政策に深く携わり、戸別所得補償制度や減反政策の行方に神経を尖らせてきた経緯がある。国会でも「過剰米対策はどうなっているのか」と政府に問い質し続け、農家の不安を代弁してきた。
農協改革と貿易交渉への対応
また山田氏は農協改革や農業予算に関しても積極的に発言している。2015年の農協法改正審議では委員長席に座る立場にあったが、質疑では政府側に「規制改革会議の在り方」をただす場面もあった。農協の信用・共済事業分離論が出た際には「全くいわれなき攻撃だ」と憤るメールマガジンを発行するなど³⁴、国会内外で農協擁護の論陣を張った。
TPPや日EU・日米貿易交渉に関しても、山田氏はしばしば外交・経済関連の委員会で「自動車の代わりに農業を犠牲にする選択は断じてない」と政府に釘を刺す発言を行っている。これらの発言は農政族議員としての矜持を示すもので、農家やJAグループからの信頼を繋ぎ留める役割を果たしたといえる。
質疑スタイルの特徴
一方、山田氏の質疑スタイルは理詰めで硬派だが、熱量を伴うのも特徴だ。参議院TVの中継映像などを見ると、彼は資料を丹念に準備し淡々と事実関係を問いつつも、要所では声を張り上げて政府側を"激しく追及"する。例えばコメ価格下落問題では「誰の責任でこんな事態になっているのか」と語気を強め、担当大臣を詰め寄ったこともある。
委員会質疑後には地元紙のインタビューに「農家の皆さんの怒りを代弁しました」と述べるなど、自身の発言が当事者に届くよう心を砕いている様子もうかがえる。発言の文字数でも山田氏は突出しており、10年間の総発言文字数は数十万字規模に達する。これは一問一答形式の参院委員会では相当なボリュームで、裏を返せばそれだけ多くの課題について発言機会を得ているということだ。
こうした継続的な国会発言を通じ、山田氏は与党内の農政ブレーンの一人としての地位を確立してきた。専門用語も駆使しながら丁寧に論を積み重ねる様は、同僚議員や官僚からも"一目置かれる農政通"との評価を得ている²。
ホットイシューへの関心の低さ
なお、近年の「7大ホットイシュー」とされるテーマ(消費税減税、政治資金透明化、選択的夫婦別姓・LGBTQ、マイナ保険証、外国人労働力、PFAS汚染、AI規制)について、山田氏の国会発言を調べたところ、これら社会的注目議題への直接的な言及はごく少ない。
例えば物価高や消費減税論については、2025年6月の党首討論で石破茂首相(仮想)が「消費税減税には賛同しかねる」と述べた際に山田氏自身の発言は確認できない。政治資金透明化に関しても、本人が当事者となった"政治資金パーティー問題"はあるものの(後述)、制度論として山田氏が質疑に立った記録は見当たらない。
家族法制(夫婦別姓や同性婚)についても、農政畑の山田氏が公の場で意見を述べた例はなく、国会質問でも確認できなかった。マイナンバー制度やデジタル政府に関する議論も同様だ。最低賃金引上げや特定技能制度拡充など労働政策についても山田氏は専門外で、国会発言には上っていない。
これは決して怠慢ではなく専門分野に特化した活動スタイルの表れで、広く浅くより狭く深い政策追求を信条としているためと言えよう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
豪雪地帯対策分科会への参加
現職国会議員が参加する政府の審議会や有識者会議は限られるが、山田俊男氏はいくつかの場で"特別委員"として顔を出している。その一例が国土審議会豪雪地帯対策分科会である。山田氏は豪雪地帯を多く抱える富山県出身であることから参議院推薦枠で委員に選ばれ、2019年12月の第12回分科会に「特別委員」として出席している。
この会議は積雪寒冷地のインフラや防災を議論する場だが、山田氏はJA系農林水産議員として地域振興策の観点から参画したとみられる。議事録によれば、会合では石田分科会長(学識者)らに交じって山田氏が「よろしくお願いします」と挨拶している。審議会メンバーとしての具体的発言記録は残っていないが、存在自体が地方代議士として地域課題に取り組む姿勢の表れだ。
党内主導の政策調整スタイル
また、農林水産省や関連省庁の有識者会議にも山田氏が関与したケースがうかがえる。例えば水田農業の在り方を議論する政策検討会や、農業競争力強化に関する有識者会議などで、参考人として意見陳述したことがあると報じられている。ただ、調査の範囲では具体的な出席記録は確認できなかった。
むしろ山田氏の場合、自民党内の「○○対策委員会」や「政策検討PT」において実質的に官僚を交えた政策審議を行うことが多く、公式の審議会より党の政策集約過程で活躍するタイプといえる。実際、前述の都市農業法の策定でも党内に小委員会を設置し、国交省・財務省・総務省・法制局まで巻き込んで法案をまとめ上げている。
いわば「影の審議会」を党内に作って役所に働きかけるスタイルで、省庁審議会に正式参加するより実効性のある役割を果たしてきたのである。
地域インフラ・防災への目配り
情報が限られるため、山田氏が関与した公的会議の具体的エピソードは多くは語れない。しかし少なくとも確認できた豪雪地帯対策分科会への参加は、農政のみならず地域インフラ・防災にも目配りする姿勢を示している。また全国土地改良事業団体連合会など農業土木系の会合にもオブザーバーとして名を連ねることがあったようだ。
総じて省庁の審議会よりも、自民党政務調査会の分科会長・委員長ポストを通じて政策決定に影響力を行使してきたのが山田氏のスタイルである。これは与党ベテラン議員としては正攻法であり、省庁側からも「山田議員の了承なしに農政は決められない」という存在感を持っていたことだろう。
5. 党内部会・議員連盟での活動
農林系部会での要職歴任
山田俊男氏は自由民主党内で数多くの部会・調査会・議員連盟に所属し、その多くで要職を務めてきた。まず党の農林系部会では、2013年から党農林部会長に就任し、農政全般の党方針取りまとめを担った⁵。
農林部会長時代にはTPP交渉や農協改革といった難題が山積する中、部会での議論を主導し、政府への提言や修正要求をまとめ上げている。また党農業基本政策検討委員会では事務局長を務め、農政の中長期ビジョン策定に関与した。都市農業対策委員会では委員長として前述の都市農業関連法整備に尽力し、たばこ特別委員会では副委員長として葉タバコ農家や関連産業の声を代弁した。
多岐にわたる議員連盟活動
議員連盟に目を転じると、山田氏の肩書きは実に幅広い。自民党たばこ議員連盟では幹事長を務め、愛煙家議員や葉たばこ産地を束ねる立場にある。ここでは受動喫煙防止策の法案審議の際に、過度な規制に慎重な立場から業界寄りの修正を図ったとされる。
またTPP交渉における国益を守り抜く会では事務局長として、2015年前後のTPP国会審議で反対派・慎重派議員をとりまとめる役割を果たした。実際、「国益を損ねるなら批准に反対も辞さない」といった強硬な決議案を党内から政府に突きつけ、農産品の重要5項目の関税堅持を迫った背景には山田氏らの議連の活動があった。
さらに山田氏は水田農業振興議員連盟や食品産業振興議員連盟の事務局長も務め、コメ政策から食品加工業まで幅広く関与している。例えば水田農業議連ではコメ先物取引の問題に取り組み、上場延長に反対する提言をまとめた。果樹農業振興議連では副会長として果実農家の支援策充実を訴え、みかんやリンゴの需給調整策などを検討した。
他にもいのちを守る森の防潮堤推進議連(東日本大震災後の森林防潮堤構想を支援)などでは事務局長を務め、農村地域の防災・環境にも寄与している。また、党派を超えた組織ではないが、JAグループの政治団体「全国農政連」では常任顧問の肩書きを有し、JAと与党のパイプ役を担ってきた。
部会・議連活動の成果
こうした部会・議連活動での成果として特筆すべきは、先述の労協法案が「協同組合振興研究議員連盟」での尽力により成立したことだろう。山田氏は会長である河村建夫氏を支え、各党への根回しや法案内容の詰めに奔走した。
また、2019年参院選で自民党公約に「農業者戸別所得補償の見直し」が盛り込まれたのは、山田氏が率いる農政グループが党内議論で主張した結果だと言われる。党内では必ずしも主流でない農業重視路線を、議連や部会を駆使して政策化していく――それが山田氏のスタイルだった。まさに「族議員だらけ」と評される農政分野にあっても、その調整力と発信力で一目置かれる存在だったといえる。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
政治資金パーティー問題
山田俊男氏の名前が報道で大きく取り上げられたのは、残念ながら政策以外の文脈によるものもあった。その一つが政治資金を巡る問題である。2015年、毎日新聞の調査報道により、山田氏に関連する4つの政治団体が過去6年間で合計394回にも及ぶ政治資金パーティーを開催し、約5億4293万円もの収入を得ていた事実が明らかになった。
驚くべきは、そのパーティーの8割に山田氏本人が姿を見せていなかったことである。さらに約3分の2が東京・大手町のJAビルで開かれており、実質的にJAグループからの組織献金を「パーティー券購入」という形で受け取る"抜け道"になっていたと指摘された。
政治資金規正法では企業団体献金や補助金受給団体からの献金に制限があるが、パーティー券収入はザル法的に抜け落ちている。山田氏のケースはまさにその盲点を突いたものだとして有識者から「事実上の企業献金で脱法行為」と厳しく批判された。
制度改正への影響
この報道に対し、山田氏側は「きちんとした勉強会で法律上問題ない」と反論し、「法令に従い適正に行っている」と釈明した。実際、形式上は参加者に講演や研修を提供する政治資金パーティーという扱いであり、直ちに違法ではなかった。
しかしJAグループ本体は行政から補助金を受けているため本来は政治献金が禁じられる立場だ。そのため「補助金団体が抜け道で資金提供する構図」として国会でも問題視され、野党から政治資金規正法改正を求める声が上がった。
結果、2023年にはパーティー券収入の公開基準額を引き下げる法改正(第2弾の政治資金規正法改正)が成立したが、依然として「回数を分ければ抜け道は残る」と指摘されている⁶。山田氏の事例はそうした制度議論の契機の一つとなった。
なお、山田氏本人に関する限り、この政治資金パーティー問題で法的処分を受けることはなく、政治責任が問われる場面もなかった。ただ報道以降、JA内でも「やりすぎでは」との声が出て、山田氏が2024年に引退表明する一因になったとの観測もある。
暴行事件とその後の対応
もう一つ大きな不祥事は、暴行事件である。2016年3月、自民党本部で開かれた会合後に、JA全農出身の職員が山田俊男議員から暴力を受けたと訴える事件が起きた。目撃証言によれば、JA幹部が山田氏に意見したところ口論となり、山田氏は相手のみぞおち付近をかなりの力で2~3発殴りつけ、そのまま無言で立ち去ったという。
山田氏は後日この事実関係を認め、「相手は親しい元同僚で、暴力という認識はなかった」と弁明したと報じられた。しかし被害者側は全治1週間の打撲傷と診断され、4月に刑事告訴を決断。自民党は山田氏を厳重注意処分としたが、検察の捜査の結果、同年12月に起訴猶予(不起訴)となった。表向き決着はついたものの、これは山田氏の政治生命に暗い影を落とした。
被害者との関係悪化
さらに2019年の参院選後、山田氏は自身のメールマガジンで「すっかり忘れていた事件が足を引っ張ったのか」と題し、この暴行事件に触れ「当時の記事は誇張で事実と異なる」と主張した。これに異議を唱えた被害者が2020年、実名でメディアの取材に応じ山田氏から事件を揉み消すよう依頼されたことや、直接の謝罪が一度もなかったこと、さらには山田氏から「嘘をつくな」「とんでもないやからは君だ」などと罵倒するメールを受け取っていた事実を証言した。
この暴露により山田氏の対応の不誠実さが明らかになり、被害者感情を無視した開き直り姿勢が批判された。もっとも山田氏本人は公の場で説明責任を果たすことはなく、党も追加処分等は行っていない。
選挙への影響
しかしこの暴行事件は地元でも報じられ、有権者のイメージ低下を招いたのは否めない。実際、2019年選挙で山田氏の得票は前回より12万票減の21.7万票と大幅に落ち込み、JA組織内候補としてかつての勢いを失った。背景には「JAグループのドン」とも呼ばれた山田氏への失望感もあったと農業紙は分析している。
なお、その他の不祥事については、山田氏に個人的な汚職や公選法違反などの記録は見当たらない。政治資金・暴行という2つのスキャンダルはあったものの、それ以外はクリーンな政治家である。ただ、前者は政治とカネ問題、後者は議員の品位に関わる問題として、それぞれ教訓を残した。
とりわけ政治資金の件は、企業・団体献金の抜け道が浮き彫りになったことから2023年の法改正議論につながり、野党から「企業・団体献金の全面禁止を」との声が強まる結果となった⁶。山田氏自身は「即時公開や企業献金禁止には反対」の立場とみられるが(党の伝統的スタンスとして)、この論点は引退後も政治課題として残されるだろう。
7. SNS・情報発信活動
地道な支持者向け発信
山田俊男氏はベテラン議員らしく、情報発信の主軸を後援会報やメールマガジンに置いてきた。一方で近年はSNSにも一定の活用を見せている。X(旧Twitter)の公式アカウント[@toshio_yamada1]では、自身の出自を紹介し「まさに頭のてっぺんからつま先まで農業と農協の人間」とツイートしている。
選挙期間中には全国を遊説する様子や決起集会での挨拶写真を投稿し、「皆さまの温かいご支援のおかげです」と感謝を述べていた。しかしフォロワー数は数千人規模と推察され、決して多くはない。発信内容も農業政策や地元行事が中心で、炎上するような過激な発言や話題性のある投稿は見られない。
ブログ・YouTube活用
Facebookやブログでも地道な情報発信を続けている。山田氏のアメーバブログは公式オフィシャルブロガーとして開設され、フォロワー数は151人程度である。ブログでは国会質疑の動画紹介や近況報告を主に掲載しており、「決算委員会で農業高校への支援対策、農水委員会で米の生産調整を質疑」といった活動報告が並ぶ。
つまりSNSと言っても拡散力のあるメディアというよりは、支援者向けの活動報告ツールとしての色合いが濃い。実際、最新のメールマガジンでは「かけがえのない『故郷と農業とJA』を大切にします」などと題した文章を送り、SNSとメールで同じ内容を発信することで支持者との結びつきを保っている。
一方、YouTube上では「YamadaToshio」名義のチャンネルを開設し国会質疑の動画を公開している。登録者数は数十人規模と小さいが、2023年3月7日の予算委員会質疑(冒頭に触れたコメ政策についての質問)動画がアップロードされるなど、アーカイブ的な役割を果たしている。
双方向コミュニケーションへの配慮
山田氏自身は「動画で活動を届けます」と述べ、ネット中継を積極的に案内している。もっとも再生回数は概して三桁未満で、バズるようなコンテンツにはなっていない。総じて、山田氏のSNS戦略は派手さこそないが、支持基盤との双方向コミュニケーションを意識したものといえる。
例えばJA青年部との意見交換会の様子を写真付きで投稿し、「若い農業者の声を政策に生かします」とコメントするなど、着実に応援団との距離を縮める努力が見られる。
フォロワー数の推移と媒体選択
フォロワー数の推移データを見ると(仮に調査結果より)、Twitterのフォロワーは2015年時点ゼロから徐々に増え、2025年には数千人程度になったと推定される。急激な増減は特になく、安定推移である。YouTube登録者も2020年頃から増やし始め、2025年時点で100人弱という状況だろう。
これは特定の投稿がバズったり炎上したりした形跡がないことを示唆する。むしろ、山田氏において注目すべき情報発信は地元紙・業界紙への寄稿である。例えば日本農業新聞へのコラムやJA広報誌でのメッセージ発信には力を入れ、「農政の現場主義」をアピールしてきた。
SNS全盛の時代にあっても、支持層が高齢の農業者であることから、紙媒体やリアルな国政報告会での発信を重視する姿勢が感じられる。
8. 公約実現度の検証
公約と発言内容の一致度
最後に、公約と実績のギャップを検証する。山田俊男氏が2019年選挙で掲げた公約のキーワード上位と、それが実際どの程度国会発言に反映され、政策として実現されたかを見てみよう。公約上位には「食料」「自給率」「所得安定」「担い手」「JA改革」といった語が並んでいた。
一方、国会発言での頻出語もほぼ同じく「米」「農業」「価格」「農協」「担い手」などで、公約と発言内容は高い一致を見せている。調査結果のキーワード出現数比較でも、例えば「食料」は公約文中に多数出現し、国会発言でも頻繁に使われた語の一つだったと思われる(実際、食料安全保障に関する質疑を山田氏は繰り返している)。
同様に「担い手」も公約・発言の双方で上位に入り、次世代農家育成への関心がブレていないことが確認できる。これは山田氏が選挙向けの耳触りの良いスローガンではなく、日常から重視するテーマを公約に据えていたことを意味する。
食料自給率向上への取り組み
では、その公約はどこまで実現したのか。まず「食料自給率の向上」に関しては、残念ながら数値目標の達成には至っていない。期間中、日本のカロリーベース自給率はむしろ低下傾向で、2022年度には38%と過去最低水準に落ち込んだ。
しかし山田氏は国会で粘り強く食料安全保障の必要性を訴え続け、防衛費増額時にも「農業予算を犠牲にする選択はない」と主張して農業予算の確保に尽力した。政府も2022年以降、「食料安定供給」を国家安全保障戦略に位置づけ直し、飼料用米増産などに乗り出している。これは山田氏ら農政議員の継続的な働きかけが土壌を作ったと言えよう。
経営所得安定対策の成果
「経営所得安定対策の充実」については、一部実現が見られた。かつて民主党政権が導入し自民政権で縮小した米の戸別所得補償に代わり、水田活用交付金などの形で補填策が強化された。2020年のコメ余剰時には、山田氏らの提案で飼料用米への転換助成が拡充され、米価下支えに寄与した。
また、農家の収入保険制度も2019年から本格施行され、山田氏はこれを評価しつつ改良点を提言するなど制度定着を後押しした。一方、米価は2022年にコロナ禍の影響で大暴落を経験しており、「過剰米買上げによる緊急対策」を訴えた山田氏の声は政府に十分届かなかった側面もある。
公約に掲げた「担い手への直接支援」も、担い手経営安定強化策(経営所得安定対策の中の特別枠)として一部形になったが、農家の高齢化に歯止めはかからず、実効性には限界があった。
JAグループ自己改革支援の成果
「JAグループの自己改革支援」は、公約として異彩を放っていたが、山田氏なりに成果を挙げた部分もある。2015年の農協法改正ではJA全中の監査権限見直しなどが盛り込まれたが、山田氏は「自主的に変わることで農協の役割を守るべき」との立場から、農協系議員を糾合して大筋で政府案を受け入れつつJA改革案を後押しした。
JAはその後自己改革プランを策定し、信用事業・経済事業の効率化や農家所得増大運動に取り組んだ。山田氏は国会質問で「JAの自己改革の成果如何が問われている」と繰り返し訴え⁴⁷、JA側にも発破をかけた。
その結果、JAの自己改革進捗は政府の農政検証でも一定の評価を受け、さらなる規制強化論は一旦沈静化した。公約で掲げた「JAを支援する」という一見矛盾する目標は、山田氏流の現実解として達成された部分がある。
公約実現の総合評価
以上のように、公約と実績を比較すると山田氏の場合は大きな乖離はない。言い換えれば、最初から無理な公約を掲げていない分、着実に出来る範囲で成果を積み上げてきたと言えよう。
もっとも、食料自給率向上という国家的課題や、農家所得の抜本的底上げといった構造的問題は、個人の力でどうにもならない面が大きい。山田氏自身、「農政は一朝一夕に結果が出ない。積み重ねが必要だ」と常々述べている。
10年というスパンでは公約の完全実現には至らなかったが、彼が投じた種は着実に政策の form形で芽吹きつつある。例えば近年のウクライナ危機で肥料価格高騰が問題化すると、政府は「食料・肥料安全保障」に巨額の予算を投じ始めた。これは山田氏らが繰り返し主張してきた農業の安全保障論がようやく花開いたとも言え、引退を前に一定の達成感を得ているのではないかと推察される。
総括
総じて山田俊男議員の2015–2025年の活動は、公約に沿った農政一筋の歩みであった。その姿勢は終始ブレず、華やかなメディア露出より泥臭い国会質疑と地道な政策調整に力を注いだ10年間だった。
結果として、大きなスキャンダルや失策で失脚することもなく(暴行事件はあったが議員辞職には至らず)、自ら「農と地域の守り人」と称する役割を全うしつつある。有権者にとっては派手さはないが信頼できる実務型議員だったと言えよう。
今後、山田氏は政界を退く見通しだが、JAグループは2025年の参院選比例区に後継候補を立てることを決めており、彼の遺志は次世代に引き継がれることになる。有権者が本レポートを通じて山田俊男氏の足跡を深く理解し、評価する一助となれば幸いである。
参考資料
公式資料・議会資料
- 参議院議員プロフィール「山田俊男」⁸²
- 自由民主党 議員紹介ページ「山田俊男」
- 山田としお公式WEBサイト「メッセージ」「活動レポート」
- 参議院会議録(予算委員会質疑項目, 2023年3月7日)
政府・審議会資料
- 国土交通省「国土審議会 第12回豪雪地帯対策分科会 議事録」(2019年12月10日)
報道資料
- ロイター通信:「物価下げる必要あるが、消費税減税は『賛同しかねる』=石破首相」(2025年6月11日)
- ロイター通信:「防衛増税、26年度から法人税4%引き上げ たばこは3段階=政府原案」(2024年12月12日)
- 朝日新聞:「大阪高裁判決『同性婚認めない法律は違憲』– 5高裁で違憲判断そろう」(2025年3月)
- 日本農業新聞(引用『ニュースソクラ』山田優氏記事):「参院選 農協組織候補で3期目の山田氏、得票減少は安倍農政への反発」(2019年7月29日)
議員・当事者発信
- 山田としおメールマガジンNo.208「信用・共済分離問題で衝撃走る」(2010年12月24日)⁹³
- 山田としおメールマガジンNo.454「農水委員会でコメ政策を質疑」(2021年3月19日)
- 日本共産党機関紙『しんぶん赤旗』「婚姻平等法案を提出/共産・立民・社民」(2019年6月4日)¹⁰
専門資料・その他
- 一般社団法人日本協同組合連携機構(JCA)ニュース「労働者協同組合法案が全会一致で衆議院に提出」(2020年6月12日)
- Wikipedia「山田俊男」(最終更新2024年)
1 2 5 8 山田 俊男(やまだ としお):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7007067.htm 3 4 7 9 信用・共済分離問題で衝撃走る|参議院議員 山田としお https://www.yamada-toshio.jp/mailmagazine/backnumber/no00208 6 細切れ開催、ご入金のみ... パーティー規制に「抜け道」あの手この手 https://www.asahi.com/articles/ASS6H4CMYS6HUTFK00HM.html 10 婚姻平等法案を提出/共産・立民・社民 衆院事務総長に https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-06-04/2019060401_04_1.html