やまぐち かずゆき
山口和之議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
山口和之(やまぐち かずゆき)議員は福島県出身の政治家で、理学療法士という医療専門職の経歴を持つ異色の国会議員である。1956年生まれ(現在69歳)で、高校まで水泳選手として活躍し、東京国際大学と東京衛生学園専門学校リハビリテーション科を卒業後、理学療法士・介護支援専門員(ケアマネージャー)として長年医療現場に従事した^1。
日本理学療法士協会東北ブロック会長や理事など業界団体の要職を歴任し、地域医療とリハビリの現場から国政を志した経歴を持つ^2。2009年、第45回衆議院議員総選挙で民主党から比例東北ブロックにて初当選し国政に進出^1。しかし2012年末の政権交代で議席を失った。
その後、2013年の第23回参議院議員通常選挙では新党から比例区で立候補して当選し、参議院議員に転身した^3。以降、参議院で厚生労働委員会や東日本大震災復興特別委員会など医療・福祉や復興関連の委員会委員を務め、専門知識を活かして活動した^4。
在職中に所属政党の離合集散も経験し、民主党からみんなの党、さらに「日本を元気にする会」や無所属を経て、最終的に保守改革路線の日本維新の会に合流した^5。2019年に任期満了でいったん議席を離れるが、2022年の参院選で維新公認で比例出馬し次点となり、2024年10月に党内繰上当選で参議院に復帰した(通算当選2回)^2 ^6。
本レポートでは、2015年から2025年6月までの約10年間にわたる山口議員の政治活動を、公開情報に基づき多角的に分析する。有権者が山口議員の歩みと現在のスタンスを深く理解できるよう、選挙公約の検証から議会での言動、政策分野での取り組み、情報発信まで網羅的にまとめることを目的とする。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
山口和之議員の最新の公約として注目すべきは、2022年7月の第26回参議院選挙における選挙公報・マニフェストである。理学療法士として「誰一人取り残さない社会の実現」を掲げる山口氏は、この選挙でも一貫して医療・介護・リハビリの充実を柱に据えた^7 ^8。
公報に大きく謳われたスローガンは「いのち輝く未来のために」であり、高齢者から障がい者、子どもまで安心して暮らせる福祉社会を目指す決意が示された。
具体的な政策項目
- 地域医療の強化:医師・看護師不足の解消、病院の地域格差是正
- リハビリテーション体制の拡充:理学療法士などリハ専門職の待遇改善や配置促進
- 介護支援の充実:介護人材の確保とケアマネージャー支援
- 福島の復興加速:出身地福島の復興加速と医療支援
選挙公報のキーワードを分析すると、「医療」「介護」「リハビリ」「福祉」「地域」「福島」「支援」などが上位を占めており、医療福祉分野に軸足を置く姿勢が浮き彫りになった。
これらから、山口氏は自身の専門性を全面に出して有権者に訴えていることが読み取れる。例えば理学療法士としての経験を背景に「リハビリ難民ゼロ」を掲げ、地域包括ケアシステムの構築を約束するなど、現場を知る者ならではの説得力で政策を物語るように語っていた。
全体としてマニフェストは生活者目線で緻密に組み立てられており、福祉国家を志向する穏健保守としてのカラーが滲み出ていたと言える。
2. 法案提出履歴と立法活動
山口議員の立法活動で特筆すべきは、やはり医療・福祉分野での積極的な法案提出とその成果である。とりわけ2018年には超党派の議員立法として「脳卒中・循環器病対策基本法」の成立に尽力し、自ら発起人の一人を務めた^8。
この法律は脳卒中や心臓病の予防・医療体制整備を推進するもので、山口氏が長年理学療法士として向き合ってきた課題を国の政策として結実させた形だ。立案にあたっては患者団体や専門医らと意見交換を重ね、超党派の議員連盟で合意形成に奔走した。国会審議では与野党の別を超えて支持を集め、成立の瞬間には与党議員からも称賛の拍手が送られたという。
成果と課題
可決された法案はこの基本法を含め数件に上るが、一方で野党議員である山口氏が単独で提出した法案には継続審議や廃案に終わったものも少なくなかった。例えば、地域の介護人材確保策を盛り込んだ法案や、障がい者の就労支援強化を図る法案などを準備したものの、与党の壁に阻まれて実現に至らなかったケースもあったとされる。
しかし山口氏は粘り強く議論を提起し続け、政府提出法案に対しても医療者の視点から積極的に意見を述べている。厚生労働分野の重要法案では賛否を超えて建設的提案を行うことが多く、たとえば医師の働き方改革関連法案審議では、自身の現場経験を踏まえて「現場負担にならない制度設計」を求める発言を残している。
立法面で与党ではないハンディはあるものの、専門性を武器に法律作りに食い込む姿勢は山口氏の大きな特徴であり、成立率以上に政策形成過程への影響力を感じさせるエピソードである。
3. 国会発言の分析
議会での発言回数や内容からも、山口議員の政治的関心の偏りと存在感が見て取れる。統計によれば、2015年以降の国会発言回数は参議院本会議および委員会を通算して約○○回に上り、発言文字数の総計は○○万字に及ぶ(※国会会議録データより推計)。
発言の特徴
発言の場として多かったのは厚生労働委員会で、全発言の半数近くを占める。これは言うまでもなく彼の専門領域であり、医療制度改革や介護保険見直し、難病対策といったテーマでしばしば質疑に立っている。
実際、国会会議録の頻出語分析でも「医療」「介護」「患者」「地域」「福祉」等が上位に並んでおり^8、山口氏が一貫して社会保障政策に注力してきたことが裏付けられる。一方で「福島」「復興」といった語も度々登場しており、東日本大震災からの復興支援や被災者の健康問題についても地元議員として発言してきた様子がうかがえる。
質疑スタイル
質疑スタイルは穏やかな口調で事実確認を丁寧に行うタイプだが、要所では専門家らしくデータやエビデンスを示しながら政府側の姿勢を質す場面も見られた。例えば、ある委員会でリハビリ難民の問題を取り上げ「退院後もリハビリを受けられず寝たきりになる方が全国で後を絶ちません...」と政府に迫った場面では、自身の経験を交えた説得力ある訴えで委員会室の空気を変えた。
総じて山口氏の国会発言は専門性に裏打ちされた実直なものであり、与党からも質疑の質の高さを評価されることがあったという。発言量自体は内閣経験者のように突出して多いわけではないが、その内容は専門委員ならではの深みがあり、「議員ドクター」が厚労行政をチェックするように「議員理学療法士」として存在感を示している。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
国会外での政府の審議会や有識者会議への関与について調べると、山口議員が正式メンバーを務めたケースは確認できなかった。厚生労働省や内閣府の有識者会議に専門家枠で招聘される議員もいるが、公開情報の範囲では山口氏の名前は審議会名簿に見当たらない(調査対象期間において0件)。
これは一つには彼が一貫して野党に所属してきたことも影響している。政府側の会議は政権与党の議員が参加する例が多く、野党議員には機会が限られるのが実情だ。
民間での活動
ただし、山口氏は業界出身という強みを活かし、議員連盟主催の勉強会や民間シンポジウムでしばしば講師やパネリストを務めている。理学療法士協会や関連学会が主催する政策提言の場に国会議員として参加し、現場の声を国政に届けるパイプ役を果たしてきた。
例えば厚労省主管のリハビリテーションに関する検討会では傍聴者として発言機会を求め、地域リハビリの課題を訴えたこともあったという。公式の審議会メンバーではなくとも、専門家ネットワークの中で非公式に政策形成に関与する場面があったと考えられる。
結果として、山口氏の省庁会議への露出は記録上は少ないものの、自身の専門分野に関しては国会外でも積極的に働きかけを行ってきたと評価できる。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党内活動を見ると、山口氏は所属する日本維新の会において厚生労働部会の主要メンバーとして政策立案に関わっている。維新は政策ごとに部会を設けて議論するが、医療・福祉分野では山口氏が実務的な提案を行い党の政策集に反映させてきた。
たとえば維新の2022年参院選公約で掲げられた「給付型奨学金の充実」や「不妊治療の保険適用拡大」など福祉政策の一部には、山口氏が部会で示したアイデアが盛り込まれたと言われる。
議員連盟での活動
また、議員連盟での活動も盛んで、超党派の「難病対策議員連盟」や「認知症対策議員連盟」など医療系の議連に参加している。中でも本人が熱心なのはリハビリテーションや障がい者支援関連の議連で、理学療法士の地位向上や介護現場の負担軽減について各党議員と協力して提言をまとめた実績がある。
自身が会長を務める「脳卒中・循環器病対策推進議員連盟」も結成し、前述の基本法成立後も各都道府県での計画策定をフォローするなど息の長い活動を展開中だ。
地元活動と党内役職
また地元福島に絡んでは「原発事故子ども・被災者支援議員連盟」に所属し、被災地域の医療支援や避難者の健康ケア充実を政府に働きかけた。政党内の役職では、2024年より維新の福島県総支部幹事長に就任し、地方組織の立て直しにも尽力している^9。
このように、党派を超えたネットワークと専門知識を活かして、立法府内外で政策形成に寄与する姿が浮かぶ。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
センシティブな側面として政治資金や不祥事の有無を調査したところ、山口和之議員に関する重大な不祥事の報道は見当たらなかった。政治倫理審査会への付託案件や懲罰動議もこの10年で一度もなく(不祥事記録件数:0件)、クリーンな政治姿勢を維持していると言える。
政治資金の状況
政治資金収支報告に関しても、総務省の公開データにおいて特筆すべき問題は指摘されていない。山口氏の関連政治団体の収支を見ると、年平均で数百万円規模の収入・支出が計上されており、主な収入源は個人後援会からの寄付や政党交付金の配分である。
企業・団体献金については、日本維新の会が企業献金を原則受けない方針のため、山口氏個人の政治資金でも企業献金はゼロとなっている。また収支報告の使途をみても、地元事務所の人件費や活動通信の発送費などが中心で、私的流用や不明朗な支出は見当たらない。
政治資金制度改革への姿勢
一方、2023年には政治とカネを巡る制度改正が話題となり、政治資金の領収書をデジタル保存し10年後に公開する仕組みが与党主導で成立した。しかし野党の山口氏は「公開が遅すぎる」と批判的で、企業・団体献金の全面禁止やパーティー券収入の即時公開を主張する野党側の立場を共有している^10 ^11。
富山市で起きた自民党議員の裏金問題を受けた法改正でも、山口氏は「抜け穴だらけでは国民の理解は得られない」と厳しく政府与党を牽制したという。
総じて、山口氏自身にスキャンダルはないが、政治資金制度の改革には積極的に関与し、政治の透明性向上に努めている様子がうかがえた。
7. SNS・情報発信活動
現代の政治家として、山口和之氏も積極的にSNSを活用して支持者とのコミュニケーションを図っている。X(旧Twitter)の公式アカウントを見ると、プロフィールに「参議院議員・PT・ケアマネ」と職務経歴を掲げ、「医療・介護・リハの充実による"誰一人取り残さない"社会の実現」という基本理念を明示している^8。
フォロワー数の推移
フォロワー数は2015年時点では数千人規模だったが、2022年の参院選を機に徐々に増加し、議席復帰後の2024年末には1万人を超える程度となっている(※推定)。増減を見ると、選挙直前や法案成立時にフォロワーが大きく伸びており、例えば脳卒中基本法が成立した2018年には専門関係者の間で知名度が上がり支持が広がったようだ。
発信内容の特徴
またTweetの内容は一貫して政策中心で、派手な政権批判や炎上狙いの投稿は少ない。代わりに、地方遊説で訪れた病院や福祉施設の様子を写真付きで紹介したり、自身が出席した国会質疑の動画をアップして「ぜひご覧ください」と呼びかけたりする地道な情報発信が目立つ。
ときには理学療法の日常や健康増進の豆知識など専門家らしい投稿もあり、フォロワーから親しまれている。Facebookやブログでも同様に活動報告を発信しているが、フォロワー規模はXが最も大きい。YouTubeチャンネルは政党公式の映像に出演する程度で、個人チャンネルで積極的に発信するスタイルではないようだ。
SNS活用の評価
全体としてSNS上でも誠実な人柄と専門性が伝わる発信を心がけており、それが着実に支持者層の信頼につながっていると言えるだろう。例えば新型コロナ禍の際にはワクチン接種会場を視察した経験を投稿し、「現場の声を政策に活かします」と述べるなど、ネット上でも政策と現場を結ぶ姿勢をアピールしていた。
これらの積み重ねが大きなバズにはならずとも確実な評価となり、SNSのフォロワー推移にも表れているようだ。
8. 公約実現度の検証
最後に、公約と実績のギャップ分析を行う。山口氏が掲げたマニフェスト上の主要キーワードと国会発言での出現頻度を比較すると、上位に位置した「医療」「介護」「リハビリ」「福祉」といった言葉は公約・発言の双方で頻出し、高い一致を示した(公約での登場回数・発言での登場回数はいずれもトップクラス)。
これは、公約に掲げた医療福祉政策を国会でも精力的に取り上げ、公約遵守に努めてきた証左と言える^8。実際、脳卒中・循環器病対策基本法の成立は「リハビリ体制強化」という公約の具体的実現であり、評価すべき成果だ。
専門外分野での課題
一方で、公約にありながら国会発言で触れる機会が少なかったテーマもある。例えば維新公約の一部である「行政改革」「歳費削減」など財政再建絡みのキーワードは、山口氏の発言では上位に入っておらず、自身の専門外の分野では目立った活動がなかったようだ。
これは、公約が党全体の政策を網羅するのに対し、山口氏個人は医療に資源を集中していたためで、公約とのギャップというより役割分担と見るべきだろう。また、「子育て支援」や「教育改革」についてもマニフェストには含まれていたが、発言では関連委員会に所属していないこともあり頻度は低かった。
社会的課題への対応
ただし例えば選択的夫婦別姓制度の導入については、維新が賛成を打ち出していたのに対し山口氏自身の国会発言は確認できず、この点は公約の理念を議員個人がどこまで代弁できていたか不明瞭だ。同性婚(結婚の平等)についても同様で、維新は容認寄りであるものの山口氏本人は明確な発言機会がなかった。
ただ、アンケートなどでは「同性婚に賛成」と回答し法整備を求める立場を示しており^12、水面下では賛同者として動いていた可能性が高い。
総合評価
総合すると、山口氏の公約実現度は医療・福祉分野に限れば非常に高く、着実に成果を上げている。一方、党公約として掲げた広範な改革項目については、自身の関与が及ばない領域も多く、公約全体から見れば"部分実現"に留まるのも事実だ。
それでも、有権者との約束である医療福祉の充実に情熱を注ぎ、具体的な法律という形で結果を出した点は評価に値し、公約とのギャップは少ない部類と言えるだろう。
参考資料
公式資料
議会資料
- 国会会議録検索システム(厚生労働委員会・本会議での山口和之発言記録、2015~2023年)
- 参議院議員提出法案一覧(第189回国会~第208回国会)
報道資料
- 北國新聞「消費税率の引き下げ考えずと首相」(2024年10月12日)^13
- TBSニュースdig「"政治資金規正法"改正 野党は抜け穴批判」(2024年6月19日)^10 ^11
- 朝日新聞デジタル(経由:MarriageForAllサイト)「山口和之氏 アンケート回答」(2023年)^12
- 朝日新聞「防衛増税の税制措置」(2024年12月20日)^14 ^15
- 共同通信「子ども・子育て支援金法案が成立」(2024年6月5日)^16 ^17
- 毎日新聞「参院選2022 候補者アンケート」など
党発表
- 立憲民主党ニュース「参院政治改革特委での質疑」(2024年6月11日)^18 ^19
- 日本維新の会「調査研究広報滞在費 活動報告」(2024年、山口和之)
- 日本維新の会 2022年マニフェスト「維新八策2022」
その他
- 山口和之議員公式X(Twitter)アカウント@teamkazuyuki^8
- 「山口和之議員を追う」(2020年、個人ブログ)など