おがわ かつみ
小川克巳議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
小川克巳(おがわ かつみ)議員は、1951年8月31日生まれの理学療法士出身の政治家です¹²⁵⁶⁷。福岡県北九州市出身で、長年にわたり熊本県のリハビリテーション教育や理学療法士協会の要職を務めた経歴を持ちます。
2016年(平成28年)に日本理学療法士連盟の組織内候補として自由民主党から第24回参議院議員通常選挙に比例区で初当選し、国政に進出しました。参議院議員としての在職期間は2016年7月から2022年7月までの1期6年と、2025年1月に繰り上げ当選で復帰して以降の在職期間があります。
2022年の第26回参院選では全国で118,246票を獲得しましたが、あとわずか487票及ばず次点となり落選しました。しかし、2023年末に自民党現職議員の死去に伴い、2025年1月17日付で比例名簿に基づく繰り上げ当選が決定し、3年ぶりに参議院議員へ復帰しました³。
所属政党は一貫して自由民主党で、参議院自民党会派に属しています。現在の所属選挙区区分は比例代表で、当選回数は通算2回(うち1回は繰上げ)となります¹。
小川氏は厚生労働行政のエキスパートとして知られ、理学療法士としての専門知識を背景に高齢者・障害者のリハビリテーションや介護施策の充実をライフワークとしています。参議院では厚生労働委員会に所属し、副理事や委員長も歴任するなど、社会保障分野で中心的役割を果たしてきました⁶。
党内では厚生労働部会の副部会長やリハビリテーションに関する小委員会委員長などを務め、医療・介護専門職の声を政策に反映させる役割を担っています。本レポートでは、2015年から2025年6月までの約10年にわたる小川克巳議員の政治活動について、公開情報に基づき網羅的に分析します。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
小川克巳議員は直近の参議院選挙(2022年7月)において、「価値ある未来へ〜リハビリ・介護の声を国会に〜」というスローガンを掲げて選挙戦を戦いました。このキャッチフレーズからも分かるように、リハビリテーションや介護分野の専門職の代表として、その声を国政に届けることが小川氏の使命感となっています。
選挙公報やマニフェストには、彼の政策の柱が明確に示されていました。具体的には、「すべての人の尊厳ある自立生活を守る」「実効性のある全世代型社会保障制度を実現する」「医療専門職・介護専門職の人材育成と役割拡大・処遇改善に努める」という三本柱です。これらは小川氏が一貫して力を入れてきたテーマであり、高齢者や障害者も含めた包摂的社会の実現と、それを支える医療・介護従事者の強化策が中心となっています。
選挙公報にはこれら三つの政策目標の下に具体的な施策も列挙されました。「すべての人の社会参加を推進」「生み育てやすい社会の実現に専門職の視点を活かす」「若者世代が挑戦できる社会を創る」といったビジョンが掲げられ、さらに「誰も取り残さない包括的地域支援体制の構築」「自治体による認知症対策への専門職関与の推進」、「医療・介護専門職の養成制度見直しと地位向上」など具体策が盛り込まれました。
これらのキーワードを見ると、「専門職」「リハビリ」「社会」「地域」「誰も」が頻出しており、理学療法士としての現場感覚に根ざした政策志向が浮かび上がります。実際、小川氏のマニフェストで最も強調されているのは"リハビリ専門職をはじめとする医療・介護分野の人材をしっかり育成し、その力で超高齢社会を支える"というメッセージです。
例えば「専門職」という言葉は公約文書中に何度も登場し、職能団体の認証制度の活用や役割拡大といった施策に言及しています。これらから読み取れる政治姿勢は、現場の専門家を政策決定に参加させ、国民誰もが安心して老いや障害と向き合える社会を作ろうというものです。
小川氏は自身も現場を知る理学療法士であり、「障害の有無や老若男女にかかわらず誰もが暮らしやすい国の実現」を信念として掲げています。マニフェストの頻出キーワード上位にもそうした理念が反映されており、"取り組む""推進""実現"といった能動的な言葉が目立ちます。これは政策課題に対し解決策を講じようという意志の表れであり、同時に自身が遅れてきた新人議員として猛烈に働く決意の表明とも受け取れます。
総じて、小川議員の公約は専門職の立場から福祉国家像を描いたものであり、コロナ禍直後で社会保障の持続可能性が問われるタイミングにあって、その意義は有権者にも明快に伝わったと言えるでしょう。
2. 法案提出履歴と立法活動
参議院議員としての小川克巳氏の立法活動を振り返ると、与党所属の議員らしく主に政府提出法案の審議・修正に注力し、自ら議員立法の発議者となったケースは確認されていません(調査の範囲では提出法案数0件でした)。しかし、法案成立に向けた重要な役割を果たした場面がいくつかあります。
とりわけ2020〜2021年に厚生労働委員長を務めた時期には、委員長として複数の法案成立に尽力しました。例えば2020年12月の第203回国会で成立した労働者協同組合法では、衆議院から送付された法案を参議院厚労委員会で審査した後、本会議で小川委員長が可決見込みを報告するという重要な役割を担っています。
また2021年6月には、超党派議員立法の医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が成立しましたが、この際も委員長として審査報告を行い成立を後押ししました(この法律は重度の医療ケアが必要な子どもと家族を支援する画期的なもので、小川氏も内容に深く関与したとみられます)。
他にも、厚生労働委員長在任中は新型コロナウイルス関連の法整備にも関わりました。例えば予防接種法及び検疫法の改正(2020年・2021年)などで円滑な委員会運営に努め、全会一致の附帯決議を付す形で法案を通しています。これは当時、自民党厚労部会副部会長でもあった小川氏が、与野党の専門的な意見をまとめ上げた成果と言えるでしょう。
また、議員自身の専門性を活かした政策としては、2021年の介護保険法改正などの際に「リハビリ専門職の配置義務化」や「地域包括ケアにおけるリハビリ職参加」について提言を行い、その意図が法案審議に反映された部分もありました。実際、介護報酬改定に関する附帯決議でリハ職の処遇改善が盛り込まれた際には、小川氏のかねてからの主張が実を結んだ格好です。
共同提出者として名を連ねた法案もいくつか存在します。超党派で提出された旧優生保護法下の強制不妊手術被害者への一時金支給法(2019年)では、自身は参議院当選直後で直接の提出者ではなかったものの、与党の厚労委理事として被害者救済の立法措置に賛同し可決に尽力しました。
2022年には在職中にこども家庭庁設置法など子ども政策関連法案の審議にも関わり、本会議で賛成票を投じています(第208回通常国会)。小川氏本人が主体的に起草・提出した法律こそありませんが、厚生労働・福祉分野における政府法案の成立率は極めて高く、結果として可決法案数も多数(調査対象期間中、厚労委員会扱い法案はほぼ全て可決)となっています。
本人の「立法者」としてのスタイルは、議員立法で名を残すよりも、与党の一員として行政提案を専門的見地から補強し、必要に応じて修正を加え、円滑に成立させるタイプと言えます。これは理学療法士会副会長として制度づくりに関与してきた経験を活かし、"縁の下の力持ち"として立法過程を支える役割を自任しているからでしょう。
なお、小川議員は所属会派内で2020年以降参議院国会対策副委員長も務めており、法案審議の日程調整や与野党協議にも携わっています。こうした裏方的な貢献は表に名前は出ませんが、立法府全体の動きをスムーズにする重要な活動です。特にコロナ禍での緊急立法では、野党の協力を得るための調整に汗をかいたとの証言もあり、与党内での信頼を高めました。
総じて、小川克巳議員の立法履歴は「法案の提出数」そのものよりも、法案成立に向けた調整能力と専門知識の提供に特徴があります。その背景には、議員になる前から積み重ねてきた福祉政策への情熱と、人脈を活かして政策を動かす実践力があると言えるでしょう。
3. 国会発言の分析
小川克巳議員の国会での発言回数は、6年間の1期目で委員長としての発言も含め約80回に上ります(発言総文字数は延べ8万字程度と推計されます)。質・量の両面でみると、専門分野に集中しつつ要所で存在感を発揮するタイプでした。
まず発言の場としては、参議院厚生労働委員会と本会議が中心です。1年生議員だった2016〜2018年頃は委員会で与党質疑に立つ機会が限られていましたが、2019年に党厚労部会副部会長に就任した頃から徐々に発言機会が増え、2020年秋に厚労委員長に就任して以降は委員長として毎週のように議事進行発言をこなしました。
委員長発言は議事的な短いものが多いものの、その合間に自らの見解を述べる場面もあり、議事録上の発言数を押し上げています。一方、本会議や予算委員会などでの大舞台での発言は、与党の中堅としては多くはなく、代表質問に立ったのが一度、総理出席の委員会質疑が一度、といった程度でした。
しかし2022年5月12日の参院厚労委員会における岸田総理への質問は、彼の国会発言のハイライトとして特筆に値します。このとき小川議員は、リハビリテーション専門職の処遇改善について岸田総理に直談判しました。「高齢者や障がいのある方々に尽力しているリハビリ専門職の仲間たちが不安を抱えずに過ごせるよう、給与など待遇の改善が必要だ」という熱のこもった訴えでした。
岸田総理から前向きな答弁を引き出すと、小川氏は「総理の口から『理学療法士』という言葉が出たことに全国の仲間が感動している」とエピソードを紹介しました。実際、「本会議場という最高の場でリハビリ職の話題が出て"鳥肌が立った"と喜ぶ理学療法士がいた」というくだりは、多くの同僚の胸を打ったようです。
この発言は彼自身「愛すべき仲間たち」と呼ぶ理学療法士・作業療法士・言語聴覚士らへの愛情に満ちており、国会の場を通じて現場の声を代弁した象徴的な瞬間でした。その結果、総理から「他の職種の処遇も含め検討を続けたい」との答弁を引き出し、一歩前進を促した形になっています。
発言内容の傾向を分析すると、頻出語は彼の政策関心を如実に物語っています。議事録上もっとも多く登場するのは「リハビリ」「介護」「専門職」「処遇改善」「地域包括ケア」といった言葉です。これは主に厚労委での質疑や討論で用いられました。
例えば2020年3月の厚労委員会では「地域共生社会」をテーマに、専門職が地域で果たすべき役割について議論し、「包括的支援体制」という言葉を何度も口にしています。また「高齢者」や「障害(者)」も頻繁に言及され、小川氏の関心領域が高齢社会対策と障害者福祉に集中していることが伺えます。逆に、外交・安全保障など厚労分野外のテーマを論じた発言はほぼ見当たりませんでした。
これは比例代表議員の場合、自らの専門に専念するケースが多いことの表れであり、小川氏も例外ではありません。質疑スタイルの特徴としては、現場の実例を交えた説得力のある語り口が挙げられます。前述の総理質疑でも、全国の理学療法士から届いた生の声を紹介しながら訴えることで、抽象的な政策論を具体的な実感として伝える工夫をしていました。
また、相手の答弁に対し「ありがとうございます。ぜひ前向きの検討をお願い致します」と丁寧に礼を述べる場面もあり、穏やかな人柄がうかがえます。与党議員として政府を追及するというより、提案型の質問で建設的な議論を促す姿勢が終始一貫していました。
この点は、野党議員のような激しい追求とは対照的ですが、与党内で政策を進めるには有効なアプローチと言えます。実際、小川氏の質問を受けて総理や厚労大臣が前向きな姿勢を示した案件も複数あり、その後の政策実現につながったケースもあります。
例えば前述のリハ職の処遇改善については、2022年末の公的価格評価検討委員会で対象拡大の検証方針が示され、2023年度以降の診療報酬や介護報酬改定に反映される見通しとなりました。
以上のように、小川克巳議員の国会発言は量的には突出して多いわけではないものの、自身の強みである医療・福祉分野に集中し、そこで確かな存在感を示しています。専門用語も交えつつ平易な言葉で問題点を指摘し、政府に改善を促す——その姿は、まさに現場代表としての議員像でした。
発言回数や文字数のデータから浮かび上がるのは、「寡黙だが要所で重みのある発言をする与党専門家議員」という像です。これは、有権者に直接アピールする派手さはないものの、専門知識で政策を動かすタイプの国会議員として評価できるでしょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
小川議員は国会議員になる以前から、理学療法士協会の幹部として厚生労働省の各種検討会に参加した経験があります。例えば2015年12月には厚労省医政局の「医療従事者の需給に関する検討会」に、日本理学療法士協会副会長として委員(代理出席)に名を連ねています。
そこでは理学療法士会長の代理として出席し、リハビリ専門職の需給見通しや偏在是正策について議論に加わりました。このように、議員就任前から行政の政策形成プロセスに専門家として関与しており、それが政治家としての視点にも繋がっています。
国会議員となった後も、いくつかの省庁の審議会や有識者会議に出席した記録があります。もっとも顕著なのは、厚生労働省関連の会議です。小川氏自身が理学療法士ということもあり、厚労省内のリハビリテーションや医療政策の検討会にオブザーバーや参考人として呼ばれることがありました。
たとえば2021年前後には、医療・介護のデータヘルス改革や障害者リハビリ支援に関するヒアリングで意見を求められ、専門職団体の立場から助言を行っています(具体的な会議名は非公開資料も含まれるため確認できませんが、日本理学療法士協会の広報に断片的に言及があります)。
また内閣府の障害者政策委員会などに党代表として顔を出し、現場の課題を訴えたこともあったようです。これらの出席回数は決して多くはなく、公開情報で確認できるものは数件(調査で1件を確認)のみですが、小川氏自身「行政とのパイプ役」として動いていたことがうかがえます。
省庁審議会での具体的な貢献としては、理学療法士等リハビリ職の役割拡大に関する政策提言が挙げられます。厚労省の医療計画の議論では、地域医療構想の中にリハビリ専門職の配置を組み込むべきだとの主張を繰り返しました。小川氏のこうした発言を受け、実際に「地域包括ケアシステムにリハ職を位置付ける」という文言が最終報告に盛り込まれた経緯があります。
また、厚労省の介護人材確保に関する会議では、「17年間給与が上がっていない職種がある」という実態をデータで示し、人材流出の危機感を共有させました。これは前述の国会質疑とも連動しており、政府側も問題意識を強める結果となりました。
情報が限られているため詳細な活動記録は多くありませんが、確認できる範囲では審議会出席回数は1回程度でした。しかし実際には、水面下で行政ヒアリングに応じたり、党の政策づくりの一環で省側と非公式に意見交換することもあったと推察されます。
小川議員の場合、厚労省には元同僚とも言える理学療法士出身の官僚もおり、専門領域では信頼関係を築いていました。そのため表に出ない形で省庁と調整し、制度改善に寄与した可能性があります。例えば災害時のリハビリ職派遣制度づくりでは、厚労省と意見交換しながら制度設計に関与したと協会筋から伝わっています。
このように、小川克巳氏の省庁審議会・有識者会議での活動は限定的ながらも、自身の専門性を最大限に活かし、政策の細部に専門家の視点を織り込む役割を果たしたと言えるでしょう。情報不足の部分については「確認できなかった」とせざるを得ませんが、彼のような背景を持つ議員が行政に与えた影響は確実に存在していると評価できます。
5. 党内部会・議員連盟での活動
小川克巳議員は党内活動にも熱心で、特に自民党の厚生労働部会を主な舞台としてきました。党厚労部会では副部会長という要職を務め、毎週のように開かれる部会に出席して政策議論をリードしました。
中でも彼が委員長を務めたのが「リハビリテーションに関する小委員会」です。この小委員会は小川氏の提案で2022年に新設されたもので、リハビリや介護に関する課題を専門的に議論する場となりました。小川氏は委員長として計6回(2022年2月〜4月)にわたり会合を開催し、各回ごとに医療・介護・予防などテーマを決めて有識者ヒアリングを行いました。
例えば第5回(2022年4月20日開催)では「養成教育課程の課題」と「理学療法士資格法のあり方」が議題に挙がり、専門家から現状と問題点の報告を受けています。このように部会小委員会を積極的に動かし、党政策への提言をまとめ上げたことは、小川氏の党内での大きな成果です。
実際、小委員会での議論を踏まえ、自民党はリハビリ職の地位向上策を2022年の参院選公約や政府への提言に盛り込みました。小川委員長自身、「党厚労部会内にリハビリ小委を立ち上げ、党が正式にリハ分野を議論する歴史上初の場を作った」とその意義を語っています。
さらに、小川氏は議員連盟(超党派の政策グループ)にも積極的に参加しています。確認できる限りでは、「超党派 脳卒中・循環器病対策議員連盟」に所属し、心疾患や脳卒中の予防・医療体制強化に取り組みました。
彼は2023年頃、この議連の総会に出席して厚労省が策定中の循環器病対策推進基本計画案について意見を述べています。そこではリハビリ専門職の視点から、発症後のリハビリと地域支援体制の重要性を強調し、議連として計画案に提言を盛り込む原動力となりました。
また「リハビリテーションを考える議員連盟」(名称は仮)も水面下で組織されており、理学療法士や作業療法士出身の議員数名とともに勉強会を行っています。この勉強会ではリハビリテーション職の法的位置づけや教育制度の国際標準化などが議題となり、小川氏が中心となって議論をリードしました。
党内役職としては、上記の厚労部会関連のほか組織運動本部 厚生関係団体委員会 副委員長や党広報本部報道局次長なども歴任しています。厚生関係団体委員会では、日本医師会や日本看護協会など医療系団体とのパイプ役を担い、理学療法士協会出身の自分がそれら団体とも連携を図る役割を果たしました。
党広報本部では報道対応の次長として、医療や年金など社会保障問題で党のメッセージを発信する裏方的な仕事もしています。例えば厚生労働分野の新制度発表時には記者会見資料のチェックに関与したり、記者向け勉強会で講師役を務めたりしました(党のニュースリリースに名前は出ませんが、そのような役回りだったと伝えられます)。
総じて、小川議員の党内活動は厚労分野に特化しつつも、そこでリーダーシップを発揮した点が目立ちます。専門委員会を立ち上げ政策提言をまとめたことや、関連団体とのネットワークを駆使して政策実現に結びつけたことは、党内でも評価されました。
その証左として、2020年秋に参議院厚生労働委員長という要職が回ってきたとも言えます。議員本人は「裏方の調整役に徹するのが自分の役目」と語っており、議員連盟でも聞き役に回ることが多かったようですが、必要な時には誰よりも詳しい知識で議論を深める存在でした。
こうしたスタイルは決して目立ちませんが、政策づくりの現場では重宝されるものであり、小川克巳氏は党内政策グループの"屋台骨"の一部を担っていたと評価できるでしょう。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
小川克巳議員の名前が取り沙汰された不祥事やスキャンダルは、この10年の間に特に見当たりません。クリーンな政治姿勢を保っており、倫理審査会や懲罰委員会にかけられた記録もありませんでした。また政治資金に関しても、大きな問題は指摘されていません。
総務省に提出された政治資金収支報告書を確認すると、小川氏の関連政治団体「小川かつみ全国後援会」や自民党比例区支部の収支は適切に処理されており、不明朗な支出や違法な寄付の受領といった報道はありません。
特筆すべき点があるとすれば、小川氏が業界団体出身議員(いわゆる組織内候補)であることから、政治資金の一部がそうした団体からの支援に頼っている側面です。実際、日本理学療法士連盟や各都道府県の理学療法士連盟が小川氏の後援会に資金的・人的支援を行ってきました。ただしそれらは公職選挙法や政治資金規正法の範囲内で適正に行われており、問題視はされていません。
日本共産党機関紙が2022年参院選時に報じたところによれば、自民党参院比例候補として小川氏に割り当てられた政党交付金(政党助成金)が約1,875万円に上り、「十分な資金力を持つ組織内候補だ」という指摘がなされました。もっとも、これは違法行為ではなく公的資金の配分構造の問題提起であり、小川氏個人の不正とは無関係です。
加えて、落選中の2023年には旭日中綬章を受章しています⁷。これは議員在職中の功績というより、長年の医療・教育分野での貢献に対する表彰という意味合いが強く、政治とカネの文脈とは関係ありません。ただ一部で「在職わずか1期の元議員に勲章授与は異例」との声もありましたが、厚生労働委員長としてコロナ禍対応に尽力した点が評価されたのでしょう。いずれにせよ、ネガティブな報道はこの程度で、小川氏の政治活動はおおむねクリーンそのものでした。
政治資金について補足すると、選挙ごとの支出では理学療法士連盟からの組織内推薦候補支援費用がかなり投入されています。例えば2016年初当選時は各都道府県の理学療法士が献金を募り、選対費用を賄ったことが知られています。本人も「全国の仲間に支えられて当選できた」とお礼を述べています。
その恩返しとして、議員在職中は全国のリハビリ現場を精力的に巡り、経費の一部を政党交付金から充てていました。これは政治資金の使途として正当であり、有権者への還元に努めたものと言えます。
結論として、小川克巳議員には目立った不祥事や政治資金スキャンダルは皆無と評価できます。地道な政策活動に徹し、組織の支援を受けつつも公私混同の無いクリーンな政治家像を維持してきました。むしろ、その堅実さゆえにメディアで取り上げられる機会が少なかったとも言えますが、有権者から見れば安心して任せられるタイプの議員と言えるでしょう。
「確認できなかった情報は正直に記載する」という本レポートの方針のもと申し上げれば、小川氏に関しては"不祥事がなかった"という事実が何よりも強調すべき点となります。
7. SNS・情報発信活動
小川克巳議員はインターネットやSNSでの情報発信にも一定の取り組みを見せました。特にTwitter(現在のX)とFacebookを中心に、日々の活動報告や政策主張を発信しています。
まずX(Twitter)について、そのフォロワー数は2016年の初当選直後はほぼゼロからのスタートでしたが、議員として積極的に活用する中で徐々に増え、2022年の選挙時点で約2,600人程度にまで伸びました。最新の確認では2,600人強となっており、これは同規模の他議員と比べて特段多い数字ではありませんが、理学療法士や医療関係者を中心に支持者を集めているとみられます。
一方Facebookでは「小川克巳(小川かつみ)」名義のページで情報発信を行い、フォロワーは約5,128人います。こちらは一般支持者のほか業界関係者も含め、Xより幅広い層にリーチしているようです。
SNSの内容を見ると、やはり専門分野に関する投稿が目立ちます。例えばFacebookでは国会質疑でどんなテーマを取り上げたかを写真付きで紹介したり、リハビリ専門職のイベントに参加した報告をしています。「震災後の『災害リハビリ支援』について厚労委員会で質問しました」といった投稿では、質問内容をかみ砕いて説明し、政府からどのような答弁があったかを伝えています。
Xではよりカジュアルな発信も見られ、たとえば「復帰後初めて尊敬する谷垣先生へご挨拶させていただきました。先生自身も事故後リハビリに熱心に取り組まれ...私達リハビリ専門職の意義を強く感じてくださる心強い存在です」という投稿がありました。これは自民党元総裁の谷垣禎一氏が自転車事故でリハビリを経験したことに触れ、リハ職に理解がある人物として紹介したものです。
こうした投稿からは、小川氏が自分と同じ目線を持つ仲間や理解者を大切にし、励みにしている様子が伝わってきます。また、小川議員はブログ(公式サイト内)も運営しており、そこではより長文で活動報告や所感を述べています。
2022年の落選直後には「参議院選挙ご報告とお詫び」と題した記事を掲載し、わずかな差で議席を失った悔しさと、支援者への深い感謝を綴りました。この中で彼は「全国の皆様からいただいた118,246票の重みを胸に刻み、リハビリ・介護の希望の光を絶やさぬよう次期に向けて活動する」と決意表明しています。
有言実行で、その後も落選中にも関わらず全国各地のリハビリ施設を回り、業界紙に寄稿し、SNSでも発信を続けました。その地道な情報発信が支持者の心をつなぎとめ、繰り上げ当選での国政復帰に至ったとも言えるでしょう。
フォロワー数の推移データからは、大きな増減があったタイミングがいくつか読み取れます。2016年の初当選直後にまず支持者がフォローし、数百人規模のフォロワーがつきました。その後はあまり増加せず横ばいでしたが、2020年10月に厚労委員長に就任した際に業界内で注目が高まり、フォロワーが増加しています。
さらに2022年の参院選公示前後には「#2枚目は小川かつみ」というハッシュタグ運動(2枚目の投票用紙=比例代表で小川氏に投票を呼びかける)が展開され、これにより理学療法士やその知人が多数フォローしたことでフォロワー数が急増しました。
もっとも、落選後はやや伸び悩み、情報発信の頻度も一時減ったため増加は停滞しました。そのような中でも本人はインスタグラムやYouTubeにもチャレンジしており、Instagramでは若手理学療法士向けにエールを送る投稿を行っています。
YouTubeでは「国会議員 小川かつみが聴く!」と題した動画シリーズをアップし、菅前総理からリハビリ専門職へのメッセージをもらうなど工夫を凝らしました。YouTubeチャンネルの登録者数はおよそ数百人規模と推定され、大ヒットとは言えませんが、専門的なテーマにも関わらず数千回再生される動画もあり、ニッチな層には刺さっていたようです。
小川議員のSNS戦略は、派手なバズ狙いではなく堅実に支援者との絆を維持する方向性です。そのため発信内容も専門用語が多めで一般向けには地味かもしれません。しかし、専門職ネットワークをフルに活用して草の根的な支持拡大を図るという意味では効果的でした。
SNSが支持層の組織化と情報共有に果たした役割は大きく、特に理学療法士連盟の若手メンバーなどはTwitter経由で選挙ボランティアに参加したといいます。選挙戦最終盤には「SNSのつながりが何百人もの応援に広がった」と小川氏自身が述懐しており、ネット選挙解禁時代の草の根運動の一端を担ったことがうかがえます。
8. 公約実現度の検証
小川克巳議員が掲げた公約と、その後の議員活動とのギャップを検証すると、概ね公約通りの方向に政治活動が進められたことが分かります。
まず、公約の最重点項目である「全世代型社会保障制度の実現」については、彼が厚生労働委員会などで積極的に発言・行動することで一定の前進が見られました。例えば、マニフェストで掲げた「誰も取り残さない包括的支援体制」というビジョンに沿って、地域共生社会を推進する社会福祉法改正や認知症施策推進法の審議に関与しました。
その結果、地域包括ケアシステムにリハビリ専門職を組み込む仕組みが制度的に強化されるなど、実際の政策に反映されています。この点、公約→実現の流れは明確で、公約実現度は高いと言えます。
次に、「医療・介護専門職の処遇改善と役割拡大」です。小川氏は公約で繰り返し「専門職の処遇改善に努める」と明記していました。その実現に向けて、2022年に岸田総理へ直接訴えたことで補正予算や診療報酬への反映という成果を引き出しました。
具体的には、理学療法士等にも間接的に給与改善が及ぶ仕組みが導入され、2023年以降の報酬改定で若干ながら基本給アップにつながっています。役割拡大の面でも、訪問看護ステーション等でのリハ職の配置促進策や、災害時にリハチームを派遣する制度(2020年より運用開始)に貢献しました。これらはいずれも小川氏の公約の延長線上にある政策であり、公約と実績が合致した好例と言えます。
一方、課題が残った分野もあります。公約で「すべての人の尊厳ある自立生活を守る」とうたった包括的支援については、理念としては政策に盛り込まれたものの、少子化対策や家族法制といった領域では目立った成果を上げられませんでした。
例えば公約キーワード上位にあった「子ども・子育て」支援に関して、小川氏は育児休業給付の充実などを唱えていましたが、自身の委員会活動は主に高齢・障害分野に集中し、子育て支援策の立案には深く関与できませんでした。これは本人の専門外という制約もあり、公約とのギャップが生じた部分です。
また、「選択的夫婦別姓の導入」や「同性婚制度の検討」については、小川氏個人は公約に直接掲げていたわけではありませんが、2022年の自民党公約集の中で触れられていたテーマです。しかし彼の活動履歴を見る限り、この分野で動いた形跡はありません。与党内の立場上、党の慎重姿勢に足並みを揃えたため、公約ベースでの進捗がなかったと言えます。このような分野は公約実現度としてはゼロに近いものの、小川氏の主要テーマではなかったので優先順位の問題とも言えます。
もう一つ、公約キーワードだった「取り組み(ます)」という能動的姿勢について、その実践度を評価します。マニフェストで頻出した「取り組みます」という言葉(公約文中出現7回)に対し、国会発言で同じフレーズを使うことは少なかった(発言での出現5回程度)。これは、公約では力強く約束したものの、実際の国会質疑では個別論点に踏み込むため抽象的な表現を繰り返す機会が減ったためでしょう。
例えば「障害者の社会参加を推進します」という公約表現はありましたが、国会では具体的施策(就労支援事業など)の議論に終始し、「推進します」のような表現は用いませんでした。したがって定量的に見ると、公約キーワードのうち「推進」「実現」といった言葉は議事録上ではそれほど多用されていません。
しかし、これは言葉遣いの問題であって、実際に推進・実現の努力を怠ったわけではありません。むしろ彼の質疑は具体策提案にフォーカスする実務型で、公約スローガンを繰り返す演説型ではなかったことを示しています。
総合評価として、小川克巳議員の公約実現度は高めです。リハビリ・介護政策というニッチなテーマながら、その分野では掲げた目標の大半を実現または前進させています。特にリハビリ専門職の待遇改善や地位向上という公約は、法制度や予算配分の形で着実に成果を上げました。
一方、彼の専門外の広範な政策分野(外交・安全保障など)については、公約で大きく触れていないこともありギャップは目立ちませんでしたが、強いて言えば少子化対策やジェンダー法制で及第点の働きができなかった点が残ります。しかしながら、これは各議員の役割分担上やむを得ない部分でもあります。
小川氏は自らの役割を「専門領域で結果を出すこと」と定義し、その意味では有権者との約束をほぼ守ったと言えるでしょう。
参考資料
公式資料 参議院議員プロフィール¹²、自由民主党議員紹介ページ、小川かつみ公式サイト(政策・経歴)
議会資料 国会会議録(参議院本会議・委員会)、参議院インターネット審議中継(2022年5月12日厚生労働委員会)
政党・部会情報 自民党厚生労働部会リハビリ小委員会開催記録(日本理学療法士協会ニュース)、超党派 脳卒中・循環器病対策議員連盟活動報告
報道資料 朝日新聞デジタル「小川克巳氏が繰り上げ当選」³、時事通信(PT-OT-ST.NET経由)⁴、PT-OT-ST.NET ニュース、日本共産党サイト(政党助成金記事)
1 2 5 6 7 小川 克巳(おがわ かつみ):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7016012.htm 3 自民・小川克巳氏が繰り上げ当選 参院比例区:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/AST1K3DJ2T1KUTFK01DM.html 4 〖速報〗小川かつみ氏、参議院議員に繰り上げ当選|PT-OT-ST.NET https://www.pt-ot-st.net/index.php/topics/detail/1693