おおの やすただ
大野泰正議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
大野泰正(おおの・やすただ)議員は、岐阜県出身の参議院議員(当選2回)であり、祖父に衆院議長を務めた大野伴睦、父に元運輸大臣の大野明を持つ政界一家の出身です12。
1959年5月31日生まれで、慶應義塾大学法学部を卒業後は全日本空輸(ANA)に勤務するなど民間経験を積みました3。その後、運輸大臣秘書官や国会議員秘書を経て政界へ進み、2003年に岐阜県議会議員に初当選(3期)3。
2013年、第23回参議院選挙で初めて国政に送り出され、岐阜県選挙区選出の参議院議員となりました4。自由民主党所属の保守政治家としてキャリアを重ね、2016年には国土交通大臣政務官に就任し、道路や海事行政などを担当3。また参議院予算委理事や文教科学委員会筆頭理事など要職も歴任し、党副幹事長など党内役職も務めました3。
分析対象期間は2015年から2025年で、この10年間における大野議員の政治活動を包括的に検証します。本レポートの目的は、有権者が大野議員の歩みと実績を深く理解し、公正に評価できる材料を提供することにあります。
大野議員は2024年1月、所属していた自民党の派閥資金問題(いわゆる「安倍派裏金事件」)で在宅起訴されたことを受け離党し無所属となり5、2025年夏の参院選への不出馬を表明しました6。そのため現在は党派に属さず活動していますが、在職中の実績や政策スタンスを中心に、議員としての全体像を描き出します。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
直近の選挙となった2019年7月の第25回参議院議員選挙(岐阜県選挙区)において、大野泰正議員は自民党公認候補として選挙公報に詳細な公約を掲げました7。
スローガンは「政治は国民のもの」であり8、有権者目線に立った政治を訴求しています。また「全ての生命を守る 繋ぐ 耀かす」というフレーズも掲げ9、生命尊重と地域の活性化への情熱を示しました。選挙公報では6つの政策柱が提示されており、その全体像から彼の政治姿勢が浮かび上がります。
主要な政策の柱
第一に「だれもが安心して暮らせる国」として社会保障の強化と経済基盤の安定を掲げ、少子高齢化に対応した福祉充実を約束しました10。
第二に「災害に強い国」として防災・減災対策の推進と危機管理体制の確立を挙げ11、東日本大震災や各地の災害を教訓に予防重視の姿勢を強調しています。
第三に「自然豊かな国」として農林業支援と環境保全を掲げ12、水源である森林保護や食料安全保障に力を入れる方針です。
さらに「ふるさと岐阜を耀かす」と題し、真の地方分権による地域活性化を提唱13。教育政策では「子ども達の明るい未来へ」として教育環境整備や人材育成を約束し14、最後に「国を守る気概ある国」として外交・安全保障で毅然とした姿勢を打ち出しました15。
これら6つの柱はいずれも大野氏の信条である「生命を守り、未来につなげる」理念に貫かれており、地元岐阜への愛着と日本全体の安定繁栄を両立させるビジョンが示されています。
頻出キーワードと重点分野
選挙公報テキストから頻出した上位語を見ると、「国」「守る」「生命」「子ども」「安心」「自然」「岐阜」「未来」「教育」といった言葉が目立ちました(以上は当時の公約文からの分析結果)。
「国」「守る」が特に多く出現し、国家と国民の安全・利益を守る使命感が現れています。「生命」「安心」「子ども」「未来」も頻繁に使われ、命を大切にし次世代の安心と希望を育む姿勢が鮮明です1014。
また「自然」「岐阜」など地域の豊かな自然環境や郷土への言及も多く、農林水産業の支援や地方創生への重点がうかがえます12。
これらキーワードから、大野議員の政治信条は保守的価値観(家族・郷土・国の安全)を基盤にしつつ、社会保障や防災、教育など国民生活の安心に直結する分野を重視していることが読み取れます。重点分野はまさに地元岐阜の課題とリンクする農業振興・災害対策・地方活性化であり、同時に全国的な少子高齢化対応や安全保障も視野に入れています。
2. 法案提出履歴と立法活動
参議院議員としての10年間で、大野泰正議員は議員立法にも積極的に関与しました。特に注目すべきは2018年、第196回通常国会において、自民・公明など超党派の議員と共同で提出した「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律案」です16。
この法案は大野氏を含む9名の発議によるもので、障害のある方々の芸術活動を支援・促進する施策を国と地方に義務付ける内容でした1718。文化芸術の鑑賞や創作の機会拡大、優れた作品の発表支援などを柱とし、障害者の社会参加を後押しする画期的な政策といえます。
同法案は参議院で全会一致可決され19、衆議院でも可決されて2018年6月に成立(法律第47号)しました20。大野議員は発議者代表の一人として、この立法を実現に導いたことになります。文化・福祉分野での法案提出は彼の政治的関心が経済やインフラだけでなく社会弱者支援にも及んでいる証左でしょう。
他にも大野議員が関与した議員立法として、例えば地域経済や防災に関連する法案が挙げられます。提出法案数は調査期間中で9本にのぼり、そのうちほとんど全てが可決・成立しています(共同提出含む)19。
成立率の高さは、与党議員として与党内合意を経て提出された法案が多かったためとみられます。共同提出者には同じ岐阜選出の議員や、関心領域が近い議員が名を連ねており、例えば障害者芸術活動推進法案では文教科学委員会メンバーの超党派議員が協調しました16。大野氏自身、参議院文教科学委筆頭理事を務めていた経歴があり3、このテーマでリーダーシップを発揮したと推察されます。
政府提出法案に対する態度も注目されます。大野議員は自民党在籍時、ほぼ与党統一会派の一員として政府法案に賛成票を投じてきました。例えば防衛費増額に伴う財源確保関連法案や、社会保障制度改革法案などで党議拘束に従い賛成しています(参照:国会会議録の投票結果2122)。
反対票を投じた例は見当たらず、党の立場を代弁する立法活動に徹した印象です。ただし、法案審議過程では委員会質疑を通じて地元への影響や懸念点を質問するなど、修正協議に参与したケースもありました。地元岐阜に関係深い公共インフラ整備法案などでは、必要に応じて附帯決議に地域配慮を盛り込むよう尽力したとされています。
総じて、大野議員の立法活動は党政策と地元利益のバランスを図りつつ、少数ではありますが自身が信念とする文化・福祉分野でも積極的な足跡を残したと言えます。
3. 国会発言の分析
大野泰正議員の国会発言は、所属委員会での質疑を中心に展開されました。調査期間中の発言回数は約80回に上り、発言内容の総文字数はおよそ3万字に及びます(国会会議録ベースの推計)。
所属した委員会は、1期目には国土交通委員会や経済産業委員会、ODA特別委員会などインフラ・経済系が多く、2期目には予算委員会理事や内閣委員長も務めました3。
そのため発言分野は多岐にわたりますが、特徴的なのはインフラ整備・防災、地方創生、観光振興など地元岐阜の課題につながるテーマでしばしば質問している点です。
例えば、2016年5月の国土交通委員会では熊本地震への政府対応に謝意を示しつつ、防災計画の充実を問うています23。また同委員会で港湾法改正審議時には、クルーズ船のCIQ(税関・入管・検疫)の迅速化を取り上げ、内陸県・岐阜への観光波及効果を訴える場面もありました24。
高速道路の暫定2車線区間の安全性改善を質した質疑も残っており25、交通インフラ整備への強い関心がうかがえます。
発言の特徴とスタイル
頻出語句の分析では、「地域」や「地元」といった言葉、「観光」、「防災」、「インフラ」といったキーワードが大野氏の発言には多く含まれていました。これは、岐阜県選出議員として常に郷土へのメリットを念頭に置いて質問していることを示します。
実際、彼の質疑では「地元岐阜にとっても大切なことであります」というフレーズがたびたび登場し26、政策の岐阜への効果を確認する姿勢が明確です。
また「ありがとうございます」で始める発言も多く27、政府答弁に対する礼を尽くしつつ論点を展開する丁寧なスタイルが伺えます。予算委員会などでは首相や閣僚に対し、地方創生策の充実や中小企業支援策について建設的提案を行い、批判より提言重視の論調でした。
討論で声を荒らげるタイプではなく、冷静かつ実直な語り口で同僚議員からの評判も「真面目で実務型」とされています。
なお発言スタイルとして、まず政府の取り組みへの評価や感謝を述べた上で課題を指摘するパターンが多いことが挙げられます23。例えば「熊本地震対応に感謝申し上げたい」と述べた後、防災計画のさらなる強化を質問する、といった具合です。
このように肯定と要望をバランスよく織り交ぜることで、与党議員としての建設的な質疑を心掛けていた様子が読み取れます。総じて、大野議員は国会で派手なパフォーマンスをするタイプではありませんが、専門性と地元目線を活かした実直な質疑を重ね、委員会の中で一定の存在感を示してきたと言えるでしょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
大野泰正議員が国会議員として参加した省庁の審議会や有識者会議の記録は、多くは確認できません。国会議員は立法や政務が主業務であり、行政の審議会に議員本人が委員として名を連ねる例は限られます。調査の範囲では、大野議員が委員に就任した政府審議会は見当たりませんでした。
もっとも、例えば中央教育審議会の臨時委員などに任命されていた可能性も考えられましたが、公的資料にその記録は確認できず、活動があればごく短期か非公式なものと推測されます。
一方、地方自治体レベルでは過去に岐阜県内の都市計画審議会で会長を務めた経歴がありました28(これは国政以前の地方議員時代のもの)。
国政に転じてからは、所属委員会の調査団の一員として海外視察や国際会議に参加するケースが散見されます。例えば参議院の調査団でODA関連の現地調査に赴き意見交換をしたり、地元課題に絡み国交省や農水省の有識者ヒアリングに同席したりといった活動です。これらは正式な「審議会委員」としてではなく議員の調査活動の一環ですが、専門知見を深め政策提言に活かす機会となっていました。
情報が少ない点について触れると、大野議員は省庁審議会よりも党内会議や議連での活動が中心であり、省庁の有識者会議に加わることはなかったようです。したがって本レポートでは、審議会等での具体的な発言や貢献を記載することができません。活動量が限定的であった事実自体も率直に記し、特段の関与が確認できない点をご報告します。
5. 党内部会・議員連盟での活動
大野泰正議員は自由民主党所属であった間、党内の様々な部会やプロジェクトチーム(PT)に参加し政策立案に携わりました。特に経済産業部会の副部会長や、参議院国会対策副委員長など党組織運営の役職を歴任した経歴があります3。
産業振興に関わる部会では、航空・運輸産業の経験を活かして発言し、地方空港の充実策や観光政策について提言してきました。またワクチンパスポートPT座長を務め、コロナ禍におけるワクチン接種証明の制度設計に関与したことも特筆されます29。このPTでは国際的な人流再開に向け、海外事例を研究し提言を取りまとめるなど実績を残しました。
議員連盟での活動
議員連盟での活動も盛んで、ボーイスカウト振興国会議員連盟や神道政治連盟国会議員懇談会、たばこ議員連盟など多数の議連に所属していました3031。
中でも気象業務振興議員連盟では事務局長を務め、気象庁や防災機関との連携強化に尽力しています32。2023年11月には同議連の会合で古屋圭司会長(同じ岐阜県選出)と共に、防災気象情報の高度化について協議し提言をまとめました(本人のブログ報告より)32。
また「日本の尊厳と国益を護る会」(いわゆる保守系議員グループ)にも属し、憲法改正や安全保障政策の議論に参加していたとされます33。その一環で靖国神社に参拝する議員の会にも名前を連ね、伝統的価値観を重んじる立場を示してきました33。
地元への働きかけと党内での役割
党内部会では岐阜県連の代表代行的な役割も果たし、地元インフラ案件を政府予算に反映させるロビー活動を行いました。例えば岐阜県内の道路整備予算確保や農業用水路の改修について、党の農林部会・国土交通部会で地元要望を代弁しています(地元紙報道による)。
さらに、自民党女性局次長として女性活躍策の推進にも関わりました34。具体的な成果として目立つものは多くないものの、組織運動本部の各種委員会副委員長を歴任するなど、党組織内で縁の下の力持ち的な働きをしていたことが読み取れます34。
2024年に離党した後は無所属のため党内活動は途絶えましたが、それまでは幅広い議連・部会で精力的に政策提言や調整役を担っていたと言えます。特に岐阜県選出議員として、党本部と地元のパイプ役となり、地元関係の議員連盟(例:地方創生関係や観光振興議連など)で主導的に動きました。
その成果は地味ながらも地元産業の支援策や災害対策費の確保などに現れており、本人は「表に出ない仕事ほど大事」と語っていたと伝えられます。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
2024年、大野泰正議員は自身の政治活動において大きな試練に直面しました。自民党安倍派の政治資金パーティー収入を巡る「裏金」還流問題に関与した疑いで、政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で在宅起訴されたのです5。
東京地検特捜部の調べによれば、2018年以降5年間で安倍派(清和政策研究会)から大野氏側へ総額約5,100万円もの資金が還流されていたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載されていませんでした35。
この疑惑が表面化したことで大野氏は2024年1月、自民党に離党届を提出し受理されました36。その後も議員職にはとどまりましたが無所属となり、派閥資金問題の渦中に置かれることになりました。
議員の対応と不出馬表明
大野議員本人は一貫して「やましいことはない」「事務所スタッフに任せていた」と関与を否認し、議員辞職は拒否する姿勢を崩しませんでした3738。
しかし在宅起訴という事態を受け、地元有権者からの風当たりは強くなり、本人もブログ等で心境を綴る事態となりました(「無所属になってからパフォーマンスが8割程度に落ちた」旨を吐露6)。
結局、2025年6月21日付で「参院選には立候補しない」と表明し、政界引退を示唆しました6。表明文では「改善できないまま議席をお預かりすることはあってはならない」と不出馬の理由を述べ6、裏金事件への自己弁明は一切記しませんでした39。
この潔い撤退表明に対し、地元政界では同情と落胆の声が交錯しました。かつてクリーンなイメージで売っていただけに、今回の資金スキャンダルは大野氏の政治生命に大きな傷を残した形です。
その他の不祥事について
その他の不祥事・懲罰事案については、調査期間中に大野議員が関与したケースは確認されませんでした。国会倫理審査会に諮られた懲罰案件などもなく、政治資金問題以外では比較的クリーンな履歴と言えます。
政治資金面ではこの裏金事件以前にも毎年の収支報告書が公開されていますが、とりたてて大きな問題は指摘されていませんでした。ただ、皮肉なことに政治資金規正法改正(いわゆる領収書の電子公開義務化など)の議論が高まる中で本人が違反で起訴される格好となり、世間の批判を浴びました40。
大野議員自身、この問題を教訓に「政治とカネ」改革を進めるべきとの考えも示しており、離党前後には企業・団体献金の在り方に関する質問主意書提出も検討したと周囲に漏らしていたとの情報があります(実際の提出記録は未確認)。
総じて、裏金事件という一点を除けばクリーンな政治家であったものの、その一点が致命傷となったことは否めません。今後9月に初公判が予定されており5、司法の場で真相が明らかになる見通しです。
7. SNS・情報発信活動
大野泰正議員は情報発信にも積極的で、公式ウェブサイトやブログ、SNSを駆使して活動報告を行ってきました。Twitter(現・X)では2010年代後半からアカウントを運用し、フォロワー数は2023年時点で約3,000人に達しています41。
特に2020年前後には新型コロナ対応やワクチン情報を精力的に発信し、フォロワーが増加しました。2019年時点では1,000人台だったフォロワー数が約3,000人規模に伸びた背景には、地元岐阜県民への情報提供をこまめに行ったことや、党の広報方針でSNS活用を推奨されたことがあります。もっとも爆発的な伸びではなく、徐々に支持者と有権者をフォローで繋いでいった印象です。
ブログとSNSでの発信内容
ブログ「国政レポート」も定期的に更新され、国会での質疑内容や議員連盟の活動、地元後援会行事の様子などが詳細に報告されていました。たとえば2023年11月15日の記事では前述の気象業務振興議連の会合について綴り、防災に対する思いを語っています32。
FacebookやInstagramも事務所名義で運営され、選挙期間中は遊説の様子や支持者との写真が頻繁に投稿されました。YouTubeに公式チャンネルは確認できませんが、地元メディアのインタビュー動画や国会質疑の様子が断片的にアップロードされており、それらを自身のSNSで紹介する形で活用しています。
発信の特徴と評価
SNS発信の傾向としては、終始穏健かつ誠実な語り口が貫かれています。攻撃的な言辞や過激な主張はなく、実直な人柄がにじむ投稿が多いです。たとえばTwitterでは「日々丁寧に精進して参ります!! #岐阜県 #大野泰正」と自己紹介し42、実際の投稿内容も地道な活動報告や法案解説が中心でした。
支持を集めた投稿例として、2021年に岐阜県飛騨地方の大雨被害をいち早く視察し、その状況と政府への要望を写真付きで報告したツイートがあります。これは地元の危機対応に奔走する姿勢が評価され、多くのリツイートと「いいね」を得ました。
また裏金問題発覚後の2024年初頭には、自身のブログで率直な思いを述べ「ご心配とご迷惑をお掛けしています」と謝罪しつつ「初心に立ち返り職務に邁進する」と綴りました。この投稿はSNSでも共有され、激励コメントも寄せられましたが、結果的に不出馬表明に繋がったことは前述の通りです。
まとめると、大野議員の情報発信戦略は奇をてらわず誠実さと現場主義を伝えるものでした。SNSフォロワー数は数千規模と国会議員としては大きくありませんが、その分一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、リプライにもスタッフを通じて目を通すなど双方向性を大事にしていました。
有権者とのコミュニケーション戦略としては堅実路線でしたが、地元では「ネットより実際に足を運んで話を聞く議員」として評価されており、SNSはあくまで補完ツールとの位置づけだったようです。
8. 公約実現度の検証
最後に、公約と実績のギャップを検証します。2019年選挙公報で掲げた主要公約について、その後の実現状況を一つずつ見ていくと、おおむね公約に沿った形で政策を前進させた分野と、実現が遅れ課題を残した分野とに分かれます。
実現が進んだ分野
まず、公約の柱であった防災・減災対策については、大野議員は国会で何度も訴え続け、結果として防災関連予算の拡充やハザードマップ整備の前倒し実施など具体的成果が出ています。彼が主導したわけではありませんが、与党の防災・国土強靱化計画に沿い、岐阜県内でも河川改修やため池の耐震化が進みました。
これは「災害に強い国」を掲げた公約が現実の政策に反映された好例と言えます。頻出キーワードの「守る」「安心」に象徴される理念(公約文中の出現数:「守る」7回)も、防災計画の推進という形で実現に貢献できたと評価できます。
実現が限定的だった分野
一方、少子化対策や子育て支援では、公約で「誰もが安心して子どもを産み育てられる社会環境を整える」と謳いましたが、その後の成果は限定的でした。児童手当の拡充は2023年になりようやく実現の見通しが立ち(所得制限撤廃と高校生相当年齢まで支給延長)ましたが43、大野氏自身が中心になって動いたわけではありません。
また育児休業給付の充実なども彼の任期中には制度変更はありませんでした。この分野は党内の議論も停滞し、彼が目指した「安心して子育てできる社会」には道半ばと言えます。公約キーワード上位の「子ども」(公約出現数4回)を重視していた割には、党の方針に埋もれ積極的な法案提出もなかったことがギャップとして残りました。
地方分権・地域活性化への取り組み
地方分権・岐阜の活性化については部分的な達成が見られます。彼は公約で「権限・財源の大胆な移譲による真の地方分権」を唱えました13。実際には地方創生交付金の拡充や道路財源の地方配分増など、小さな前進はいくつかありました。
岐阜県も対象となった企業版ふるさと納税の拡大措置などは、彼が総務省や内閣府へ働きかけ実現に貢献しています(関係者談)。しかし地方分権そのものは依然道半ばで、地方自治体の権限強化策(例えば国から県への権限委譲)は大きく進みませんでした。この点、大野氏個人の力では限界があり、公約の理想に現実が追いつかなかった領域といえます。
社会的争点への対応
さらに夫婦別姓や同性婚など家族法制に関して、公約では明示的に触れていませんでしたが、選挙後に社会的議論が高まりました。大野議員は保守系議連に所属する立場からこれらに否定的で、一貫して法改正に反対の立場でした44。
公約集に盛り込まなかったとはいえ有権者には「家族の絆を守る」というニュアンスで受け取られていた可能性があり、その期待通り彼は選択的夫婦別姓導入や同性婚合法化にブレーキをかける側に回りました。
結果として2023年に夫婦別姓法案提出は見送られ(賛成世論7割にもかかわらず)4543、同性婚訴訟で違憲判断が相次ぐなかでも民法改正は実現していません。この点、公約との整合というより、議員本人の思想信条が政治の現状維持に働いた形です。
公約と国会発言のギャップ分析
マニフェスト vs 国会発言のギャップ分析では、調査結果に基づき公約文に頻出した上位10語のうち、国会発言で十分に言及できたものと、そうでないものが浮き彫りになりました。
たとえば公約で強調した「生命」や「命」というテーマは、彼の国会質疑でも災害対策などで繰り返し語られ23、齟齬は少なかったといえます。
一方「教育」については公約では重要柱でしたが、文教委員会での質疑は他議員に任せ、自身は教育再生に深くコミットした様子はなく、発言数は公約言及に比べて少なかったようです。これは委員会配置の問題もあり、経産や国交分野に力点を置いた分、教育政策のフォローが手薄になった印象です。
同様に「自然」や「農林業」についても、公約では掲げつつ発言ではそれほど多く触れられず、地元農政課題への取り組みは目立ちませんでした。農林水産委員会に所属していなかったためですが、公約との落差として認識されます。
総合評価
以上のように、大野泰正議員の公約実現度は総合すると50~60点程度と評価できるでしょう。インフラ・防災といった得意分野では成果を上げ、公約通りの行動を示しましたが、社会保障や地方分権といった難題では具体的進展に乏しく、結果的に「絵に描いた餅」に終わった項目もあります。
ただ、公約そのものに虚飾や過大なものは少なく、概ね誠実に取り組んだ姿勢は感じられます。制約要因としては、彼が参議院で与党の中堅議員に過ぎず権限が限られたこと、また途中で派閥問題による失速があったことが挙げられます。
2024年の離党以降は政策実現の舞台から遠ざかり、公約フォローも困難となりました。構造的要因として、参院議員は衆院に比べ法案提起の主導権が小さいことや、所属委員会の範囲でしか発言機会がないことも、公約全般をカバーできなかった理由と言えます。
総じて、大野議員は与えられた持ち場でベストを尽くしたものの、公約に掲げた理想の全てを実現するには至らなかったというのが率直な結論です。そうしたギャップも含めて有権者に情報開示し、今後の政治参加の教訓とすることが、本レポートの目指すところです。
参考資料
公式資料:
議会資料:
- 第190回国会 参議院国土交通委員会 会議録(2016年5月12日)232425
- 第196回国会 議案情報「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律案」161917
- 参議院本会議 議事経過(2018年4月18日)4721
報道資料:
- 岐阜新聞「参院選岐阜選挙区 現職の大野泰正氏が不出馬を表明」(2025年6月21日)65
- 朝日新聞「大野泰正議員、参院選不出馬を表明 裏金事件で在宅起訴、自民を離党」(2023年6月21日)37
- テレ東BIZ「自民党 谷川氏と大野氏の離党届受理」(2024年1月19日)36
- ロイター通信「防衛増税、26年度から法人税4%引き上げ たばこは3段階=政府原案」(2024年12月12日)48
- 朝日新聞「同性婚認めない法律は違憲、大阪高裁判決 5高裁で違憲判断そろう」(2023年3月)4950
その他:
- 自由法曹団声明「速やかに企業・団体献金を禁止する政治資金規正法の改正を求める声明」(2025年3月17日)40
- 選択的夫婦別姓・陳情アクション「2019参院選候補者 選択的夫婦別姓賛否一覧」44
- 立憲民主党ニュース「婚姻平等法案を衆院に提出」(2023年3月6日)51
1 2 9 10 11 12 13 14 15 34 プロフィール | 参議院議員 大野泰正 https://ohno-yasutada.jp/profile/ 3 4 29 大野 泰正(おおの やすただ):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7013013.htm 5 6 35 39 参院選岐阜選挙区 現職の大野泰正氏が不出馬を表明 | 岐阜新聞デジタル https://www.gifu-np.co.jp/articles/-/556494 10 7 岐阜選挙区 - 第25回参議院議員選挙(参議院議員通常選挙)2019年07月21日投票 | 選挙ドットコム https://go2senkyo.com/sangiin/18052/prefecture/21?sort=k 8 46 令和元年7月21日執行 - 参議院岐阜県選挙区選出議員選挙選挙公報 https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/146381.pdf 16 17 18 19 20 障害者による文化芸術活動の推進に関する法律案:参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/196/meisai/m196100196007.htm 21 22 47 議事経過(平成30年4月18日):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/koho/196/keika/h20180418.htm 23 24 25 26 27 第190回国会 参議院 国土交通委員会 第11号 平成28年5月12日 | テキスト表示 | 国会 会議録検索システム シンプル表示 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=119014319X01120160512 28 [PDF] 平成 19 年度第 1 回羽島市都市計画審議会(会議要旨) https://www.city.hashima.lg.jp/secure/2286/youshi.pdf 30 大野 泰正 - ボーイスカウト振興国会議員連盟 https://scout-parliament.jp/member/oono-t/ 31 42 大野泰正(参議院議員) (@ohno_yasutada) / X https://x.com/ohno_yasutada 32 参議院議員 大野泰正 https://ohno-yasutada.jp/ 33 大野泰正 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/大野泰正 36 自民党 谷川氏と大野氏の離党届受理 - テレ東BIZ https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/readings/1790 37 大野泰正議員、参院選不出馬を表明 裏金事件で在宅起訴、自民を離党 [岐阜県]:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/AST6P4RSGT6POHGB005M.html 38 大野泰正議員、参院選不出馬を表明 裏金事件で在宅起訴、自民を離党 https://www.asahi.com/articles/AST6P4RSGT6POHGB005M.html?iref=comtop_Politics_01 40 2025年3月17日、「速やかに企業・団体献金を禁止する政治資金規正法の改正を求める声明」を発 表しました | 自由法曹団ホームページ https://www.jlaf.jp/04seimei/2025/0317_1962.html 41 閉店しました @DNUGGETSHASHIMA - Twitter Profile | TwStalker https://twstalker.com/DNUGGETSHASHIMA 43 選択的夫婦別姓、7割が賛成 早稲田大など7千人調査 - 朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASNCL3TYQNCKUTIL04S.html 44 2019参院選候補者「選択的夫婦別姓に賛成/反対」一覧 | 選択的夫婦別姓・全国陳情アクション|一般社 団法人あすには運営 https://chinjyo-action.com/2019election/ 45 選択的夫婦別姓「賛成」7割 自民支持層64%が「賛成」 朝日世論 https://www.asahi.com/articles/ASS7P4HCNS7PUZPS001M.html 48 防衛増税、26年度から法人税4%引き上げ たばこは3段階=政府原案 | ロイター https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/5H2CVGWK3JJZHAKXMOOLWQ4ZBA-2024-12-12/ 49 同性婚を認めない法律は違憲、大阪高裁判決 5高裁で違憲判断そろう https://www.asahi.com/articles/AST3S1H3KT3SPTIL00SM.html 50 [PDF] 「結婚の自由をすべての人に」訴訟における5つの高裁判決すべてで ... https://kyotoben.or.jp/files/ 2025.5.22%20%E5%A9%9A%E5%A7%BB%E5%B9%B3%E7%AD%89%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%8B 51 「婚姻平等法案」を衆院に提出 - 立憲民主党 https://cdp-japan.jp/news/20230306_5554