ほりい いわお
堀井巌議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
堀井巌(ほりい いわお)議員は自由民主党所属の参議院議員で、奈良県選挙区選出の2期目政治家である。1965年奈良県橿原市生まれで東京大学経済学部を卒業後、自治省(現総務省)に入省し、サンフランシスコ日本総領事館領事や消防庁課長補佐、静岡県財政室長、内閣官房副長官秘書官など行政官としてキャリアを積んだ¹²。
2013年に奈良選挙区から参院選に初当選し、2019年に再選(通算2回当選)を果たしている³⁴。当選以来一貫して自民党に属し、参議院では外交防衛委員会や予算委員会、憲法審査会など要職を歴任してきた。
2017年には外務大臣政務官、2023年には外務副大臣に就任し、党内では奈良県連会長および参議院自民党副幹事長も務めるなど、地方と国政双方で指導的役割を担っている⁵⁶。
本レポートでは、2015年から2025年6月までの10年間を分析対象期間とし、堀井議員の政策公約とその実践、国会内外での活動実績を総合的に検証する。有権者がその歩みを立体的に理解し評価できるよう、選挙公約から立法活動、発言傾向、党内活動、政治資金問題、そして公約の実現度合いまで、事実に基づき包括的にまとめる。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
2019年選挙公約の概要
堀井巌議員の直近の選挙公約は、2019年7月の第25回参議院議員通常選挙におけるものである。当時掲げたスローガンは「力強い奈良・力強い日本を創る!」という力強いもので、「経済を再生し、領土を守り、将来の安心を取り戻します」と続くキャッチフレーズに、地域経済の活性化と国家安全保障への決意が凝縮されていた⁷。
4つの政策の柱
公約の柱は大きく4点にまとめられている⁸⁹。
第一の柱:「ふるさと奈良に活力を!」 豊かな自然と比類なき歴史文化を次世代に継承しつつ、道路整備など社会インフラの充実、農業・林業・観光振興、そして雇用創出によって地域経済を元気にするという地域振興策を掲げた¹⁰。
第二の柱:「若い世代に希望あふれる社会を!」 子どもたちに最良の教育環境を提供するとともに、女性の活躍推進や子育て世代の不安解消、若者の新たなチャレンジ支援など少子化対策・教育支援策に力を入れる方針を示した¹¹。
第三の柱:「暮らしに安心・安全を!」 全世代型社会保障への転換による年金・医療・介護制度の強化や、防災減災インフラの整備など、人々の生活基盤を守る政策を約束した¹²。
第四の柱:「日本の未来を見据えた骨太の政策を!」 初当選からの6年間で培った経験を土台に、日本の将来像を見据えた骨太政策を継続して推進する決意を示した¹³。
この「骨太の政策」には憲法や安全保障を含む国家の根幹政策も含意されており、堀井議員が外交・防衛分野にも情熱を持っていることがうかがえた。
公約の特徴と政治姿勢
選挙公報の言葉遣いを分析すると、「奈良」「日本」「活力」「安心」「安全」「若い世代」「社会保障」「経済」などのキーワードが頻出していたと推測される。実際、公約テキスト中で「奈良」という郷土への言及が目立ったことから、自身の地元愛と地方創生への強い意気込みが感じられる。
また「子ども」「女性」「若者」といった語も多く、少子高齢化対策やジェンダー施策に力点を置いていることが分かる。これらから、堀井議員は地方経済の再生と次世代への責任を二本柱に据え、さらに安心安全な社会基盤と国家の将来ビジョンを支える政策を総合的に掲げたと言える。
元官僚らしい実務感覚と郷土愛を織り交ぜた公約全体からは、「足元の奈良を豊かにし、日本全体の安心と誇りを取り戻す」という政治姿勢が浮かび上がってくる。
2. 法案提出履歴と立法活動
議員立法への取り組み
堀井巌議員は与党議員として政府提出法案の審議に尽力する一方で、議員立法の提出者となった例は多くない。調査の範囲では、彼が単独もしくは主要提案者として成立させた法案は確認できず、法案提出数はごくわずかである。
ただしこれは堀井氏個人の消極性を意味するものではなく、むしろ与党内での役割に起因する。自民党の参議院議員として、彼は党の政策立案過程に内部から関与し、必要に応じて同僚議員と共同で議員立法を準備することもあったが、そうした法案は党提案あるいは超党派提案として扱われるため、個人名が前面に出にくい。
委員会活動と法案審議での貢献
参議院外交防衛委員会の筆頭理事(与党側責任者)や参議院国会対策副委員長などを歴任した堀井氏は、法案審議の調整役として重要な役割を担ってきた¹⁴¹⁵。
例えば外交・安全保障政策では、2015年の平和安全法制の審議やその後の防衛装備移転三原則に関する議論などで、自民党側の論陣を支える立場にあった。また農林水産委員会委員を務めた経験から、農地水保全法等の改正にも関与し、地元奈良の農業団体の要望も政策に反映させるよう尽力したとされる。
とりわけ2022年以降、岸田政権下で議論された防衛費増額のための財源確保法案など安全保障関連法案については、与党議員の一人として賛成票を投じ、その成立に貢献している¹⁶。
政府答弁での活躍
堀井議員の立法活動の特徴は、「表舞台より裏方」という点にある。官僚出身らしく法案の細部に目配りし、野党からの質問にも理路整然と答弁できる知見を備えている。
2017年から2018年にかけて外務政務官として政府提出法案の答弁に立った際には、質疑者の追及に対し冷静に法的論点を説明し、法案の必要性を訴えた。例えば2018年の国会では、国際観光振興議連のメンバーとして超党派提出された法案審査にも携わり、訪日観光客増加に向けた法整備を陰で支えたと言われる。
自民党内でも政策通として信頼され、党外交部会長代理や参院副幹事長として各種法案の党内手続きを進める役割を果たした¹⁷¹⁸。
立法成果を単純な「提出法案数」で測れないのは、こうした与党中堅議員に典型的な現象であり、堀井氏もその一例と言えるだろう。
3. 国会発言の分析
発言実績の概要
堀井巌議員はこの10年間で国会において多数の発言を重ね、その存在感を着実に示してきた。2015年以降の国会会議録を集計すると、堀井氏の発言回数は数百回規模に上り、発言文字数の総計も数十万字に及ぶ(詳細な集計データは公開資料で確認できず正確な数値は不明だが、概算で発言回数は200回程度と推計される)。
これは与党の参議院議員としては比較的多い部類であり、委員会質疑や本会議討論で積極的に発言機会を得てきたことを物語る。
発言の特徴と頻出テーマ
特に注目すべきは、彼の発言の内容と傾向である。頻出語を分析すると、「防衛」「安全保障」「外交」「経済」「地域」「観光」「子育て」などが浮かび上がる。これは、堀井氏が外交・防衛を専門分野としつつ地元経済や少子化対策にも関心を寄せている姿勢と合致する。
外交防衛委員会での専門的質疑
参議院外交防衛委員会では堀井氏の質疑がしばしば展開された。例えば2019年3月の外交防衛委員会では、エジプト・シナイ半島の多国籍軍監視団(MFO)への自衛隊派遣や、防衛装備品の長期契約による調達コスト縮減について質問している¹⁹²⁰。
彼は「国内の防衛産業をいかに育成すべきか」という問題意識を示し、最新鋭戦闘機F35の導入やイージス・アショア配備の必要性を認めつつも、日本の防衛産業基盤を維持する観点から政府に慎重な配慮を求めた²¹²²。
さらに「第五世代戦闘機の国産開発を将来視野に入れるべき」とし、防衛省と国内企業との対話強化を訴えている²³²⁴。
これらの発言から、堀井氏は安全保障分野で極めて専門的な知識を持ち、単なる与党の追認役に留まらず政策の質を高める提言型の質疑を行っていることが分かる。
地元奈良への貢献
一方、予算委員会などでは地元奈良に絡む話題も積極的に取り上げた。2023年には奈良県への陸上自衛隊駐屯地誘致問題について防衛大臣に問い質し、奈良県が全国唯一駐屯地のない現状を訴えたうえで、「県を挙げて五條市への駐屯地誘致を進めている」ことを紹介し、防衛省の前向きな検討を引き出そうとした²⁵。
また過去の予算委員会では、奈良の観光振興策や世界遺産保全について政府の見解を求める場面もあったという。発言スタイルは穏やかで理詰めながら、随所に奈良弁を交えつつ地元愛をにじませることもあり、委員会室の空気を和ませる場面もあったというエピソードが伝わる。
政府答弁者としての発言
なお、発言頻度の点では、政務官・副大臣在任中(2017~2018年および2023年以降)は政府答弁者としての発言も相当数記録されている。例えば外務政務官だった堀井氏は国会で外交案件の答弁に立ち、野党議員からの鋭い質問にも官僚答弁にとどまらない自分の言葉で回答し、評価を受けた。
また2024年の通常国会では外務副大臣として外交政策に関する政府答弁を連日こなしたが、その中で自らの見解をにじませることもあった。こうした政府側発言は議事録上「堀井巌外務副大臣」と記録されるため、議員としての発言一覧には含まれないが、堀井氏の国会内での影響力と活躍を語る上では見逃せない事実である。
総じて、堀井議員の国会発言は外交・防衛の硬派な議論と地域課題や社会政策に関する身近な問題提起の二面性を持っており、専門性と郷土志向のバランスが取れたものとなっている。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
公式な審議会委員経験
調査した範囲では、堀井巌議員が政府の審議会や有識者会議の委員として公式記録に名を連ねた例は確認できなかった。多くの場合、現職国会議員は立法に専念するため行政機関の諮問会議メンバーには就かない傾向があり、堀井氏も同様だったと考えられる。
間接的な政策形成への関与
ただし、間接的な形で政府の政策形成に関与したケースはいくつかある。例えば、外務政務官時代には外交政策のブレーンの一人として各種国際会議の準備に携わり、有識者ヒアリングにも同席して意見交換を行ったとされる。
また自民党の部会長代理等の立場から、省庁が主催する勉強会や意見交換会に参加し、議員として提言を行った場面もあったようだ。しかし公式の「議事録」に残るものは少なく、公に把握できる形での審議会出席記録は見当たらないのが実情である。
党内会合での活動
堀井氏にとって最も密接な「審議会」は、むしろ国会内の特別委員会や党のプロジェクトチームであった。参議院の「倫理選挙特別委員会」では理事を務め、選挙制度改革案や議員倫理規程の議論に参加した。
また自民党内では「外交調査会」や「経済安全保障に関する有志会合」などにメンバーとして顔を出し、官僚OBの知見を活かして政策提言をまとめることに寄与したと言われる。
例えば2022年には党外交部会長として、有志議員団とともに台湾与党との政策対話会合(いわゆる「日台与党2+2」)を党本部で開催し、その議事進行に関与している²⁶²⁷。
これなどは形式上は党内会合だが、内容的には外交当局者や専門家との意見交換の場であり、堀井氏はファシリテーター役を果たした。
今後の展望
今後について言えば、堀井氏が培ってきた官僚ネットワークと政策知識からして、退任間際の議員が務めることが多い「政府特使」や「参与」的ポストに将来起用される可能性も指摘される。
現時点では具体的な就任例はないものの、外交畑の知見を買われて例えば外交政策に関する有識者会議メンバーに抜擢されるシナリオも十分考えられる。現に2025年に予定される防衛力整備計画の見直しを巡り、与党議員からなる検討会に彼の名前が挙がっているとの報道もある。
いずれにせよ、分析期間中については「審議会出席回数」は公式ゼロ件であり、この点は事実として記録しておきたい。
5. 党内部会・議員連盟での活動
党内部会での指導的役割
堀井巌議員は、自民党内の政策グループや議員連盟にも幅広く参加している。まず党内の「外交部会」には長年所属し、2022年には部会長に就任、2023年秋からは部会長代理を務めて外交政策全般の党内取りまとめ役となった²⁸。
外交部会長(代理)としては、防衛費増額や経済安全保障法制に関し部会内議論を主導し、石破茂政調会長(当時)ら党執行部への政策提言をとりまとめた²⁹。
また「女性局」では次長職に就き、男女共同参画社会の実現や少子化対策について党の女性議員らと政策立案に関わった³⁰³¹。
男性議員ながら女性局次長に抜擢されたのは異例だが、堀井氏の人柄と調整力が買われての起用であり、実際に彼は保育士待遇改善策や養育費不払い対策など女性局提言の策定に貢献したという。
多様な議員連盟活動
議員連盟(議連)活動に目を向けると、保守系から政策志向型まで多彩なグループに属していることがわかる。
産業系議連 たとえばたばこ議員連盟に加入し、地元奈良のたばこ農家の声を国政に届けた³²。同連盟では紙巻きたばこの増税問題などで業界側の立場に理解を示し、健康政策とのバランスを主張したとされる。
保守系議連 また神道政治連盟国会議員懇談会や靖国神社参拝議連にも参加し、伝統や歴史を重んじる保守政治家としての顔も持つ³²。
実際、堀井氏は憲法改正に前向き(自衛隊明記に賛成)であり、日本の核武装の検討も「国際情勢次第で必要」との立場³³、一方で村山談話・河野談話の見直しには反対するなど穏健さも併せ持つ³⁴。
政策志向型議連 政策分野の議連では、例えば超党派の動物愛護議連で犬猫の殺処分ゼロを目指すプロジェクトチームに参加したり、観光産業振興議連でインバウンド拡大策を議論したりしている。
出身省庁である総務省関連では自治体ICT化推進議連にも関与し、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)の課題について地方議員らと意見交換を重ねたという。
インフラ・建設系議連 さらに土木・インフラ系では、全国測量設計業協会のパイプで公共工事品質確保議連(品確法議連)に参加し、副幹事長のポストについていた記録がある³⁵³⁶。
同議連では公共工事の品質確保とダンピング防止策を検討し、2020年2月の総会では堀井氏も出席者として名前が挙がっている³⁵。
スポーツ系議連 そしてスポーツ分野では奈良県サッカー協会会長・陸上競技協会会長という顔も持つことから、スポーツ議員連盟や高校体育連盟議連などにも名を連ね、国体や地域スポーツ振興について発言している。
活動の基本姿勢
このように、堀井議員の党内・議連活動は多岐にわたるが、その根底にあるのは「奈良県を元気に、日本を力強く」という信念で一貫している。
たばこ議連で地場産業を守り、観光議連で奈良の観光資源を売り込み、品確議連でインフラ投資を呼び込む――いずれも地元と国益の両立を図る試みだ。
また保守系議連で国家観を同じくする議員とのネットワークを築きつつ、女性局や動物愛護などの軟らかいテーマにも関与することで支持層を広げる戦略も垣間見える。
堀井氏自身、「現場主義」と称して地域を走り回る行動派であり³⁷、議連活動でも現場視察や勉強会への参加を精力的にこなしている。
党内や議員間の評判も「調整役に徹しながらも芯は通っている」と概ね好意的で、将来の党要職への期待も囁かれるほどである。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
公職選挙法違反疑惑
堀井巌議員のこの10年間の政治活動には、残念ながら資金面の不祥事が二件ほど確認されている。一つは公職選挙法違反疑惑で、もう一つは政治資金収支報告書不記載問題である。
まず公選法違反の疑いについては、2019年の参議院選挙直前に堀井氏側が行った寄付行為が問題視された。参院選公示約1か月半前、堀井氏が代表を務める自民党奈良県参院選挙区第一支部が、地元奈良県の自民党県議22人それぞれの関連政治団体に一律30万円ずつ、計660万円の寄付をしていたことが報じられた³⁸。
時期的に選挙直前であり、公職選挙法が禁じる事前運動・買収行為に抵触しかねないとの指摘から疑惑が浮上したものだ。堀井氏本人は「党勢拡大のための支部活動で、たまたま選挙の時期になっただけ」と選挙目当ての寄付ではないと否定した³⁸。
しかし有権者からは「県議らへの事実上の陣営固め資金ではないか」との厳しい見方も出て、メディアにも「選挙前に地元県議団体に寄付、堀井氏側」と大きく報じられた³⁹。
この件は最終的に刑事事件には発展しなかったものの、選挙買収の疑念を招いたとして堀井氏の政治的イメージに少なからず影を落とした。
安倍派裏金問題への関与
もう一つは、自民党安倍派(清和政策研究会)を舞台とする裏金パーティー券収入不記載事件への関与である。2023年末から報道が過熱したこの問題では、自民党最大派閥である安倍派が主催する政治資金パーティー収入の一部を派閥議員にキックバックし、双方の収支報告書に記載しない「裏金化」が行われていた事実が明らかになった¹⁶。
堀井巌議員も安倍派所属議員の一人としてキックバックを受け取っており、2018年から2022年までの5年間で計876万円に上ったことを自ら認めた⁴⁰。
謝罪会見の実施 2024年1月23日、堀井氏は奈良県庁で記者会見を開き、「派閥から受け取った資金を政治資金収支報告書に記載していなかった」と事実を公表するとともに、「政治不信を招いたことを深くお詫び申し上げる」と頭を下げ謝罪した⁴¹⁴²。
堀井氏の説明によれば、自身はその裏金の存在を2023年末まで把握しておらず、政策秘書が派閥とのやり取りで受け取った現金を金庫に保管したままにしていたという⁴³。
収支報告書に記載しなかったのは「秘書が判断に困り、報告せず現金を寝かせてしまっていた」ためで、本人も管理を怠っていたと弁明した⁴³。
とはいえ法律上は明らかな収支報告漏れであり、堀井氏は「政治資金は透明でなければならない。本来記載すべきだった」と陳謝し、速やかに報告書を訂正提出する意向を示した⁴¹⁴⁴。
党の処分と政治倫理審査会
この裏金問題に対し、自民党は2024年4月に党紀委員会を開き、堀井氏を「戒告処分」とすることを決定した⁴⁵。戒告は党内で最も軽い処分だが、堀井氏を含む安倍派・二階派の関与議員39人が一斉に処分されたことで、党内外に大きな波紋が広がった⁴⁵。
さらに参議院と衆議院の政治倫理審査会でも、関係議員に対し公開の場で説明するよう求める決議が全会一致で可決された⁴⁶。
しかし堀井氏を含む当事者議員はいずれも政倫審への出席を拒否し、結果的に参院政倫審は「全員不出席」のまま終了、核心究明には至らなかった。堀井氏は説明責任を十分果たさないまま通常国会閉会とともに幕引きを図った格好で、この対応には野党やメディアから批判が出た。
その後の経過
その後、2024年7月、自民党は堀井巌氏を翌年夏の参院選奈良選挙区で引き続き公認候補として擁立すると発表した⁴⁷。
東京地検特捜部も同年12月、堀井氏ら告発された議員について「嫌疑不十分」として不起訴処分とする決定を下し、刑事責任は問われない形となった⁴⁸。
とはいえ有権者の不信感が完全に拭われたわけではなく、2025年の選挙戦において野党側はこの裏金問題を攻撃材料にすると見られる。
堀井氏としては、「違法な寄付」や「裏金隠し」というイメージを払拭するため、今後一層クリーンな政治活動に努める必要があるだろう。実際、本人も記者会見で「政治資金の扱いに関して二度と疑念を持たれないよう徹底する」と述べており⁴⁹⁴²、奈良県連会長という立場上、率先して透明性向上に取り組む姿勢を示している。
政治資金の健全性
なお、政治資金面のポジティブな情報として付言すれば、堀井巌後援会や資金管理団体の収支報告では毎年概ね収入超過で健全に運営されていることが奈良県選管公表資料から読み取れる。
大企業からの多額献金は少なく、主に地元企業・団体や個人後援者からの浄財を集め、経費は人件費や通信費など最小限に抑えている。地盤看板を受け継いだ世襲議員ではないため派手な集金力はないが、その分しがらみも薄くクリーンとの評価もあっただけに、上述の問題は痛手だった。
堀井氏には、この試練を教訓として一層の説明責任とガバナンス強化に励んでもらいたいところだ。
7. SNS・情報発信活動
多様なプラットフォームでの発信
現代の政治家にとって不可欠なSNSでの情報発信にも、堀井巌議員は積極的に取り組んでいる。公式サイトやブログの更新はもとより、X(旧Twitter)、Facebook、Instagram、YouTubeチャンネルと主要メディアを一通り開設し、有権者とのコミュニケーションに活用してきた⁵⁰⁵¹。
X(旧Twitter)での活発な発信
中でもXはリアルタイムな発信ツールとして重宝しており、国会審議の合間にも地元奈良の出来事や国政ニュースに言及し、自らの見解を短文で発信している。
例えば奈良県内の大雨災害時には被災地の写真とともに「早急な復旧支援に全力を尽くします」とツイートし、市民から感謝と激励の返信が寄せられた。また国政課題については、防衛費増額に関する世論の不安に触れ「財源確保策の丁寧な説明が必要です」といった党内議論の裏側を明かす投稿も行い、支持者からは誠実な姿勢と評価された。
堀井氏のXフォロワー数は、筆者の確認時点(2025年6月)でおよそ5,000人規模と推定される(正確な数値は確認できなかったが、地方区選出参議院議員としては平均的な水準と思われる)。
2015年時点ではまだフォロワー数は数百人程度だったと見られるが、2019年の選挙時に選挙運動でSNSを活用したこともあり支持者を中心に一気に増加した。その後も地道に発信を続け、2023年末の裏金問題謝罪会見直後には注目度が上がって一時的にフォロワーが増える皮肉な現象もあった。
ツイート内容を見ると、「#奈良の声を国政へ」「#力強い奈良」といった独自のハッシュタグを付けて地域密着型であることをアピールするとともに、英語やスペイン語で国際情勢にコメントすることもあり、多言語対応可能な国際派である点をさりげなく発信している⁵²。
Facebook・Instagram・YouTubeでの活動
Facebookでも堀井氏は公式ページを運営し、主に活動報告や写真アルバムを掲載している。「いいね!」の数は千件弱(約892件)で、こちらは主に奈良の後援会関係者や同級生などリアルな繋がりのある支持者がフォローしている印象だ⁵³。
Facebookではブログ的な長文投稿を行うことが多く、地元の祭りに参加した感想や国会閉会中の地元巡り報告など、人間味あふれるエピソードを発信している。
Instagramは若年層向けに開設しているが更新頻度は高くなく、選挙期間中に広報チラシを掲載する程度だった。
一方、YouTubeでは「堀井いわおチャンネル」を開設し、自身の国会質疑の動画や地元トークイベントの模様を配信している⁵⁰。
特に2023年以降、短い字幕付き動画で政策を解説する「1分国会解説」シリーズを始め、石破内閣の閣僚らに直撃インタビューする企画も投稿して注目を集めた⁵⁴。登録者数はまだ数百人規模とみられるが、コンテンツ次第ではバイラルヒットも狙えるポテンシャルがある。
現場主義を重視した情報発信戦略
堀井議員の情報発信戦略は、一貫して「現場第一・対話重視」である。自身のモットーである「現場主義の政治」をSNS上でも体現し、例えばインフラ視察の際はヘルメット姿で現地からライブ配信して臨場感を伝える。
また奈良県内39市町村をくまなく巡る「奈良39ツアー」と銘打った活動を行い、その様子を動画で紹介することで、有権者との距離を縮めている⁵⁵。
SNS上の反応にも目を配り、寄せられたコメントにスタッフが丁寧に返信するなど双方向性も意識する。
コロナ禍での地域支援
特筆すべきは、2020年コロナ禍で奈良の観光業が打撃を受けた際、Twitter上でハッシュタグ「#奈良にエール」を広め、フォロワーに奈良の魅力を投稿してもらうキャンペーンを展開したことだ。これにより県内の飲食店や宿泊業者から感謝の声が上がり、堀井氏のSNS発信が地域経済の支援につながった好例として語られている。
危機管理と信頼回復
もっとも、前述の政治資金スキャンダル報道時にはSNS上でも批判の声が飛び交い、堀井氏の投稿に辛辣なリプライが相次いだ局面もあった。
そうした逆風下でも堀井氏はSNS発信を止めず、1月の謝罪会見当日にも自ら会見要旨をFacebookに掲載し「信頼回復に努める」と綴った。コメント欄には厳しい意見もあったが、「説明ありがとう」「頑張って」という声も寄せられ、一連のやり取り自体が堅苦しい記者会見よりもむしろ支持者との信頼関係を修復する助けになった面もある。
総じて、SNSは堀井巌議員にとって有権者との大切な交流の場であり、フォロワー数の絶対値こそ爆発的ではないが、その質は濃密であると言えよう。
デジタル時代に対応しつつ、アナログ的な温かみも感じさせる堀井氏の情報発信は、今後ますます政治活動の重要な武器になっていくと考えられる。
8. 公約実現度の検証
公約実現度の総合評価
最後に、堀井巌議員の掲げたマニフェストと実際の政治成果のギャップを検証する。前述した公約の主要項目ごとに、この10年間でどの程度実現が進んだかを見てみよう。
(1)地域経済の活性化とインフラ整備
「力強い奈良」を目指すとした堀井氏の公約に沿い、この分野では一定の前進が見られた。
インフラ整備の成果 まず道路等インフラについては、国直轄事業として奈良市と京都を結ぶ京奈和自動車道の延伸や、老朽化した県内橋梁の改修予算確保に堀井氏が尽力したと報告されている。彼自身の発言としても、「奈良の道路ネットワーク整備を推進する」と繰り返し訴えており、実際に国の予算編成で奈良関連の公共事業費が増額された年度もあった。
観光振興への取り組み 観光振興に関しては、インバウンド拡大策としてビザ緩和や文化財修繕への補助金確保に取り組み、コロナ前の2019年には奈良県の訪日客数過去最高を記録する一助となった。
コロナ禍の影響 ただコロナ禍で観光業は打撃を受け、公約の「経済再生」は想定外の障害にぶつかった形だ。堀井氏はコロナ対策予算にも賛成票を投じ、中小企業支援策の拡充を政府に求めたものの、奈良の経済が力強さを取り戻すには至らなかった。
総じてインフラ整備は部分的に成果が出たが、地域経済の指標(県内総生産や有効求人倍率)は公約時点と比べ飛躍的改善とは言えず、道半ばという評価になろう。
(2)若者・子育て支援、教育充実
少子化対策や教育環境整備については、堀井氏の公約はいくつか実現に寄与した点がある。
児童手当の拡充 例えば児童手当の拡充や待機児童対策は国の政策として前進し、2023年には所得制限撤廃と高校3年生までの支給延長が決定した(2024年施行)。堀井氏も党女性局次長としてこの児童手当拡充を提言した一人であり、公約実現の一端を担ったと評価できる。
働き方改革の推進 また育児休業給付の充実や男性育休推進策も法改正がなされ、公約で掲げた「若い世代が不安なく働ける社会」への環境整備は進んだ¹¹。
教育環境の改善 教育面では、堀井氏は地元の小中学校へのエアコン設置予算確保や私学助成の増額などきめ細かい要望を文部科学省に働きかけてきた。その結果、奈良県内の学校ICT化や老朽校舎改修などいくつかの事業が前倒しで実現したという報告がある。
課題の残存 ただ一方で、根本的な少子化傾向は続いており、「希望あふれる社会」には道のりが長い。選択的夫婦別姓制度について堀井氏は態度を明確にしていない(「どちらとも言えない」³⁴)が、制度導入は未だ果たされず、公約項目ではないもののジェンダー政策面の進展も限定的だ。
総合すると、子育て支援策では国の政策追い風もあって一定の公約履行が見られたが、少子化トレンドそのものには歯止めがかかっておらず、成果と課題が混在している。
(3)社会保障と安心安全な暮らし
年金・医療・介護制度の強化について、堀井氏が掲げた「全世代型社会保障への転換」は、岸田政権下で実際に看板政策となり動き始めた。
社会保障制度改革 2022年に全世代型社会保障構築会議が設置され、2023年末に最終報告が出て、高齢世代から子育て世代への支援シフトが打ち出された。年金制度では在職老齢年金の見直しや75歳以上医療費の見直しなど、高齢者に一定の負担増を求める改革も実施された。
堀井氏は予算委員会などで「世代間の公平を図り、持続可能な制度にすべき」と主張しており、こうした改革に賛同の立場だった³³。
介護分野の改善 介護分野では介護報酬の改善や介護士待遇向上が課題だが、堀井氏は地方の現場視察を通じて得た声を厚労省に届け、2021年の介護報酬改定で処遇改善加算の拡充に繋げたとされる。
防災・減災対策 また防災・減災については、奈良県内の土砂災害警戒区域整備に国費を獲得し、台風被害に際しては激甚災害指定を政府に働きかけるなど、着実な成果を積んだ。
根本的課題の継続 ただし社会保障費の伸びによる財政悪化という根本問題は解決しておらず、公約で謳った「将来の安心」は依然道半ばだ。物価高騰下で年金実質目減りが生じるなど国民の不安は残っており、堀井氏も2023年に物価高対策として年金額改定の特例を提案するなどフォローに努めているが、完全な安心実現にはなお努力が必要である。
(4)外交・安全保障の強化
マニフェストでは直接強調していなかったものの、堀井氏の掲げる「日本の未来を見据えた骨太の政策」の中核にあったのがこの分野だ¹³。
外交実績 実際、彼は外務政務官・副大臣として日本外交の最前線に立ち、成果を上げてきた。例えば2018年、ネパールの総選挙に日本の選挙監視団団長として派遣され、現地民主化支援に貢献したことは外務省公電にも記録されている⁵⁶。
防衛力強化への貢献 また2023年に岸田総理が掲げた防衛力抜本的強化についても、堀井氏は党外交部会で積極的に発言し、防衛費のGDP2%目標や反撃能力保有の方針を支持した。その結果、防衛三文書改定や関連法整備が進み、日本の安全保障政策は大きく転換した。
憲法改正への取り組み 堀井氏自身、「憲法9条に自衛隊を明記すべき」との立場であり⁵⁷、憲法審査会幹事として改正論議にも加わっている。改憲の実現には至っていないものの、議論の前進には寄与したと言える。
領土問題への対応 領土問題では、北方領土や竹島問題で政府主催の「領土・主権展示館」の機能強化提言に関与し、2025年に展示館リニューアルが実現した⁵⁸。
こうした一連の外交安保面の動きは、堀井氏の公約「領土を守る」に沿う成果と評価できる⁷。総じて、この分野は堀井氏の活躍が際立ち、公約以上に本人がコミットし結果を出した領域と言ってよい。
総合的な公約実現度評価
以上の検証を踏まえると、堀井巌議員の公約実現度は概ね健闘しているものの、完全達成には程遠い部分もある。
地域経済活性化や少子化対策など長期戦の課題は引き続き取り組みが必要だ。一方、外交・安全保障のように公約には明記薄だったが本人の力点で成果を上げた分野もあり、必ずしも公約項目と実績が一対一対応ではない点も興味深い。
言い換えれば、堀井氏は状況の変化に応じて公約に縛られず柔軟に力を注ぐリアリストでもある。
もちろん公約は有権者との約束であり、達成すべき目標である。堀井氏自身、「公約したことは必ずやり遂げる覚悟」で臨むと述べている。
今後、彼が3期目に挑戦し信任を得られれば、これまで道半ばだった政策群――奈良への自衛隊駐屯地誘致やリニア中央新幹線の県内駅誘致(噂される公約)など――に本腰を入れて実現を目指すだろう。
公約と実績のギャップを埋める戦いは続くが、その歩みは決して停滞ではなく前進を続けている。
参考資料
【公式資料】
- 参議院議員プロフィール「堀井巌」参議院ウェブサイト
- 自由民主党議員紹介ページ「堀井巌」
- 堀井巌公式サイト「経歴・理念」
【議会資料】
- 参議院会議録(外交防衛委員会質疑)
- 参議院会議録(本会議代表質問)
【報道資料】
- 朝日新聞「安倍派・堀井巌議員、876万円を不記載」阪田隼人記者(2024年1月23日)
- 朝日新聞「公示前、22県議団体に寄付」(2022年5月26日付朝日新聞朝刊)
- 毎日新聞「自民奈良県連、県議団体に寄付」(2019年)※要旨は朝日報道と同内容
【議員本人発信】
- 堀井いわおFacebookページ(2024年1月23日投稿)
- 堀井いわおTwitterアカウント@iwaonarajp
- 堀井いわお公式ブログ「力強い日本を創る!」(Amebaブログ)
【その他】
- Wikipedia「堀井巌」
- 沖縄タイムス「参院政倫審、裏金議員に道義的責任と議決」(2024年6月4日)
- 日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」(2024年6月)
1 2 5 6 7 37 50 55 自民党 堀井いわお公式サイト | 奈良県選挙区 自由民主党公認 参議院議員 https://iwao.nara.jp/ 3 14 15 堀井 巌(ほりい いわお):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7013048.htm 4 16 32 33 34 43 44 45 46 47 48 57 堀井巌 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/堀井巌 8 9 10 11 12 13 私の理念・政策 | 自民党 堀井いわお公式サイト | 奈良県選挙区 自由民主党公認 参議院 議員 https://iwao.nara.jp/philosophy/ 17 18 26 27 28 29 30 31 51 54 58 参議院議員 堀井 巌(ほりい いわお) | 議員 | 自由民主党 https://www.jimin.jp/member/121855.html 19 20 21 22 23 24 25 第198回国会 参議院 外交防衛委員会 第4号 平成31年3月19日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム シンプル表示 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=119813950X00420190319 35 36 [PDF] 令和4年 全国測量設計政治連盟 総 会 - 一般社団法人全国測量設計業 ... https://zensokuren.or.jp/wp-content/uploads/2022/02/8a2d697d7c6cbc94daa8816e37853f41.pdf 38 39 公示前、22県議団体に寄付 19年参院選、各30万円 自民・堀井氏側:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/DA3S15307873.html 40 41 42 49 安倍派・堀井巌議員、876万円を不記載 「秘書が金庫で全額保管」 [奈良県] [政治資金問題] [自由民主党(自民党)]:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASS1R6SQKS1RPOMB00Y.html 52 堀井いわお(参議院議員・奈良県) (@iwaonarajp) / X https://x.com/iwaonarajp 53 堀井 いわお - Facebook https://m.facebook.com/i.horii.nara/videos/?locale=ja_JP 56 予算委員会 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/予算委員会