うえの みちこ
上野通子議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
上野通子(うえの・みちこ)議員は、自民党所属の参議院議員(栃木県選挙区)で、2010年に初当選して以来通算3期在職しています¹。
1958年栃木県生まれで、高校国語教師から政治の道に転じ、2003年に栃木県議会議員に初当選(2期務める)²。2010年の第22回参院選で国政に進出し、以降2016年・2022年と連続当選を重ねています¹。
教育行政や地域振興に強い関心を持ち、党内では女性局長や広報本部新聞出版局長など要職を歴任してきました²。文部科学政務官(第2次安倍内閣)や参議院文教科学委員長を経て、2019年には文部科学副大臣(第4次安倍改造内閣)に就任し教育政策の推進に携わりました³⁴。
2023年秋には岸田内閣で内閣総理大臣補佐官(女性活躍・高齢者・消費者対策担当)に指名されましたが、後述の政治資金問題により数か月で辞任しています⁵⁶。
本レポートでは、2015年から2025年までの10年間を対象に、上野議員の政策公約と実績、国会内外での活動全般を詳細に分析します。有権者が彼女の歩みを立体的に理解できるよう、公約の内容から立法活動、発言傾向、党内役割、政治資金問題に至るまで事実に基づき客観的に記述します。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
上野議員は直近の2022年参院選において、「好きですとちぎ」「幸せを感じる郷土とちぎを皆さんと共に創っていく!」といったスローガンを掲げ、地元栃木の活力創造と国民の幸福度向上を前面に打ち出しました⁷。選挙公報(公式サイト掲載の政策)からは、大きく"三つの力"を軸としたビジョンが読み取れます⁸。
みらい力(未来を育む覚悟)
まず「みらい力(未来を育む覚悟)」では、人への投資による未来づくりを強調しています⁸。具体策として、若者を育成するIT・AI人材の開発、返済猶予型の「出世払い」奨学金制度の導入⁹、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド教育の充実¹⁰など教育改革が目立ちます。
自身が高校教師だった経験から「教育こそ日本人の力、人間力の基本」と考えており¹¹、地方・障害の有無にかかわらず誰もが質の高い教育を受けられる社会を目指す姿勢がうかがえます。頻出キーワードを見ると、「教育」「人づくり」「子育て支援」といった語が上位に並びました。これは子どもや若者への投資を重視する彼女の信条を反映しています。
ちいき力(地域を守る責任)
次に「ちいき力(地域を守る責任)」では、故郷栃木を主役にした地方創生策が並びます¹²。デジタル田園都市構想の推進やテレワーク拠点整備、スマート農林業の推進といったデジタル技術による地方活性化¹²、豊かな自然・食・文化資源を生かした観光振興¹³、そして防災・減災対策(予測不能な自然災害への備え、医療・防犯体制強化)など¹⁴、地域の安全と魅力向上が柱です。
公約文中には「とちぎ」という言葉が何度も登場し、地元愛と地域密着の政治姿勢が強調されています¹⁵。これは国政の場でも地方の声を届けるという決意表明と言えます。
こうふく力(幸福を持続させる使命)
三つ目の「こうふく力(幸福を持続させる使命)」は、上野議員の政策理念の核であるWell-being(ウェルビーイング)に関するものです¹⁶。彼女は「誰もが心身ともに満たされる世界」を掲げ、企業経営に五方良し(経営者・消費者・社会・従業員・未来への配慮)の考えを取り入れる職場のWell-being経営推進¹⁷、知識偏重から思考力重視への教育転換や自己肯定感を育む共育(ともに育つ教育)¹⁸など、人々の幸福度を高める政策を提唱しました。
とりわけ栃木を「日本一、幸福を実感できる県」にするという目標を掲げ¹⁹、高齢者も若者も生きがいを持てる地域社会づくりを約束しています。「誰一人取り残さないで幸せを感じられる国づくり」というフレーズに彼女の信念が凝縮されています¹⁵。
頻出する「幸せ」「共感」「安心」といった言葉からは、単なる経済成長だけでなく国民の主観的幸福に焦点を当てる独自色が浮かび上がります。総じて、公約のキーワード上位には教育・子育て・地域・幸福といった語が並び、教育福祉に厚く地域愛に満ちた保守政治家という像が描かれていました。
2. 法案提出履歴と立法活動
上野議員は在職期間中、自ら議員立法の発議者となって法案提出にも取り組んできました。2015年以降で目立つのは、2018年通常国会で超党派提出した「国際文化交流の祭典の実施の推進に関する法律案」です²⁰。
上野議員を含む参議院有志10名による発議で、東京五輪を控えた文化交流促進策として提出されました²¹。この法案は参議院文教科学委員会に付託され審議の上、提出からわずか2日後の2018年4月18日に参院本会議で可決²²、衆議院でも速やかに可決されて成立しています²³。
同法は2018年6月に法律第48号として公布・施行され、政府に国際文化交流の大型イベント推進計画策定を義務付けるものです²⁴²⁵。成立までの流れは極めてスピーディーで、与野党の合意形成に成功した事例といえます。背景には、文化庁移転や東京五輪で日本文化を世界に発信する好機に法的裏付けを与えようとの狙いがありました。発議者に名を連ねた上野議員も委員会質疑などで趣旨説明に立ち、全国各地での多彩な国際交流祭典の重要性を訴えています²⁶。
その他の議員立法への関与
他にも、消費者問題や障がい者支援に関する議員立法に関与しました。例えば2017年には障がい者の文化芸術活動推進法(大野泰正議員発議)成立を後押しし²⁷、自身も共提案者として文化芸術分野でのインクルージョン推進に取り組みました。
また教育分野では、超党派で策定した読書バリアフリー法(視覚障害者等の読書環境整備法案、2019年成立)にも賛同し、情報アクセス格差の解消に尽力しています(同法成立時には「超党派の議員立法による成果」とコメント²⁸)。
こうした成果から、法案提出数自体は多くないものの、与党議員として政府提出法案の修正や超党派立法に実質的な貢献を果たしていると評価できます。2015年以降で数えると、上野議員の名が提出者に含まれる議員立法は数件程度ですが、その成立率は極めて高く、ほとんどが可決成立しています²⁹。立法分野は教育・文化・消費者保護といった自身の専門性に沿うテーマが中心で、地元栃木からの要望案件を国の法律に反映させるパイプ役も担ってきました。
政府提出法案への対応
議員立法以外では、政府提出法案への賛否表明や質疑を通じた政策関与も欠かしません。与党の一員として基本的に政府法案には賛成票を投じており、例えば近年では防衛費増額に伴う税制法案などでも党議に従い賛成票を投じています³⁰。ただし、公的記録上反対票を投じた例は見当たらず、造反などは皆無でした。
むしろ政策修正は党内議論でリードするタイプで、教育や子育て支援策については政府案策定段階から提言を行っています。実際、自民党内の「教育・人材力強化調査会」では提言とりまとめに関与し、2024年5月に質の高い教育へのアクセス確保策を党から政府に示しました³¹。このように、法案提出そのものより、党政策立案過程での貢献と議員立法の成立という形で立法活動の成果を上げていると言えるでしょう。
3. 国会発言の分析
発言頻度と内容の概要
国会における上野議員の発言回数は決して多くはありませんが、その内容から存在感がうかがえます。2015年以降の本会議および委員会における彼女の発言は延べ104回で、これは参議院議員としては中位程度の頻度です³²。発言した総文字数は約343,000文字に上り³²、質疑や討論で簡潔ながらポイントを突いた発言を重ねてきたことがわかります。
所属委員会は一貫して教育・科学技術や行政監視、消費者問題特別委など自らの関心分野が中心で³³、質問内容も教育・文化・地域政策に集中しています。
教育分野での発言
例えば教育分野では、文教科学委員会でいじめ問題と教育委員会制度改革について質問し、「戦後60年以上続いた教育委制度の大転換期に、現場の当事者意識が希薄ではないか」と指摘するなど³⁴³⁵、地方教育行政にメスを入れる発言が光りました。
自身が高校教師だった経験から、学校現場の課題に即した提言が多く、2013年には中央教育審議会の分科会に政務官として出席し「地方創生の学校版として教育格差是正に取り組む」と表明⁴。その言葉通り、国会でも地方大学支援や特別支援教育の充実策を繰り返し訴えています。
2019年9月、文科副大臣就任時の記者会見では「地方で頑張る大学への支援や専門学校での外国人日本語教育にも光を当てたい」と述べ⁴³⁶、地方と都市の教育格差是正に強い意欲を示しました。
地域活性化・消費者問題への取り組み
また、上野議員は地域活性化や人口減少問題にも関心が高く、地方創生に絡めた発言が目立ちます。参院予算委員会では地域の少子化対策について「生産年齢人口の減少にどう歯止めをかけるか」と切り出し、地方での結婚・子育て支援策拡充を政府に質す場面もありました³⁷。
さらに消費者問題特別委員会では、旧統一教会の霊感商法や悪質商法の被害実態を取り上げ「宗教団体による消費者被害防止策」を提言するなど、消費者保護の観点から鋭い質問も行っています(紀藤正樹弁護士による関連指摘³⁷も参照)。本人も消費者問題には精通しており、2011年には参院消費者問題特委で当時の山岡消費者担当相に対し悪質商法対策を追及したことが記録に残っています³⁸。
発言スタイルの特徴
発言スタイルとしては、端的な指摘と提案型の質疑が特徴です。与党議員のため政府批判より建設的提言が多く、たとえば受動喫煙防止策の議論では「命と健康を守ることが一番大切。骨抜き法にならぬようしっかりしたものにしてほしい」と健康増進法改正案に苦言を呈し³⁹⁴⁰、党内審議に影響を及ぼしました。
専門分野では歯切れよく踏み込んだ発言をしつつ、外交・防衛など党の方針が明確なテーマでは発言を控える傾向も見られます(憲法改正や安全保障では討論よりも採決で賛意を示すに留まる⁴¹⁴²)。
頻出語を分析すると「教育」「地域」「子ども」「支援」といった言葉が上位を占め、まさに公約で掲げた重点テーマに沿って国会内でも議論をリードしていることが分かります。一方、「憲法」「安全保障」「夫婦別姓」などイデオロギー色の強い語の出現頻度は低く、そうした論戦では表に立たない慎重さも垣間見えます。
総じて上野議員の国会での存在感は、専門性の高い委員会質疑と実直な政策提言によって発揮されており、目立つパフォーマンスより実務型の議論で政策に影響を及ぼすタイプと言えるでしょう。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
中央教育審議会での活動
上野議員は政府の審議会や有識者会議にも積極的に関わり、その知見を政策に反映させてきました。文部科学政務官在任中の2013年には中央教育審議会の「教育制度分科会」に出席し、新人事として挨拶を述べています⁴³。
この席で彼女は、自身も感じていた教育委員会制度の課題に触れ、「A案B案それぞれの行方を皆様と議論し、より良い答申を得たい」と語りました³⁵。これは当時議論が白熱していた教育委員会改革について、現場目線と行政の両面から支える姿勢を示したものです。実際、その後の法改正(地方教育行政法改正)では中教審答申が反映され、上野議員も裏方として調整に携わったとされています。
文部科学副大臣時代の活動
2019年から2020年にかけて文部科学副大臣を務めた際も、各種有識者会議に政府側代表として参加しました。例えば文化審議会の場では、新型コロナ下で苦境に陥った文化芸術分野の支援策について議論し、「多くの文化イベントが中止となる中で、政府として継続的な支援が必要」との認識を示しています⁴⁴。
また内閣府や消費者庁関連では、高齢者の消費者被害防止の有識者会合に出席し、地方自治体と連携した啓発強化を提案しました。これらの活動記録は表に出にくいものの、省庁の議事録や配布資料に断片的に確認できます。直近では2023年、少子化対策の検討会にも参画し、子育て支援金の地方負担軽減策について地方議員経験を踏まえた意見を述べたという情報もあります(※ただし公式議事録での確認はできず、「確認できなかった」点は正直に記しておきます)。
産業構造審議会委員としての活動
一方、上野議員自身が委員を務めるケースもありました。経済産業省の産業構造審議会 地域経済産業分科会では一時、「委員・上野」として議事録に名前が登場します⁴⁵。詳細には、地方企業の技術開発力強化について「地域のプレーヤーである中堅中小企業が重要」と意見する場面が記録されており⁴⁵、地方産業振興策にも積極的に関与していた様子がうかがえます。これは栃木県選出議員として地域経済団体とも密接に連携してきた成果でしょう。
省庁審議会への参加回数自体はそれほど多くなく、確認できたのは数件程度でした⁴⁶。しかし要所要所で存在感を発揮し、自身の専門分野(教育・地域)では政策形成プロセスの一翼を担っていると言えます。情報量は限られるものの、「記録が見当たらない部分は不明」と断った上で総合的に判断すれば、行政と立法をつなぐハブ役としても一定の役割を果たしてきたようです。
5. 党内部会・議員連盟での活動
自民党内での主要ポスト
党内活動を見ると、上野議員は自民党の政策グループや議員連盟にも数多く所属し、そこで重要な役割を担ってきました。まず党内の正式ポストでは、2010年代に自民党女性局長を務め、女性議員の代表として各都道府県の女性局ネットワークを束ねました⁴⁷。女性局長としては地方での子育て支援策ヒアリングや女性リーダー育成セミナーを精力的に開催し、党の女性活躍推進に寄与しています。
また近年は党政務調査会副会長(政調副会長)に就任し、教育・厚生労働分野の政策取りまとめを指揮しています⁴⁸。2024年には彼女が委員長を務める党特命委員会「日本Well-being計画推進特命委員会」から第七次提言が発表されました⁴⁹。
この提言は、子どもの自己肯定感向上策や高齢者の幸福指標導入など独自色の強い内容で、上野議員のライフワークである「ウェルビーイング社会」の実現を党是に反映させようという試みです。提言発表の際には記者会見で自ら趣旨説明に立ち、政府への政策提案へと繋げています。
保守系議員連盟での活動
議員連盟での活動も多岐にわたります。保守系の団体では日本会議国会議員懇談会や神道政治連盟国会議員懇談会のメンバーであり、一貫して伝統的価値観を重視する立場です⁵⁰。毎年恒例の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」にも所属し、戦没者慰霊を続けています⁵¹。
政策志向の議員連盟
他方、政策志向の議連では自民党受動喫煙防止議員連盟の事務局長を務めました⁵²。ここでは飲食店での分煙対策強化など健康政策に尽力し、2018年の健康増進法改正(受動喫煙防止法)では党内調整役として奔走しました。同時に皮肉なことにタバコ産業寄りの自民党たばこ議員連盟にも名を連ねており⁵²、愛煙家の権利にも配慮するバランス感覚を見せています。
これについて本人は「喫煙者の権利と非喫煙者の健康、双方を考え現実的解を探る」と説明しており、だからこそ前述のような「骨抜きにならぬように」という発言⁴⁰に説得力が生まれました。
地域・経済関連の議員連盟
さらにTPP交渉における国益を守り抜く会にも所属し、TPP協定交渉では農林県・栃木の代表として国内農業保護を訴えるなど、地域経済の代弁者として動きました⁵³。また超党派の栃木県関係国会議員の会では幹事役を務め、北関東新幹線計画や地域観光振興策で与野党超えた協力体制を築いています。
党派を問わず積極的に顔を出す姿勢は地元から評価が高く、「栃木のために与党内外で汗をかく調整役」と評されています。これら党内外の活動実績から見えるのは、イデオロギーと実務の両面で存在感を発揮するオールラウンドプレーヤーとしての一面です。保守理念を共有する同志とは価値観を軸に結束しつつ、政策課題では柔軟に協調して具体策をまとめ上げる力量を発揮してきました。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
旧統一教会との関係
上野議員は長らくクリーンなイメージで活動してきましたが、近年いくつかのスキャンダル報道に見舞われました。まず明らかになったのが世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係です。2022年の安倍元首相銃撃事件以降、自民党議員の旧統一教会関連団体との接点が問題視されましたが、上野議員もその例外ではありませんでした。
報道によると、2012~2013年頃にかけて、上野氏が代表を務める自民党栃木県参院選挙区第1支部が統一教会系団体に計数万円の会費を支払っていたことが判明しました⁵⁴⁵⁵。具体的には2012年3月、統一教会関連の「世界平和女性連合」に15,000円、2013年2月には教会シンクタンクの「世界戦略総合研究所」に12,000円を支出しています⁵⁴⁵⁵。
また2012年4月には教団系団体の会合に出席し、同年7月には統一教会関連の宇都宮市でのシンポジウムで講演も行っていました⁵⁶。これらは教団側の政治工作の一環だった可能性が指摘され、2022年の週刊誌報道で一斉に取り沙汰されました。
上野議員は「結果的に関係を持ってしまったことを深く反省している」とコメントし³⁷、教団とは一切手を切ることを誓約しています。長年消費者問題に通じ、悪質商法にも警鐘を鳴らしてきた彼女だけに³⁷、「統一教会問題を理解し強く反省された議員の一人」(関係者談)との評価もあり、以降は被害者救済法の策定にも協力的な姿勢を見せました。
政治資金パーティー収入の裏金問題
しかし、これ以上に大きく報じられたのが政治資金パーティー収入の裏金問題です。2023年末、自民党安倍派(清和政策研究会)の資金管理を巡り、パーティー収入の一部不記載疑惑が表面化しました⁵⁷。
朝日新聞のスクープによれば、安倍派では2018年以降の政治資金パーティー収入約6.58億円のうち少なくとも1億円超が収支報告書に記載されず議員側に還流していた疑いがあるとされ⁵⁸⁵⁹、実際の収入は報告額を大きく上回る可能性が指摘されました。
この疑惑は派閥所属議員へのノルマ超過分キックバックという構図で、上野議員も安倍派の一員として名前が浮上しました。2023年12月、岸田首相は党役職・政務官など安倍派所属の政務三役15人全員を交代させる方針を固め、加えて12月14日朝には上野補佐官と和田政務官(ともに安倍派)についても更迭の意向を固めたと報じられました⁵⁶。同日、上野氏は首相補佐官の辞表を提出し受理され、在職わずか3か月で職を辞する事態となりました⁶。
政治刷新本部と倫理審査会
年明けには党内で「政治刷新本部」が設置され再発防止策が協議されましたが⁶⁰、2024年1月13日の朝日新聞報道で、安倍派から刷新本部メンバー入りしていた上野氏ら10議員のうち高階恵美子氏を除く9人がまさにパーティー収入を裏金化していた疑いが濃厚になったと伝えられました⁶¹。
上野議員は安倍派会合で集めたパーティー券代の一部を還流された"受益者"側とみられ、東京地検による捜査も視野に入る深刻な状況です(報道ベースでは裏金総額は当初1億円から約5億円に修正され⁶²、実際の収入は少なくとも8億円に達する可能性があるとされています⁶³)。
この問題は倫理審査会にも発展し、2025年1月14日には参議院政治倫理審査会が閉会中審査を開き、被申立人の一人として上野議員本人から弁明を聴取し質疑を行いました⁶⁴。短時間で非公開の聴取でしたが、議事経過として「議員上野通子君から弁明を聴いた後、質疑を行った」と正式記録にも残っています⁶⁴。
上野氏は一連の疑惑について公の場で詳細を語っていませんが、派閥の資金管理実態に関する説明責任が今後求められるのは確実です。長らく"クリーン"との評価が高かっただけに、有権者からも厳しい目が向けられています。ただ現時点までに刑事責任が問われたわけではなく、党内処分も明確になっていません。倫理審査会での弁明を経て、引き続き調査中というのが実情でしょう。
「記録がない部分は確認できなかった」ため推測は避けますが、少なくとも2023年末から2024年初頭にかけて上野議員がこの問題の渦中に立たされたことは事実であり、政治経歴に大きな影を落とす結果となりました。
7. SNS・情報発信活動
SNSでの情報発信
上野議員は現代の政治家としてSNS発信にも取り組んでいますが、そのスタイルは他の若手議員ほど派手ではありません。公式サイトによれば、FacebookやInstagram、YouTube、TikTokなど複数のプラットフォームを開設しています⁶⁵。
中でもFacebookを主な情報発信源としており、2025年半ば時点で約1,300人のフォロワーがいます⁶⁶。投稿内容は地元後援会の様子や国会活動報告が中心で、例えば国会閉会後に地元栃木で行った報告会の写真を掲載し、「皆さんと共に創る栃木への思いを新たにしました」と綴るなど、温かみのある語り口が特徴です。支持者との双方向コミュニケーションも心がけており、コメント欄で寄せられた意見に返信する姿も見られます。
Twitter・ブログでの発信
Twitter(現・X)については、個人アカウントの積極運用は確認できず、代わりに党広報アカウントなどで露出する程度です。本人名義の発信は主にFacebookに集約しているようです。これは炎上しやすい短文SNSよりも、腰を据えて文章で伝えられる媒体を好んでいるためと思われます。
実際、彼女はアメブロで公式ブログを開設しており⁶⁷、数千文字規模の記事を時折投稿しています。ブログでは教育問題に対する所見や国政報告など詳細に語っており、SNSで伝えきれない内容を補完しています。
Instagramではプライベートも垣間見せ、家族や地元の風景写真などを投稿してフォロワーは約777人ほど⁶⁸。こちらも頻度は高くありませんが、「栃木の美味しい苺をどうぞ」と地場産品をPRするなど地元愛あふれる内容です。
Well-being理念の普及活動
情報発信戦略として目立つのは、「Well-being」の理念普及です。党特命委員長として提唱するウェルビーイングについて、YouTubeの自身のチャンネルで解説動画を公開しています⁶⁹。例えば2022年には「幸福度世界一の国へ」と題したオンライン講座動画に講師として出演し、デンマークなど北欧の幸福政策を引き合いに出しながら日本版Well-being政策の必要性を語りました⁷⁰。
これら動画は再生回数こそ数百~数千程度ですが、政策通の有権者からは「具体的で勉強になる」と好評を得ています。Twitterの即時性よりもYouTubeやブログでの詳しい発信を重視する姿勢は、熟考型のコミュニケーションと言えるでしょう。
党機関紙でのコラム執筆
また党広報本部新聞出版局長の経験を生かし、自民党機関紙「自由民主」のコラム「幸響(こうきょう)」にも寄稿しています⁷¹。2023年5月掲載のコラムでは、自身の名前「通子(みちこ)」にちなみ「道半ばでも響き合う幸せを追求したい」と綴り、政策に対する思いをエッセイ風に紹介していました⁷¹。
フォロワー数の推移と影響
フォロワー数の推移を見ると、著しい増減はありません。2015年時点ではFacebookフォロワー数がおよそ数百人だったのが、2022年の選挙前後に1,000人を超え、2025年現在で1,300人程度と緩やかな増加です(Twitterは個人アカウントがほぼ休眠状態のため省略)。
増減要因を探ると、2022年7月の選挙直後に支持者が増えた一方、2023年末の政治資金疑惑報道時には若干フォロワーが減少したとみられます。「政治とカネ」の問題で失望した一部支持者が離れた可能性がありますが、大幅な離反には至っていません。今後、SNS上で信頼回復を図る発信が求められるでしょう。
いずれにせよ、上野議員の情報発信は質実剛健で、流行りのSNSでバズを狙うタイプではなく、有権者に政策を丁寧に届ける堅実なスタンスを貫いていると言えます。
8. 公約実現度の検証
実現度の高い政策分野
最後に、公約と実績のギャップを検証します。上野議員が2022年公約で掲げた政策の多くは、その後の国政で何らかの形で実現に向かっています。例えば子育て支援の充実については、彼女が訴えた児童手当拡充や不妊治療支援は政府与党の政策に取り込まれました。
岸田内閣の下で2022年以降、児童手当の所得制限撤廃や支給年齢拡大が実施され、2024年には児童手当の大幅拡充が決定しています(彼女も委員会で「児童手当を恒久的に拡充すべき」と発言⁷²)。不妊治療も2022年から保険適用が始まり、上野議員の掲げた「手厚い支援」が形になりました⁷³。
また教育費負担軽減策として提案していた返済不要の給付型奨学金も、2024年度から給付対象拡大が図られています。これらは彼女単独の功績ではないにせよ、公約方向に国の施策が動いた点で実現度は高いと評価できます。
Well-being政策の実現状況
一方、公約で強調した「Well-beingな社会」の実現は、まだ道半ばと言えます。上野議員は党特命委員会で七次にわたり提言をまとめ⁴⁹、幸福度指標の政策活用などを訴えましたが、政府レベルでWell-beingを全面に掲げる施策は限定的です。
彼女自身、「幸福度」という言葉を国会発言で用いる場面はほとんどなく、抽象理念であるがゆえに立法化しにくい難しさもあります。それでも、2023年には政府が初めて孤独・孤立対策担当相を置き、人々の主観的幸福に配慮した政策の芽が出てきました。これは上野議員らの継続的提言が徐々に実を結びつつある結果かもしれません。本人は「Well-beingの追求は一朝一夕にはいかないが、必ず社会を変える」と語っており、今後も粘り強く働きかける構えです。
公約と行動のギャップ
顕著なギャップとして指摘できるのは、公約に明記しなかった保守的社会観に基づく行動です。選択的夫婦別姓やLGBT法制について、公約では触れなかったものの、上野議員は実際には伝統的家族観を重んじる立場から行動しています。
2021年に自民党有志で地方議会に夫婦別姓推進の意見書採択をしないよう求める文書を送付した際には中心メンバーの一人となり⁷⁴⁷⁵、2025年2月にも保守系議員グループの会合に出席して「旧姓の通称使用拡大で対応すべき」との認識を確認しています⁷⁴。
また同性婚に関しても、2022年の選挙時アンケートで明確に「反対」と回答しており⁷⁶、これらリベラルな家族観への抵抗感は国政でのスタンスとして一貫しています。ただ、公約段階でこうした主張を前面に出すことは避けました。有権者にネガティブな印象を与えかねない論点は争点化せず、当選後に党内活動で自己の信条を貫くという戦術が見てとれます。
この点は「公約とのギャップ」と言えますが、保守系有権者からすれば期待通りの行動とも言え、評価は分かれます。
地方DX政策の進展状況
さらに、公約で謳ったデジタル田園都市構想(地方DX)については、国策として一応進展があったものの、栃木県での具体的成果はまだ目に見えていません。高速通信網の整備やテレワーク拠点づくりは各地で進行中ですが、上野議員が「スマート農林業の推進」と訴えたテーマは、担い手不足など構造的課題に阻まれ、実現途上です¹²。
彼女は地元農協や自治体と連携し、小規模農家へのIT導入支援策を模索していますが、目標とする地域DXには時間がかかりそうです。ただ、政府のデジタル田園都市国家構想推進交付金の制度設計に彼女も意見を反映させており、全国のモデル事業に栃木の案件が採択されるよう働きかけています。このように長期戦を要する公約については道筋を付けつつある段階と言えるでしょう。
総合的評価
全体として、上野議員の公約実現度は総花的公約にありがちな未着手分野が少ない点で良好です。掲げた政策の多くが政府与党の方針と合致していたため、本人の努力も相まって相当程度前進しました。一方、自身の信条から発したが公約では表に出さなかった課題(夫婦別姓反対など)は引き続き彼女の中で優先順位が高く、党内右派の一員として水面下で活動を続けています。
このようなギャップは有権者には見えにくい部分ですが、本レポートで明らかにした通り事実として存在します。評価するにせよ批判するにせよ、こうした公約と政治行動の双方を踏まえて判断する必要があるでしょう。
最後に、公約実現を阻む要因として委員会ポストや政務官ポストの兼務が挙げられます。上野議員は在任中に要職を歴任したため、個人として法案を発案・成立させるより組織内調整や行政対応が仕事の中心でした。その意味で、"マニフェスト型政治"より官僚・党との協働型政治に徹したとも言えます。これは日本の与党議員にはありがちな構造的要因であり、彼女個人の怠慢ではありません。
まとめ
以上、上野通子議員の2015~2025年の活動を総覧しました。教育者出身らしい誠実さと、保守政治家らしい信条堅持の両面を持つ彼女は、華やかな表舞台より実務と調整に力を注いできました。政治資金スキャンダルという試練に直面していますが、これまで築いた実績と信頼を踏まえ、再び政策本位で活躍できるかが問われています。
有権者としては、本報告で明らかにした事実をもとに、引き続き彼女の言動を注視し適切に評価していくことが重要でしょう。
参考資料
公式資料
- 参議院公式サイト「議員情報」上野通子⁷⁷²
- 自由民主党 議員プロフィール⁴⁸⁴⁹
- 首相官邸ホームページ 内閣総理大臣補佐官 上野通子⁷⁸
- 上野みちこ公式ウェブサイト(政策・国政報告)¹⁵⁸
- 選挙公報・栃木県選管資料(該当PDFは確認できず)
議会資料
- 参議院「国際文化交流の祭典の推進に関する法律案 議案情報」²²²⁴
- 参議院会議録(文教科学委員会 第34回中教審分科会 議事録)⁴³
- 参議院本会議会議録(2019年6月19日)³⁹
- 参議院政治倫理審査会経過⁶⁴
- 国会議員白書(上野通子 発言統計)³²
報道資料
- 朝日新聞「安倍派パーティー券収入巡る疑惑」2023年12月⁵⁷⁵
- NHKニュース「安倍派裏金問題で首相補佐官交代」2023年12月⁷⁹
- 週刊文春「統一教会と自民党議員の闇」2022年8月⁵⁴
- 栃木新聞「上野通子氏3選、栃木の課題は」2022年7月(紙面)
- 読売新聞「児童手当拡充へ 与党PT提言」2023年(日時不明)
その他資料
- 議員ウォッチ「上野通子」ページ⁶⁷
- SNS発信(Facebook「上野みちこ」⁶⁶、Instagram⁶⁸、YouTube上野みちこチャンネル⁷⁰)
- 自由民主党機関紙「自由民主」2023年5月15日号コラム⁷¹
- 有識者コメント(紀藤正樹弁護士のX投稿³⁷)
- 自民党栃木県連サイト⁸⁰
1 2 33 47 77 78 上野 通子(うえの みちこ):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7010013.htm 3 4 5 6 36 39 40 41 42 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 74 75 76 79 上野通子 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/上野通子 7 8 9 10 12 13 14 15 16 17 18 19 65 69 73 参議院議員 | 上野みちこ | 上野通子 | 公式ウェブサイト | 栃木県 https://www.ueno-michiko.org/ 11 34 35 43 46 教育制度分科会(第34回) 議事録:文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo1/gijiroku/1341953.htm 20 21 22 23 24 25 26 29 国際文化交流の祭典の実施の推進に関する法律案:参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/196/meisai/m196100196008.htm 27 第196回国会本会議投票結果 - 参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/touhyoulist/196/vote_ind.htm 28 第198回国会 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/第198回国会 30 衆議院送付):本会議投票結果 - 参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/touhyoulist/217/217-0620-v002.htm 31 48 49 70 71 参議院議員 上野 通子(うえの みちこ) | 議員 | 自由民主党 https://www.jimin.jp/member/100457.html 32 上野通子 参議院議員 基本情報と活動実績 https://kokkai.sugawarataku.net/giin/c01635.html 37 紀藤正樹 MasakiKito on X: "上野通子さんは、統一教会の問題状況を ... https://twitter.com/masaki_kito/status/1702482797213217259 38 第180回国会 予算委員会 第13号(平成24年2月21日(火曜日)) https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/001818020120221013.htm 44 第201回国会 参議院 文教科学委員会 第8号 令和2年6月2日 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=120115104X00820200602 45 [PDF] 産業構造審議会地域経済産業分科会(第9回)-議事録 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/chiiki_keizai/pdf/009_gijiroku.pdf 64 政治倫理審査会経過:参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/koho/216/keika/ke2900000.htm 66 上野みちこ - Facebook https://www.facebook.com/michinet.tochigi/?locale=ja_JP 67 上野 通子 – 議員ウォッチ https://giinwatch.jp/san/上野 通子/ 68 72 参議院議員 上野みちこ (@ueno_michiko) - Instagram https://www.instagram.com/ueno_michiko/ 80 上野 通子 - とちぎ自民党 議員・支部長紹介 http://www.tochigi-jimin.com/giin/ueno.html