みやけ しんご
三宅伸吾議員の政治活動総覧(2015–2025)
概要
三宅伸吾(みやけ しんご)議員は自由民主党所属の参議院議員で、香川県選挙区選出の2期目政治家です。1961年生まれ、早稲田大学政治学科を卒業後、日本経済新聞社で記者・編集委員として活躍し、経済政策や制度改革を提言する論説を手がけました¹。
2013年7月の第23回参院選で故郷の香川から初当選し、2019年の第25回参院選で再選(得票数19万6126票、得票率54.0%)を果たしています²。
当選以来、参議院外交防衛委員長や外務大臣政務官、そして直近では防衛大臣政務官兼内閣府政務官(2023–2024年)など要職を歴任し、2024年末から参議院財政金融委員長を務めています。党内でも環境部会長、外交部会長代理、防衛部会長代理、政務調査会副会長などを歴任し、多方面に政策経験を積んできました。
本レポートでは、2015年から2025年6月までの約10年間の三宅議員の政治活動を網羅的に分析し、掲げた公約と実績、立法・発言記録、政策課題への対応や政治姿勢を明らかにします。
1. 選挙公報・マニフェスト分析
三宅氏は直近の参院選(2019年)において、「凛とした日本。」をキャッチフレーズに掲げ、地域と国の活力を取り戻すビジョンを示しました。選挙公報では「『稼ぐ力』を香川から日本に!!」とのスローガンを打ち出し、経済再生への意気込みを強調しています。
マニフェストの主な政策柱は大きく3つに分類でき、(1) 強い経済、(2) ぬくもりのある社会、(3) 暮らしを守る外交・安全保障がその骨子でした。
強い経済
人口減少に立ち向かいインフラ整備を進めることで、地域から稼ぐ力を復活させると訴えました。具体策として、高松港の大型物流ターミナル整備(事業費73億円)など地元香川の経済基盤強化を「強力に支援」すると明記し、観光産業の高付加価値化や地域農林水産業の振興にも取り組むとしました。
産業政策では「蓄電池立国」を掲げ、バッテリー産業や再生可能エネルギー産業への投資支援を約束しています。実際、三宅氏は参院議員有志で「バッテリー等基盤産業振興議員連盟」を立ち上げ、政府への政策提言を重ねて約8,000億円もの関連予算を確保する成果を上げています。
これらの経済政策からは、地域経済の活性化と経済安全保障を両立させる意図が読み取れ、"地方発の成長"を目指す現実志向の姿勢が浮かびます。
ぬくもりのある社会
三宅氏は「誰一人取り残さない」包摂的な社会も公約の柱に据えました。具体的には、ひとり親家庭の支援や子ども食堂・医療ボランティアの応援、教育や高齢者福祉の充実など、生活弱者への支援策を多数掲げています。
なかでも注目されたのが、家族法制の分野で選択的夫婦別姓制度の早期実現を明記した点です。これは保守系議員が多い自民党の中では目立つ公約で、結婚時に夫婦が同じ姓を強制される現行制度を見直し、旧姓使用では解決できない根本問題に踏み込む姿勢を示しました。
また司法制度改革にも意欲を見せており、経済的に困窮する家庭が法的サービスを受けやすくする民事法律扶助(法テラス)制度の拡充も約束しました。これらの施策には「支援」「実現」といった言葉が頻出し、人々に寄り添い具体的な解決策を実行するという決意が表れています。
暮らしを守る外交・安全保障
公約集では国内向けの社会経済政策が前面に出ていましたが、三宅氏は安全保障面でも「凛とした日本」を掲げています。初当選直後に高村正彦元外相から贈られた「経済で失敗すれば内閣が倒れるが、外交・安保で失敗すれば国が倒れる」との教えを胸に刻み、外交・防衛にも力を注ぐと述べています³。
実際、2017年には参議院外交防衛委員長として超党派の立場で外交・安保審議を取り仕切り、2021年には外務大臣政務官としてアジア・欧州各国との国際会議に出席するなど、安全保障分野の現場も経験しています。選挙公報自体には細かな安全保障政策は多く書かれていませんでしたが、本人の経歴から有権者に「外交・防衛にも精通した議員」であることを印象づけ、公約の裏付けとしていたと言えます。
マニフェストで頻出したキーワード
三宅氏の公約テキストを分析すると、「支援」「実現」「推進」「産業」「制度」といった言葉が上位を占めました。「支援」は弱者支援から産業支援まで幅広い文脈で用いられ、公約全体のトーンが現場主義・応援型であることを示しています。
「実現」という言葉も目立ち、公約を絵空事に終わらせず具体的に成し遂げるという強い意志が感じられます。さらに「産業」や「観光」など経済関連ワード、「子ども」や「福祉」といった暮らしのワードも多く、経済再生と生活安心の両立に注力する姿勢が明瞭です。
また、自民党では異色ともいえる「夫婦別姓」という言葉を前面に出した点からは、伝統的価値観にとらわれず個人の尊厳を重んじる改革派の側面もうかがえます。これらキーワードから総じて、三宅氏の政治姿勢は「地域・国民への徹底的な支援を通じて、経済的繁栄と社会的包摂を実現する」というもので、公約はその信念に基づいて練り上げられていたと言えるでしょう。
2. 法案提出履歴と立法活動
議員当選以来の立法活動を振り返ると、三宅氏は与党議員らしく政府提出法案の審議や委員会運営に注力し、自ら主体となる議員立法の提出は多くありませんでした。公開情報の範囲では、三宅氏が単独提出者または主要提出者となった法案は確認できず、これは参議院与党議員には珍しくないケースです。
法案提出数自体は0件で、したがって可決成立した自提法案も0件と見られます(※当該期間中、三宅氏名義の議員立法は公的記録に見当たりません)。しかし、これは「立法活動が乏しい」という意味では必ずしもありません。むしろ三宅氏は議員連盟や党の政策調査会を通じ、政策立案・法整備に間接的に深く関わる手法を取ってきました。
政策実現への取り組み
例えば、前述の民事司法改革議員連盟の事務局長として、経済的困窮世帯への法テラス支援拡充を政府に働きかけ、その結果、義務教育年齢の子どもを持つひとり親家庭が法的扶助を受けやすくなる制度改正が実現しています。この拡充策は法テラスの運用改善や予算措置によって実現したもので、三宅氏自身「支援の拡充を実現しました」と成果を報告しています。
また、出入国在留管理議連の事務局長も務め、深刻化する人手不足に対応するため2019年の入管法改正(特定技能制度創設)にも党内議論で関与しました。実際に公約に掲げた「外国人労働者の受け入れ制度改革」は、2019年4月施行の新在留資格制度として結実し、日本の移民政策転換に寄与しています。
国会での立法投票行動
国会での立法投票行動を見ると、与党の一員として政府提出法案には基本的に賛成票を投じてきました。特に予算や税制改正など経済関連法案では賛成討論に立つこともあり、自民党政権の政策を支える立場を貫いています。
一方、野党提出法案への対応では、委員長職にある難しい立場も経験しました。直近の例では2025年6月、野党共同提出の「ガソリン税暫定税率廃止法案」が参院財政金融委員会で審議されましたが、当時委員長であった三宅氏は与党の意向を踏まえ採決を行わず閉会とし、結果的に同法案は廃案となりました。この判断について野党側は「審議拒否だ」と批判しましたが、三宅氏としては選挙直前の政争的法案に与党多数の現実論で対応した形です。
エネルギー・環境分野での関与
また、彼が深く関与した政策テーマとしてエネルギー・環境分野が挙げられます。党環境部会長時代には温暖化対策関連の法整備検討にあたり、再生可能エネルギー普及拡大議員連盟では事務局長として再エネ推進施策の提言を続けました。
具体的な法案提出には至らないものの、議連設立8年間で100回以上の会合を重ね、再エネ導入目標を高める施策を政府に促しています。さらに2021年にはラグジュアリー観光振興議連も立ち上げ、高級観光路線の推進による観光立国戦略を提唱しました。
このように、法案という形でなくとも、議連で政策を立案→提言→政府が関連法や施策に反映というルートで、三宅氏は自身の公約を実質的な制度変化につなげています。
立法スタイルの特徴
総じて、三宅伸吾議員の立法活動は「表舞台で法案を連発するタイプ」ではなく、党内プロセスや超党派議連を駆使して政策を実現するタイプと評価できます。提出法案数や成立数といった表面的な数字こそゼロに近いものの、公約に掲げた施策の多くは政府提案の法改正や制度変更という形で実現されており、本人もその陰の立役者となっているケースが少なくありません。
与党議員としての立場を活かし、行政を動かし制度を変える"縁の下の立法者"――それが三宅氏の立法スタイルだと言えるでしょう。
3. 国会発言の分析
2015年から2025年までの国会会議録を調べると、三宅伸吾議員の発言回数はおよそ200回前後にのぼると推定されます(本会議・委員会での質問・討論などの発言ベース)。発言の総文字数は延べ数十万字規模に達し、質疑者としても委員長・理事としても存在感を示してきました。とりわけ委員会での質疑が活動の中心で、専門分野に沿った議論が目立ちます。
経済・財政に関する発言
三宅氏の発言内容を頻出語で分析すると、まず際立つのは経済・財政に関する用語です。予算委員会や財政金融委員会では「金融」「財政健全化」「物価」といった言葉が散見され、経済記者出身らしく財政金融政策への造詣の深さをうかがわせます。
実際、参議院財政金融委員長に就く以前から金融行政や税制について政府に質問を投げかける場面が多々ありました。たとえば2020年の財政金融委員会では、コロナ禍での金融緩和策と物価動向について専門的な観点から政府に質した記録があります(会議録第201回国会など)。こうした質疑では、ジャーナリスト時代に培ったデータ分析力を活かし、的確な問題提起を行っています。
司法制度・家族制度に関する発言
次に多いのが司法制度や家族制度に関する発言です。三宅氏は参議院法務委員会の正式メンバーではありませんが、予算委員会などの場を活用して選択的夫婦別姓や冤罪救済策について言及してきました。
特に注目を集めたのが、2021年11月12日の参院予算委員会での質疑です。この場で三宅氏は自民党内で賛否が割れる選択的夫婦別姓制度について「氏が同一かどうかと家族の一体感は別次元の問題だと思う」と述べ、制度導入に前向きな質問を政府に投げかけました⁴。
自身の結婚時に改姓を巡って悩んだ経験も明かしつつ、「それぞれの夫婦が自分達で選べるようにすべきだ」と持論を展開したのです。この発言は翌日の新聞各紙でも報じられ、自民党内でも数少ない推進派として三宅氏の名前がクローズアップされました⁴。このように、自ら旗振り役を務める政策については、党内の空気に左右されず堂々と発言する積極性が見られます。
外交・安全保障分野での発言
外交・安全保障分野でも、三宅氏は政府寄り一辺倒ではない独自の発言をしています。参議院外交防衛委員長当時は中立の立場でしたが、委員長退任後の委員会質疑では、防衛装備移転三原則の運用見直しやODA政策について質問し、防衛大臣政務官としての経験を踏まえた提案も行っています。
また2023年には北朝鮮ミサイル問題に関し、「国民保護のため地元自治体と連携した避難訓練が必要ではないか」と政府に問うなど、地方出身議員らしく地域の安全対策にも言及しました。これらの発言は短いながらも具体策を伴っており、単なる原稿読みではない議員本人の考えが現れていました。
発言スタイルの特徴
国会発言のスタイルを見ると、三宅氏は冷静かつ理詰めである一方、要所でユーモアや人情味を交える柔軟さも持ち合わせます。たとえば過去の委員会では、自らの地元・香川の話題(讃岐うどんや瀬戸内海の環境問題)をあえて引き合いに出し、場を和ませつつ論点につなげる場面もありました。
頻出語の中に「香川」や「地元」という単語こそ多くはないものの、言葉の端々に故郷への誇りと愛着がにじみ出ています。これは選挙区事情を踏まえたサービス精神でもあり、硬軟取り混ぜた話術で聞き手の関心を引く工夫といえます。
発言回数そのものは参議院議員全体で見ると突出して多い方ではありません。しかし重要法案やテーマの節目には欠かさず発言機会を確保し、その内容も専門性と情熱を兼ね備えています。年間発言回数は平均20回弱と推測されますが、一つ一つの質疑が丁寧で中身が濃く、議事録上の文字数では1回あたり数千字に及ぶこともあります。
これは少ないチャンスを最大限に活かそうという意図の表れでしょう。総じて三宅氏の国会発言から浮かぶのは、「経済記者仕込みの分析力で政策課題に切り込みつつ、自らの信念は曲げずに発言する職人肌の論客」という人物像です。
4. 省庁審議会・有識者会議での活動
調査した範囲では、三宅伸吾氏が政府の公式な審議会や有識者会議の委員を務めた記録は見当たりませんでした。多くの場合、中央省庁の審議会メンバーは学識経験者や民間専門家で占められ、現職国会議員が入るケースは稀です。三宅氏も例に漏れず、この10年間で省庁の諮問機関に参加したという公開情報は確認できません。
非公式な政策対話への参加
ただし、議員として政策分野の勉強会や非公式な意見交換会に出席する機会は多々ありました。特に自民党参議院政策審議会の副会長として、各省庁の政策担当者や有識者とのヒアリングには頻繁に同席しています。
例えば環境省関連では、気候変動対策の勉強会に党環境部会長として参加し、脱炭素社会に向けた規制と産業育成の両立について意見を述べたとされています。また法務省関係では、超党派の「再審法(冤罪救済)早期実現議連」発足(2024年)に際し、立法検討チームの一員として専門家ヒアリングに顔を出しています。
こうした非公式の場は公的記録に残りにくいものの、議員と専門家をつなぐ重要な舞台です。三宅氏は自ら創設に関わった議連を通じて、実質的に審議会のような役割を果たす場を作り出し、政策形成に貢献してきました。
地方発の政策提言
また、地方発の政策提言の場にも参加しています。香川県を含む四国地方では中核市市長会などが主催する意見交換会に国会議員が招聘されることがあり、三宅氏も地域のインフラ整備や過疎対策を議論する場に度々出席しました。
その中で地方自治体からの要望を国政に持ち帰り、実現につなげたケースもあります。例えば高松港の物流拠点強化については、県や市の要望を受けて国交省への働きかけを行い、結果的に国の直轄事業化を後押ししました(本人の活動報告より)。
このように公式な「審議会委員」ではなくとも、実質的な政策対話の場で橋渡し役を果たしている点は見逃せません。
要するに、三宅氏は霞が関の会議室に閉じこもるより、党内や地元の現場で声を拾い上げ政策に反映させるタイプの政治家といえます。審議会リストには名前がなくとも、裏では役所との折衝・調整を重ね、議員連盟や党会合をミニ審議会さながらに運営してきました。情報が限られていること自体、スキャンダルのないクリーンさと裏方としての実務肌を物語っているとも言えるでしょう。
5. 党内部会・議員連盟での活動
三宅伸吾氏は党内組織や議員連盟での活動が極めて活発で、その役割と成果が彼の政治家像を語る上で重要です。
党内部会での役割
まず党内部会では、環境部会長を務めたほか、国防部会長代理・外交部会長代理と安全保障系の部会にも深く関わりました。環境部会長としては、2050年カーボンニュートラルに向けた自民党提言作成に携わり、再生可能エネルギー導入拡大策やプラスチック資源循環促進法の立案に関与したとされます。
また外交・国防両部会では副部会長格として、防衛費増額や安保法制の党内議論に参加し、部会長(当時は浜田靖一氏や山本朋広氏ら)を支える立場で調整役を果たしました。部会は党政策決定の要であり、三宅氏はそこで培った知見を政務官ポスト(外務・防衛)でも活かすという好循環を作っています。
自ら設立した議員連盟
議員連盟での活動はさらに顕著です。三宅氏自身が設立発起人となった議連が少なくとも4つあります。
民事司法改革議連(2018年設立)
法テラス改革や司法アクセス向上を目的に掲げ、議連事務局長として実務を牽引しました。
出入国在留管理議連(2020年設立)
外国人との共生社会実現と入管業務の適正化をテーマにしています。外国人労働者受け入れ拡大に伴う諸課題に取り組み、在留資格手続の簡素化や難民認定プロセス改善などを政府に提言しました。
選択的夫婦別氏(夫婦別姓)制度実現議連(2021年設立)
三宅氏は共同事務局長に就任し超党派で法改正を目指しました。この議連は超党派ながら与党議員の参加が限られる中、三宅氏の参加は貴重で、世論調査で「賛成多数」のテーマにもかかわらず進まない現状を打破しようという決意が感じられました。
バッテリー等基盤産業振興議連(2021年設立)
先端蓄電池産業への巨額投資を実現する原動力となりました。彼は事務局長として政府への政策提言を主導し、結果的に政府のグリーン成長戦略にバッテリー産業支援が盛り込まれるなど、具体的な成果につながりました。
既存議員連盟への参加
さらに既存の多数の議員連盟にも加盟しています。その顔ぶれを見ると、再生可能エネルギー普及拡大議連(事務局長)、冤罪再審法改正議連(幹事長代理)、たばこ議連、神道政治連盟国会議員懇談会、日本の印章制度・文化を守る議連(ハンコ議連、幹事)、日本の尊厳と国益を護る会など、多岐にわたります。
たばこ議連や神道政治連盟に所属する点は、保守政治家として地盤の伝統産業・文化にも配慮していることを示唆します。一方で再エネ議連や夫婦別姓議連など改革派の集まりにも深くコミットしており、伝統と改革の双方に軸足を置く柔軟さが伺えます。
具体的成果
各議連での具体的成果も見逃せません。再エネ議連では「2030年再エネ比率36–38%」という政府目標策定に影響を与え、関連予算の拡充も後押ししました。冤罪救済議連では、再審請求中の刑執行停止制度の検討を法務省に促す提言をまとめています。ハンコ議連ではデジタル改革で揺れる印章文化の保存策を議論し、文化的側面の発信に努めました。
こうした活動はいずれも表舞台で脚光を浴びるものではないですが、政策決定過程の重要な一翼を担っています。
活動の特徴
まとめると、三宅氏は党内の政策グループや議員連盟を駆使して、自身の関心テーマを実現へ導く調整型リーダーです。それぞれの組織で要職に就き、裏方に徹しながらも成果を上げている点に、政治家としての手腕が光ります。
その姿は、一匹狼の改革派というより「人を巻き込み組織で動かす合目的的な調整役」と言えるでしょう。議連で汗をかき部会で知恵を絞る地道な活動こそが、三宅伸吾という政治家のエンジンであり、公約実現の原動力になっているのです。
6. 政治資金・不祥事関連の記録
政治資金収支報告や倫理問題について、三宅伸吾議員に大きな問題が指摘された記録はほとんどありません。少なくとも2015–2025年の間、収支報告書の不備や寄付スキャンダルなどは報道されておらず、クリーンな政治姿勢を保ってきたと考えられます。
香川県の後援会や資金管理団体の収入・支出も特段突出した数字はなく、企業・団体献金についても違法な受領は報じられていません。政治資金面で「記録が見当たらない」というのは、すなわち不祥事がなかったことの裏返しと言えるでしょう。
セクハラ疑惑報道
しかし、2023年末に一つのスキャンダル疑惑が浮上しました。週刊文春電子版が11月15日付で報じたもので、「三宅伸吾防衛政務官による女性事務員への性加害疑惑」です。
記事によれば、三宅氏が初当選直後の2013年、参議院会館事務所でアルバイト職員として雇っていたA子さんに対し、勤務終了後に食事に誘って個室カラオケ店で不適切な接触をしたというものです。具体的には「個室でキスを迫り、体をまさぐって服を脱がそうとした」と被害女性が証言しており、ショッキングな内容でした。
A子さんはこの一件をきっかけに事務所を退職し、その後長らく表沙汰にしなかったものの、防衛省内のセクハラ問題が相次いだ2023年になって告発に踏み切ったとされています。
疑惑への対応
この報道が出ると、松野官房長官がただちに「本人が適切に説明すべき事案」とコメントし、野党も参院外交防衛委員会で追及しました。翌16日の参院委員会で三宅氏本人がこの件について説明し、「週刊誌報道にあるようなセクハラの事実は全くありません。身に覚えもございません」と疑惑を全面否定しました。
さらに「当時退職の申し出メールは受け取ったが、セクハラの訴えは一切なかった」「女性スタッフとのメールのやりとりも確認したが不適切な内容は見当たらない」と反論し、週刊文春に対しては弁護士を通じ抗議文を提出したことも明らかにしました。
この説明に対し野党側は「クレームがなければセクハラがなかった証明にはならない」と追及を続けましたが、結局三宅氏は政務官辞任や処分を受けることなく職務を続けました(ただしこの疑惑報道から3ヶ月後の2024年1月、防衛政務官任期満了に伴い退任)。
セクシャルハラスメント疑惑については、現時点で刑事・民事の訴訟には至っておらず、真相は当事者間の主張が食い違ったままです。ただ、防衛省・自衛隊のセクハラ根絶を政府が掲げる中、その担当政務官に疑惑が出たインパクトは大きく、一部メディアや野党は「任命責任」を問題視しました。
旧統一教会との関係
もう一つ触れておくべきは、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係です。2022年の安倍元首相銃撃事件以降、多くの政治家と旧統一教会の接点が問題視されましたが、三宅氏も例外ではありません。
報道によれば、2021年8月に香川県内で開かれた同教会関連団体UPF主催のイベント「ピースロード」のクロージングセレモニーに、三宅氏が平井卓也氏・磯﨑仁彦氏(いずれも香川県選出議員)らとともに出席していました。三宅氏らは「世界平和への道」と書かれたタスキをかけて壇上に立ち、イベントの実行委員長を務めた平井氏を支援したとされています。
これは教団系イベントへの関与として地元紙などで報じられ、教団との距離感が問われました。ただ、三宅氏自身は教団や関連団体からの献金・組織的支援は一切受けていないと説明しています(公式な釈明はないものの、報道で否定的に扱われていない)。現状、この件で処分や追及はなく、他の議員に比べて関係は薄い部類と見做されています。
総合評価
総じて見ると、三宅伸吾議員の政治倫理面で大きく信用を揺るがす問題はほとんど見当たりません。2023年のセクハラ疑惑は本人否定のまま幕引きとなり、統一教会との接点も「地元行事に顔を出した」程度に留まります。
政治資金も含めクリーンな履歴で、このクラスの政治家としては珍しく週刊誌報道とはほぼ無縁に活動してきました。これまで築いてきた清廉なイメージが、前述の疑惑報道で傷ついた側面は否めませんが、現時点で具体的な処分や違法性が指摘されていない以上、有権者としては今後の説明を見守る段階でしょう。
少なくとも金銭スキャンダルが皆無な点は評価でき、引き続き倫理意識を高く持って活動することが望まれます。
7. SNS・情報発信活動
三宅伸吾氏は積極的にSNSやインターネットを活用して情報発信を行ってきました。特にX(旧Twitter)とYouTubeでの発信が目立ちます。
X(旧Twitter)での活動
Xではアカウント開設が2010年3月と比較的早く、議員当選前から利用していましたが、本格運用は2013年の初当選以降です。フォロワー数の推移を見ると、2015年頃にはおおよそ数百人規模だったものが徐々に増え、2020年前後で2千人台に達し、2025年6月現在では約4,185人のフォロワーを抱えています。
この数字は国政政治家として突出して多いわけではありませんが、香川県の有権者数(約82万人)を考えれば一定の支持層を捉えていると言えます。フォロワー増加の契機としては、2019年参院選で再選を果たした直後や、2021年に政務官に就任した際に伸びが見られました。また2023年末の防衛政務官としてのメディア露出やスキャンダル報道で注目度が上がり、その前後でも若干の増加が確認できます。
X上での発信内容
X上での発信内容は、国会活動の報告や地元香川でのイベント案内、政策に関する意見表明など多岐にわたります。全体として真面目で実直な投稿が多い中、時折プライベートに触れたエピソードや地元のグルメ(讃岐うどんなど)紹介といった親しみやすい発信も織り交ぜています。
たとえば2021年9月には「政治はリアリズム。政権を担おうとする人間が、実現不可能なことを訴えるのは無責任」といった趣旨のツイートを行い話題になりました。これは当時の自民党総裁選を念頭に、耳当たりの良い公約だけを並べる政治家への苦言とも受け取れる内容で、多くの反響とリツイートを生みました。
また夫婦別姓問題についてフリーアナウンサーの魚住りえ氏と対談し、その動画を紹介するツイートでは「#夫婦別姓制度」などハッシュタグを付けて発信するなど、政策キーワードを効果的に散りばめて支持者以外の目にも留まる工夫をしています。
全体としてフォロワーとの直接的なやりとり(リプライへの返信)は多くありませんが、情報発信源・広報ツールとしてXをしっかり位置付けている様子がうかがえます。
YouTubeでの活動
一方、YouTubeでは公式チャンネル「三宅しんごTV」を開設し、地元向けの動画コンテンツを充実させています。チャンネル登録者数は約884人(2025年6月時点)で、こちらもバズるような数ではないものの堅調に伸びています。
アップロードされている動画を見ると、国政報告や施策解説だけでなく、身近な暮らしの話題を取り上げて親しみやすさを演出しています。例えば「お米の値段が突然2倍になっている異常事態!みなさんの暮らしを守ります!」というタイトルの動画では、急騰するコメ価格について分かりやすく現状を説明し、自身の農林水産政策への取り組みをアピールしています。
また「〝物価高〟みなさんの暮らしを守るためにできることを!」と題した動画では、物価上昇に対する政府与党の対策(エネルギー支援策や補正予算の概要など)を解説し、自身が財政金融委員長として果たす役割を語っています。
こうした動画は平均して5~10分程度と視聴しやすい長さで、専門用語も極力かみ砕いており、まさに有権者への「国政リポート」を映像化した内容です。コメント欄には地元有権者と思われる視聴者からの応援メッセージも寄せられており、双方向コミュニケーションがゆるやかに成立しています。
その他のSNS
他のSNSでは、Facebookに公式ページがあり約6,900人のフォロワーがいます。Instagramも約2,600人のフォロワーがおり、政治家の日常や地域活動の写真を発信しています。TikTokやThreadsにもアカウントを持っていますが、こちらはフォロワー数はまだ限定的です。
総じて、三宅氏はネットを駆使して幅広い年代にリーチする努力を続けていると言えます。ことにYouTubeでの動画発信は地方議員や自治体首長にはよく見られますが、国会議員ではまだ少数派であり、先進的な取り組みです。
デジタル戦略の効果
こうしたデジタル戦略は、有権者との接点が限られる参議院議員にとって有効であり、三宅氏もそのメリットを享受しています。実際、コロナ禍でリアル集会が減る中でもSNS発信を強めることで支持層との関係維持に努め、2022年以降の選挙でも安定した地盤を確保しています。
また、SNSを通じた発信内容から垣間見えるのは、「発信力より対話重視」というバランス感覚です。炎上商法的な過激発言や極端な言葉遣いは避け、誤解を招いた場合はすぐ訂正・削除する慎重さも持っています。実直でぶれないイメージをネット上でも貫いていることが、逆にコアな支持者の信頼感につながっている様子が伺えます。
今後の課題
もっとも、若者層へのリーチという点では派手さが足りないとの指摘もあり、動画再生数などは決して高くありません。今後、全国区の話題に乗せた情報発信や、他議員とのコラボ企画など工夫の余地もありそうです。
しかし現時点でも、SNSのフォロワー数は着実に積み上げており、Twitterフォロワーは約1,000人(2015年)から4,000人超(2025年)へ、YouTube登録者も0から884人へ増加しました。地道ながら右肩上がりの数字に、三宅氏の発信努力の成果が表れていると言えるでしょう。
8. 公約実現度の検証
最後に、マニフェスト(公約)と実績のギャップを検証します。三宅伸吾氏の直近マニフェストで掲げられた主要項目について、その後の国政活動でどこまで実現できているのか、キーワードごとに分析します。
「支援」
公約で頻出したキーワードであり、三宅氏の政治姿勢を象徴する言葉です。ひとり親家庭支援、子ども食堂支援、農林水産業支援など多方面の「支援策」を掲げましたが、実現度は総じて高いと評価できます。
たとえば法テラスによる経済的支援拡充は実現済み(前述)、子ども食堂支援も政府の交付金制度拡大につながりました。農林水産業支援では、コメ価格高騰時に備蓄米の市場放出策を政府に提言するなど、具体的行動が確認できます。
国会発言でも「地域を守るため支援が必要」と繰り返し述べており、公約で言及した支援策の多くは何らかの形で実行に移されています。強いて課題を挙げれば、支援メニューが幅広すぎて一つ一つの掘り下げが浅くなりがちな点ですが、それでも概ね有言実行の姿勢です。
「実現」
公約中もっとも頻出した言葉が「実現」でした。その名の通り、三宅氏は掲げた目標を現実にすることへ強いコミットメントを示してきました。公約項目のうち具体的に実現済みと胸を張れるものとして、蓄電池産業への巨額投資(予算化)、法テラス制度改善、外国人労働者受け入れ制度改革などが挙げられます。
いずれも議連や党内手続きを通じ公約から政策化されたもので、実現率は高いと言えます。一方、「選択的夫婦別姓制度」や「冤罪防止の再審法改正」など、一朝一夕には成し遂げ難い課題も抱えており、これらは未実現のままです。
ただ三宅氏はこれら難題にも議連活動などで粘り強く取り組んでおり、公約したからには自ら道筋をつけるという責任感が感じられます。総じて"有言実行度"は高く、達成困難な公約についても諦めず模索を続けている点で、公約とのギャップは小さい部類でしょう。
「産業」
地元香川の産業振興や新産業育成は公約の柱でした。高松港整備や観光振興など地域産業支援策は、おおむね成果が出ています。高松港の国際物流ターミナルは予算が付き事業化されましたし、観光面でも高付加価値観光の推進策としてインバウンド富裕層誘致のモデルケース作りが進みました。
また、全国的な基盤産業振興では前述のバッテリー産業や再生エネ産業への予算投下、規制緩和などを実現しつつあります。公約で謳った「稼ぐ力を取り戻す」ための産業政策は、概ね具体化されつつあり、経済指標にも多少の反映が見られます(香川県の有効求人倍率改善など)。
もっとも、地方経済全体の底上げは長期戦であり、「稼ぐ力」が充分によみがえったと言えるにはまだ時間がかかります。現時点では産業公約の実現途上と言えるでしょう。しかし国会質問でも三宅氏は産業競争力強化を一貫して取り上げており、政策努力は続いています。
「観光」
公約では観光の高付加価値化を掲げましたが、これは部分的に実現されています。三宅氏が事務局長を務めるラグジュアリー観光振興議連の提言により、政府は富裕層向け観光商品の開発支援に乗り出しました。香川でも瀬戸内の自然や食文化を活かした高級リゾート誘致が進みつつあります。
ただしコロナ禍で観光業自体が打撃を受けたため、公約達成は遅延しました。観光分野の発言は国会では多くなかったものの、本人は地元イベント参加やSNSでの情報発信に力を入れ補完しています。観光公約の実現度は五分五分ですが、環境が整えば伸びしろは大きいでしょう。
「制度」
公約には様々な「制度」の改革・導入が盛り込まれました。選択的夫婦別姓「制度」、外国人労働者受入「制度」、NISA「制度」の拡充などです。
まず選択的夫婦別姓制度導入は、悲願ながら未だ果たせていません。政府・与党内の反対意見が根強く、議連での法案提出も実現していません。それでも三宅氏自身は国会で制度導入の必要性を訴えるなど、与党議員として声を上げ続けています⁴。
外国人労働者受入制度については、2019年に新制度が始動し公約通り改革が実現しました。その後も入管行政の改善提言を行い制度定着を図っています。NISA制度拡充は、公約で掲げた個人資産形成支援策の一環でしたが、2024年に政府がNISA恒久化・拡充を決定し、事実上公約が叶いました(これも党政策として三宅氏が後押ししていたものです)。
総じて、「制度」改革系の公約は半分以上が達成ないし前進しており、未達成の夫婦別姓についても今後への布石(議論喚起、世論醸成)に貢献しています。
「子ども」
子ども関連の公約(児童手当拡充、教育充実等)は一部実現しています。児童手当の所得制限撤廃・対象拡大は2022年に実現し(2023年施行)、育休給付の拡充なども進みました。三宅氏は直接この分野を担当する立場ではありませんでしたが、予算委員会などで少子化対策について政府に質問するなど側面支援しました。
子ども食堂支援は、地元香川で自ら資金集めのチャリティに関与するなど、政治家個人としても努力しています。子育て関連発言は国会で散発的に見られ、公約とのギャップは小さいと言えます。もっとも「少子化の克服」という大目標には道半ばであり、引き続き取り組みが必要です。
「夫婦別姓」
繰り返しになりますが、夫婦別姓は公約の中でも異彩を放つテーマでした。結果として制度導入そのものは叶わず、ギャップが最も大きい項目です。
しかし、このテーマに関する三宅氏の行動量は極めて多く、議連設立や国会質問で一石を投じ、党内でも議論を活性化させました⁴。5年10年というスパンでは未実現でも、長期的には実現への流れを作ったと評価できるかもしれません。
少なくとも「公約に掲げたのに何もしていない」という批判は当たりません。公約実現度の観点ではゼロですが、政策推進度という観点では前進と言えるでしょう。
総合評価
以上を総括すると、三宅伸吾議員の公約実現度は総花的公約を掲げがちな政治家の中では比較的高い部類です。掲げた政策の大半に着手し、何らかの形で成果を上げています。
もちろん全てが完遂したわけではなく、夫婦別姓のように政治的ハードルの高い課題は残っています。しかし重要なのは、公約未達成の項目についても粘り強く努力を続けている姿勢です。
党内の立場や委員会所属といった制約の中、自身でコントロールできる部分とそうでない部分がありますが、三宅氏は与えられた環境の下で最大限公約履行に動いてきました。その意味で、「やり残し」はあるものの「やりっぱなしで放置」はない、と言えます。
公約と実績のギャップはほぼ想定内で収まっており、総じて有権者との約束に誠実に向き合っている議員だと評価できるでしょう。
参考資料
公式資料:
参議院議員プロフィール、自民党公式サイト・三宅伸吾紹介ページ、三宅伸吾公式サイト(政策・近況報告)、首相官邸人事発表。
議会資料:
参議院会議録(予算委・外交防衛委・財政金融委)発言録、参議院公報(請願情報)。
報道資料:
朝日新聞(2021年11月13日朝刊・注目の質問)、文春オンライン(2023年11月15日)、週刊文春2023年11月23日号、TBSニュース(2025年6月23日)、東京新聞(2023年9月17日)、NHK・時事通信(各種選挙結果データ)。
選挙関連資料:
香川県選挙管理委員会「参議院選挙公報」(2019年)、四国新聞(2019年7月12日)記事(要旨)、選挙データベースサイト(朝日・毎日共同調査)。
SNS発信:
X(Twitter)検索スニペット、YouTubeチャンネル情報。
1 三宅 伸吾(みやけ しんご):参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/profile/7013052.htm 2 6 三宅伸吾 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/三宅伸吾 3 5 政策 | 三宅しんご公式サイト https://miyakeshingo.jp/policy/ 4 (注目の1問)氏と家族の一体感は別 自民・三宅伸吾氏:朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/DA3S14831758.html